第44話 テレサからの誘い
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レオンとのデートの翌日の日曜日の午後。
ルーシーは昼食の手製のカルボナーラを完食した後、リビングの椅子に座り電子端末の操作を始めた。
「えっと、レオンさんのファンクラブのページは……」
拙いながらも端末の操作をし、目的のページを表示させることが出来た。
そのページには上記に、
『エドワード二世・非公式ファンクラブ』と特に何の捻りもないタイトルが記してあり、下部に「写真の一覧」の選択肢と「インタビューの一覧」の選択肢があった。
「前にライムさんが言っていた通りだ」
そのデザインはかなりシンプルで、他のサイトと比べると正直に言って突貫的に感じられたが、これで会員数が五千万人以上を到達しているというのだから、もしかしたら方向性は間違ってはいないのかもしれない。
「と、とりあえずインタビューからにしておこうかな……」
件のページへと飛ぶと、レオンのインタビューの見出しが最新のものから順に載っている。
「うーん、とりあえず一番上から読んでみようかな」
それは、日付が「九月三日[木]」と書かれており今日は「九月六日[日]」なので三日前のものだった。
「そもそもインタビューって何だろう……。何かの質問をして答えてるのかな? それってそんなにネタがあるものかな……」
彼女はそこのところが非常に気になったが、ともかく読み進めてみることにした。
「『※インタビュー内容に関しましては、今回は会員様から毎月送られて来る質問や議題内容をこちらの方で厳選に選定した質問を陛下に答えて頂きました』……か。へえ、そうなんだ……」
どうにも音読をしないと、徐々に高鳴って来る鼓動を抑えられそうにない。
「えっと、……『陛下の好きな食べ物は何ですか?』」
思わず目を丸くした。
「……そう言う質問で良いんだ……」
まるで幼稚舎の子供が投げかけたような質問だったが、よく考えてみるとそれは当たり障りの無い質問であるのでおそらく採用されたのだろう。
「……それでレオンさんは何て答えたのかな?」
単純な質問とは言え、ただ質問の内容に答えるだけでは面白みに欠けるが、アレンジを加えるのも……と思いながら、彼女は画面をスクロールした。
「『ポトフ、チョコチップクッキー、サラダ……。サンドウィッチやスクランブルエッグ等も好きです。基本的に嫌いな食べ物はありませんが、やはり昔から食べ慣れているものは好んで食べますね』」
音読してから少しの間思案すると、何だか朗らかな気持ちになてくる。
「素朴な物が好きなんだ。……良かった……」
彼女は安堵した。と言うのも王子として育てられた彼が食べ物の嗜好に偏って自分が普段食べている物を否定されるようなことがあれば、これからも付き合っていくのにそれは弊害となり得るだろうから、好みがあまり変わらなくて安堵したのだ。
「そう言えば、この間作って行ったお弁当も綺麗に平らげてくれたっけ」
そう思うと、じんわりと心が温かくなってくる。
あの時はまさかレオンが食べているとは思わなかったが、彼は何の文句もなくむしろ「懐かしいな……」と言って黙々と完食したのだった。
少々その「懐かしい」という表現には引っ掛かりを感じたのだが、それは一般的な感想だと思い特に気にしないようにしたらしい。
「他の質問は無いかな?」
バックナンバーを探し、目ぼしいタイトルの物を選んでみた。
「……『陛下はいつかご結婚をされたいと思っていますか?』
彼女の鼓動が一気に高まる。日付は八月二十八日[金]と書かれており、より鼓動は早まっていくのだった。
「これ、私と本当の意味で付き合うことになってからの日付だ……。と言うか、何でこんな直球な質問が採用されちゃったんだろう……」
先程のものは「好きな食べ物は何ですか」だったのに、あまりに質問の波が激しいと思った。
「レオンさんは何て答えたんだろう……」
瞬間、普段は気にしないようのしているあることが非常に気にかかった。
「そもそも私って元奴隷だから、一度はお付き合い自体も躊躇したけれど、私が彼と結婚なんて出来るわけないじゃない……」
