第33話 確信
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その後、テレサの施した冷却コットンの効果もあり、ルーシーの目の腫れは治り、問題無く職場に戻って業務を続けることが出来た。
十七時の業務時間の終了時刻になると、ルーシーは意を決して対面の席に座るミトスに話しかける。
「あの、ミトスさん」
「はい、何でしょうか?」
ミトスは答えた後に、すぐにピンと来た。
「もしかして、何か手がかりが見つかりましたか⁉︎」
「手がかりと言いますか、……陛下の持ち物って、陛下のご自宅の専任のスタッフの方が管理をしていますよね?」
ミトスは、予想外の質問だったので思わず気が抜けたがすぐに頷いた。
「ええ、その通りですね」
「では、焦げたハンカチをそのまま持っているなんてことは……」
「もしそんなことがあれば、そのスタッフは即刻異動ですね」
「い、異動……」
ルーシーの顔から、途端に血の気が引いた。
では、そのスタッフは異動させられたのだろうか。それともやはりあのハンカチは、自分がアイロンをかけた……。
(でも、いくら何でも陛下がテナー君なわけ無いよね。うん。だってそうまでして陛下が私に近づく理由も無いし……。そう、陛下の恋人はテレサさんのような素敵な人で、……ううん、むしろテレサさんかも)
『まあ、以前に陛下は身近な方と噂があったようなので、その方だと考えてはいるのですが……』
思えばミトスが昼に言っていたその人物はテレサなのではと、そう思い込もうとすると先程レオンに抱きしめられたことを思い出し胸がズキリと痛んだ。
だがともかく、今日の仕事も終わったのでハンドバッグを机上に出して帰り支度をしていると、ルーシーの側にいつの間にかオズが立っていた。
□□□□□
「ルーシーさん」
「は、はい、何でしょうか?」
「色々考えたんですけど、やはりそう結論付けるのが一番、納得が行くんです」
ルーシーは、目を瞬かせた。
「えっと、何の話ですか?」
オズは声を出来るだけ小さくして、囁く様に続ける。
「昨日のドラゴン討伐時のことです。ルーシーさん、『フライング』を全体魔法で使っていたでしょう? あれは魔法学的に考えても、あり得ないことなんです」
瞬間、ルーシーの背中にゾクリと冷たい感触が走った。
「……確かに、あの時は深く考えませんでしたけど、……そうかもしれません」
ルーシーの魔法大学校時代の選考は『魔力学』であり、魔力と人間の身体の耐久性についても学んでいた。
「常時だったら耐え切れないんです、あんな魔法を使用したらあなたの身体が。それどころか、ルーシーさんはその後再びとんでもない魔法を使用しています」
(大魔法……)
「つまり、何が言いたいかというと、……それです」
「え?」
ルーシーは思わずオズが指を差した指先に視線を移す。すると、それは自分の左手首にはめられたブレスレットを指していた。
途端にルーシーの鼓動が、強く跳ねる。
(これって……)
「そのブレスレット。昨日一目見た時に何か違和感を覚えたんですけど、それってきっと、魔法アイテムですよ」
「……でも、それにしてはこのブレスレットからは特に何も感じませんし、魔法アイテムによって違いますけど、魔法が発動したら何かしらの光が出るとかサインがあると思いますが、これまで一度もそう言ったことはありませんでした」
オズは小さく頷くが、まさに「そこですよ」と唸る様にに言葉を紡ぎ出した。
「魔法アイテムの最新の技術だと、その全てが出来る様なんです。……加えてそのブレスレット。魔法アイテムだとしたらその付加魔法の効果が凄まじいですよ! 何しろ先程説明した魔法を使っても、ルーシーさんは無事でいられたんですから」
流石のルーシーも、ここまで聞くと鳥肌が立ってきた。
「それが全て本当だったら、そのブレスレットは如何程の価格なんですか?」
オズはあくまで小さな声で話していたのだが、ルーシーの対面に座るミトスには聞こえていた様だ。
「…………そうですね。軽く見積もっても、いや、うーん」
思案し、メモ帳と計算機を取り出して素早く計算すると、オズは満足そうに頷いた。そして、ルーシーにだけ耳打ちで教える。
「あくまで概算ですけど、三千万ジェル以上しますよ、それ」
ルーシーは、ともかく固まってしまった。月給手取り二十八万ジェルの彼女にとってその額は、天文学的な金額だからだ。
また、その金額は場所にもよるが、この国の一般的な新築の住居を一括で買える位の価値であり、一言で表せば大金だ。
「ルーシーさん、それ大切な人から貰ったって言ってましたけど、誰に貰ったんですか?」
そうは言ったが、オズは薄々勘づいてはいた。
こんな物を贈れる人間は、この国中でも限られているからだ。
そもそもまず専門の業者に普通のルートで注文しても、相手にもしてもらえないだろう。
だが、彼には彼の周囲の人間の中で、一人だけそれが出来るであろう人間を知っている。
その人物は自身が開発した技術の特許をいくつも持っており、そのブレスレットを制作する際にもおそらくその人物の複数の技術が用いられていると思われた。
加えてその彼は昨日、ルーシーのことをファーストネームで呼んでいた。
「これは、彼氏から貰ったんです」
「ルーシーさん、恋人いたんですね……」
オズは、内心ショックを受けたが、あくまで表情を変えずに続ける。
「その彼氏って、何をしている人なんですか?」
「……大学生です……」
オズは思わず目を見開いた。加えてルーシーがレオンに対して敬遠していることや、例の「扮装魔法」のことも脳裏に過った。
「本当に彼は、ただの大学生なんでしょうか」
そうルーシーの耳元に囁くと、オズは自席へと戻って行った。
ルーシーは震える腕を何とか押さえながら、鞄から電子端末を取り出すと、テナーにあるメッセージを送ったのだった。
彼が本当にそうだったら、心臓が持つのだろうかと思いながら……。
この国は『ブリング大陸』と言う大陸にあるのですが、その大陸の国々は殆ど「ジェル」と言う通貨を使用しています。
またその「ジェル」は、日本の「円」と大方価値が変わらないと言う設定となっています。
また、次回もご覧いただけると嬉しいです。
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