第20話 テナーが出した結論
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それから二人は、ボード乗り場を後にし時間を確認すると十一時半を過ぎていたので、公園の芝広場で昼食を取ることにした。
ルーシーが再び花屋へと赴きバスケットを取りに行っている間に、テナーは芝広場の一画にレジャーシートを広げて場所取りをすることになった。
正直に言って花屋の店主とは再び顔を合わせ辛かったので、それをせずに済んでありがたかった。
レジャーシートに座って空を見上げると、先程のことが頭をよぎる。
──恋敵は自分自身。
今までは、魔物討伐やその責任者にされたことが原因で、精神的に追い込まれていたルーシーを元気付けることが何よりも優先だったし、それが目的だった。だが、これからは違う。
自分の本心と向き合い、自分に彼女を愛する資格はないと言う気持ちを解き放つことにしたのだ。
だがそれは同時に、本来の姿の自分で彼女と接することも指していた。
(本来の僕は、相変わらず敬遠されているからな……)
先日魔物討伐を共に行い、少しは打ち解けたかと思ったが、翌日執務室に呼び出し彼女と会った際は、以前と変わらず必要以上に身を固くしていた。
(あの様子では結婚なんておろか、食事に誘うことすらさえできないな……)
そもそも、ルーシーは現在仮初の自分であるテナーと付き合っている。その事実を何とかしない限り前には進めないだろう。
(いっそう、ダニエルの言う通り全てを打ち明けるか……)
それは今まで何度も、テナーも考えたことだった。
──だが、どうしても駄目なのだ。
(それだと彼女を傷つけることになりかねないし、別れることになるかもしれない。……今までのように、彼女の傍で励ますことができなくなる)
それに加え精神的な負荷を与えて、最悪の場合仕事や日常生活にも支障をきたさせてしまいかねない。
考えれば考えるほど、泥沼にまるようだった。
そもそも、少し前のルーシーを励ます目的のままだったならば、自分が身を削り彼女が自身を嫌いになる、もしくは自分以上に好きになる相手を見つけてもらって、去ろうと思っていた。
そう思考を巡らすと、テナーはあることに気がつく。
──レオンが、その相手なら問題はないのでは?
(俺が僕を超える? いや、本来の俺は魔物討伐以外、ほとんど接点もないし無理だろう……)
そう思いつつ、何か手段はないかと思考を巡らせているとちょうどルーシーが戻って来た。
「テナー君、お待たせ!」
テナーは思案を一度止め、すぐにルーシーの方に視線を向けた。
「お帰り。取りに行ってもらって、ありがとう」
「ううん、こちらこそ。場所取りありがとう!」
◇◇
それからルーシーは昼食の用意を手早くして、テナーに紙皿等を手渡した。
バスケットの中には、ツナや卵、ハムやチーズ等のサンドウィッチや、卵焼きや唐揚げ、ミニトマト、ポテトサラダ等のお弁当の定番のおかずが入っていた。
「凄く美味しそうだ。これ作るの大変だったんじゃない?」
「ううん、テナー君が食べてくれるって思ったら凄く嬉しくなって、ついつい沢山作っちゃった」
そう言って微笑むルーシーを見ていると、彼女のことを騙している罪悪感からの胸の痛みと、温もりを感じて心が満たされる温かさと二つの感覚を同時に覚えた。
(……僕は、ルーシーを励ましたいとか言って、本当は自分が癒やされたいだけだったのかも知れないな)
そう、しみじみと思ったのだった。
「そうだ、テナー君。このハンカチありがとう」
昼食も終わり、今は互いにお茶を飲んで一息ついていたところだった。
「ああ、そうだったね」
それは以前のデートの際に、ルーシーに貸していた彼のハンカチだった。
「それでその……、ごめんなさい!」
ルーシーは、急に頭を下げた。
「実は、アイロンをかけたんだけど、なに分慣れないものだから少し焦がしてしまって……」
よく見てみると、確かに角付近にクッキリとしたアイロンの跡がつき、縁は焦げていた。
彼女は昔から機械音痴だったことを思い出すと内心懐かしく思い、思わずテナーは微笑んでいた。
「こんなの、どうってことないよ。気にしないで」
「う、うん。ありがとう」
ルーシーはキュッと拳を握り、真摯な瞳をテナーに向けた。
「この流れで言うのも変なんだけど、……テナー君」
「ん? どうした?」
ルーシー頬と耳は一気に染まっていく。そして、そっとテナーの耳元で囁いた。
「テナー君に、……抱きしめて欲しいんだ」
「…………え?」
テナーは彼女の思っても見ない提案に、思わず動きを止めたのだった。
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第14話「ルーシーの本音」で、ルーシーが漏らしていた本音が、お話の最後に出てきました。
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