第16話 恋のサポート役
ご覧いただきありがとうございます。
ここから、3章が始まります。今章は「久しぶりのデート編」が主ですが、物語は確実に動いていきます。
『テレサさん、あなたは間違っています。そもそも、あなたほど完璧な人は滅多にいません。……だけどあなたは、それ以上を望んでしまった。その代償がこの国の悲惨な現状なんです。……でも、少しでも憂いた気持ちがあるのなら、私たちに力を貸してくれませんか?』
黒髪、ロングストレートの髪をそのまま風にたなびかせ、黒のワンピースをまとった少女は、黒い瞳で真っ直ぐテレサを見つめ、右手を伸ばしながらそう言った。
元々少女にとってテレサは、敵も同然だったのだが出会ってすぐに和解し、彼女から歩み寄ってくれた。
少女は、テレサが今まで出会って来たどの人間よりも不思議な魅力を持ち、彼女にとっては唯一無二の救世主のような存在だったのだが……。
「ニーナさん……」
テレサは自室のベッドで、涙を流しながら目を覚ました。上半身だけ起き上がると、涙をそっと指で拭う。
「また、あなたの夢を見ることが出来ました。……ニーナさん、あなたが逝ってしまって、もう六年も経ってしまいましたね。私は、少しでもあなたのお役に立てているのでしょうか……」
テレサはしばらく、瞼を閉じて少女の姿を思い浮かべ想いにふけったのだった。
◇◇
同日。
レオンが途中参戦した討伐のあった日から、一週間ほどが過ぎていた。
「陛下、本日の予定は以上です」
午前九時過ぎのレオンの執務室でテレサは、電子端末を片手に今日の予定をレオンに話し終えると、彼女は何か質問等はないだろうかとレオンの様子を伺った。
だが特に無いようなので、一礼をして退室しようとしたがすんでのところで、レオンが声をかけた。
「ルロウさん、……先の件はどうなっただろうか」
「ああ、あの件でしたらご心配には及びません。すでに、武力派の議員の聞き取りは完了しておりますので」
「そうか、了解した。引き続きよろしく頼む」
「はい。それでは、失礼いたします」
テレサは、一礼をして速やかに秘書室へと戻った。
この後レオンは、何名かの議員や各団体の代表者たちとの会合を予定しているのだった。
◇◇
その日の正午過ぎ。
会合も昼休憩となり、三人の秘書らは秘書室の休憩スペースでそれぞれ昼食をとっていた。
サンドウィッチを食べ終えると、ふとテレサの脳裏にあることが浮かんだ。
「……そういえば」
「なになに、どうしたの?」
テレサが珍しく呟いたので、向いの席で電子端末を操作していたユカが食いついた。
彼女は二十四歳で、噂好きである。
「……いえ、特になんでもないです」
「テレサが独り言なんて、珍しいじゃない。どうしたの?」
自身の席の椅子に座ったまま振り返ったので、第三秘書のマサも食いついた様子だ。彼女は三十歳で、やはり噂好きだった。
「噂付きのあなた方に、これを打ち明けるのはちょっと……」
テレサは、遠くを見つめた。
「何その憂いの目は……」
「余計に気になるじゃん!」
「言わないと、テレサが実はラブコメ好きだと言うことを、王室中に言いふらしちゃおうかしら」
悪戯っぽく言ったマサの言葉に、テレサは非常に動揺した。
「どうして、それを……」
「ふふん、そんなの見ていれば分かるもんね。いっつも何かにつけて、私たちの恋バナを聞いてくるし」
「そうそう」
テレサは、口元を緩めて小さく息を吐き出した。
「それで、結局なんなの?」
テレサはそう言いつつも、彼女たちを信用しているので、打ち明けることにした。
そして、他言無用にと強く念を押して小声で話始める。
「……皆さんは、陛下が誰とお付き合いをされているか、ご存知ですよね?」
「もちろん、知ってるよ! 魔法士のシュナイダー補佐官でしょ?」
「……私はユカが、いつかその情報を誰かにうっかり漏らしてしまうんじゃないかって、いつもハラハラしてる……」
「それは、強く同意します……」
「な、なんで? 私ほど口が固い秘書もいないのに」
テレサとマサは、お互いに顔を見合わせて、首を横に振った。そして、マサは改めて切り出す。
「それで、それがどうかしたの? まさか陛下の口から、何かよい恋バナでも聞けたの?」
