閑話 恋のサポート会議
ご覧いただき、ありがとうございます。
今回は番外編的なお話です。秘書三人の掛け合いとなっています。
「……テレサが提出してくれた、例の案だけど……」
テレサが恋のサポート役になると一念発起した翌日の夕刻。
就業時間が過ぎ、明日のレオンのスケジュールの再チェックを自身の机で行っていた第一秘書のテレサに、遠慮がちに近づき第三秘書のマサが切り出した。
「どれも、ちょっと使えないかな……」
テレサは何のことかと思案すると、すぐに思い当たり、目を輝かせた。
「早速、読んでいただけたのですね!」
テレサは早朝にマサの電子端末にデータを送信しており、休憩時間の合間にそれに目を通したのだった。
「読んだは読んだんだけど……」
歯切れが悪そうにしているマサに対して、帰り支度をしていた第二秘書のユカが話しかけた。
「ねえ、どんな内容か私も読んでいい?」
「はい、もちろん!」
テレサが柔かに頷いたので、ユカはマサから電子端末を借りて、それを読み始めた。
「えっと……『★一 夜景の見えるホテルの最上階の落ち着きのあるレストランで食事をし、陛下がシュナイダー補佐官に対し愛を囁く』……って、これなんか、小っ恥ずかしいよ!」
テレサは不思議そうな表情をして、ユカを眺めた。心底何を言っているか分からないと言った様子だ。
「恥ずかしい、でしょうか?」
「うーん、恥ずかしいかどうかは、個人の感覚だから置いておいて、まず私が言いたいのは、これはあの二人には敷居が高すぎるってこと」
「そうですか?」
テレサは、全くブレなかった。
「うん……。それから、これは陛下の姿でってこと? それとも陛下が扮装している大学生?」
「もちろん陛下のお姿でです。仮初のお姿では意味がありませんから」
「これ、陛下の姿でのことだったんだ……。どうして二人が一緒に食事をとることになるのかも謎だけど、よく今の時点で愛を囁くと言う発想がでてくるよね……」
ユカは思わず突っ込まずにはいられない様子であり、十以上ある案を改めて眺めている。
「えっと、なになに? 『★二 シュナイダー補佐官に、私たちがそっとことの真実を打ち明ける』……」
ユカは、「流石にこれはない」と言って首を横に振った。
「そうでしょうか?」
「うん、たとえ陛下に許可を取れたとしても、第三者は介入しちゃダメ! 絶対にこじれるから!」
ユカの必死の説得に、テレサは珍しく心が揺らいだ。
「言われてみれば、確かにそうかもしれません」
テレサはユカの言葉が響いたのか、神妙な表情をしている。
「何だかどの案も悪くはないんだけど、今の二人の状況には合わないのよね」
「それならお二人も、一緒に考えていただけないでしょうか」
テレサは柔かな表情で、そう言った。
うん、なんだかはめられた、と思いつつも二人は真剣に考え始めた。
「まず厄介なのは、一、素性を隠して付き合っていること。二、本来の姿では敬遠されている、と言うことだと思うの」
「……確かに、その通りですね」
テレサが頷くと、ユカはうめき始める。
「これ、何か解決策あるかな……」
「私は、第八案がお役に立つと思うのです!」
テレサが珍しく声を張り上げたので、ユカは思わず該当のページをスクロールして見てみた。
「★八 二人で物静かな場所へ旅行へ行く」
「…………」
ユカは黙ってしまったので、代わりにマサが口を開いた。
「あなたの脳内では、二人の関係がどう言ったものになっているのか、凄く知りたいわ」
呆れた様子のマサに、テレサは変わらず柔かに対応する。
「もちろん、恋人同士です」
「だからね……、それはあくまでも仮初の姿でのことであって……」
「仮初とはいえ、恋人同士であることには違いないのですよね? そこはたとえば仮初の姿の陛下が補佐官と一緒に旅行へ行き、旅行中にそっと正体を打ち明けて、それでも陛下は変わらないと言うことをアピールできればよいと思うのです」
「うーん、そう言われると悪くもなさそうなんだけど、やっぱり力技感が半端ないわね……。まだその段階ではないと言うか……」
マサとユカは考え込んだが、テレサはふと思いついた。
「ではまずここは、場所や行動の提案ではなく、彼女の服装や陛下の彼女への接し方への提案にとどめましょうか」
「それよ、それ‼︎」
「急に、まともな案が出て来たね!」
二人が揃って肯定的な姿勢になったので、テレサは不思議に思う。
「そこまで、今までのスタンスと変わらないような気もするのですが……」
ユカは間髪入れずに答えた。
「全然違うよ?」
動じないテレサと動じるユカ。二人の様子を見て、マサは苦笑した。
ともかく三人は様々な案を出し、ユカの「デートには断然ノースリーブ!」という自身の切実な経験談から得た知識を、テレサがさりげなくルーシーに伝えるということで、今回の会議は幕を閉じた。
これはデートに変化をつけることで、何か二人の間に変化が起こらないか、と言うささやかな期待があってのことだった。
「とはいえ、これでは根本的な解決にはなっておりませんので、私近々直接陛下に進言しようと思います」
テレサの物騒な提案に二人は思わず目を見開いたが、正直に言って今はこれ以上関わる気力もなかったので、特に何も言わずにそのまま秘書室を後にしたのだった。




