第46話 あのインタビューの答え
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その後テレサは室内のカーテンを閉め、テーブルの上のティーポットをトレイに乗せルーシーへと視線を向けた。
「……お茶のおかわりと、……夕食も食べて行かれますよね?」
ルーシーは小刻みに首を横に振った。
「いえ、流石にそこまでご迷惑になるわけには……」
「こちらとしては、いつも自宅にいる時は一人で食事をしているので、ご一緒出来たら嬉しいです」
「……そう、ですか? それなら私手伝います」
テレサはその申し出が嬉しく、柔かに頷くと彼女をキッチンへと案内したのだった。
「キッチンも広いですね! わあ、作業台が広くて良いな……」
それはいわゆるアイランドキッチンと言われる形態のもので、作業台が三箇所ほど設けられている。
「……それでは、今日は良い鶏肉がありますので、それをバターソテーにしようと思います。ルーシーさんはあちらに食器棚がありますので、食器の用意や……そうですね、サラダを作って頂いてもよろしいですか?」
「もちろんです。……今までよそのお宅でご飯を作ったことって無かったので、何だか気分が上がります!」
それから食器棚の扉を開き、食器を何枚か取り出してキッチンのカウンターにそれを並べていると、鶏肉を包丁で捌きながらふとテレサが訪ねる。
「……あの、ルーシーさんはこう言った時に、魔法は使用されないんですか?」
「魔法ですか?」
「……ええ」
彼女の質問の意図がイマイチ分からず思案すると、そう言えば花屋で下宿していた時によく店主のサトミが魔法で皿を浮かしてテーブルに運んだり、食材を刻んだりしていたことを思い出した。
「ああ、そうですね。日常系の魔法が得意な方は使う方も多いようですが、どうも私はそういうのは苦手で……」
「そうなんですね。……非常に意外です。『最高位』の魔法士でいらっしゃるルーシーさんですから、日常的に魔法を駆使しているのかと思っていました」
そう言ったテレサの表情は、何処か安堵したようで明るかった。
「そんな『最高位』だなんて……。国家魔法士に内定した時に受けた能力調査でそう判断していただき証書も貰いましたが、私はいまいち実感がなくて……。それに魔法で料理をするよりも身体を動かした方がかえって早いと思いますし、料理をしているって実感も湧きますから」
ルーシーは野菜室から取り出したレタスの何枚かをさっと水洗いをし、サラダボウルにそれをちぎりながら、そうしみじみと言った。
「……陛下が、あなたをお選びになった訳が分かりました」
「え? どの辺りでですか⁉︎」
会話の脈絡的にとてもそう言う結論に至るとは思わなかったので、驚き思わずサラダボウルをひっくり返しそうになる。
「……元々この国は、ブリング大陸の中でも群を抜いた魔法王国として名高く、より高位の魔法を使える国民は優遇されていたんです。ですが、中位以上の魔法を使うことが出来ない国民は人口の三分の二以上はいるんです。だからこそ科学が発達し、電気エネルギーを利用できる燃料の開発も進んだのですけれど」
突然、この国の事情を語り出したテレサに対し目を瞬かせるが、彼女は構わず鶏肉をソテーしているフライパンを注視しながら続ける。
「……ですが、物を浮遊させたり、野菜を切る等の魔法は高位魔法にあたりますので、……それが出来ない人間にとって、目の前で当然のようにそれをされるのは……人によっては屈辱的なことなんです」
ルーシーは、テレサが何を言いたいのか、理解が出来た気がした。
「……極端な結論ですが、そのことが原因で数年前にこの国では反乱が起きてしまったんですよね」
テレサは無言で頷く。
「……ですので、正直なところ当初陛下が『最高位の位を持つ国家魔法士』のルーシーさんとお付き合いを始めたと聞いた時は、少々疑問に思いました。何しろ魔法派以外の派閥を刺激することになりかねないからです」
簡単に説明すると、この国では政治上の派閥が大きく分けて三つある。
それぞれ『武力派』『科学派』『魔法派』であり、前述二つの派閥が結託し先の内乱を引き起こしたのであった。
「……ですが最近では、『魔物』の出現により国家魔法士の希望者自体が少なくなりましたし、武力派も魔物に通用する武器が現行では無いことで勢力が削がれ、科学派は元々保守的な派閥ですから特に目立った動きは無かったんです」
テレサが、フライパンから自分が用意した更にチキンソテーを盛り付けるのをぼんやりと眺めながら、ルーシーは思考を巡らせた。
「……じゃあ、余計に私とは付き合わない方が良いのでは……」
テレサは、サラダにクルトンをトッピングしているルーシーに対して、やんわり微笑んだ。
「……いいえ、その反対だと思います。国家魔法士でありながら必要以上に魔法を使用なさらなかったり、命を懸けて魔物と闘ったり……、あなたは『魔法派の選民意識体質』とは無縁の方ですから。だからこそ陛下は、ルーシーさんをお選びになられたのだと思います」
そう言って再び微笑むテレサは、少しだけその目尻に涙を浮かべているようにルーシーは思ったのだった。
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「本当に美味しかったです。ご馳走様でした」
二人は食事と食器の片付けを終えると、食後の紅茶を楽しんでいた。
「いいえ。こちらこそ、久しぶりに食事を堪能しました」
そう言って、優雅にティーカップに口をつけるテレサにドキリとすると、ルーシーはふとあることが脳裏に過った。
「……あの」
「どうかしましたか?」
ルーシーは自身の鞄から電子端末を取り出し拙い動作で、あるページを表示させた。
「陛下の非公式ファンクラブのこのインタビュー記事なんですが、一人では勇気が無いので、よかったら一緒に見ていただけませんか?」
「インタビューですか?」
「……はい。あの…… この『陛下はいつかご結婚をされたいと思っていますか?』の答えを、勇気が無いので一緒に見て欲しいんです」
「あら」
テレサはそう言って頬を染めるルーシーを微笑ましく思い、彼女からそれを受け取ると一通り目を通してから持ちかけた。
「でしたら今、私が読み上げましょうか?」
「え! ……は、はい。よろしくお願いします」
まさか読み上げられることになるとは思わなかったが、その配慮が嬉しくて受け入れることにした。
「……『私は、以前は国のためにいずれは義務的に結婚はしなければならないと思っていました。……ただ今は、本当に結婚をしたいと思う相手としたいと思っています』……だそうです。……一見すると当たり障りが無い返答のようですが、その実そうでも無いように感じました」
「……はい」
ルーシーの頬が染まっていくのを確認すると、テレサはそっと目を閉じた。
「私でよければ、これから何か陛下のことで相談があれば、のらせていただきます」
「……良いんですか?」
「はい、喜んで。またこちらにご足労をおかけしますが……」
「是非よろしくお願いします!」
そう言ってルーシーは気がつくとテレサの手を握っていたが、お互いに何か懐かしい感覚を覚えたのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
「何故この世界の人は便利な魔法を使えるのに、科学が発達しているのか」と言う疑問があるのだとしたら、今話でのテレサの言葉が答えとなっています。
また、今話で今章は終了となります。
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