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【完結】国王陛下と恋を始めます  作者: 清川和泉
第3章 記憶の中の少女

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第26話 テレサとダニエル

ご覧いただき、ありがとうございます。

今回で第2章は終了です。

 テレサは、王城の侍従部があるフロアの個室の一つにと訪れ扉の前で立ち止まると、丁寧にノックをして、すぐに応答が返ってきたことを確認してから入室した。


「お疲れ様です、ダニエルさん。今、少々お時間をよろしいでしょうか」

「……あなたが、僕のところに来るなんて、珍しいですね」

 

 どうも、ダニエルはまだ今日中に処理をしなければならない仕事が残っているので残業をするつもりだったらしいが、その前にコーヒーを淹れるためにちょうど給湯室へと移動しようと思っていたところだったとのこと。テレサが丁度その直前に訪ねて来たので、入れ違いにならずにすんだとのことだ。


 そもそも、テレサがレオンに対して王城の応接室を使用しルーシーと対話を試みたらどうかと定案した同日。就業時間が終了したそばから足早にこちらへと移動したのだ。

 

 ちなみに、テレサにしては珍しく事前に先方には連絡をせずに来訪したのだった。


「それで、用件は何でしょうか」


 テレサは手短に、応接室の使用許可を取りたいという旨の事情を説明した。


「……なるほど、分かりました。まあ、そういった事情なら、問題なく許可は下りるでしょう」


 加えて、ダニエルは自分が申請しておくとも言った。


「ありがとうございます」


 テレサは柔かに微笑み、丁寧に一礼をするとそのまま退室しようとする。


「……待ってください」

「……何か?」

 

 不意に声をかけられたので、テレサの鼓動が高まった。


 ──いや、そもそも彼の元へ訪れるために、平静を装おうと努めていたのもある。


「……せっかくですから、もう少しお話しませんか? コーヒーなら、お淹れできますから」

「そう、ですね。ではご厚意に甘えてそうさせていただきます」

 

 ダニエルは、給湯室から自分のカップと給湯室に備えられている予備のカップを取り出して、カプセル式のコーヒーメーカーでそれぞれコーヒーを淹れた。


 それから室内へと戻ると、休憩スペースの椅子を持ち込み、すでに椅子に座っていたテレサにカップを手渡し、自身も自席に座った。


「それで、突然そのような提案をされて、どうかしたのですか? たとえ二人の仲を取り持っても、あなたの得になることはないでしょうに」


 テレサは、改めてダニエルの方に向き直った。


「私は、純粋にお二人の仲を応援しているのです」

「……ニーナさんのためですか?」


 瞬間、テレサは息を呑んだが、ダニエルは涼しい顔をしている。


「……そうでないと言ったら、嘘になりますね」


 テレサは微苦笑をして、ダニエルに視線を合わせた。


「ニーナさんが生きていらしたら、きっと彼女は陛下とご結婚をなされて、今頃は穏やかなご家庭を築かれていたはずです。……ですが、その未来は残念ながらみることはできませんでした。ですから、彼女であればきっと陛下の幸せを願うはずですので、せめてそのお手伝いをさせていただきたいと思い至ったのです」

 

 そう自身の胸の内を語るテレサの瞳を、ダニエルは目を逸らさずに見つめていた。

 流石にテレサは気が付き、たじろぐ。


「……あの、私の顔に何か付いているのでしょうか」

「あなたは、まだ過去に犯してしまったことについて、後悔をなされているのですか?」

 

 テレサの鼓動が、先ほどよりも早鐘のように打ちつけた。


「……それは、どういった意味でしょうか」

「テレサさん、どうか誤解をしないで聞いて欲しいのですが、僕はあの時、あなたを罵ってしまったことを今は酷く後悔をしているんです」

「…………なぜですか?」

 

 テレサは表情を変えずにいるが、その顔色はみるみるうちに白くなっていった。


「あなたは客観的に見ても、先の反乱には直接的に関与したわけではないですし、ご自身の影響力をただ利用されたということを……あのときの僕も理解はしていたんです。ですが、どうしても収まりが効かなかった。……申し訳ないと思っています」


 テレサは、なんと返してよいのか非常に困った。

 というのも、他の者たちがテレサを許してもダニエルだけは自分のしでかしたことを一生憎み、許さずにいてくれると思っていたからだ。


「……私は、決して許されたいわけではありません」


 テレサは席を立ち、給湯室でコーヒーカップを洗って片付けてから再びダニエルの元へと戻った。


「それでは、私はこれで失礼いたします。ダニエルさん、申請の件はお手数ですがどうかよろしくお願いいたします」


 テレサは、軽く礼をして退室していった。

 ダニエルは息を吐いて事務椅子に深く座る。


「……どうしたら、あなたは僕の言葉を忘れてくれるのだろう」

 

 ──そして、どうすれば自分を見てくれるのだろう……。


 ◇◇


 テレサはかつて、マギア王国において「有名な一般人」だった。

 

 それは、彼女が国内屈指の商事会社の社長令嬢であり、加えて中等部のころからファッション誌の読者モデルを行い、幼い頃から励んでいたバレエでは国際的な賞を獲ったからである。

 また、マギア王国の名門大学に推薦入学をする等々、彼女は他にも数え切れないほど人々がこぞって感心を寄せるような存在であった。

 

 また、テレサの会員制ネットサービスのフォロワーは何百万人といて、彼女の発言力は絶大だった。

 だが、完璧であるはずに彼女にはあるコンプレックスがあった。


 ──それは、魔力が平均よりも低いことであった。


 テレサは、そのことを気にして大学に入学したばかりの頃に、ネットワークスサービス上で魔力が高い者、とりわけ国家魔法士に対して批判する書き込みを複数回行った。

 更に、賛同する者とコミュニティを作成し、やがてそれは国内の既存の派閥「武力派」が利用するようになったのだ。


 だが、ここでは割愛するが、テレサはその後にレオンたちに協力をし武力派との繋がりを利用して、スバル王国の反乱を治めるのに貢献をしたのである。


 ◇◇


 ダニエルは、テレサが立ち去った後も彼の個室スペースで卓上型電子端末を操作し作業をしていたが、ふと先ほどのテレサの言葉を思い出した。


『ニーナさんが生きていらしたら、彼女が陛下とご結婚をなされて今頃は穏やかなご家庭を築かれていたはずです』


 ──果たして、本当にそうだったのだろうか。


 ダニエルは、過去にニーナが彼だけに直接彼女の胸の内を打ち明けてくれた言葉を、そっと頭の中で廻らせた。


『私は、この国が落ち着いたらアルト君の側から離れようと思うんです。……私はどう考えても、たとえ傍にいるだけでも、彼には相応しくないですから』


「相応しくないとは、どういった意味だったのだろうか……」


 ダニエルは当時もそう思ったのだが、切なそうに小さく苦笑した彼女を目の前にすると言葉が出てこず、結局聞けず終いになってしまったのだ。

 そして、ダニエルは再び仕事に取り掛かったのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。


また次回から新章になり、ようやくルーシーがレオンと向き合うお話になっていきます。

お読みいただけると嬉しいです。


また、少しでも面白いと思っていただけましたら、⭐︎↓での評価をよろしくお願いします。

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