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清掃員、煽って煽られて

遅くなってごめんね。



 その後、なんやかんやでシウェその他諸々に連れられて継承の間と呼ばれる大部屋にやって来た俺達。

 そこは一見全面ガラス張りで内側が青色に淡く光った幻想的な空間だったが、それはあくまでも一見だ。

 目を凝らせばガラス張りの向こう側には不規則な動きをしたり、何かに引っ張られる様に飛んで行っては定位置に戻ってくるを繰り返したりをしている無数の青い人影がいる。

 壁にも、床にも、天井にも、外観が石造りだったところを見るに内装をガラス張りにして壁との間にちょっとした空間を設けてあって、そこに人影はいるんだろうと伺える。

 正直言って、不気味だ。



「ここが継承の間です。そして、あちらにいるのがわたくしの父上であり、このラクマフルーリ王国の国王陛下―――」



 幻想的かと思いきや大分と不気味さMAXの継承の間の最奥。

 そこにはあからさまに王様感漂う金の王冠を頭に乗せ、赤いマントをはためかせた筋骨隆々な大男が仁王立ちで立っていた。…玉座の上で。



「ってちょ、ちょっとお父様!?そんなはしたないですっ!」


「良い!!一国の主であるこの我が普通では民やこの者らに示しがつかぬからな!!!!」



 なんと言うお声のデカさか。空気がピリピリと震えているのが分かる。

 シウェは少しおかしな父親が恥ずかしいのか、耳まで赤くして俺達に何度も何度もも頭を下げた。

 いいよ、謝らなくても。そろそろ堅苦しいのにはしんどくなってたから。



「諸君!!まずは異世界からわざわざ来ていただいた事、誠に感謝ぞ!!」



 俺達と王様との距離は目測で20メートルはある。流石に勝手に呼ばれたとは言え、王様相手に遠くから話を聞くのも気が引ける。

 その気持ちは皆同じなのか、自然と足を揃えて王様の前まで移動を始めようとした。

 しかし、それを許さぬ者がいた。



「ならぬ!!!!」



 王様本人だった。ただプライドが高くて近付かれるのが嫌なのか、それともこの距離で話す事に何かの意味があるのか。

 それはここにいる召喚された者達には知る由もないが、とにかくその一言で、もしくは声のトーンにビックリして皆は歩みを止めた。

 俺の予想では声が大き過ぎてこれ以上近付いたら鼓膜がぶち抜かれるからだと思う。割と本気で今のならぬ!で鼓膜逝きかけたし。



「その場で耳を傾けてほしい!改めて、我の名はエンクラード・ウルフェア・ラクマフルーリ!!この国を治めさせてもらっている299代目国王である!!既に話はそこの我が娘より聞き及んでいるとは思うが、現在この国は魔王による暗黒破壊王君臨の危機に晒されておる!!そこで、そなたらには暗黒破壊王君臨の阻止と、魔王の討伐をお願いしたいのだ!!」


「勿論、そのつもりでここまで案内していただ」


「しぃかし!!!!今のそなたらはこの世界に馴染めていない事もあり、魔力を解放し出来ていない状態にある!!魔力がない、即ちそれは何の力も持たないのと同義ィ!!!!」



 どうやらこっちの話を聞く気は毛頭ないらしい。

 イケメン勇者君が涙目だよ。



「よって!!これより解放の儀を行い!そなたらには魔力を自在に扱える様になってもらいたいのだ!!」


「解放の儀…?」



 誰かが皆の疑問を代弁するのと同時だった。俺達とエンクラード王の間、その空間へ向けて四方八方から青い光が集い始めたのは。

 床、壁、天井から飛び出た無数の青く小さな光達はやがて大きな光となってその姿を露にする。



「な、なんだアイツ…」


『我、解放者ナリ。コレヨリ、解放ノ儀ヲ執り行ウ』



 察しの良い奴なら薄々勘付いているだろうが、こいつは恐らく今までこのガラス張りの向こう側で発光し、蠢いていた青い人影の集合体だ。

 青い光だと思っていたのは人影で、解放の儀をする為だけに存在しているから解放者、と言ったところか。

 自分で言うのもなんだが、俺は賢いから理解出来る。青い人影達はこの国の歴代王様に違いない。



「さあ、異世界人よ!!この解放者に己の力を示すのだ!!解放の儀は何日掛かっても構わぬ!全員が魔力の解放に成功するまで、死に物狂いで闘えぃ!!」


『解放ノ儀ハ一対一ノ真剣勝負ダ。命ハ取ラナイ。安心シテ、シカシ決死ノ覚悟デ挑ンデ来ルノダ』



 要は解放者と1人ずつ戦って、魔力を使える様にしろって話だ。

 しかし、解放者。こう見えて多分4メートルくらいはありそうだし、腕は4本、逞しいまでの筋肉、加えて全身鎧装備と勝てる要素が皆無と言ってもいいくらいの化け物だ。

 そもそも全身青くて透けてるから物理判定があるのかすら怪しいところ。こんな化け物に誰が立ち向かうのか―――そう思っていたところに、1人勇敢な男がいた。

 そう、俺…ではなく!イケメン勇者その人だ!



