第30話 レオンとの会議
ご覧にいただき、ありがとうございます。
今話は、「同僚との会話」や、「レオンとの討伐会議」がメインとなっています。
「昨日は私の判断ミスで、皆さんを危険な状況に追い込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした」
死闘も予想された大魔火竜を討伐した翌日の朝。
ルーシーは就業時間が始まるとすぐに立ち上がり、室内の前方に配置してある課長席付近で一礼してから、緊張した面持ちで前述の言葉を紡いだ。
「皆さんの協力の元、大魔火竜を無事に討伐することが出来て安心しています。皆さん、お疲れ様でした。そして、本当にありがとうございました」
加えて少し表情を柔らげて続ける。
「今後は、自分一人で判断するのではなく、ちょうど運良く陛下と作戦会議を開く機会にも恵まれましたので、様々な視点から判断するようにしていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします」
彼女は再び一礼してから自席へと戻った。
職員たちは皆、そんなルーシーに対して、自席に座ったまま深々と礼をしたのだった。
彼女が席に戻ると、職員たちは各々仕事に取り掛かるが、彼女の周辺の職員たちは次々と声をかける。
「……ルーシーさん、むしろ自分をもっと高く評価された方が良いですよ。伝説のドラゴン相手に死者どころか、殆ど負傷者も出さなかったんですから」
小声でそう囁いたのは、真向かいの席のオズだった。
「……そうでしょうか。実際に今日はライムさんもタオさんも欠勤ですし、他の方も何名か休んでいるみたいです」
「ああ、あの二人は大魔火竜に吹き飛ばされた時の衝撃が少々身体に響いたようですが、俺がアイテムを渡しに行った時は大魔火竜を倒したからってめちゃくちゃテンション高かったので、その反動が出てるんじゃないですかね」
「……それなら、良いのですが」
テンションが高いとは、具体的にはどのような様子だったのか少し気になった。
「それよりも、ルーシーさんこそ仕事に出て来て大丈夫ですか? 昨日の今日くらい、一日休んでも良いと思いますけど」
「ええ。オズさんのアイテムのおかげでもうすっかり回復しましたし、それに今日は、陛下との作戦会議もあるので」
「陛下との……ですか」
オズは何か引っかかるなと思ったが、ともかく業務を始めようと電子端末を操作し始めた。
「あの、ルーシーさん」
ミトスがふと、切り出した。
「はい、何でしょうか」
「陛下との作戦会議と仰っていましたが、……その、出来ればさりげなく探ってはいただけないでしょうか」
彼女は思わず電子端末を操作する手の動きを止める。
「探るとは、何についてですか?」
「陛下のお相手についてです」
瞬間、彼女は今までかいたことのない部類の汗をかいた。
「え、え⁉︎ ど、どうしてですか⁉︎」
思わず挙動不審なカクカクとした動きになって、ルーシーはともかく焦燥する。
「陛下と直接関わりがある方は、僕の身近な方ではルーシーさんしかいませんし、執務室でなら何か手がかりもあるのではないかと思いまして」
ミトスは真剣な面持ちで淡々と説明した。
「い、いえ、そもそも、何故ミトスさんは、……そこまでして、陛下のお相手を知りたいんですか?」
それは最もな質問だなと、オズは隣で聞いていて思った。
「それはですね、単純な好奇心からですが、何しろあの陛下が選んだお相手ですよ。きっと我々の思いもよらない方に違いなんです。まあ、三年ほど以前に陛下は身近な方と噂があったようなので、その方だと考えてはいるのですが……」
そう言いながらミトスは、何故か昨日ルーシーが大魔法を使用する様を思い出したが、特に気にかけなかった。
「でも、……その、私、陛下と今まで、そこまでまともに会話をしたことがないんです。それに場所は執務室では無くて、応接間ですし、手掛かりになるような物があるかどうか……」
「あれ? でもルーシーさん、討伐中では陛下と気さくにお話されてますよね? だからこそ、相談したのですが……」
「あ、あれは、あくまで討伐中なので、気も張っていますし、冷静でいられると言うか……。普段はとても自分からなんて、緊張して話しかけられません……!」
オズは意外だなと思いつつ、確かに以前も同じことを言ってたなとも思った。
同時にルーシーが、レオンの恋人なのではないかと言う疑念が払拭された。
「そうだったんですね。それではこの提案は忘れてください。不躾にすみませんでした」
「……いいえ、そんな、良いんです」
答えながら彼女は己の不甲斐なさを感じ、暗に何とかしようと言う気持ちが込み上げて来たのだった。
□□□□□
同日の午後三時。
レオンは昨日に引き続き、先程までタターキ王国の使節と会談を行なっていたのだがそれは終了し、次の仕事まで一時間ほど時間が空いたので、その時間を利用してルーシーと作戦会議を行う予定だ。
「失礼致します」
テレサに連れられてルーシーは、緊張した面持ちで応接間へと入室した。
室内には既にレオンが来室しており、奥のソファーに腰掛けていた。
