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【完結】国王陛下と恋を始めます  作者: 清川和泉
第6章 魔法カフェでの再会

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第41話 記憶操作を施した者

ご覧いただきありがとうございます。

今回は「記憶操作」に関しても言及しております。

 静寂が周囲を包み込んだ。


『あなたのお名前は?』


 一般的に返答をするのに簡単だと思われるその質問に答えられない程、ルーシーの思考回路は異なることで支配されていた。


(何で? なんでレオンさんの名前を呼び捨てにするの? なんでレオンさんに抱きついたの? どうしてそんなに綺麗なの? 二人はどんな関係なの?)


 自分の胸の奥の、最も深い部分で嫌な感覚────ドス黒い感情がたちまち込み上げてきて、彼女は息苦しさを感じた。

 

 それに加えて、先ほど浮かび上がってきたあの光景。あれは一体なんだったのだろうか……。


「ルーシー」

 自分の右手を握り直して、力強く感じる熱とその声に、ルーシーは我に返ってレオンの方に視線を移した。

 彼は(やわ)らかな表情でルーシーを見つめ小さく頷いている。────大丈夫だ、安心して欲しいと言わんばかりに……。


 ルーシーは息を吐いてから、ソフィアの方に視線を戻して口を開く。

「初めまして。私はルーシー・シュナイダーといいます。……レオンさんとお付き合いをさせていただいています」

 瞬間、ソフィアはレオンに視線を移すと、彼が頷いたので納得したかのように彼女も頷く。

 

 ルーシーの内心は、正直に言って穏やかでは無かった。

 何せ今まで他人に対して、レオンとの交際を伝えたこと自体が初めてだったし、初対面の人間に対してまるでやり込めるような発言をすることも普段は無いので、罪悪感を覚えたのだった。

「そうなんだ。……良かった」

 だが、思っても見ない返答にルーシーは不思議に思うが、ソフィアは気にせず続けた。


「今日はうちでやってる魔法カフェの様子を見にきたの。……レオンは付加魔法技術の特許を複数持っているから、まあビジネス上の重要な協力者ってところ。国王が協力者っていうのも変な話だけどね」

 そう言って無邪気に笑う彼女を見ていると、不思議と黒い感情が少し消えていった。


「……いつマギアに入国したんだ? ジークはどうした」

 初めてソフィアに対して彼が口を開いたので、ルーシーは注意深くその様子を見守ることにした。

「昨日着いたばかりよ。こっちに来るのは久しぶりだけど、流石に随分街も安定したね」

 言ってソフィアは微笑んで、長身の彼に劣らず彼女も彼より少し低いくらいなので、そっと爪先で立ってその頭を撫でた。


(────な、撫でてる‼︎)