「…僕が最初に戦うよ。戦って、勝って…皆でも戦えるんだよって事を、証明する!!」



 い、イケメンだぁ…。



『ソノ意思二敬意ヲ表シテ―――我モ相応ノ試練ヲ与エヨウ』



 難易度上がっちゃったぁ…。

 イケメン勇者君が前に出て、解放者と対峙する形になる。

 お互い見つめ合って、一時も目を離さない。まるで恋人の様に。



『汝、名ハ?』


壱祓(いばら) 結十(ゆうと)


『良イ名ダ――――デハ、行クゾ』


「来い…!」



 解放の儀と言う名の実践で力をモノにする試練が始まる。

 最初に動いたのはやはり解放者だ。巨躯を嘘みたいに素早く走らせ、結十へ迫る。



「はやっ…!?」



 容赦なく振り抜かれる解放者の拳。当たれば即死級。砂塵が巻き上がり、躱したのかそれとも潰れてしまったのか、状況が掴めなくなる。

 誰もがやられたと思ってしまう程の静寂の中、砂塵を飛び出したのは結十だった。



「――――ぅおおおおおおおおおおっ!!!!」


『グ、ヌゥッ!?』



 砂塵が晴れ、解放者の拳によって砕けたコンクリートが露になる。

 結十は紙一重か、それとも余裕を持ってかして拳を避け、なんと解放者の腕の上を駆けて解放者への接近を果たし、頭に渾身の飛び蹴りを入れる事で奇しくも初手を取ったのである。



「初撃は、もらったぞ…!」


『喜ぶにはまだ早いぞ』


「ッ!?」



 急に流暢に話し出す解放者の手に再び青い光が集い、剣となる。

 そして、間髪入れずにその剣は振るわれた。

 このままでは結十が死んでしまう。でも助けに入れば解放の儀の邪魔になってしまう。

 単に目の前の光景に足が竦んで動けないと言うのもあったかもしれないが、意外にもこの世界の理を受け入れてしまっている自分達に驚きつつも、ただその始終を見ている事しか出来なかった。

 しかし、そんな不安は結十自身の手によって拭われる事になる。



「勝つ…勝つんだ、僕は…!!知らない場所で、死ぬかもしれないこの現実で、不安で溜まらないだろう皆の為に…!!勝ってこんな僕達でも生きていけるんだって希望を届ける!!」



 鋭く高い音がキィィィンと劈き、思わず耳を塞ぐ。音の発生源は結十と解放者から。

 何が起こったのか、それは結十達を見れば一目瞭然だった。



『……ほう、魔力だけでなく、それ(・・)も会得したか』


「――――《魔剣脚(まけんきゃく)》…!!」



 目に見えるオーラの様なものを纏い、片脚で解放者の剣撃を受け止めている結十の姿。

 この目に見える全てが、その答えだった。



『不完全燃焼ではあるが……イバラ・ユウトよ、合格だ』


「す、すげぇ…すっげぇよ結十!!」



 今まで息を吞んで見守る事しか出来なかった1年5組の生徒の中から、金髪の浅黒い肌のチャラ男がすげえすげえと躍り出て目を輝かせる。



「こ、今度は俺の番!!俺の番でいいよな!?」


『無論。話が早いに越した事はない』


「やったぜ!!俺もすげえカッコイイ力身に着けてやるぜ!!」



 馬鹿みたいにはしゃぐ金髪をそっちのけに俺達の元へ戻って来た結十へシウェが声を掛ける。



「ユウト様。解放の儀を終え、更には《魔能(チート)》を会得されたアナタにはこれからより《魔能》の力を高める為に、要となる《職業(ジョブ)》を選定するべく聖堂に向かっていただきます」


「ち、チート…うん、分かったよ」



 聞き慣れた言葉に困惑しつつも、結十はローブの男に連れられてそのまま継承の間を退室してしまう。

 解放者と対峙して「見てろよ結十ーーーー!!」と叫ぶ金髪を完全スルーして…。



『では始めるぞ』


「おうおう!!俺の名は吉田(よしだ) 正隆(まさたか)だ!!テメエをぶっ倒す男の名だぜぇ!?しっかり覚えとき――――ブヘァッ!!?」



 吉田、撃沈。

 流石のクラスメイトも苦笑いしつつ、ただただ見事な敬礼を見せてくれた。



「よ、弱ぇ…」


「アァン!?誰だ今俺の事弱いつった奴ァ!?」



 ボソリと零してしまった独り言が、たった今顔面陥没レベルで殴られてダウンしたばかりの金髪を呼び起こす。

 幸い誰が言ったかはバレてないみたいだから黙っておこうと思っていたら、薄情な事に1年5組勢揃って俺の事を指差しやがる。

 絡まれるのが面倒だってのは分かるけど同じ召喚されたよしみだよ?もう少し苦悩の末に俺を差し出すとかそう言う迷いはない訳?速攻で指差されて俺は哀しいぜ。



「ぴゅーぴゅっぴゅうーっ!」


「口笛初めてかテメエ!?」


「吹けねえんだよ」



 詰め寄る金髪と詰め寄られる俺。

 この2人がやがて世界の命運を左右していく事になるとは誰も思ってなかったしそんな事もなかった。

 胸倉を掴まれた俺は面倒臭そうに顔を反らす。



「それはともかくテメエ今俺の事弱いつったよなぁ!?」


「言ってない」


「あっ…人違いか、すまん…」


「あっ!馬鹿だこいつ!」


「アァん!?!?」



 クソ!上手く回避出来たと思ったのに!