だが、ルーシーが一礼してから近づくとすぐに自身も立ち上がり、声をかけた。
「シュナイダー補佐官。昨日は、本当に良くやってくれた」
そう言って、彼にしては非常に珍しく笑顔を見せる。瞬間彼女は、その笑顔に文字通り呆気にとられた。
そのため声を出そうとも、上手く発声をすることが出来なかった。
「シュナイダー補佐官?」
「は、はい! も、申し訳ありません!」
(……以前と変わっていないな……)
そう思いながら、彼は今日のこの日を迎えるにあたっての目標や心がけを思い出した。
(色々と考えたが、ともかくこれだけは言える。……少しでもテナーを超えられるように試みよう。いや、好印象を与えるだけでも良い)
彼はともかくルーシーに座るように促すと、自身もソファーに座った。
「……まず、会議に入る前に聞いておきたいのだが」
「な、何でしょうか」
彼女は緊張しているのか、視線が泳いでいる。
「……昨日話してくれた『私に話したいこと』とは、何だろうか」
瞬間目を見開いた。そして、小さく息を吐き出して呼吸を整えると、精神を集中させた。
「……あの、そのことなのですが、今それを言ってしまうとおそらく私は雑念に支配されてしまうので、会議後にお話ししたいと思います」
「……そうか」
そう言い終えると、丁度良いタイミングで扉を叩くノックが四回鳴り響いた。
「どうぞ」
「失礼致します」
テレサがトレイにティーカップを載せて入室して来た。
彼女は綺麗な姿勢でかがみ、ローテーブルにそれぞれティーカップを置いていく。
「ありがとうございます」
そう言って目の前に置かれたティーカップを何となく注視すると、その紅茶から香りが立った。
(わあ、良い香り)
紅茶からの芳醇な香りに、ルーシーの心は幾らか和らいだ。
その様子を見て、テレサはそっと微笑む。
「それでは、失礼致します」
テレサが退室すると、レオンはすかさずルーシーに紅茶を飲むように勧めた。
「……ありがとうございます」
彼女は慎重にティーカップの持ち手を持ち、静かな動作で紅茶を一口飲んだ。すると何故か懐かしい味がしたのだった。
「……この味……」
「どうかしたのか?」
「はい。以前どこかで飲んだような気がしたんです」
レオンはまさかと思い、自身も飲んでみる。これは紅茶好きのニーナのためにと、以前に良くテレサが彼女や自分に淹れてくれたあの時の味と同じだった。
「……そうか」
先程のルーシーの言葉を元に思考を巡らせると、彼女はことの概要を思い出したわけでは無いが、自分の五感で感じたことは思い出すこともあるのかもしれないと結論に至った。
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それから紅茶の効能によるのもあり、ルーシーの緊張は解け会議は概ね滞りなく進んでいる。
「……それでは、これからは前任者が作成した大まかな二隊に分ける作戦だけではなく、よりその時の状況に合わせた判断をする為に、私が幾つか行動パターンを作成してみよう」
「よろしいのですか? 陛下はご多忙だと聞きましたが……」
それに関しては、先程休憩中にオズに対してミトスが延々と語っていたのを聞いていたので知っていた。
「もちろん構わない。これは緊急を要する案件だ。至急作成するので完成次第、再度会議を行いたいと思うが良いだろうか」
「はい、構いません」
彼女は、気がついたら自然に頷いていた。
入室した当初は、緊張で会話もままならなかったのに、紅茶のおかげもあってなのか、彼女は今は落ち着いてレオンと会話をすることが出来ていた。
そして徐々に、レオンに引き込まれていくような感覚も覚えた。
「それにしても、最近の魔物の脅威は高まるばかりだな。遂にドラゴン級の魔物も出現する始末だ。蒼の力が不安定なのだろうか……」
レオンは、思わずそう呟きたくもなった。
あまりにも、ここ数ヶ月で出現する魔物のレベルが高くなる傾向が見られるからだ。
(【マルティン聖堂】との調整が取れ次第、蒼の力を制御しなければならないな)
レオンがそう思いに耽っていると、対面に設置してあるソファーに座っているルーシーが拳を軽く握って切り出した。
「あの私、陛下にお話ししたいことがあるんです」
「ああ、そうだったな。もう会議も終わったし、大丈夫か?」
彼女は、小さく頷くと意を決して言った。
「御聡明になられる陛下に、そして様々なことを知っていらっしゃる陛下だからこそ打ち明けます」
レオンは、目を見開いた。
────まさか。
「陛下。私は、この世界の人間ではありません」
────ああ、そうか。彼女は、記憶の一部分を思い出したのだ。
レオンは息を呑み込み、彼女にどのように声をかけようかしばし思案したのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
「ルーシーは実は異世界人だった(?)」と言う新事実ですが、次回ではその詳細が明らかになる予定です。
次回もご覧いただけると嬉しいです。
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