それならば、何故付き合っているのかと訊かれたら「せめて側にいたいから」と答えるところだが、それには我ながら矛盾が含まれているとも思う。
────何せ、彼の他の女性との出会いや、交際の機会を奪ってしまっているのだから。
「でも、私が元奴隷だったことをレオンさんは受け入れてくれた。この世界の人たちもそのことは知らないはず。……何も迷うことは無いはず、だよね?」
だけどだからと言って、自分が無条件で「王妃」になるなんて想像もつかない。
「うん。国民や世界中の人たち、ましてや国の重鎮が私を受け入れてくれるわけが無いよ……」
そう呟くと、途端にある言葉が脳裏に蘇った。
──── 『……それで、その恋人の方なんですが、なんでも既に議会や内閣の許可は下りているらしいです』
「……ミトスさんが前に言っていた『その恋人』って、……もしかして私のこと?」
そう呟いたが、思案しなくてもそうなのだろうと言うことは何となく窺い知れた。
「じゃあ、結婚自体に既に国からの許可は取れてるってこと? 何で私に許可が降りるんだろう……」
思い返してみると、ルーシーは「自分が奴隷であったこと」を思い出す前は、自分自身をマギア王国出身の孤児だと認識していた。
『捨て子だった自分は施設で育ったが、中等部くらいの時に隣国のユベッサ公国のとある施設に移ることになり、時が経ち再び夜間の魔法大に通うために故郷に戻って来た』のだと思っていたのだ。
「何で、そんな風に思い違いをしていたんだろう。……そもそも孤児だって王妃になる時どう思われるのかな……」
ともかく彼女は、自分の出生が居た堪れなくて気がおかしくなる。
だから涙が溢れて来て、とてもインタビューのページを開そうになかった。
□□□□□
しょうがないので、先程のページに戻りレオンの写真でも眺めて気を取り戻そうと思ったが、そのとき電子端末に着手音が響いた。
「え?……テレサさん?」
彼女は思わぬ相手に驚いたが、今はともかく話相手が欲しかったのもあり、すぐに応答した。
「もしもし、シュナイダーです」
『……もしもし。シュナイダー補佐官でいらっしゃいますか?』
その綺麗な女性の声の主に、ルーシーは改めて相手が誰なのか確信を得た。
『突然申し訳ありません。私は王室の秘書のルロウですが、今少々お時間を頂いてもよろしいですか?』
「は、はい! 大丈夫です」
先日王城に足を運んだ際に、連絡先を交換したいと突然テレサの方から申し出があり、連絡先の交換を行ったのだった。
「……あの、それでどうかなさったんですか?」
テレサが自分に改めて用事なんてどうしたのだろうと、純粋に疑問に思う。
『実はシュナイダー補佐官にご相談をしたいことがありまして……。よろしければ今度空いている時にでも、お時間を少々頂けないでしょうか? またお誘いをしている身で恐縮なのですが、出来ればあまり聞かれたくない内容なので、電話では盗聴等少々不安ですし、私の自宅までご足労をいただきたいと思うのですが……』
────(テレサさんが私に相談?)
ルーシーの心は途端にぎゅっと小さく潰されたかのように圧がかかり、居た堪れなくなった。
(聞かれたく無い内容って……。まさかレオンさんとのお付き合いがバレて、別れるように促されるんじゃ……)
そう思うと、勝手に口が動いていた。
「あの、構わないのですが、出来ればこれからでも大丈夫ですか?」
その案件を時間を置く、ましてや日を置くなんてことを出来そうになかった。おそらく日を重ねる毎に心の重荷が増えると思われた。
『もちろんです。突然不躾にお誘いしてしまったのに申し訳ありません。でしたら場所は改めてメッセージに送りますので』
「……はい、分かりました。一時間後にお伺いします」
電話を切ると、大きくため息をついた。昨夜の外出とはまた違った緊張があるからだ。
「ともかく行ってみよう。……うん。今まで色々乗り越えて来たんだから、弱気のままじゃ駄目だよね」
そう呟くと、勢いよく立ち上がって衣服を着替え始め、外出の準備を始めたのだった。
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