表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】国王陛下と恋を始めます  作者: 清川和泉
第3章 記憶の中の少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/60

第25話 テレサからの提案

ご覧いただき、ありがとうございます。

「陛下、ご相談をさせていただきたことがあるのですが、少々お時間をいただけないでしょうか」

 

 ルーシーとのデートの翌日の正午頃。

 レオンは、内閣府で経済界の専門家が開いている会議に出席していたが、昼休憩のために一度王城の自身の執務室に戻り、電子端末を片手に簡易的な昼食をとっていた。

 

 そんな彼の元に、丁寧に扉にノックを四回叩いて第一秘書のテレサが入室するなり、冒頭の提案をしたのだ。

 レオンは食べかけのサンドウィッチを執務机に置くと、口元をハンカチで軽く拭いてテレサの方を向いた。


「ルロウさん、相談とはどう言ったものだろうか」


 普段、彼女は業務時間中にしかほとんど接してこないので、不思議に思った。

 テレサは、軽やかにレオンの執務机の前まで歩み進めると、柔に笑みを浮かべた。


「陛下。失礼を承知の上で、ご提案をさせていただきたいことがあるのです」

「何だろうか」

「シュナイダー補佐官と素性を隠してお付き合いされている現状を打破するお手伝いを、私にさせていただきたいのです」


 レオンは思わず、まだ口内にあるものを喉に詰まらせそうになったが、慌てて水分を取り、息を吐いて気を落ち着かせる。


「……知っていたのか」

「はい」


 彼がルーシーと付き合っていること自体は、王室の警備部と侍従部に当初から伝えていた。

 というのはどうしても、誰かと外出する際には、彼らにそれを伝える必要があるからだ。

 

 加えて彼は同じ人物と何度も親しげに出かけることになるので、ここは隠さず、ルーシーと交際をしていると伝えたのだった。

 ただ、一つの部署が知るところなら、王室全体が把握していると考えた方が良いのだろう。

 

 とりわけ、秘書室は警備部との繋がりもあるので、その関係で話が伝わったのかもしれない。

 素性を隠して付き合っていることも、警備部の人間なら皆知っていることなので、その話も含めて伝わったのだろうと思った。

 そう思案をすると、今更だが何とも言えない気まずさが、湧き上がって来た。


「恐れ多くも陛下。本心を申しあげさせていただきますと、私はお二人の交際が上手くいって欲しいと思うのです」


 レオンは、まさかテレサがルーシーの正体に気がついたのかと思う。

 

 六年前にテレサが「ニーナ」として接していた少女は、扮装魔法で姿を変えていた「ルーシー」だった。

 それは、当時のマギア王国は内乱中で混乱しており、活動を行うにはなるべく姿を変えた方がよいとレオンが判断してのことだ。


「陛下が即位後、初めてお付き合いされた方ですから」

「……ああ」


 どうやら違ったようなので、安堵した。


「それで、具体的には何を行うのだ?」


 ともかく、内容を聞いてから判断しようと思う。


「はい。機会をお作りさせていただきたいと思うのです」

「機会?」

「ええ。陛下とシュナイダー補佐官はほとんど関わりがないのが現状です。ですから、お会いなさる機会を作り、少しずつ親交を深めていただきたいと思います」

 

(機会……。正直に言って、レオンとしての彼女の印象を少しでも上げたいと決意した今、これ以上にありがたい申し出はない。だが……)


「申し出はありがたいが、正直なところ私の個人的なことでルロウさんにそこまでのことをやってもらうのは、心苦しいな」

 

 レオンは苦笑した。

 彼女はあくまでもレオンの仕事に関して補佐をする秘書であり、プライベートなことは管轄外だからだ。


「いいえ陛下、ご心配には及びません。というのも、これはあくまで私のしゅ、……いえ、ともかく私自身がなにかお役に立ちたいと思ったので、少しでもお力になりたいのです」


(今、趣味って言いかけた……)


 と思いながらも、レオンは純粋にテレサの申し出はありがたかったので、話を聞いて見ることにした。


「当初は陛下にシュナイダー補佐官を食事等に誘っていただいて、その手続きや演出等を私が行う予定でした」

「そこまで、考えてくれていたのか……」


 純粋に驚いたのと同時に、自分の知らないうちに私的なことで他人に思考を巡らされていたことが、どうにもむず痒かった。


「はい。……ただ、これには『どうやってお食事に誘うか』という点と、そもそもシュナイダー補佐官には、『テナーさん』という恋人がいるので、中々難儀だと判断いたしました」


(テナーの名前まで知られている……)


 普段あまり感情の起伏が少なく、滅多に表情を崩さない彼だが、流石に少し焦ったような表情をしている。


「ですので、シュナイダー補佐官には()()()()魔物討伐の作戦や相談をするという名目で、定期的に陛下とお会いしていただこうと思います」

 

 レオンは、思わず息を呑んだ。


(なるほど、たしかにそれなら彼女の心うちにある不安を聞けるかもしれないし、ほぼ一人で判断させてしまっている討伐の作戦会議もできる。なにより、本来の自分が彼女に接することが出来るんだ。そんなに有意義なことはない)


「なるほど、有効そうな案だ。……だが、場所はどこを予定しているんだ? ここはセキュリティの問題で気軽に立ち入れる場所ではないが……。いや、あくまで魔物討伐の相談ということなら構わないか」


「ええ。ただ、執務室ではシュナイダー補佐官もおくつろぎいただけないでしょうから、同階の応接室を使用できないか、ダニエルさんと相談しようと思いますが、よろしいでしょうか?」

 

 レオンは、テレサがダニエルの名前を口に出したことに少々驚いた。


「……私は思っても見ない提案で、正直なところありがたいが、ルロウさんがダニエルに直接話を持ちかけるのは、少々気まずくないだろうか。差し支えがなければ、私の私的なことなのだから、私から直接彼に伝えよう」


 彼女は柔かに笑みを浮かべるように努め、軽く首を横に振った。


「……いいえ、陛下。ご心配には及びません。……元はと言えば、過去に私が犯したことが原因なのです。自分自身で向き合わなければならないことですから」

「……そうか」


 そう言って、綺麗に礼をしてからテレサは挨拶をして退室して行った。

 レオンは、ふと過去のテレサとダニエルのやり取りを思い出す。

 

 あの時は確か「ニーナ」に扮したルーシーも側にいて、自分は当時「アルト」という少年に扮していたことも思い出した。


「ルロウさんのしたことは、実刑が下るようなことではなかった。だが、彼女の中にあった、誰にでもあるような劣等感が、武力派に良いように利用されてしまったことに変わりはない」

 

 そう呟くと、レオンは更に過去を振り返りたくなったが、すでに時刻は十三時前を指しており急いで移動をしないと会議に遅刻をしてしまうので、すぐに身支度を整えると退室して行ったのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。


次回で第2章は終了予定です。

次回もお付き合いいただけると、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