第27話 レオンの浮いた噂話
ご覧いただき、ありがとうございます。
今回は、レオンの浮いた噂と、レオンの非公式ファンクラブについて、長々と語る回となっています。
「おはようございます、ルーシーさん。……あれ、ルーシーさん今までブレスレットをしていましたっけ?」
八月の中旬。
魔法士オフィスでは現在朝八時を過ぎたところで、八時半からの始業時間であるので魔法士が続々と入室して来た。
すでに出勤し自分の机で魔法薬の解析を行なっているルーシーに、出勤して来たばかりの同僚のオズがそう話しかけた。
オズは、魔法アイテムの生成が専門の魔法士で、魔物討伐の際は大抵彼がつきっきりでルーシーのサポートをしている。
そのためなのか、彼の机はルーシーの真向かいである。
「おはようございます、オズさん。はい、これは先日……大切な人から頂いた物なんです」
「……へえ、そうなんですね……」
このブレスレットを付け始めてから半月以上経つのに、今頃気が付いたのかなと言う気持ちが少々湧き上がっては来たが、ブレスレットに気づいてもらえたこと自体が嬉しいので、ルーシーは思わず笑顔が溢れた。
「……そのブレスレット……、いえ、素敵なブレスレットですね」
「ありがとうございます」
なんとなくそのブレスレットが気にかかったが、ともかく自席へ着いて仕事に取り掛かった。
オズは、茶髪の優しげな目つきが印象的な好青年という表現がとても合う人物だ。
彼の専門は魔法道具の生成や解析で、ルーシーに魔物討伐中、「総合上位回復ドリンク」を魔法で作成し手渡すのも彼の仕事の一つだった。
そのため、魔法道具や魔法薬といった物に関して詳しい彼は、ルーシーが身につけているブレスレットの違和感に気がついたようであるが、それが何かなのかまでは分からなったようだ。
◇◇
「あー! 陛下の新しい写真、アップされてる!」
就業時間前なので私的な用事を自身の机で行っている者も多く、ルーシーの隣の席のライムもその一人だった。
「ライムさん、もしかして、それが例の非公式のファンクラブの何かですか?」
ルーシーは隣でニヤついているライムが、何だか気にかかったので思わず声をかけた。すると、彼女は目を輝かせて食いつく。
「そうなんです‼︎ この専用サイト、最近更新がされていなかったからどうしたのかなってネット上でも話題になってたんですけど、今のぞいてみたら新しい写真がこんなにもたくさんアップされていたんですよ!」
ライムの勢いに思わず後ずさりをしながらも、彼女の持つ電子端末の画面を見てみる。
すると、遠目からもレオンの写真が何枚も載っているこを確認することができた。
「あの、これ私にも見せてもらってもよいですか?」
「もちろん‼︎ あ、もしかして、ルーシーさんも陛下に興味が出て来ましたか⁉︎ 最近一緒に共闘してますもんね! もうお二人とも、レベルが違い過ぎていつも痺れていますよ! そして陛下がカッコいいです!」
何か、質問の答え以外の個人的な感想が色濃い気がしたが、気にせず返した。
「興味というか、少しは耐性をつけたいと思いまして」
というのも、ルーシーの中での現状のレオンは、共闘を経験し以前のようにただ恐ろしい人物ではなく警戒心も解けたのだが、依然として魔物討伐後に彼の執務室で話しかけられると緊張をしてしまうのである。
それに加えて、先日彼から直接メッセージで、『魔物討伐の作戦会議』なるものを王城の応接間で二人で行いたいと通達があったので、彼への耐性を少しでもつけておこうと思ったのだ。
また、その第一回目は明日を予定している。
ちなみにレオンが討伐に加わったのは前々回のそれが最後で、前回は他の仕事がどうしても抜けれなかったとのことだ。
「こっちの写真は陛下のプライベートの写真ですね。多忙の陛下が日々のトレーニングを欠かさずに行なってるって、もうめちゃくちゃカッコよくないですか‼︎」
「? は、はあ」
ライムは更に興奮していくが、ルーシーはいまいちそれに乗り切れなかった。
とはいえその写真を見てみると、確かにジャージ姿のレオンがランニングをしている。
更にスクロールをして見てみると、彼がウォーキングマシン等のフィットネスマシンで、トレーニングしている写真も複数あった。
