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『メロクエ人生ゲーム』1

「じゃあまずは私の番だね」


最初は1番数字の大きかった翠だ。

翠の回すルーレットは6の数字を示す。


「えーと、『道端で宝箱を見つける。1500G入手する』だって」


お金はあって困るものでは無いので、翠は素直に喜ぶ。

そもそも人生ゲームにおいて、いいイベントを引くだけでラッキーなのである。


銀行係である緋色からお金を受け取った翠は、『メロクエ人生ゲーム』の特別ルールである『魔物とのエンカウント』を行う。

翠が山札から引いたのは、☆3の『さけぶスコップ』である。


作中では、見つかると大音量で鳴き声をあげるはた迷惑な魔物で、イラストも目と口のついたただのスコップなので、全くといっていいほど人気のない魔物である。


「うわー、いきなり『さけぶスコップ』かぁ。

ついてないなぁ」


「まあ、普通のゲームなら確かに嬉しくないけど、今回の場合☆3だから悪くないんじゃない?」


再度言うが、この二人がこんな反応をする程度には人気のない魔物なのであった。

「別に仲間にならなくてもいいや〜」と力なく回したルーレットが無事に10を示し、翠が『さけぶスコップ』を仲間にしたところで、次は蒼の順番となる。


「俺は4だね。

『魔物の襲撃を受ける。ルーレットを回して偶数なら返り討ちにして2000Gを得る。奇数ならお金を半分失う』だってさ。

これはまた、リスキーなのが来たよ」


人生ゲームにおいてよくある、『良いか悪いか運次第』マスを引いた蒼は、ルーレットに全ての力を込める。

そして力いっぱい回したルーレットは7を示し、蒼はそのまま力尽きた。

そんな蒼に、緋色は優しく声をかける。


「まあ、見ようによれば半分無くなったのが最初の方でよかったやん。

はら、はよ半分金払え」


慰めたように見えて全く慰めていない緋色に半分の1000Gを渡し、蒼はこの後何かあれば緋色を貶めてやろうと覚悟を決める。

こういう部分で蒼は根に持つタイプなのであった。


そして蒼の『魔物とのエンカウント』では、☆1の『めだまナメクジ』を引き、ルーレットを回す必要も無いので無言のまま桃に順番を渡すこととなった。


「蒼、可哀想。

私が仇をうつ」


「ありがとう桃。緋色を頼んだよ」


「なんで俺やねん!?」


蒼から渡ったバトンを胸に、桃はルーレットを回す。

その数字が示すのは8。

蒼も翠も飛び越えて、桃は『リボン』のコマを進める。


「『魔物の様子が急変する。

仲間にした魔物を一体逃がす』だって。

まだ仲間にしてないから、効果なし」


その結果を見て、「命拾いしたね」、と緋色に向かって言う蒼の言葉に、緋色は冷や汗を隠しきれない。

蒼のターンが来たらどうなってまうんや、と考える中、桃が『魔物とのエンカウント』で当たりを引く。


「見て、『ノーム」が出た」


『ノーム』とは、作中で土の小精霊と言われている魔物の一種である。

その小さく可愛い姿から、魔物の中でも比較的人気が高い。

『メロクエ人生ゲーム』でもレア度は☆7と、かなり高く設定されてあった。


当たり前だが高レアリティのものほど数も少ないので、桃はこのチャンスを物にしておきたいところだった。

そしてルーレットの数字は8を示す。


「よし、『ノーム』は私のもの」


「まじかぁ、運強いなぁ桃ちゃん」


しっかりと7以上を出してくる桃に、緋色は軽い文句を、蒼と翠は苦笑するしかない。


「桃は昔から運も強かったもんね」


「うん。

運も実力のうち。これも実力」


緋色の目の前にピースサインを叩きつける桃の姿に、緋色はぐぬぬと唸る。


「俺も負けてられんわ。

やったろうやないか!」


意気揚々とルーレットを手に持った緋色は、何故かそこで一度目を瞑り始める。


「緋色、何してるの?」


「ちょっと待ってや。

今運気を整えてんねん」


絶対にそんなことは関係ないが、何事も気の持ちようは大きいとも言う。

緋色の不思議な儀式を三人は静かに待ってあげる。


そしてパッと目を開けた緋色は、そっとルーレットを回した。

そして見事に1を引き当てる。


「よかったじゃん緋色、1とか逆にすごいよ!

