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第25話 謎の第四勢力

「あれが、魔王……」


 魔法陣の上に立っている幼女はどう見てもただの可愛らしい女の子にしか見なかった。ただ、こちらを鋭い目つきでにらみつけてはいるが。



「そう、我こそは大魔王、リムル・フォン・バーン・ドミナス。この世界へ逃げ延びたイノセンティアの元魔王。だが、この世界を支配することなど、わけはない。今日より世界征服を本格的に始動する! 恐れよ! 我らが操る魔物に踏みつぶされたくなければ、この街から逃げ出すがよい! いいな!」



 大魔王リムルが手を上げて世界征服開始宣言をした。


『大魔王……リムル……』

「大魔王様、そんなこと言っていいの? あんな義骸もどきがいるなんて全く想定してなかったじゃない」

「?」


 後ろに控えていた蛇の怪人が魔王のマントの裾をひく。

 様子がおかしいと司は首を傾げた。


「あんなのがいるなんて聞いてないよ。しかも四機もいる。一機は体が無駄に体がでかいし、やめてもいいんじゃない?」

「何が秘密裏ですよ。バレバレで対策うたれまくりじゃねぇですかい。どうすんです、これ?」


 ほかの部下らしき怪人たちも不満を口々に声に出している。


「なんか、調子狂うな」


 もっと非情で徹底的に人類と敵対するような連中を思い浮かべていただけに、肩透かしを食らってしまう。


「ええい、うるさいわ。(たわ)けども‼ 今から奴らを刈り取れば問題ないじゃろう!」

『刈り取る? 何をする気だ?』


 唯が警戒した声を上げる。

 リムルが手を空にかざすと手から黒い影が伸び、鎌を形作る。


「闇の、鎌……?」


 何をする気だと、司が目を顰める。

 どうでもいいことだが、同じように両腕に鎌を持ったMT3が対抗心に火が付いたのか、体を小刻みに揺らし両腕を上げていた。



「E・フォールリッパー‼」



 リムルが技名を叫ぶと、闇の鎌が瞬時に巨大化する。


「な……!」


 空を鎌の刃が覆った。ただそれだけで覆いつくされた。

 鎌はすさまじく巨大になっていた。コバキオマルなど非ではなく、街を刃で一刀両断できるほどの大きさになっていた。


「おさらばといこう! 地上の巨人た……ち……」


 振り下ろそうとしたリムルの手が、なにかを見て急に止まった。


「………?」


 リムルが見ている先を司も目で負った。


「な、まだいるのか……」


 夜の闇に浮かぶ二つの巨人の影があった。


『天、使……?』


 右腕にブレードを持つマルチトルーパーから呟きが漏れた。

 白い(むし)外殻(がいかく)のような鎧を身にまとい、背中には翼が生え、宙に浮いていた。

 白い巨人の後ろにももう一体の影が見えるが暗く、距離があって姿がよくわからない。

 蟲の鎧を身にまとった巨人は手を掲げている。その先には魔法陣が展開され、魔法陣はリムルへと向けられていた。


「貴様、来ていたのか‼ ブラッド・レイゼンビィィィィ‼」


 リムルが激高する。

蟲の鎧の巨人はリムルに反応しようとはせず、無反応で魔法陣を展開した手を掲げ続ける。


「ならばどうして、どうして……クッ、やる気が失せたわ」


 リムルは巨大化させた闇の鎌を消滅させると、背を向け、あっけなく姿を消した。


「魔王が逃げた……」


 絶体絶命だと思っていたところに思わぬ乱入者が現れ、窮地を脱した。

 だが、あの羽のついた巨人は味方なのだろうか。


『あれは、偽骸(ぎがい)……』


 茫然とつぶやいたのは右腕にブレードを身に着けるマルチトルーパーからだった。

 司の視線の先でゆっくりと羽のついた二体の巨人は降下していく。

 地上に降り立った羽の巨人の大きさはコバキオマルよりは小さく、マルチトルーパーよりは大きかった。


「…………」


 白い巨人の目がコバキオマルに向けられる。


「な、なんだ―――?」


 その瞬間、司はなぜか懐かしさのようなものを感じた。久しぶりの故郷に帰ってきたような感覚が増大されて襲い掛かったようなそんな気分になった。

 白い巨人の後方で控えている巨人の姿も地上に降り立って全貌がわかった。同じような蟲の外殻のような鎧を身に着けていたが、赤い方は全身に剣山のような棘が生え、外殻の各部もバラの花弁のように曲線を描いていた。


「こいつらが、偽骸(ぎがい)……」


 鷲尾の話に出たイノセンティアの人型兵器、偽骸(ぎがい)。存在を疑っていたわけではなかったが、いざ目の前に来ると夢を見ているかのような感覚に陥る。

 鷲尾は本当にこの世界の人間じゃなかったのだ。


『司、様子がおかしいぞ』

「え? 偽骸(ぎがい)は何も動いてませんけど……」


 白と赤の二体の偽骸(ぎがい)はこちらを観察するようにじっと見つめ、停止している。動く気配は全くなく、逆にこちらが下手に動けばすぐにでも切りかかってきそうな雰囲気を放っている。


