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前編

知っている人は知っているシリーズの一つです。

でもシリーズを知らなくても問題ないように書いていますのでご安心ください。

 昔、幼馴染なんて近過ぎて恋愛対象として見れないなんて言っていたやつがいた。


 俺はその時は話に合わせるために否定はしなかったけれど、本当はそんなこと思ってなんかいない。


 俺にとって幼馴染っていうのは気が付けば一緒の時間を共有できる大切な存在だったから。だからあいつが俺以外にいつもの笑顔を向けているとか想像するだけで気が狂いそうになる。




 ——だから俺は俺達の関係を変えることにしたんだ。







 俺の名前は中瀬潤。上向高校の一年生で帰宅部。百七十㎝位の身長にフツメン以上イケメン未満のまぁまぁな顔つき。可もなく不可もなくって感じかな。


 いつものようにそこそこの余裕を持って起きた俺がリビングに入ると声がかけられた。


「潤ー、早く食べないと学校遅れるよ?」


 台所に立ちながらそんなことを言って来るのは幼馴染の宮島絵理沙。

 

 絵理沙は祖母が外国人のクウォーターで生まれつき髪が赤かったり、顔つきが日本人とはちょっと違ったりしている。

 長い髪に青いリボンがトレードマークなハイレベルな美少女だ。


 うちの学年のアイドルの双璧を成す一人だから人気も当然ある。幼馴染だと言うだけでそうでなかったら一緒にはいないだろうな。


「ほら、暖かいうちに食べて」


 ドヤ顔で自信作だと言ってトーストとカリカリに焼いたベーコン、程よく火が通った目玉焼きを進めてくる。

 自信満々に張られた胸がエプロン越しにも立派なことが分かってしまうくらい、絵理沙はスタイルが良い。


 うちの親と絵理沙の親は昔からの友人でよく四人で出かけることが多かった。そうなると残される俺達は昔から一緒に留守番をすることが当たり前となってそれは今も続いている。


 今回みたいに親が四人仲良く旅行に行ったりすると、俺の食事を心配した絵理沙がこうやってご飯を作りに来てくれるのだ。


「ああ、ありがとうな絵理沙。今日も美味そうだ」


 いただきますと言ってからトーストに目玉焼きとベーコンを乗っける。昔から絵理沙が作ってくれるこのセットだ大好きだ。


「やっぱりこのセットは絵理沙のじゃないと駄目だな」


「本当~? だったらまた作ってあげるね」


 俺の言葉に機嫌良く返して絵理沙も学校に行く準備を始める。


 いつもの見慣れた光景。


 俺と絵理沙は並んで歩き出す。


 手が振れるか触れないかの微妙な距離感。


 誰よりも近くにいるのにこれ以上近づくことが出来ないそんな関係。





 そう、俺は絵理沙とのこの関係が壊れるのを怖がっていた。











「ごめんね潤。先輩に生徒会の手伝い頼まれちゃって今日は遅くなるかも。先に帰ってて」


 高校生活にも慣れ余裕が出てき始めた六月、いつものように絵理沙と帰ろうと思って声をかけると思いもよらない返事が返ってきた。


「先輩って弓道部の先輩だっけ? 確か副生徒会長の」


「うん、今校則で制限されている靴下の色指定を変えようって運動があるんだけどその署名とかの計算とか」


 そう言えばそんな話していたっけな。あんまり興味が無かったからスルーしていたや。うちの学校の生徒会は結構活動的で自主的にいろんなイベントや校則改正などの活動をやっているんだとか。だから年中結構忙しいらしい。


「……待つよ。遅くなったら危ねぇだろ? だったら一緒に帰ったがマシだ」


「いいの? ありがとう潤」


 いや、絵理沙に何かあったら嫌だから、お前が大事なんだよ。


 そう言えたら良かったんだろうけれど、そこまで言うのは何か恥ずかしくて出来なかった。俺にとって大事な存在なことは間違いなく、好きなことに間違いは無いと思う……多分。

