第14話 討伐中に現れたのは
ご覧いただき、ありがとうございます。
お読みづらいかもしれませんが、魔物討伐回です。
こういう感じなんだな、と広い心で読んでいただけたら、非常にありがたいです。
魔物討伐隊が王都から南西部に位置する森林に到着したのは、受信機のブザーが鳴り響いてから十分程後だった。
ルーシーを含めた魔法士たちは、本日は総勢二十名で計二隊で編成されている。
その二十名は、全員が高位魔法である飛翔魔法が使用出来るので、作戦司令室で出現した魔物の種類と数を確認するとすぐさま司令室の専用口から全員魔法を使用し、一斉に出発したのだった。
ちなみにルーシーは、補佐官兼・総隊長でもあった。
「総隊長、あのポイントです!」
前衛で飛翔する、探索魔法が得意な三十代の男性ミトスが、一度止まってルーシーの方に向かって言った。
ルーシーは頷くとすぐさま右手をかざし、『ポイント・ズーム』と唱えると、光をまとった目前に映し出された映像を真剣な面持ちで確認をした。
ちなみに、この世界では基本的に短文でも詠唱をしなければ魔法を発動することは出来ないが、ルーシーは「無詠唱」でそれを発動することが出来る世界で唯一の魔法士だった。
「確かに、あちらですね。事前の探索では土魔トカゲが六体とのことですが、皆さん予想数を討伐しても念のため気を抜かないでください」
土魔トカゲは、魔物が出現し始めたこの三年の間で頻繁に出現する中レベル程の、土属性の魔物だった。
一体程度だったら中級の魔法士が数名いれば問題なく討伐出来るのだが、今回のように六体が同時に現れると、途端に厄介な存在となる。
というのも、一体の相手をしている隙にもう何体が背後や足元から隊員の身体に這い上がって来て噛み付かれたり、魔法を使用されて攻撃されることがあるからだ。
過去に何度もそれで魔法士たちは怪我をし、中には重傷を負った者もいた。
噛みつかれると酷い激痛が走り、噛みちぎられるわけでないが、痛みのレベルのみで判断すれば同程度のものだった。
その傷の深さも相当深く、中レベルの治癒魔法では中々対応が出来ないが、今この場にいる者でルーシーを含めて、中級以上の治癒魔法を唱えられる者は三人しかいなかった。
そのため、一時も気は抜けない。抜いたら、命を落とすかもしれないからだ。
そう言う事情もありルーシーは普段の気の抜けた様子とは一変し、受信機のブザーが鳴ってからは一貫して笑みを消し、常に真剣な面持ちだった。
「……まず、第一隊はあちらのポイントへ移動し着地してください。第二隊は私と一緒にあちらへ移動してください。また先程の打ち合わせ通り土属性の弱点である風属性の魔法が使えない方は、基本的に前衛のサポートに回ってください」
「はい!」
一同が揃って返事をし、すぐさま持ち場につくべく速やかに移動する。
ルーシーは二隊のちょうど中央に位置し、「何でも屋」に徹するために第二隊から少し離れた空中で、探索魔法と拡大魔法を同時に駆使して待機をした。
その傍らには、サポート係の男性オズもいる。
そして全員が持ち場についたことを確認すると、間髪を入れずに左手首の腕時計を操作して、作戦開始の合図を一同に送った。
第一隊には前衛にヘンリー、後衛にはライムがいる。受信機の合図が送られると後衛の魔法士たちが瞬間、サポート系の魔法の詠唱を始めた。
前衛たちも土魔トカゲを発見すると、すぐさま風属性の魔法の詠唱を始める。
『……対象に中庸の風の刃を! ウインドウ・ミドル!』
術者のヘンリーの右手からたちまち強風が巻き起こり、五メートル程離れている土魔トカゲに命中した。
「……やったか?」
ヘンリーは息を呑み、土埃がおさまるのを見守るが、それよりも先に対象の土魔トカゲが素早い動きでこちらに突進して来る。
『……強固な守りを! プロテクト・ミドル!』
後衛たちが次々と詠唱を完成させて防御を固めていくが、先程攻撃を受けた土魔トカゲは勢いを落とさずすかさず前衛の魔法士ヘンリーに襲いかかり噛みつかれる、と周囲の誰もが思った瞬間、
『ウィンドウ・モスト!』
上空からルーシーが咄嗟に魔物に向けて強力な風属性の攻撃魔法を使用し、それは命中したので魔物は絶命し蒼光の粒子となり、空に散っていった。
「総隊長! ありがとうございます!」
ルーシーは、真剣な面持ちのまま頷くと、探索魔法を使用した。
『ポイント・サーチ!』
その魔法によると、やはり魔物はあと五体残っているようだった。
「皆さん、あと五分ほどしたら第二隊と交代してください」
「はい!」
通常、上空戦や余程のことがない限りは、隊は時間やタイミングで分けて交代を行いながら作戦にあたる。
その方が休息が取れるので体力温存にもなるし、飛翔魔法で上空で待機している間は上空から様子を伺えるので、戦闘のイメージを掴みやすいのだ。
「総隊長、お疲れ様です」
側に控えていたサポート係の男性オズが、すかさずドリンクをルーシーに手渡す。
「ありがとう」
ルーシーは、すぐにそれを飲んで魔力の回復を待った。
というのも、隊中でルーシーだけは常に指揮を取り続けなければならないので、オズが常にそばで総合上位回復ドリンクを魔法で精製して供給しなければ、彼女は討伐中に倒れかねないのだ。
それに加えて、ルーシーは詠唱なしで最高位の魔法を連続で複数回も使用するので他の魔法士と比べて魔力の減りが早く、疲労も溜まりやすい。
そのため彼女の側には、常に一人サポート役が控えているのだった。
ちなみに、魔法で精製したそのアイテムは効き目が高いためか長時間保存が出来ないので、どうしても今のような形になってしまうのだ。
◇◇
五分後。第二隊が地上に降りて、代わりに第一隊は上空に戻って魔力回復や敵の観察を行なっていた。
その間、第二隊の前衛が中級攻撃魔法で魔物の動きを封じ、上空からルーシーが高位攻撃魔法でトドメを刺す。
その一連の作業が二十分ほど行われた現在、とうとう土魔トカゲは残り一体となっていた。
ここまで来たらあとは再び交代をして、最後の一体は上空にいる第二隊に任せよう。そう思った時だった。
──いけない!
『プロテクト・モスト!』
ルーシーは自分よりも少し離れた場所で待機をしている、第二隊全体に向けて咄嗟に防御魔法をかけた。
かなり魔力と体力を持っていかれたが、まだ息が少し上がる程度で済んだ。
……だが、自身とオズを守る魔法を発動するのには、それが到達するまで時間が足りなかった。
──ここまでか。
ルーシーはそう思い、強くまぶたを閉じた。
『……対象者に最大限の守りを。プロテクト・モスト!』
途端に、ルーシーとオズの周囲にバリアが張られ、それは強力な火炎から二人を守った。
「……今の声って……」
ルーシーは、ずっと昔に「その声」をどこかで聞いたことがあった気がした。
「遅くなった」
そう言ってルーシーの目の前に現れたのは、レオンであった。