 余計な一言が金髪の青筋を増やす増やす。青筋浮かべ過ぎて顔が真っ赤になるどころか真っ青だ。



「テメエそんなに俺の事弱ぇっつーんならよぉ!!勝てんのかよ、アイツによぉ!?」


「オフコース!」


「お、おふ…?」


「勿論だって言ってんだよ」


「難しい言葉使ってんじゃねえよオラァ!!」


「めんどくせえ奴だなお前…わぁーったよ。そんなに俺の雄姿が見てえんなら勝手に見やがれ。綺麗に片付けてやるぜ」



 つなぎ服から袖を抜き、インナーと言う名の黒いタンクトップを解き放つ。

 これである意味解放の儀は終わった。



「ずっといるけどあんな人ウチにいた?」


「さあ?清掃員っぽくない?」


「本当に誰だよ…一夜(かずや)の知り合い?」


「流石にあんなのはいねーよ…」



 皆の視線を浴びながら解放者の前に立つ。

 つなぎ服の袖を腰で括りながら、深呼吸をする。

 そして、大口を叩いた事を後悔した。



(勝てるわきゃねえだろーーーー!?)



 改めて解放者を見るとデカいデカい。

 見上げるサイズの生き物は動物園のキリンとかが限界だが、そんなものとは比較にならない存在感を感じる。

 全身で物語っているのだ。「俺、強い」と。

 少し震えが止まらない。だから俺は一度後退し、すぐ近くにいた女の子へ声を掛けた。



「な、なあ…変わってくんない?」


「何…言ってるんですか……?」


「駄目?」


「駄目って言うか、嫌です……って、アナタは助けてくれなかった人!」



 俺が声を掛けた女の子。黒髪セミロング絶望美少女の称号を持った彼女は、正しくさっきまで廊下にいた俺へ助けを求めていた女子生徒だった。



「な、なんですかその顔…?代わりませんからね…?」


「女の子に無理強いは出来ないからなー…あ、そうだ。じゃあ別に頼み事いいか?」


「頼み…?」


「君、名前は?」


渡波(わたなみ) 渚泣(しょな)です、けど…?」


「渚泣ちゃんね、オーケー。早速だけどさ、俺の頬ぶっ叩いてくれね?」


「ええーっ!?」



 仰々しく驚く渚泣。

 それもそうか。突然ぶっ叩けとか正気の沙汰じゃない。

 それでも俺は叩いてほしかった。ドMとかじゃなくて、ただ純粋に喝を入れてほしい。

 解放者のあまりもの威圧感にあれ以上は足が竦んで前に進めないから。精神面で負けているから、誰かに背中を押してほしい。

 そう言う意味の頼みだ。



「頼む!一生のお願い!!」


「…分かり、ました。では、行きますよ…?」



 少し間を空けて、覚悟が決まったのか、渚泣は握り拳を固め、振り被る。

 …ん?握り拳?



「えいっ!」


「んぐっ!?」



 頬から顔面全体へと伝わる衝撃と痛み。思わずよろけてしまう程の上等なパンチが俺の頭を揺らす。

 まさかのまさか。俺は殴られたのである。



「いっ~~~~~てぇぇ!!?」


「あ、ああああっ!ごめんなさいっ!つい、つい力んでしまってグーでやっちゃいましたっ…!」


「そんな事ある!?」



 でも、お陰で緊張も解れて気が引き締まった…様な気がする。

 俺は視線を解放者へ向ける。大丈夫だ、さっき程の恐れはない。

 今なら、行ける。



「…でもありがとう、渚泣ちゃん。お陰で十分気合い入ったぜ」


「…勝てるんですか?」


「勝たなきゃ男じゃねえ」


「…っ!が、頑張って下さい!」


「おう、ちょちょいとやってくる」



 歩みを進めて、ついに解放者と対峙に至る。

 緊迫した空気の中、俺はもう一度、深く息を吸って、吐く。



「さあ、準備は整った。やろうぜ解放者。後先の事はもう考えねえ、適当にのしてやるよ」


『…汝、名は?』


「鹿馬 竜兎。これからお前に床の味を教えてやる先生だ」


『どこまでも吠える。ならばシカバ・リュートよ。汝の力、どこまでのものかこの解放の儀を通して見せてみよ』



 軽くストレッチをして体を伸ばす。こう見えても実は運動神経には自信があるんだ。

 先手は俺が貰う。

 別に攻撃が通じなくてもいい。勝てなくてもいい。

 ただ気合いで()して、魔力の解放と《魔能》とやらを会得する。

 それだけだ。



「行くぜ」



 駆ける。

次はもうちょっと早く更新したいね。

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