第13話 突然の通達
ご覧いただき、ありがとうございます。
今回は、ルーシーにとっては、衝撃的な通達がされるお話となっています。
「……陛下が、討伐にご参加なさるんですか?」
そう震えた声で答えて、ルーシーは棒のように立ち尽くした。
「ええ。先程秘書の方から、直接電話で連絡がありました。以前から私どもと検討をしていたのですが、内閣との調整もとれたので是非ご参加なさりたいとのことです。……陛下は、現在の魔物討伐の状態を非常に憂ておいでです。ですから、少しでも状況を把握して分析するためにご参加なさりたいそうです」
そう言って、自身の眼鏡を少し持ち上げて椅子に座り直したのは、魔法士務長官を務めているナオだった。
彼女は四十代後半の女性で、魔法士としてはルーシーと同レベルの最高位である。
ルーシーは気が遠くなりかけたが、何とか持ち直したのだった。
◇◇
時は少しだけ遡り、現在の時刻は十六時を回ったところである。
ちなみに、現在は七月の上旬だ。
「魔物討伐隊」の面々は、魔物討伐のない時は大方他の部署から回ってくる仕事を引き受けて過ごしている。
それは例えば、「未発売の魔法薬の成分の解析」であったり「魔法ライセンス許可願いの検討」等、元々国家魔法士自体の辞職者が多発し部内全体が人手不足なので、仕事ならいくらでもあるのだ。
そうしてルーシーがとある魔法薬の成分を解析していると、突然自分の机に置かれた電話が鳴り響き、応答してすぐに電話を切った。
それは上司のナオからの呼び出しだった。
「ルーシーさん、士務長官からの呼び出しですか?」
すかさず、隣の席のライムが反応した。
「はい。こんな時間になんでしょう?」
魔物さえ出現しなければ定時は十七時なので、勤務時間終了まであと一時間を切っていた。
「もしかしたら、また辞職希望者が出たのかもしれませんよ」
ライムは、少しだけ意地悪気に微笑んで言った。
「そ、それだけは、本当に違って欲しいです……」
ルーシーは青ざめながら、少し席を外す旨を周囲に伝えて席を立った。
◇◇
そうしてナオから通達された内容は、辞職者希望者が出たことではないが、ルーシーを更に青ざめさせるには充分な内容であった。
「……でしたら士務長官。陛下はどう言った形で討伐に参加なさるのでしょうか。軍の方々と一緒に地上から参戦なさるのですか?」
魔物討伐は基本的には国家魔法士が主に魔法を使用して行われているが、マギア王国の各軍隊も、隊員たちが軍車で駆けつけて参戦しているのだ。
だが、現在魔物に致命傷を与えられる武器は無く、世界規模で開発を続けているところだった。
「いえ、魔法士隊の方にご参加なさるそうです。陛下も優秀な魔法士でおられますから。……それも、シュナイダー補佐官が配置されている、中衛を希望されています」
ルーシーは絶句した。と同時に自身とナオの腕時計のブザーが鳴り響く。
「……凄いタイミングね……」
流石にナオは驚いた様子だ。
「陛下は、現在議会にご参加されていますので、今日は参加なさるかは分かりません」
「分かりました」
ルーシーは素早くナオに対して一礼すると、速やかに退室し同建物の一階に設けられた作戦司令室へと向かった。
◇◇
ナオもすぐに電話をかけ、王室の秘書室へ確認を取り息を飲んだのだった。