 実はあまりこういう経験が無くて俺が絵理沙に抱いている感情が恋愛なのか家族的な愛情なのかあまりハッキリとは分からなかった。

 だからこういう中途半端な態度しか取れていないのが最近の俺の悩みだった。


「じゃあ、行ってくるね。終わりそうになったら連絡するから」


「ああ、じゃあまたな」


 適当に教室で宿題でもしながら時間潰すか……。






 絵理沙が生徒会の手伝いを始めてから一月が経った。すっかり日常のサイクルに生徒会の仕事が組み込まれてしまって絵理沙の帰りはいつも遅かった。

 俺も絵理沙を一人で帰すつもりはなかったから終わるまで待つのが当たり前になった。おかげで宿題とかは忘れることは無くなったし次の日楽にはなったけどな。


「なぁ、お前最近、絵理沙ちゃんと一緒にいるよな?」


「いきなりなんだよ日吉」


 ある日、いつものように絵理沙を待ちながら宿題をしていると友人の日吉が残っている俺に気が付いて話しかけてきた。


 日吉は高校に入ってから出来た友人でオタクなことを隠していないオープンなやつだ。オタクと言ってもネット小説とゲームが好きなオタクで良く配信とかしているらしい。なんでも結構人気なんだとか。

 見た目は意外なことに爽やかなイケメンもどきで女子の友人も結構多い。女子でもやりそうなゲームとかにも詳しいからそれで話があったりすると本人は言うけれど、どちらかと言うとコミュニケーション能力の問題だと思う。

 お前はコミュ障じゃないってことだ。


「いやさ、最近噂で聞いたけどさ絵理沙ちゃんが生徒会長と付き合っているって言う話をさ」


「……は?」


 ちょっと待て、そんな話は俺は知らないぞ?


「いやさ、俺も噂でしか知らないんだけど、絵理沙ちゃんがいつも生徒会長と一緒にいるって噂が流れててさ。いつも遅くまで残ってるのは生徒会長と一緒にいるためだって話になってるぜ」


 なんだそりゃ。絵理沙とはいつも一緒に帰っているけど生徒会長と一緒にいたことなんかないぞ。


 それにしてもあまり気分のいい噂じゃない。


 ……俺が言える立場でも無いのは理解しているんだけどな。


 恋人でもない俺が不平不満を言うのはおかしいことくらい分かっている。でもつい思ってしまうんだ。


 やっぱりこれって好きってことなんだろうか?


 いつもそばにいるのが当たり前だったから……恋人っていうやつの心の距離感が分かんねぇよ。


「まぁ、気を付けとけよ。こういうのは噂だと思って放置しておくとろくなことにならねぇぞ」


「……ああ、気を付けるよ」






 日吉に忠告された俺はその週の日曜日に絵理沙を誘って遊びに出かけることにした。前から絵理沙が見に行きたいって言っていた映画もやっていたしな。誘ったら嬉しそうに乗ってくれたから俺も嬉しかったりする。


 今日の絵理沙はいつもとは違って化粧をしているのかとても綺麗に見える。服もいつもより気合の入った格好で見ているだけで胸がドキドキしてくる。


 なんとか褒めようと話題を振ろうとするけれど、どう褒めればいいのか分からずに結局雑談をしながらバス停まで歩いていく。


「前から見たかったんだ。ギャジラVSメカギャジラVSぬこタン」


「絵理沙って昔から特撮好きだよな。俺より詳しいし」


「特撮は愛が無ければ撮れないんだよ。暑くて死にそうになる着ぐるみを着ながらの撮影は地獄らしいからね。他にもスーツアクターの人達は……」


 しまった、絵理沙の特撮愛に火をつけてしまった。昔から特撮の話になると止まらないんだよな。変身ヒーロー物とか俺よりも熱狂して見ていたくらいだ。幼い頃はよく俺が怪人役で絵理沙がヒーローだったっけ。やたら気合の入ったキックを食らっていた覚えがある。


「分かった、分かった。ほら、それよりも早く行かないと間に合わなくなるぜ。そろそろバスが来るぞ」


 スマホを見るとそろそろバスが来そうな時間になっていた。急がないとホントに乗り遅れかねない。


「う、うん分かった」


 絵理沙が焦らなくていいように気を付けながら急ぐ。靴もいつもと違っておしゃれな靴だから歩きにくいみたいだな。


 ……最悪虎の子の一万を切ればいっか。


 間に合いそうになかったらタクシーで行けばいいんだ。


「なぁ、絵理沙。せっかく綺麗な格好してるんだし、バスに乗り遅れたらタクシーで行けばいいから無理しないで行こうぜ」


「じゅ、潤! き、綺麗って!?」


 あ……俺は何を口走ってんだ? 思わず何も考えずに言っちまった。も、もう言ったものはしょうがないよな。


 ここは開き直れ! 俺!