それを一目見ると、ルーシーの顔は一気に赤くなり鼓動が高まった。
その異変にライムはすぐに気がつく。
「あれ、ルーシーさん、どうかしたんですか?」
「え、えっと、そ、その写真は私には刺激が強すぎるというか……」
自分でも分からないほど、取り乱していた。
「そうですか? 特に何の変哲もない、陛下がトレーニングをしている写真だと思うんですけどね」
深呼吸をして心を整えると、ふと湧いた疑問を口にした。
「そういえば、この写真ってどこで撮られているんですか? それに誰が撮っているんでしょうか」
「それはですね、サイトの運営者の説明では、陛下の護衛の方々が王城の敷地内に設置されているジムで撮影されたそうです」
今まで一通り会話を聞いていたオズも、ふと疑問を口にした。
「だけど、ここまで来たら普通に公式ファンクラブでもよいんじゃないですかね」
それには、ライムの代わりにルーシーの隣の席のタオが答える。
「公式だと入会費とか年会費とか、諸々経費がかかってしまうでしょ? 王室としては、流石にそれは国民から批判を受けかねないとして避けたみたいよ」
「……と言うことは、この非公式ファンクラブって無料なんですか?」
ルーシーは、そこのところがふと気にかかった。
「ええ、そうです。これは、反乱鎮圧後の王室が、王室に行って欲しい事業という公募を国民に対して募集して大多数の国民の意見として採用し行ったことの一つで、最初は、ほんのささやかな写真を載せていただけだったんですけど思いの外反響が大きくて、今や外国のファンも大多数いて会員数が五千万人を超えているらしいので、規模を大きくして行ってるらしいですよ。会員登録も簡単で会員制ネットサービスのIDさえあればすぐに出来るんです。サービスとしては、写真の閲覧や陛下のメッセージが載ってるくらいなんですけど、それでも私には充分なんです!」
そこまで、流暢に言ってライムは息を吐き出すと、再びニヤケながら電子端末を操作し始めた。
その様子を眺めながらオズはそう言えば、と言って、話題を切り出した。
「……陛下の情報通のライムさんに、聞きたかったんですけど」
「ん? 何?」
「陛下に、最近恋人ができたって知ってます?」
その言葉に、この場にいる一同は固まったが、ライムとミトスは動じていなかった。
「ああ、その話は確証もないし、相手も分からないんだけど、王室の職員、とりわけ警備の職員を同時に何人も最近市井でよく見かけるって言う話だから、陛下が街でデートでもしてるんじゃないかって話ね」
「そうなんですね」
ルーシーは特に動じていないが、内心、何だか微笑ましく思っていた。
「……噂の出どころって、どこなの?」
タオは初耳だったのか、驚きながら聞いた。
「よく分からないけど、警備部と知り合いのどこかの省の職員じゃないかって話ですよ」
オズの言葉に、ミトスは頷いた。
「その話僕も聞きましたよ。ちなみに、陛下はご自身の扮装魔法で扮装されているので、一般の目には陛下とは映っていないようです」
ルーシーはふと、疑問を抱いた。
「扮装魔法、ですか?」
「あれ、ルーシーさんは使用できませんでしたっけ? と言っても、あの魔法は滅多な人じゃなきゃ使える代物じゃないし、学校でもまず習わないので、使えなくても全然おかしくないのですが」
「ルーシーさんでも、使えない魔法ってあるんですね」
ミトスとオズが次々に疑問を投げかけてきたので、ルーシーは頷いて答えた。
「もちろん、あると思います。ただ、存在を知っている魔法は大方試したので、私が使えないのは存在を知らない魔法の可能性がありますね」
「扮装魔法は、知らなかったんですか?」
オズの質問に、ルーシーは答える。
「はい、知らなかったです。そういう魔法もあるんですね」
その場にいた一同は、皆意外に思っているのか目を見開いた。
というのも、内乱中にレオンが扮装魔法で各国を潜伏していた話は、彼らの中では有名な話だったからだ。
ただ、一般には伏せられた情報であるし、その頃この国にいなかったと言っているルーシーが知らなかったとしても不思議ではないと、皆各自で納得をしたらしい。
「……それで、その恋人の方なんですが、なんでもすでに議会や内閣の許可は下りているらしいです」
