『メロクエ人生ゲーム』2
最初から格差が現れ始めた『メロクエ人生ゲーム』は、現在5周目に突入していた。
現在の一位は、尚も強運を見せ続ける桃だ。
二周目までに仲間にした☆7の『ノーム』、☆5の『おおくじら』、☆4の『スネークマン』に加え、☆6の『牛乳魔神』と☆2の『ベビィヌル』までを仲間に加えることに成功していた。
お金は変わらず500Gだし、道具を入手したわけでもないのでそれ以外では劣っているものの、その圧巻の魔物のコレクティングは他者の追随を許さないものとなっていた。
二番手につけるのは翠だ。
相変わらずお金を手に入れるマスを引き続けるある意味強運な翠は、既に所持金を12000Gにまで増やしていた。
『魔物とのエンカウント』で順調に仲間も増やし、☆3の『さけぶスコップ』の他に、☆2の『四角い芋虫』と☆6の『ボーグヌル』を仲間に加えていた。
四角いだけの芋虫と、あの可愛い『ヌル』がサイボーグ化して若干気持ち悪くなってしまった見た目の『ボーグヌル』に、「私の仲間は個性的だなぁ」と遠い目をしていたことはご愛嬌である。
三番手は意外にも緋色である。
二周目までは何も出来なかったものの、三周目から急に覚醒しだし、猛スピードで二位である翠を追随していた。
仲間にした魔物は☆7の『シルフ』と☆3の『ほねゾンビ』だけであるものの、桃が仲間にした土の小精霊『ノーム』と並ぶ風の小精霊である『シルフ』を仲間にした緋色は絶好調であった。
所持金は4000Gで、『シルフ』に道中で手に入れた木の棒を用いたので、持ち物はなし。
やはり最初の二ターンで足踏みをした代償は大きいみたいだった。
最後は蒼である。
五ターンの間ほとんどいいマスを引かず、更に『魔物とのエンカウント』でも運が悪く、誰も仲間に加えることが出来なかった蒼は、着々とアイテムだけを回収していた。
二周目に手に入れた『木の棒』に加え、ルーレットの数字を+3することが出来る『石の剣』と、魔物を手放さないと行けなくなった際に身代わりになってくれる『薬草』を手にした蒼は、道具面では他の三人に差をつける。
ただ、相変わらず仲間は☆1の『めだまナメクジ』と同じく☆1の『ヌル』だけで、所持金も1000Gなので、圧倒的最下位ということに変わりはなかった。
そして、今は6周目の桃の順番だった。
前のターンに、1番先頭を進んでいた桃は『結婚マス』に進んでいたので、このターンはそこからのスタートとなる。
『結婚マス』とは、そこを通過した人が必ず止まらないといけないマスで、通常の人生ゲームでは周りからご祝儀を貰い、パートナーを得るというイベントである。
といっても、『メロクエ人生ゲーム』ではただの結婚をするわけではない。
「『メロクエ』の結婚は墓場。
もしや、ここから激辛モード?」
そう、桃が呟くが、その推測は当たっていた。
そもそも『メロニカルクエスト』においては、『結婚』という機能は地獄でしかない。
特にメリットを得れる訳でもないのに、無駄に費用がかさんだり、縛りが増えたりと、デメリットだけが増えるのである。
だから、基本的には誰も使わない機能であるが、この人生ゲームでは恐るべきことに強制なのであった。
そして、無駄にその部分を再現している『メロクエ人生ゲーム』でも、『結婚』はまさしく地獄への入口であった。
「桃ちゃんはついに足を踏み入れるんやな、闇のゾーンへ」
「緋色君、私たちその説明受けてないんだけど」
明らかに不穏な匂いがするセリフに、翠が警戒心を露わにする。
それに対して緋色は虚ろな目を向ける。
「『メロクエ人生ゲーム』はな、こっからが本番なんや。
踏むマスのことごとくがえぐいイベントやし、たまにいいマス引き当ててもその後のイベントですぐに消えるからな。
まあとどのつまり、クソゲーなんやこれ」
そう言う緋色は大変疲れた表情を浮かべている。
今までにも色んな出来事を乗り越えてきたのであろう。
その様子に蒼と翠は思わず息を飲むが、桃は逆に闘志を燃やす。
「『メロクエ』のゲームがクソゲーなわけが無い。
全てが神ゲー。これも神ゲーのはず」
そう言いながら(一応の)パートナーを得た桃はルーレットを回す。
その数字は7。
『リボン』を7マス進ませて、桃はそこに書いてあるイベントを読み上げる。
「『パートナーがドジをする。レア度の一番高い魔物を失う』。
……何これ、クソゲーでは?」
「だからそう言うたやないか」
桃の持っている一番レア度の高い魔物。
つまり、☆7の『ノーム』を失った桃のテンションは一気にガタ落ちになる。
『ノーム』と同時に流れも失ったのか、『魔物とのエンカウント』で☆2の『オーガ』を引いた桃は、ルーレットで1を出し仲間にすることが出来なかった。
「悪いな桃ちゃん。
このゲームの必勝法は、結婚するまでにできるだけ準備しとくことなんや。
てことで俺はゆっくり行かせてもらうわ」
悪い笑みを浮かべた緋色はルーレットを回し、10を出して丁度『結婚マス』に止まる。
今度は桃が悪い笑みを浮かべる番だった。
「黙っていたバチが当たった。
私と同じ目に合うといい」
「いーや、まだわからん!