「いいえ、それは残念ながら。……ですが、先日シュナイダー補佐官から気になることを聞きまして……」
「気になること?」
マサの言葉に、テレサは頷いた。
「はい。……実は、陛下とお会いする際に、少々気まずいという意味合いのことをおっしゃっておりました……。ですので、お二人のお付き合いはあまり上手くいっていないのではと、心配になったのです」
テレサは彼女なりに、精一杯ぼかして打ち明けた。
呟いてしまった手前引っ込みがつかなくなったが、ルーシーとの会話を勝手に彼女らに漏らしてしまったことに、テレサは罪悪感を抱いていたのだ。
だが、二人は意外にも特に動じていなかった。むしろ納得した様子だ。
「ああ、それはしょうがないよ。何しろ、陛下は自分の素性を隠して彼女と付き合ってるんだから。シュナイダー補佐官は、純粋に男子大学生と付き合ってるって思ってるはずだよ」
「そうそう。なんでそんなまどろっこしいことになってるんだろうって、王室の中では結構有名な話よ。審議会だとか内閣だとかは、彼女を陛下の結婚相手として適格人物だと認定してるから、いつでも婚約できるし、むしろして欲しいそうなんだけどね。……まあ、彼女が魔物の討伐から抜けたら大事に繋がりかねないから、たとえ結婚してもしばらく子供は控えて欲しいって話だけど」
「それ私も知ってる! 王妃となる可能性がある人だから、大抵付き合い始めた際に国がその相手を審議するんだよね。シュナイダー補佐官は、国への貢献度からすぐに認可が降りたんだって。……世継ぎの問題もあるけど、それは現行で武器開発も進んでいるからどうにかするのと、それとは別に王妃になってもしばらくは討伐をして欲しいって具体的なところまで、話し合いは進んでいるらしいよ」
テレサは、動きを止めた。
「……そう、なのですか?」
「あれ、テレサは知らなかったんだ?」
ユカの問いかけに、テレサは素直に頷いた。
「意外。テレサなら真っ先に食いつきそうな話題のに」
「……そう、ですね」
テレサは、歯切れ悪く返事をした。
そしてレオンはどうして素性を隠しているのか思考を巡らせると、ある考えに至った。
「やはり、本来の姿だと恐縮されてしまうからでしょうか」
「そうじゃない? 少なくとも、私たちはそう思ってたけど」
「……そうなんですね」
テレサは思わず、今朝見た夢を思い出していた。
──ロングの黒髪の少女は、あの頃レオンが扮装魔法で扮装していた少年と親しくしていた。
変わらずにニーナがここにいたら、きっと今頃彼女が彼の隣にいたことだろう。
そう思うと非常にはがゆかったが、それでもきっとニーナだったら、レオンの幸せを願うはずだと思った。
「……私、やってみようと思います」
「何を?」
テレサが突然立ち上がったので、向いに座るユカは思わず顔を上げた。
「……恋のサポート役です」
そう言って顔を輝かせる彼女を見て、二人は思わず首を横に振った。
「いや、そっとしておいた方がいいわよ、流石に」
「そうそう。余計なことをしてこじれたりしたら、目も当てられないよ……」
「……ですが、ささやかながらでも、何かのお役に立ちたいのです。……というのも、シュナイダー補佐官は即位から約六年間、縁談のお話も全てお断りされて誰ともお付き合いをされなかった陛下が、姿を変え身分も隠してまでお付き合いをされている方ですので、きっと陛下にとってとても大切な方なのでしょう。……そう、ラブコメ好きとしては、上手くいって欲しいのです」
テレサは、言い切った後に爽やかな笑顔を見せた。二人は思わず息を呑み、お互いに顔を見合わせる。
「うーん、じゃあ、案を出してくれたら私たちがまず目を通して審査するわね。場合によっては、私たちも協力するから」
「ええ、そんな勝手に面倒臭さそうなことに巻き込まないで欲しい……」
テレサの言葉にユカは嫌そうに答えるが、そんな二人に対してテレサは、微笑ましく思いながら自然と口元を緩めた。
お読みいただき、ありがとうございました。
今回から新章となり、恋愛面の進展がある予定です。
お付き合いいただけたら、とても嬉しいです。
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