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第37話 戦い以外にも、必要なこと

 空中戦が展開されている一方、地上の街では司が鷲尾工場へ向けて走っていた。

 上空で展開されているユニグリフィスと蛙の化け物の空中戦を見ながら、コバキオマルへと急いでいた。


「親父……つぇぇ……」


 全く蛙の化け物を寄せ付けない強さを発揮していた。魔法で相手の攻撃を阻み、空を飛べる機動性を十全に生かし次々と攻撃を叩き込んでいく。


「好都合だな……」


 頷いて、ようやくついた工場の扉を開けた。


「おまたせ! コバキオマルは動かせるか⁉」


 工場の中は整然としていて、従業員たちが冷静にコバキオマルの準備をし、権五郎と火伊奈は司を待っていたようで、腕を組んでコバキオマルの前にたたずんでいた。


「いつでも! あれ唯は?」

「会長はちょっと遅れるって! 自衛隊に今行っている」

「ハァ? じゃあコバキオマルはどうするのよ⁉」

「鷲尾さん」


 工場の隅のパソコンを叩いている鷲尾を見ると、自分が呼ばれると思っていなかったようで「ヘァ⁉」とおかしな声を上げた。


「ぼ、僕が⁉ 無理無理無理無理!」

「会長は今自衛隊のロボットを潰しに行った魔物と戦ってるんだ! 代理には鷲尾さんを使えって言ってたぞ、それにあんただって義骸とかいうのを操縦してたんだろ⁉」

「昔の話だし……それに、僕が操縦できるなら、君たちじゃなくて僕が操縦してると思わないかい?」

「操縦できないわけがあるんですか?」


 鷲尾は深刻そうに眼鏡を上げた。


「腰がね。悪いんだよ。長期間の長い揺れに腰がね、ダメなんだよ」

「火伊奈、連行」

「あいよ」


 しょうもなくはないが街が危ないのに出撃しない理由にはならなかった。

 火伊奈がすぐに鷲尾を立ち上がらせ、コバキオマルへと運んでいく。


「ちょ、ちょっと待って! 本当に駄目なんだって! 一時間もあんなところに乗ってたら立てなくなる立てなくなっちゃうから!」

「ええい、本当に元騎士かあんたは! いいから乗るの!」


 火伊奈に無理やりコバキオマルのサブコックピットにぶち込まれる。


「やるんだね。司さん」


 火伊奈が嬉しそうに司を見る。

 司は何も言わずに頷くと、火伊奈は自分のコックピットへと飛び乗っていった。


「戦うのか? 司」

「……じじい」


 胸の上にあるメインコックピットへと向かおうとすると権五郎が話しかけてきた。


「お前が行かずとも、あの化け物はもうやられそうだぞ?」


 司の出撃を止めようとしている目じゃない。ただ、司が何を持ってコバキオマルに乗ろうとしているのか真意を測ろうとしているような目だ。


「……俺はな、じじい」


 コバキオマルの装甲を手で叩いた。


「これで街を守るとか、ヒーローになりたいとか。そういうことを思ってるわけじゃないんだ」

「じゃあ、なんのためにコバキオマルに乗る? それはそのために作ったロボットだぞ」

「そうじゃなくてもできることはあるさ」

「できること?」

「俺は俺のできることをやるんだよ。じじい、これを作ってくれてありがとうな」

「……フッ」


 権五郎は笑って背を向けると、司はコックピットへと飛び乗った。



「コバキオマル‼ 起動!」



 コバキオマルの起動レバーをひねり、コックピット内のモニターに光が灯っていく。


『出力安定! いつでもいけるわよ』

『腰が……ちょっと待って』

『いつでも行けるわよ!』

「発進‼」


 レバーを倒し、コバキオマルを立ち上がらせる。


『じゃあ、あの化けガエルをさっさと倒して、おじさんから手柄を奪い取っちゃいましょうか!』

『ちょっと待って、戦闘は本当にやめて! 腰が死んじゃう、死んじゃうから』


 火伊奈が意気揚々と蛙の化け物へと向かおうとするが、鷲尾は本気で嫌そうな声で止めようとする。


「よし! 目標、総合御式運動公園!」

『『へ?』』


              ×   ×   ×


 御式学園テニス部部長、大神田姫乃は親と共に避難をしていた。

 暗い夜道、街灯も消えて姫乃の家族だけではない、ほかの人たちもどこへ行けばいいのか、どこへ向かっているのかわからず、遅い足取りで右往左往としていた。


「本当にどこ行けばいいのよ」


 上空で広がる戦闘光景を心配そうに眺める。

 今いる場所は戦闘場所とは距離があるが、あの羽の生えたロボットがこちらに向かって戦闘を広げるとも限らない。

 不安が胸を満たす。

 足元を照らす光があの戦闘による光だけだというのが心細さに拍車をかけている。


「おい、こっちに落ちてくるぞ!」

「え?」


 上を見上げると、蛙の化け物の口から放たれた火球を羽のロボットが弾いていく。

 その一つが姫乃の方向へ向かってきた。


 ダメだ――――誰か助けて――――!