「う、嘘は言って無いからいいだろ?」


「……あ、ありがとう」


 何となく微妙な空気になりながらバス停についたのとバスが来るのは同時だった。虎の子を切らなくて済んだのにはちょっとだけ……いや、かなり安心した。






「楽しかったよ、潤」


 映画を見た後は軽く食事をした後、カラオケ行ってきた。絵理沙とは二人でよくカラオケに行くからいつものことではあるけれど、俺が絵理沙の歌声を聞くのが好きだから何回行っても楽しめる。


 家への帰り道絵理沙とたわいない話をしながら歩く。


「俺も楽しかったよ。今日はおばさん達いないんだっけ?」


「そうなんだよ! お母さん達ったらデートに行ってくるって」


「だったら家に来いよ。どうせ親父とお袋も絵理沙のこと頼まれているだろうからさ」


「まぁ、いつものパターンだったらそうだね。じゃあ着替えとか準備したら行くね」


 そう言って笑う絵理沙の横顔は夕陽に照らされて綺麗だった。


 なんとなくこの笑顔を独り占めしたくなったようは気がして俺は気づいたら絵理沙の手を握っていた。


「どうしたの? 潤」


「……なんとなく」


「そっか」


 今は言葉はいらなくて、ただこの時間が過ぎるのが惜しかった。







 日曜に遊びに行ってから二週間後のある日、登校するとクラスが何やら騒がしい。教室に入った俺を皆が見てくる。

 正確には俺の隣かな。最近は絵理沙は例の校則改正の件で忙しくなったせいで朝も早く出ることが増えて一緒に登校する回数も減っていた。

 だから今日みたいに隣に絵理沙がいないことがあるのだけれど……そこまで珍しくは無いだろうに。


「ねぇねぇ、中瀬君。絵理沙が生徒会長の宇都宮賢吾先輩と付き合っているって噂聞いた?」


「またその話かよ。俺は絵理沙から何も聞いていねぇぞ」


 クラスメイトの女子が心配そうな顔で俺に聞いてくる。しかし何でそんなに不安そうな顔をしているんだ?


「その一昨日の日曜日、絵理沙が賢吾先輩と一緒にいるのを見たって言う子がいるんだけど」


「一昨日の日曜?」


 一昨日の日曜日は残念ながらお袋の方のばあちゃんが入院したから俺は忙しかったから絵理沙の予定は聞いていないんだよな。


 しかし、そっか……俺が文句言う権利がないのは分かっているがやっぱり胸がモヤモヤする。


 これってどういう感情なんだ?


「おはよう皆」


 俺が悩んでいると絵理沙が教室に入って来た。その瞬間、クラスの女子に囲まれる絵理沙。どうやら日曜の件で質問攻めにあっているようだった。


「ね、絵理沙どうなっているの? もしかして噂は本当!?」


「またその噂? あれは私がうっかりミスをした分を生徒会長がカバーしてくれたからそのお礼に食事でお礼しただけだよ。それ以上は何も無いよ」


 クラスの女子は何だ―といって興味を失くす奴と、それでもしつこく食い下がる奴に分かれたけれど俺はどうでもよかった。


 絵理沙が他の男と食事に行った。


 何故かその事実が頭の中でずっと響いていた。






 最近は昼休みも忙しくなった絵理沙を探していると渡り廊下にいるのが見えたので行ってみる。一緒に昼を食べる回数が減ってから何となく味気ない食事になった気がする。


「絵理沙、昼まだなら……って」


 渡り廊下には絵理沙だけではなく隣のクラスの北川が一緒にいた。いわゆるイケメンで女子の人気も強いモテる男だ。生徒会に入っていて先生の受けもいい。もっとも男子受けは最悪だけどな。なにせいつも三人の女子を侍らしているハーレム野郎だし。


