第10話 侍従ダニエル
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ルーシーが大きくため息をつくよりも先に、国王の執務室ではより大きなため息をついた人物がいた。
それは国王である、レオンハルトのものだった。
レオンハルト、通称レオンは身長約百八十五センチほどのスラリとした長身で、金髪の鋭い眼光を持つ青年である。
レオンは、仕事中は大抵紺色のスーツを身につけている。
(何故だか、以前よりも悪化している……)
レオンが、執務机に両肘をつき額に両手を押さえていると、再び扉から四回ノックの音が聞こえた。
「陛下、今よろしいでしょうか」
「……ああ、構わない」
一呼吸置いて挨拶とともに入室して来たのは、青色の髪が印象的な男性、侍従のダニエルだった。
ダニエルは、入室すると慣れた足取りでレオンの側まで近寄り彼の様子を眺めた。
「……先ほど、こちらに向かっている途中でシュナイダー補佐官とすれ違いましたが、彼女物凄い形相をしていましたよ」
「……ああ」
ダニエルは思わず苦笑した。
「全く功を奏しませんね……」
「……ああ」
要件を訊ねるレオンにその要件を伝え、一通り説明を終えるとダニエルは、そもそもと話題を戻した。
「彼女に事情を説明して、正体を明かさなければ全く意味がないと思います」
レオンは首を横に振った。
「私は、少しでも彼女の力になれれば、それでよいんだ。……ただ、このままではどのみち彼女を傷つけることに繋がりかねないから、それは私の身を削ってでも避けるつもりだ」
「……陛下、それは、本心ですか?」
「……ああ」
ダニエルは小さく息を吐く。
「私はあらかじめ察して、ある程度の事情は知ってはいますが、だからと言ってずっとこのままというわけにもいかないと思います。……彼女を騙し続けることにもなりますし、そろそろ陛下にもご結婚を考えていただきたいですからね」
レオンが国王に即位して約六年。
彼に対して、そういった類の話題はとうの昔から登っていた。
「もちろんそれはわかっている。ただ、それとは別件で、今はそれどころではない事情もある」
「魔物、ですね」
「ああ」
「……陛下、魔物討伐に関しては、今や世界中で注目されていることではありますが、その責任を主に我が国の国家魔法士らに委ねている現状に対しては、正直に申し上げて評判は芳しくありません」
ダニエルは、改めてレオンに視線をうつす。
「……ですが、だからと言って陛下御身ずから動かれなくとも、よろしいかと存じます。ただでさえ、議会もありますし陛下はお忙しい御身です。私どもは、はっきりと言わせていただくと非常に不安です。……あなたに、ようやく我が国に戻って来ていただけたのにも関わらず、再びあなたを失うようなことがあれば、我が国は、私たちはどうしたらよいのでしょうか」
「……だが、魔物討伐の現場をを今のままにしておくわけにはいかないだろう」
「……はい」
ダニエルは、言い返す言葉も思い浮かばなかったのか、それ以上は追求せず一礼をしてから退室していった。
ただ、彼は常に最悪の事態を予測して動いているので、様々な対策を脳裏に浮かべながら自身の個室スペースへと戻って行ったのだろうと思った。




