第37話 次に会う約束
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今回は、ルーシーとレオンの恋愛が動き出す、と言う内容となっています。
「おはようございます」
翌朝。今日は金曜日で週末なので、課の同僚たちはどこか皆肩の力を抜いて、普段よりも身軽に仕事を行う者が多かった。
──ただ、魔物さえ出現しなければの話ではある。
だが、もうすぐドラゴンの討伐から丸二日経ちそうだが、どうやら今のところ魔物が出現する気配は無さそうだった。
「……おはようございます」
ルーシーは、始業時間ギリギリの八時半近くになって自席に座った。
「おはようございます。あれ? いつも八時には来ているルーシーさんが、珍しいですね」
隣の席のライムがすかさず訊ねると、ルーシーは内心ドキリとした。
「それがちょっと、寝坊しちゃって……」
それには斜め向かいの席のオズが、内心苦笑しながら反応した。
「へえ、それはまた珍しいですね。昨晩何かあったんですか?」
「……………………!」
ルーシーは、思わず昨晩ソファーでレオンと抱きしめあったことを思い出し顔全体を真っ赤に染めたが、ともかく何か答えなければと思い頭をフル回転した。
「……中々、寝付けなかったんです……」
そう言ったところで、始業開始のチャイムが鳴り響いたので、一同会話は止めて今日の業務に取り掛かった。
◇◇
時は遡り、昨日の二十三時頃。
レオンの別邸のリビングで、しばらくレオンとルーシーは、ソファーの上で固く抱きしめあっていた。
レオンは大きく息を吐き気を落ち着かせ、ルーシーからそっと離れると、その頬に自身の手の平を添え、彼女の額にそっと唇を寄せた。
今夜はこれ以上踏み込むのはやめようと、まだこのような触れ合いに慣れていないためか、思わずギュッと瞼を閉じるルーシーを見ているとふと思うのだった。
加えて、もう少しじっくりレオンとして彼女と向き合いたいとも思う。
「ルーシー」
レオンはそっと、ルーシーの頬に手を添える。彼を見上げたルーシーの頬は紅潮している。
「俺の恋人になって欲しい」
普段の無機質な表情からは、思いもよらぬ柔らかい表情で想いを伝えてくれたので、ルーシーは思わず目に涙を溜めた。
「……はい」
心が震える。
ルーシーはそう感じながら、気がつけば再びレオンに対して微笑んでいたのだった。
◇◇
「次に会う日だけど」
テナーは、自身の車のハンドルを握りながら、助手席に座り、時折ガクンと頭を下げては気を取り戻してまた眠りにつくことを繰り返しているルーシーに視線を移した。
ちなみに、レオンはルーシーを宿舎まで送っていくと申し出たのだが、流石にそのままの姿では夜も遅いとはいえ目立つので、再びテナーに扮して車を運転していた。
「ルーシー、遅くまで付き合わせてごめん」
話しかけられたことに気が付き、思わず頭を上げて思考を巡らせる。
「い、いえ、いいんです。元はと言えば私が呼び出したんですから」
テナーは、畏るルーシーの様子に苦笑した。
「せめて僕に対しては、いつも通り気軽に話しかけて欲しいな。もちろん、レオンに対しても気軽に話かけて欲しいけど」
「……う、うん。でもへい、……レオンさんに対しては難しそう、かな……」
今更ながら、レオンはどうしてこんなにも器用に人物を使い分けられるのだろうとぼんやりと思ったが、今は眠気の方が強いのでこれ以上は考えるのを止めた。
「それで、次に会う日なんだけど、……ごめん。中々まとまった休みが取れそうになくて、次に会えるのは来月の早くても中旬になりそうなんだ」
ルーシーは思わず動きを止めた。
つまりテナーが忙しいと言うのは全てレオンがそうであると言うことで、国王である彼が常に忙しくしていることは既にミトスやライムから聞いていた。
テナーがいかに今まで、無理矢理スケジュールを開けて自分と会ってくれていたかを、再認識した。
「……いつも忙しいところ、スケジュールを空けてくれていたんだね」
そう呟くと、何故だか自然と涙が溢れた。
その様子に気がついたのか、テナーは丁度信号機で車が止まると、ルーシーの頭をそっと撫でる。
「そんなの君と少しでも一緒にいたいから、むしろ率先して空けているんだ。だけど、今回は丁度色々と重なってしまってどうしても調整が効かなかった。正直僕は辛いんだけど」
そう苦笑して言った後、やはりあの後もルーシーと過ごせば良かったのかもしれないと小さく呟く。
そうすれば飛躍した考えだが、ルーシーがこれから自宅で待ち受けてくれ、心の拠り所に出来る未来がいくらか早く待っていたのかもしれない。
(いや、だが出来ればプロポーズはもう少し俺と打ち解けてからにしたいから、夜から会うのは出来るだけ避けた方がよいな)
そう思っていると、ルーシーは残念そうに呟いた。
「そっか。それなら仕方ないけど、……やっぱり寂しいな……」
「夜からでよければ、もう少し早い時期に会えると思う」
先ほどの考えは、ものの見事にすぐにブレたのだった。
「本当? 嬉しいな」
ルーシーが涙を拭いながら微笑む姿を一目確認すると、テナーはこのまま引き返して自宅に向かおうと一瞬思ったが、明日の仕事や魔物討伐のことを考えると、それは好ましくないと思い直す。
「……確か、来月の頭の土曜日の夜だったら、空いていたと思う」
ルーシーは電子端末を取り出し、それを確認して小さく頷いた。
そうして二人は、次に会う約束を取り交わしたのだった。