偽骸(ぎがい)ではない。あちらの自衛隊の方々だ』


 振り返るとマルチトルーパーたちは二体の義骸に対し身をかがめ戦闘態勢をとっていた。

 慌ててスピーカーをオンにする。


「おい、(はかり)! 何やってる⁉ この偽骸(ぎがい)の中の人たちは魔王から俺たちを助けてくれただろう!」

偽骸(ぎがい)がすべて我々の味方だと断定はできない。魔王とは敵対していても人類に害するものの可能性はこちらは想定しなければならないの』


 MT1が返答しながら腕のブレードを一枚前に突き出した。


「………」


 白い偽骸(ぎがい)の翼が広げられた。


『来るか……』

「………ッ!」


 白い偽骸(ぎがい)は羽を広げ、夜の空へと消えていった。

 マルチトルーパーたちが警戒する中、白い偽骸(ぎがい)は飛び立ち、夜の空へと消えていった。


「白い方が……」

『だが、赤い方がまだ残っている』


 姿を見せてから何もせずに沈黙を保ち続けている赤い偽骸(ぎがい)は相方がいなくなったというのにまだそこに残っていた。


 ———私たちは貴方たちに敵対の意思は現在はありません。だから警戒を解いてください。


 赤い義骸から透き通るような女性の声が響いた。

 電子的に音量が増大されたような音質ではなく、すぐ目の前にいる女性が話しているようなクリアな声だった。恐らく相手は相当の厚さのある装甲にも阻まれた中から距離のあるこちらに向けて声を出したというのに、声は澄んでいて、司は奇妙な感覚に襲われた。

 これが魔法というものなのか。


『敵対の意思がないという言葉、信じてもボクは構いません。ですが立場上、素性もわからず、強大な力を持つ兵器を操る相手に対して警戒を解くわけにはいかないんですよ』


 ———そうですか。


 MT1からの返答に想定内と言いたげな口調で答えた。


 ―――こちらはイノセンティアから来た、神聖エンディア王立軍魔王討伐大隊所属第百八デルタウッド分隊。


「デルタウッド分隊って……」


 確か鷲尾が昔いた分隊の名前だったように憶えている。

 つまりはあの偽骸(ぎがい)の操縦者は鷲尾の仲間ということか?


「魔王討伐は我々が女王陛下から承った任務だ。魔王に関しては我々に一任してもらいたい」

『な、ふざけるんじゃねぇぞ!』


 二対のキャノン砲を背負ったマルチトルーパーから少年の抗議の声が上がる。


 ―――君たちの力は見せてもらった。だが、魔の力に対応するには同じく魔の力を操るこのパルソーサーとユニグリフィスが最も効果的だろう。この世界の偽骸(ぎがい)に乗る者たちよ。我々は魔王討伐の任務を完遂する。それを邪魔するというのなら、我々は君たちに刃を向けることもやむないだろう。


 赤い偽骸(ぎがい)が翼を広げた。

 一方的に告げ、赤い偽骸(ぎがい)、パルソーサーが飛び立ち、白い偽骸(ぎがい)を追って夜の闇に消えていった。


「………」

『………』


 残され、MT1と向き合うコバキオマル。


『事情が変わりました。後日あなた方の元には担当の者が伺います、今日のところはあなた方の基地に帰ってください。二度とそのロボットは運用しないこと、次に出撃したら刑罰が重くなりますから、覚悟しておいてください』


 マルチトルーパーたちがコバキオマルに背を向ける。


『あ、そうそう。必要だったかどうかは置いておいて、あなたが助けに入ったことには感謝をしておきます。ありがとうございました』

「え、あ……」


 お礼を言われ、あっけにとられているうちに、マルチトルーパー三機は走り出しその場からいなくなった。

 コバキオマルが残される。足元の街並みはなぎ倒され、あちらこちらで上がっていた炎も勢いをなくし、徐々に鎮火に向かって言っている。

 司は鷲尾工業へ向けて通信回線を開いた。


「じじい、聞いてたか?」

『何じゃ、藪から棒に』

「俺たち、いらなかったじゃん」

『…………』


 権五郎は沈黙した。

 魔物を倒したのは結果的にコバキオマル、司たちだった。だが、それができる戦力は続々と現れ、それらには魔物と戦う正当性があった。

 恐怖の大魔王は2017年七月四日再び降臨した。が、それを討つための巨人も同時に立ち上がった。それも三つも。


 一つは日本国自衛隊が魔王の存在を(ひそ)かに(あや)ぶみ制作した人型兵器———マルチトルーパー。


 一つは別世界から来た魔王を追い詰めた魔導兵器———義骸。


 一つは赤川権五郎が魔王が現れると信じて勝手に作った超大型重機———コバキオマル。


 力を蓄え、いざその時と進行を開始した大魔王と若干戦力過多の人類の戦いの物語の幕が、開いた。


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