ミトスの言葉に、皆息を呑んだ。
「え? ミトスさん、何でそんなことまで知っているの?」
ライムが口に出した疑問に、皆そう思っていたのか、一同小刻みに頷いた。
「実は僕自身、王室の警備部に知り合いがおりまして、しつこくたずねたところ相手を伏せることを条件に教えてもらいました」
「へー。ミトスさんがそこまで、陛下のことに興味があるなんて、何だか意外」
ミトスは、補助系の魔法が得意な黒髪で眼鏡をかけた三十代の男性だ。
普段は、それほど口数が多い方ではないが、洞察力が高く周囲の異変によく気がつく人物である。
「……こんな風にここで言うのもなんですが、正直、最近まではそこまで陛下に興味があったわけではないんです」
「お、確かに色々な意味でここで言うには攻めた発言ですね」
オズは面白がっているような表情で頷き、ライムとタオからは強い圧が感じられる。
「……ですが、最近魔物討伐に陛下もご参加くださるようになって、彼の魔法ももちろんですが、その判断力の高さに一言で言うと傾倒したんです」
その言葉にルーシーも同調した。
「確かに、陛下の判断力には、いつも助けていただいています」
──そう言えば、戦闘中に彼と隣にいると妙にしっくりとくるのは何でだろうか。
「と言うことは、しようと思えばすぐ婚約出来るってことか。うーん、相手がめちゃくちゃ気になるなー。でも、順調にいけばそのうち公表するだろうし、ここはそれを待つか」
ライムは、少し残念そうに言った。
「陛下がお付き合いする方は、国が審議するんですか?」
ルーシーの質問に、ミトスが答えた。
「ええ、やはり王妃になる可能性のある方ですから、問題が起きる要素があるかどうか見極めているそうです」
「……そうなんですね」
ルーシーは他人事のはずなのに、なぜか鼓動の高まりを感じていた。
加えてレオンに恋人がいると聞いて、微笑ましくも思うが、同時により彼を遠くに感じる気持ちも湧き上がった。
「やっぱり、ライムさんはショックですか?」
オズの言葉に、ライムはうーんと言いながら腕を伸ばす。
「推しが結婚するのは、残念は残念だけど、陛下は今までそれは色々とご苦労をされた方だし、……うん、純粋に幸せになって欲しいって思うな。推しは変わらないけど!」
そう言って目を輝かせるライムとは対照的に、タオの目は淀んでいた。
「陛下、結婚しちゃうのかな……。そりゃ、即位から六年も経って今まで浮いた噂が一つしかなかった方がおかしいけど、それでも何か寂しいな……」
ライムは、目を細めた。
「タオさんも、ファンだったんだ……」
そう言ったか言わないかのところで、ちょうど始業時間の合図のチャイムが鳴り響いたので、一同一斉に作業に取り掛かったのだった。
◇◇
それから、相変わらず週に一度ほどは魔物は出現し、魔物討伐隊はその都度、作戦会議室で待機をする隊員の入れ替えを決定して出動していた。
ただ、それ以外の勤務時間は他の部署から回ってくる仕事を行っており、最近はもっぱら魔法薬の解析作業で忙しかった。
どうも、専門の課の魔法士だけでは手が回らないほど仕事の量が多いようだ。
「えっと、物忘れを予防する魔法薬か。この成分は……」
オズの隣の席では、補助系魔法専門のミトスが新薬の解析を行なっていた。
彼は、捜索系の魔法も得意だが、解析系の魔法も得意としていた。
「……この魔法薬は合格。さてこちらは……」
魔法薬の検査作業自体は、地道な作業である。
一同、黙々と作業を行なっていると、各自の腕時計型魔物探知機がブザー音を鳴り響かせた。
「この間、出たばかりなのに……」
そう、タオが思わずぼやいた言葉は聞こえたのかは分からないが、隊員たちはそれを合図にしたように一斉に立ち上がり、階段へと向かい一階へと駆け降りて行った。
お読みいただき、ありがとうございました。
レオンの非公式ファンクラブの設定は、作者自身ちょっと厳しいかな……と思いながら書いている部分もあります。
そのファンクラブですが、普段、あれだけ護衛が付いているだけあって、位置情報や個人情報の流出にも相当気をつけているらしいです。
次回も、お付き合いいただけたら、嬉しいです。
また、少しでも面白いと思っていただけましたら、⭐︎↓での評価をよろしくお願いします。




