第43話 国王の執事トーマス
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ルーシーとレオンが魔法カフェに赴いた、翌日の日曜日の朝。
レオンは本邸のダイニングの椅子に座り、トーストをかじりながら片手に電子端末を操作して新聞を眺めていた。
彼の本邸は別邸よりも広く、リビングと続いているダイニングはその部分だけでも二十畳程の広さがある。
現在は、給仕の職員はおらず彼の執事が傍で控えているのみであった。
「陛下。食事中に新聞を読むのはおやめください」
そう彼を嗜めるのは、執事のトーマス・デュランである。
彼は現在三十歳であり、レオンとは二歳歳が離れているが、高等部では同じ学校に通う同級生でもあった。
と言うのも、マギア王国の高等部では「飛び級制度」があり、レオンは本来なら一学年の歳に三学年になっていたので、トーマスと同級生となったと言うわけである。
ちなみにその後彼は留学をし、外国であるタターキ王国の国立大に入学している。
またその大学でも「飛び級制度」を利用していたので、十九歳の時には卒業しタターキ国内で魔法関連のアイテム会社の起業の準備を行なっていたところ────祖国で内乱が起こった、と言うわけである。
何故彼は第一王子であったのに、起業の準備をしていたのかと言うと彼は【アウザー】なので即位が出来ず、王位継承権は彼の弟に譲る手筈となっていたからだ。
アウザーは言うならばこの世の理を操作できる唯一の存在であり、トロニアを生み出した何代か前のアウザーのように、世界を揺るがすような力を持つ存在が時の権力者と結びつくのはまずいことを【マルティン聖堂】は教訓にしたのだ。
それ以降マルティン聖堂がアウザーが権力者と結びつかないように厳しく監視するようになったのだが、今代のアウザーは第一王子だったが為、流石にアウザーが一国の元首であるのはまずいとマルティン聖堂側が結論づけた。
そのためレオンは、第一王子だったがアウザーだとマルティン聖堂に判断された際に、王位は決して継承しないように強く促されたのだった。
それを破るとレオンや国に対して報復すると恐喝とも取れることを言い含められもしていたので、仕方なく彼や彼の両親はそれを受け入れ弟に後を任せるはずであった。
だが、その弟は内乱の混乱で散ってしまい、内乱を抑えるべく様々な模索をした結果が六年前の彼の即位なのである。
「……ここには俺たちのみだ。普段通りに話したらどうだ」
「……いいのか? 普段通りにしたら、昨晩のことを訊ねるが」
レオンの電子端末へと向けていた視線が、スーツを身に付けた自身の執事へと移った。
「……昨晩のこととは、何のことだ」
「昨夜は別邸に泊まらなかったんだな。てっきりそうするものだと思っていたから、別邸と、何なら本邸の方にも用意をする様に細かく手配をしていたんだが。専用の侍女の手配もしていたんだぞ」
レオンは軽くため息をついた。
飄々としているが、内心ニヤついているだろう彼の表情を読み解くと、力が抜け落ちてくるようだった。
「……まだ一度も泊まったこともないし、彼女とはそんな段階ではない」
「テナーに扮装までしておいて、何を今更言っているんだか。こっちは彼女に教え込みたいことがごまんとあるんだから、さっさと婚約しろ」
実際にそれを行うのは執事の彼ではなく、他の専門の職員や外部の講師たちなのだろうが、彼も長い期間王妃不在である今の状況を打開したいと考えているうちの一人のようだ。
「正体を明かしてまだ一ヶ月も経っていない。まだ時期尚早だと思うが」
「……だったら、プロポーズをする日の目星くらいはつけておけよ」
トーマスは思わず遠くを眺めた。
「俺みたいに機会を逃して、ずーっと同棲しているなんてことにならないようにな……」
「結婚すればいいだろう」
トーマスの目が虚ろになっていく。
「今更きっかけを逃しまくって、いつすればいいのか皆目検討もつかない……」
「なら、俺から彼女に聞いてみようか?」
彼の動きが俊敏に動いた。
「それだけは止めてくれ。あいつはお前の大ファンなんだぞ。後で何を言われるか分かったもんじゃない」
四年ほど前から付き合い、同棲している言う件の彼女はマギア王国の陸軍に所属する女性であり、過去の同国の反乱時にトーマスと知り合ったのがきっかけで交際に発展したのであった。
「……まあ、俺たちのことはいいんだ、うん。ともかく、プロポーズをしたい日の心当たりは無いのか? こだわりだとか」
レオンは空になった朝食のプレートを眺めながら、思いを巡らせた。
────『ずっと、このままでいられたら良いのにね』
目前には白い粉雪が舞い散り、隣には白い肌を振るわせる短い黒髪の少女が自分に話しかけている。
かつて隣国のユベッサ公国でルーシーが「何でも屋」を営んでいる際、仕事終わりの夜に二人で店の前の大通りのイルミネーションでも見ようと言う話になり、その光を見た彼女が思わず呟いていた。
その言葉は何年も経った今でも、彼の耳の奥に残っている。
あの後この国の混乱に、彼女を巻き込むことになるとは思っていなかったのだ……。
(……あの日しか、ないよな。あと三ヶ月くらいか。あまり時間は残されていないようだ)
立ち上がり思わずその準備をしようと思い立つが、トーマスが今日の予定の確認をし始めたので出鼻を挫かれた形になる。
「本日は十時からユベッサ公国の公女セリア様と対談し、正午から会食の予定です。また十四時からは国際スポーツ大会の観戦、十六時からは……」
仕事に絡んだことなので、急に丁寧な口調になった彼の言葉を聞きながら、レオンの鼓動は強く波打っていた。
ちなみに、本日のスケジュール管理は王城にいる時は秘書たちも行っているが、執事と常に連帯し情報の共有をしているらしい。
(セリア公女か……)
彼女と会うのは久しぶりだなと思いながら、以前に会ったのは別の姿だったなとも思う。
彼はトーマスに一瞥し、支度を整えるために自室へと向かったのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
以前からトーマスは、癖が強い人物として書きたいと思っていたので、このような形になりました。
また、次回もご覧いただけると嬉しいです。
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