 祈り、目を閉じ蹲った。

 このままただ自分の死を待つだけだと、そう思った。

 爆発の光と轟音がした。

 自分の周囲が燃え盛る光景を想像した。

 あれ、だけど、まだ自分は生きてるぞ?

 目を開いて周囲を見つめた。


「え?」


 足元が見える。隣の人の顔が父さんの、母さんの顔が、見える。


『大丈夫ですか! 地上の人たち!』


 上空に浮いているのは光を放つ巨大ロボット。

 昨日街を真っ先に守りに来てくれたロボットだった。関節の白い金属が光を放ち、後光が差しているように見える。


『俺たち鷲尾工業が誘導します! この光の下に集まってください! 避難所は御式運動公園です!』


 そう言うとロボットは背中のバーニアを吹かせ飛んでいった。

 視界から消えると思い一瞬不安になったが、ロボットはすぐに着地をして、立ち止まり、光を放ち続けている。

 夜の遠目からでも見えるわかる巨大と輝きだった。


「あそこだ、あの下に行けばいいのか!」

「行くぞ!」


 避難中の住民たちがロボットへ向けて早足で向かっていく。


「……ッ!」


 姫乃も遅れないようにロボットの足元へと急いだ。


             ×    ×   ×


 ロボットの足元は御式運動公園だった。


「ここ、か……」


 運動公園も電灯は消えていたが、ロボットが放つ光で公園内は電灯が付いているときのように明るかった。

 避難し、ブルーシートを広げている人たちも安心しているように笑顔を浮かべ、姫乃の家族も余裕ができたのか「町内会の人たちと話してくる」と遠くへ行ってしまった。

 手持無沙汰なので光を放つロボットへと歩いていく。


「あ、部長!」

「え? 火伊奈⁉」


 ロボットの足元にテニス部部員の赤川火伊奈がいた。その後ろには電話をかけてペコペコ謝っているサラリーマン風の男がおり、状況が姫乃には全くわからなかった。


「どうしてここに?」

「ああ、これに乗って来たんですよ」

「これって……」


 火伊奈がロボットを叩く。彼女はパソコンを開いてコードが伸び、コードの先はロボットの足へとつながっている。


「火伊奈、このロボットに乗ってるの⁉」

「まぁ、あんまり人には言わないでくださいね」

「でも、さっき男の人の声が、後ろの人?」


 サラリーマン風の男へ視線を向ける。腰をかがめて脂汗をたらしながら必死に「御式運動公園にいるから早く来てください、お願いします」と電話の向こうの相手に懇願している。


「違う違う、操縦してたのはあっち」


 火伊奈が上を指さすとロボットの肩に人が乗っていた。

 見たことがある少年だ。あれは火伊奈の幼馴染の……。


「池井戸君?」


 そう、池井戸司だ。


「あの子がこれをずっと動かしてたの?」

「そう、コバキオマルっていうんです。このロボット」


 司は足元の人々ではなく、遠く、上空で展開させている二体の戦いに視線を向けていた。


「もしかして戦いにもいかずに、私たちを避難させるためにここにとどまっているの?」

「ええ、あいつ、戦う前にやることがあるって言って」


 そう火伊奈は嬉しそうに語った。


「……ありがとう~‼」

「……ぇ⁉」 


 姫乃に声をかけられ、ようやく気が付いたようにコバキオマルの足元を覗き込む。


「ああ、部長さんでしたか! 避難中ケガとかしませんでしたか⁉」

「大丈夫! あなたのおかげでここに来ることもできたし! 光があって安心したわぁ!」


 司がいる位置が高いのでよくは見えなかったが、彼の顔は笑った気がした。


「ねぇ、部長。でかくてこんなスーパーロボット。みんなに邪魔って言われてたんですけど、結構捨てたもんじゃないでしょ?」


 火伊奈がいとおしそうにコバキオマルを見つめ、


「ウン、目立ってかっこよくて、いいと思う」


 姫乃も優しい手つきでコバキオマルを撫でた。


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