 再びどす黒いものが込み上げてくるが、それに気づいたのかソフィアはルーシーに視線を合わせて両手を合わせた。

「ごめんなさい。つい昔の癖で労おうと思って、久しぶりにやっちゃった」

「……俺はもう十六歳の少年じゃない」

「そうかな。私にとってはあちらもこちらもあまり変わりないんだけどな。……ともかくあれから凄く頑張ったんだね。偉い偉い」


 『十六歳の少年』だとか気になる言葉は言っていたが、ルーシーは思考が固まってしまっているので、そんな言葉は聞こえていなかった。

 だからソフィアが彼に対して耳打ちしたことも、見ても聞いてもいなかった。


「ねえ、どっちから告白したの?」

 彼は思案し、ありのままを伝えることにした。

「……実は彼女とは最初は大学生だと扮装魔法で偽って接触したんだ。だから彼女から告白してくれた。だが、その後正体がバレてからは俺から改めて打ち明けた」


 思わずソフィアは吹き出していた。それは強く込み上げてくるのか、中々治まりそうになかった。

「なにそれ。レオンって昔からやることが変わってないね」

「そうだろうか……」

「そうだよ。だけど以前は高校生だったから、少し成長しているところがなんとも言えないわね」

 その雑談に対し、次第に彼はもどかしく思い、本題に移るべく切り出した。その表情は途端に凄みを増し、声もより低くなった。


「……何故お前たちは、ルーシーの」

 瞬間ソフィアは、ルーシーの方に視線を移し、改めて彼の方に視線を戻して首を横に振った。

 と言うのも、ルーシーが我に返り二人の様子をいぶかしげに眺めていて、それに彼女が気がついたからだ。より声を潜めて続ける。


「……ジークに関しては、まだタターキにいるわ。だけど(じき)にこっちに来て合流する手筈(てはず)になってる。……あなたが以前から再三私たちにこっちに来るように要請していたことが、ようやく実を結んだってわけ」

「……何故連絡をよこさなかった。もう六年だぞ。俺がその間どんな思いでいたか分かるか?」

 その語気が強かったので、思わずルーシーの耳にもその言葉が飛び込んで来て、目を見開いた。


(今まで音信不通だった? 六年間も? レオンさんはずっと彼女と会いたがっていた……)


 自分なりに解釈すると、ルーシーの心は沈んでいった。

 もう二人の会話を聞く気にもなれず、そっと離れて二人が会話をしている場所よりも少し離れた場所に置いてある一人掛けのソファに腰掛け、窓の外の夜景を眺めることにした。


「レオン。信じられないかもしれないけど、ううん、私たちを憎んでくれてもいい。だけどね、あれが当時の私たちが出した最善策だったの。あなたには反対されると思って相談出来なかったんだけど」

「当前だ。ルーシーの俺に関する記憶や反乱時の記憶を消して捏造するなんて、許すわけがないだろう!」

 ルーシーには聞かれたくない内容なので、彼なりに精一杯声を抑えながら語気を強めていたが、怒りが胸の奥から一気に押し寄せてきた。


「……でもね、レオン。私たちがあの行動を取らなくても、きっと彼女は自分からあなたの側を離れていたと思うの」

「…………どう言う意味だ」

「やっぱり分かっていなかったのね。彼女はね……ううん、これはきっと自分で気づいたほうが良いことだと思うから、これ以上は言わないでおくね」

 言ってソフィアは、レオンの側から離れてソファーに腰掛けているルーシーの目の前で立ち止まった。


「長いこと、レオンとお話させてもらってありがとう。誤解のないように言っておくけど、私は昔彼に対してとても酷いことをしてしまって、今はそのことについて話していただけだから」

 ルーシーは目を見開き、立ち上がってソフィアを見つめてみる。その銀色の瞳は真っ直ぐで、偽りを言っているようには思えなかった。

「そうなんですね……。あの、ソフィアさんって」

 ルーシーが言いかけると、ソフィアの電子端末の着信音が鳴り響き、彼女はルーシーに一瞥(いちべつ)してからそれに応答した。


「……はい、分かりました。今伺います」


 通話を切ってから、彼女に対して振り抜く。

「ごめんなさい。仕事の呼び出しがかかっちゃった。折角だからもう少しお話したかったんだけど、それはまた別の機会で」

 言ってソフィアは、再び髪を掻き上げて背を向けて歩き出し、小さく呟いた。


「会えて嬉しかったよ、ルーシー。……だけど良かった。レオンと付き合っててくれて。未だにあいつはあなたに未練があるから……」


 それはルーシーには聞こえてはいなかったが、彼女の黒い感情は少しだけ薄くなったのだった。

ご覧いただきありがとうございました。

今回ルーシーは人なら誰しもが持つ「嫉妬」の感情を多々抱きました。ただその感情は、特に恋愛方面では抱きなれていないので、戸惑うところもあるようです。


記憶操作に関しては、「あのニ人」のうちの一人が「ソフィア」だと判明しました。彼女にも言い分があった様です。


それでは、次回もご覧いただけると、嬉しいです。


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