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第17話 尾行

 放課後になり、生徒会長室に呼び出される司。


「会長、来ましたよ」

「うむ、来たか」


 唯は窓の外を双眼鏡で見ていた。

 双眼鏡の先は職員室前の廊下。現在は誰も通っていないが、そこをずっと見ていれば教師の動向はある程度は察することができる。

 唯の提案で、アールを尾行することになった。司としては半信半疑なだが、唯は直感的にアールが疑わしいと感じているようだ。

 唯は双眼鏡を目から外し、司に渡す。


「まだ彼女は職員室から出てきていない。君の方はどうだ?」


 司は双眼鏡をのぞき、職員室前廊下の監視を引き継いで行う。


「別に、アール先生の授業を受けた生徒に聞き込みをしましたけど、特に変わったことはなかったそうです。変わったことと言えば、一年生の転校生が授業に来なかったそうです」

「一年生にも転校生が? 今日だけで三人も転校生が来たということか。それも別の学年に……だが、一年の転校生というのは学校に来なかったのだろう?」

「いいえ、学校には来てはいたそうなんです」

「何か身体的な事情や精神的事情で保健室学習でもしていたのか?」

「いえ、校舎裏の木の上で見知らぬ男子生徒が寝ていたと。恐らくその男子生徒が転校生なのではないかと」

「随分マイペースな男のようだな」

「来ました。アール先生です」

「む?」


 職員室からアールが一人で出てくる。


「では、ディモス教諭尾行作戦を開始する」


 楽しそうに唯が笑った。


             ×   ×   ×


 見失わないように急いで職員玄関へ行った司と唯だったが、そこにアールはいなかった。


「あれ? もう出ていったんですかね?」

「いや、あそこだ」


 唯が声を潜め壁際に隠れるように促す。

 職員玄関から少し離れた用務員室の前にアールは立っていた。

 笑顔を見せ、どうやら中の人物と談笑しているようだ。


「用務員のおじさんと知り合いなんですかね?」

「おじさんではない。報告があった。用務員がかわって、二十一歳の若い女性に変わっている」

「え? あのいじめられてたおじさんやめちゃったんですか?」


 唯の言葉通り、用務員室の中から若い黒髪のショートボブの女性が出てきた。

「名前は白鳥時子(しらとりときこ)。短大を卒業したばかりの新社会人らしいのだが、まさかディモス教諭の知り合いだったとは」

「なんか友達っぽいですよ」


 用務員室から出た二人は笑いあってこちらへと向かってくる。


「まずいな、隠れろ!」

「ムグッ!」


 唯に手を引かれて近くの靴箱と壁の隙間に押し込められる。


「……ユ、ユイ姉ぇ……その……」

「静かにしてろ! こっちに来る」


 無理に押し込められ、司が下で唯が上に覆いかぶさって頭を抱きしめている姿勢になっているため……胸が非常に顔に押し付けられる。

 顔に血が上り、心臓が高鳴ってどうにかなってしまいそうだった。


「あはは、それは大変だったわね……」

「全く、楽そうな仕事と思ったけど、これはこれで大変でしたよ……」


 アールと時子が談笑しながら外へと出ていった。


「よし、気づかれなかった。行くぞ」

「………」

「どうした? 顔を赤くして?」


 唯が体を離すが、司は出そうな鼻血を抑えるのに必死でしばらく動けなかった。


             ×   ×   ×


 学校の外に出てもしばらく司と唯はアールと時子の追跡をしていたが、特に変わったところはなかった。

 二人とも家が近いのか徒歩で通勤しているようで歩いて帰り、途中スーパーによって買い物をしたり、コンビニによって何かの支払いを済ませたりしていた。


「普通ですね」

「普通のOLの帰宅風景のようだな。だが見ろ」


 唯は時子の持った買い物袋を指さす。


「二人で買いに行き、出た時に持ったビニール袋は一つ。そしてキャベツ一玉に肉も三、四人ようのパックを買うなど中身は一人分ではない。それを一つの袋に入れて片方の人に持たせている。これが意味するところは?」

「……一緒に住んでるんですかね」


 薄々そんな気はしていた。同じ職場で帰りの時間を合わせて二人とも全く同じ方向に帰っているというのはほとんどそうとしか考えられないだろう。


「そうだ、彼女たちは同棲している」

「普通にシェアハウスでいいんじゃないですかね」

「魔王だ何だと疑っていたが、それよりも私は彼女たちが百合(ゆり)百合(ゆり)んなのかどうなのか気になってきたぞ司。君もそうだろ?」


 興味はなかったが話を振られると、頭の中にアールと時子の百合ん百合んな映像が浮かんでしまう。

 全裸のアールが時子の衣服を花弁をもぐように丁寧に脱がし、手をどんどん彼女の下へと……。


「……って、違いますよ! 何言ってんですか!」

「顔を赤くして何を否定しとるんだ君は……だが、本当に魔王とは関係ないかもしれないな」

「やっぱりですか?」

「普通すぎるのもあるが、見てみろ、どうやら彼女たちの家に着いたようだ」


 唯が顎でアールたちが入っていくアパートをさす。

 二階建ての木造のアパートだった。築四十年は経過してそうで古く、ツタがはびこった、貧乏学生が主に住んでいそうなアパートだった。


「え……あんなとこ住んでんですか?」

「ここは家賃がこの街で最も安い。教師という安定の職に就いているが、ディモス教諭はいろいろと大変な事情を抱えているようだな」

「なんで会長そんな情報知ってるんですか?」

「一人暮らしをするときに一応調べておいてな。さすがに安全面や衛生面からここは外し……こんなところに家なんてあったか?」


 自分たちが隠れている普通の一軒家を突然不思議そうに唯が見つめる。

 白塗りでパール色ともいえる純白の綺麗な家。ついでに隣には真紅のバラのような真っ赤な家が並んで立っていた。

 両方、新築のようにきれいな家だった。


「いつ下見に来たんです? 一月もあれば家ぐらいたってもおかしくないんじゃないですか?」

「……とりあえず、やはりディモス教諭が魔王というのは考えすぎだったようだ。怪しそぶりは全くなかったし、なにより彼女がこちらに気が付く様子もなかった。ただの普通の英語教師だったらしい」


 若干腑に落ちていないような表情で、踵を返す唯。


「だから、言ったじゃないですか~」


 とは言いつつも唯と共にしばらく行動を共にできて司は嬉しく、顔がほころんでしまっていた。

 アールは何も関係がない。そう断定して、二人は家路へ着こうとしたその時だった。


 ―――大地が、揺れた。


「な⁉」

「え⁉」


 ドォンという音と共に地響きが響き、遠くの方で火の手が上がった。


「あれは……」

「え……嘘だろ……本当に……」


 夕日が沈む黄昏時、街に突然巨大な影が現れた。

 それは、戦いの始まりだと嫌でも司は感じさせられた。



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