「絵理沙さん。いつも生徒会を手伝ってくれてありがとう。日頃のお礼に食事をおごりたいんだけれどどうかな?」


「……やるべきことをしているだけなので、そこまでしなくてもいいからね。むしろちょっと申し訳ないし」


「気にしなくていいのに。僕がそうしたいだけだから」


 北側に良い寄られている絵理沙は笑顔で対応しているけれど、付き合いの長い俺には分かる。あれはうんざりしている時の外向けの笑顔だ。あれは最悪後で爆発するぞ。


「探したぜ絵理沙。一緒に昼食べる約束だっただろう?」


「あ、潤! ごめんね」


 絵理沙はスッと北川から離れると俺の隣に来る。少しだけ表情が和らいでいるのを見るに安心してくれているようだった。


「悪いな北川。今は俺が先約なんだ」


「そっか、じゃあ仕方ないかな。さっきの話考えておいてよ」


 そう言いながら北川は去って行く。でも俺は見逃していないからな北川。お前さっき絵理沙を見定めるような目で見たろ一瞬。

 俺は嫌なことは忘れるに限ると絵理沙の手を握って歩き出す。


「行こうぜ、時間無くなっちまうからさ」


「あ、ありがとう潤……ごめんね、最近忙しくてあまり相手出来なくて」


「絵理沙のせいじゃないさ。でも何でもかんでも引き受けていたら絵理沙が持たなくなるぜ。適当なところで手を引けよ。絵理沙は生徒会役員じゃないんだからさ」


「そう……だね。うん」


 そう答えた絵理沙はどこかぎこちなかった。






 夏休みは絵理沙と一緒に遊んだり、お互いの家族で旅行に行ったりもした。ただ、夏休み中も生徒会の活動はあるらしく、絵理沙は夏休みの三分の一は生徒会の仕事に行ったりしていた。


 一緒に過ごしている時間は俺の方が長いし、絵理沙も俺と一緒にいて楽しそうにしてくれているのは分かっている。


 でもなぜか絵理沙と生徒会長の噂は消えなかった。クラスチャットでも度々一緒にいたのを見かけたとかいう情報が噂となって流される。


 それは全て生徒会の活動がある日の話で、絵理沙が別に生徒会長とだけ出掛けたわけじゃない。買出しに行っているところだったり、他の生徒がいたりしていた。俺も街に出ていて偶然絵理沙が生徒会のメンバーと買出しに来ているところに遭遇したことがある。


 その時の話ですら絵理沙が生徒会長とデートをしていたことにされていた。


「これは流石におかしいだろう……誰だこんなフェイクニュース流している奴は」


 特定なんか出来ないけれどやっていることは悪質だ。少なくとも俺だけはこんな噂で変な勘違いはしないようにしないといけないな。


 ただ、噂はいつしか実体を持つようになり、二学期の体育祭が終わることには絵理沙と生徒会長が付き合っているのは噂ではなく認識へと変わっていた。


「もう、うんざり。なんで私が宇都宮先輩と付き合っていることになっているんだろう……嫌になる。宇都宮先輩もなんだか最近距離が近いし」


「……誰かが意図的に噂を流していたみたいなんだけれど、どうしてもそいつは分からなかった」


 最近学校の皆が絵理沙と生徒会長の交際を共通認識にし始めているせいで二人っきりで会おうにも邪魔が入ることが増えてきた。唯一の例外はうちのクラスメイトだけかな。あいつらは噂を丸っきり信用していなかったからな。


 もしかしたら噂の出所は宇都宮先輩かもしれないと疑っているんだが、何せ証拠がない。流石にいま訴えても言いがかりにしかならないか。


 それに体育祭に文化祭とイベントが目白押しなせいで最近絵理沙となかなか一緒に過ごすことが出来ないでいる。

 絵理沙は頼まれたら断れない性格だし、責任感が強いから途中で投げ出すことが出来ないんだよな。おかげで生徒会の連中に上手く使われている状態なんだけれど、絵理沙自身が辞めようとしていない以上、俺が辞めさせるのは何か違う気がする。


「とにかくこれ以上おかしなことになるようだったら生徒会の手伝いは控えた方がいいかもな」


「うん……そうだね。途中で投げ出すのは苦手なんだけれど、しょうがないかな。潤と遊ぶ時間も欲しいし」


 元気のない絵理沙の肩を叩いて俺はそっと手を握る。


「何かあったら俺を頼れ。出来ることはするから」


「ありがとう潤」


 そう言えばそろそろ絵理沙の誕生日だったな。


 なんか用意しとくかな。

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