プロローグ
私はスマホで動画サイトを開きベッドにうつぶせになる。
イヤホンをつけて準備完了。
枕を抱き込むように胸のあたりで固定し、画面を見つめる。
宿題も終わして、お風呂も入って、待機中の文字がじれったい。
今夜は二三時から「虹咲なな」ちゃんの生放送なのだ。
ななちゃんは二年ほど前に彗星のごとく現れたバーチャルアイドル。いわゆるVtuberというやつだ。
私がななちゃんを知ったのは一年半くらい前だけど、彼女の見た目と声に一瞬にして心を奪われた。
当時、大好きな幼なじみと疎遠になっていたり、高校デビューに失敗したりして、ぼっちだった私はななちゃんの魅力にのめり込んでいった。
高二になって、幼なじみや友達といる時間が増えてからも、ななちゃんを推したい気持ちは変わっていない。
『やっほー、聞こえてるかな?』
画面に桃色のツインテールの美少女が映し出される。
「ああああああ! かわいいいい!」
ななちゃんがヒラヒラとミニスカートを揺らしながら首を傾げている。
あざとい! けど、それがいい!
ファンのコメントがすごい勢いで流れていく。
私のコメントなんて自分でも見つけられなかった。
『今日はななの生放送に来てくれてありがとう』
画面の奥の彼女は透き通った甘い声で視聴者に語り掛ける。
かわいいなぁ。
あぁ、推し! 生きる糧! 尊い!
語彙力を失った私は一時間の生放送を堪能したのだった。