第4話 テナーの葛藤
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それから二人は、水族館から徒歩でルーシーの駐車場を目指すべく歩き始め、テナーはその際彼女の歩幅に合わせて歩いているので、ルーシーは早足になることなくスムーズに歩いている。
また、ここまでの道のりは水族館から十分ほどあるのだが、二人でたわいのない会話をしながら歩いていたので、特に道のり通りの時間は感じなかったようだ。
「うん、だからね、次回はテナー君と一緒にぶらぶらその辺りを歩きたいなって」
「なるほど」
テナーは軽く思案してから頷いた。
護衛の配置などを、頭の中で巡らせていく。
「うん、分かった。大方候補をまとめておくよ」
「いつも、ごめんね」
そう言ってルーシーは自分の車の前に立つと、名残り惜しそうにテナーと繋いでいた手を離した。
テナーはそっとその手を握ると、ルーシーの髪に触れようかと思ったが、やめておいた。
──ルーシーを帰したくない衝動に、駆られそうになるからだ。
「……気をつけて帰ってね。また、連絡する」
「うん、テナー君もバイト頑張ってね。今日はありがとう」
その後、車に乗り込むとルーシーは車を発進させ、運転席のフロントウインドウを開けて手を振ってからハンドルを握り前方に視線を定めると、車はじきに見えなくなっていった。
◇◇
車が見えなくなったことを確認すると、テナーは左手を握りしめて元来た道を戻り、別の駐車場へと向かった。
五分ほど歩いてたどり着いたそこは、コインパーキングではなく国所有の駐車場だった。
その奥に駐車された、光沢のある黒色のセダンタイプの乗用車のドア付近のボタンを押して解錠し、更に念のためにかけておいた防犯魔法を即座に解いて、ドアを開いて運転席に乗り込んだ。
「……陛下、いつものように、このままご帰宅なさいますか」
ワイヤレスイヤホンから、護衛の声が聞こえたので、そのイヤホンからマイクを伸ばして返答する。
「……ああ」
「承知致しました」
彼はシートベルトを装着すると、自動車の起動スイッチを入れた。
それは、何も指示を与えないと自動運転で走行するタイプの車種なので、テナーはあえて手動運転に切り替えてハンドルを握って操作をし車を発進させると、自宅へと向かうべく国道へと向かって行ったのだった。
◇◇
テナーはマイクのスイッチがオフになっているのを確認すると、深く息を吐いた。
「毎回思うが、いっそのこと正体をバラしたら駄目だろうか……。嫌、どう考えても駄目だよな……」
引くに引けなくなるとはこのことか、としみじみ感じていた。
「最初は、……ルーシーが、相当精神的に落ち込んでたから話し相手になれればと思って近づいただけであって、決してやましい気持ちは無かった。うん、断じて無い」
彼は割と一人でいると、独り言が多いタイプのようだ。
「……だけど、今は……」
改めて自分の気持ちと向き合ってみると、それは意外と簡単に見つけ出すことが出来た。
「……いや、いいんだ俺のことは……」
すんでのところで思い直し、後は思いに耽りながら黙々と道を進んでいく。
そうして彼の自動車は、マギア王国の王城の敷地内へと脇道を通り入っていったのだった。
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