『結婚』した後でもいいマス引く可能性もあるからな!」
そう言いつつ緋色もパートナーを獲得する。
『ノーム』を失った恨みを緋色にかける桃と、次のターンに全てをかける緋色の戦いは、ますますヒートアップしていくのであった。
「今度は俺たちが忘れられてるよね」
「言わないで、蒼」
△
▽
△
7周目に入り、今度は翠が『結婚マス』に到達する。
「あー、なんか緋色君の話聞いてたら怖くなってきちゃった」
「翠ちゃんも、いらっしゃいやな。
こっから楽しんでいこや」
「翠、待ってたよ」
「怖いなぁ」
不気味な笑みを浮かべる緋色と桃に、翠は早くも怯え気味だ。
『結婚』ということでパートナーを得て、更に『魔物とのエンカウント』で☆4の『エイリアン』を仲間にした翠は、順番を蒼に回した。
相変わらず個性的な魔物ばかりで、翠は苦笑いをしていたことは余談である。
一方の蒼は、他の三人とは違い、かなり手前で停滞していた。
最初の5周の間に小さい数字ばかり出していた蒼には、まだ闇のゾーンは遠い話であった。
「緋色の話の通りだと、ここはまだあんまり大きい数字を出さない方がいいんだよね」
「そうやな。
まあ?俺は蒼はしっかり10を引いてくれると信じてるけどな?」
そんな皮肉をたっぷり受けながら回した蒼の数字は2。
またしても小さい数字を出した蒼に緋色は歯軋りをする。
「『金塊を拾う。5000G入手』だって。
超当たりだね、これ」
「私の二ターン分はずるいよぉ」
突然得た大金に喜ぶ蒼。
一方で不平等だよぉと訴えるのは翠だ。
ちまちまと1500Gやら2000Gを稼いでいた翠としては、一攫千金のような蒼の状況が羨ましかった。
「まあ、さっきまで悲惨だったから少しくらいはね、と、流れが来てるかもしれない」
翠に対して苦笑しながら『魔物とのエンカウント』をした蒼は、ここで初めて出現する☆10の魔物を引き当てる。
蒼が引いたのは『フェンリル』という魔物。
作中では氷の大精霊として恐れられている『フェンリル』は、その強力な性能と狼を巨大化したようなそのカッコイイ見た目で、かなり人気がある。
「『フェンリル』は、ずるい。
蒼、1を出して」
「勿論、1出すよな?わかってるよな?蒼くん??」
「蒼、頑張って!」
「翠を見習え二人とも」
緋色と桃の性格が悪いのか、翠が聖人すぎるのか。
人生ゲームにおいては恐らく後者だろうな、と判断しながら、蒼はルーレットを回す。
出た数字は7。
普通なら仲間にできない数字だが。
「じゃあ俺は『石の剣』を使うよ。これで+3だから丁度だね」
蒼には他の人にはない道具のアドバンテージがあった。
それを上手く利用し、蒼はフェンリルを仲間にすることに成功する。
「蒼、よかったね!」
「うん、ありがとう。
そしてそこの二人、そんな目でこっちを見ない」
一緒になって喜んでくれる翠に対し、桃は無感情な目、緋色は隠すことの無い嫉妬の炎を燃やし蒼を見つめる。
「人の不幸を喜んでるようじゃ勝てないって話があるんだよ」
「わかっとるわ!
それでも羨ましいもんは羨ましいんや!」
「蒼は『フェンリル』の偉大さを分かっていない。
仲間にしたならもっと勉強するべき」
どうやら緋色は純粋な嫉妬から、桃は『フェンリル』への尊敬からそういう感情になっているらしい。
もう少し『メロクエ』やってみるか、と少し蒼の気持ちに変化があったところで、次は桃の番だ。
「まさか、ルーレットを回したく無くなるなんて。
こんなの初めて」
さっきまではあんなに意気揚々と進めていた桃だったが、『結婚マス』以降の地獄を経験した今となっては、一度回すのにも覚悟がいるようになっていた。
しかし、回さないことには始まらない。
桃は意を決してルーレットを回す。
「お願い、マシなマス来て」
その願いが通じたのか、桃の止まったマスは『平凡な日常。何も起こらない』というマス。
普通ならハズレだが、何も起きないということに桃は思わず安堵の息を零した。
何も起こらないので『魔物とのエンカウント』も起こらなかった桃は、緋色に番を渡す。
「次は緋色の番。
期待してる」
「その期待、絶対いい意味じゃないやろ!
まあ見とれ、俺はやる時はやる男やからな」
「お、フラグかな?」
そう言ってにやにやする蒼を後目に、緋色はそりゃあ!とルーレットを回す。
その出た数字は7だった。
「あれ、なんかこの数字見た事あるような?」
「緋色、信じてた」
「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
緋色が絶叫するのも気にせず、桃は緋色のミルさんを7マス、つまり一ターン前の自分と同じ位置に進める。
そして、今日一番の笑顔でこう言い放った。
「ほら、『シルフ』出して?」
やっぱこういうゲームはクソゲーじゃないとね。