流石運気整えてただけあるね!」


「うん分かった俺が悪かったからその煽り性能の高さどうにかせい!」


ドヤ顔で「運気を整える」とか言った手前、1という不甲斐ない数字を出したことに顔を赤くする緋色は、的確に煽りを入れてくる蒼が口が上手いことを思い出す。


コミニュケーション能力が高い蒼は、上手く丸めくるめたり、人を弄ることもまた得意なのであった。


「はぁ、ゲーム進めるで!

んーなになに?

『お金を家に忘れたことに気づく。スタートに戻るか一文無しになる』って、なんやねんこれ、エグすぎるやろ!」


これには堪らず全員が吹き出す。

さっきの一連の流れから、まるで仕組まれたかのような展開が面白さをひきたてていた。


「しかもこれ、スタート地点やったら『魔物とのエンカウント』もできんのやろ?

流石に一文無しは嫌やからスタート戻るけど、これ実質一ターンパスみたいなもんやん」


渋々と言った感じで自身の分身であるミルさんのコマをスタートに運ぶ緋色。

流石に一ターン目から所持金を失うリスクは負えなかったようだ。


「まあちょうどいいハンデかもね?

緋色は運気を操れるみたいだし」


「もう勘弁してくれぇ!」


更に追撃をかける蒼に、緋色はもうボロボロだ。

泣きっ面に蜂どころか、ヘビまでやってきたようなこの状況に、翠は堪えきれず笑い声をあげる。


「あははっ、蒼って、そんなことも言うんだね」


いつも優しい部分だけを見ていた翠にとって、蒼がこんな感じで人を弄る姿を見るのは新鮮だった。

だが、蒼は「どちらかというとこっちが素だよ」と苦笑する。


「俺は基本的に、仲良くなればなるほど毒吐いちゃうタイプだからね。

幻滅した?」


「ううん、全然。

だって、それが本当の蒼なんでしょ?

やっと素を見せてくれて、どちらかというと私は嬉しいかなぁ」


まるで気にしていない翠の反応に、蒼はふっと微笑んで微笑んだ。



「なぁ、これ毒吐かれた側の俺忘れられてないか?」

「緋色、ドンマイ。

骨は拾う」

「勝手に殺すなや」





「二周目、私の番だね」


再び自分の順番が回ってきた翠は、よし!と気合を入れてルーレットを回す。


「7だから、このマスだね」


『グリン』のコマを動かした先に書かれてあったのは、『仲間の魔物のレア度の合計×500のGを手に入れる』。

翠が仲間にしたのは☆3の『さけぶスコップ』なので、またしても1500Gを入手することに成功する。


「なんか、翠だけ普通の人生ゲームしてるよね」


「通常ルールなら、翠が優勢」


「これはまずいで。

置いてかれるわ」


所持金で周りから頭一つ抜け出してる翠に対し、蒼と桃は微笑を浮かべる。

実質の一ターンパスを経験した緋色は、焦りを禁じ得ないようだった。


『魔物とのエンカウント』では☆5の『サイボーグ』を引いたものの、ルーレットは残念ながら2を示し、仲間にすることはできない。

翠は「お金だけあってもなぁ」と少し残念そうにしながら蒼に順番を回した。


「次は俺だね。

さっきはなかなか酷いことになったから、今度はいいマス狙いたいな」


そう言いながら回した結果は1。

『アオカゲ』を一マスだけ進ませた蒼は、イベントを読み上げる。


「えーと、『『木の棒』を入手。『魔物とのエンカウント』の時、1度だけルーレットの数字を+1してもよい』だって。

割と当たりなんじゃない?」


「道具系は基本的に当たりやな。

ええマス引いたやん」


今回蒼が手に入れたのは『木の棒』であったが、これは道具の中でも比較的弱めの部類に入る。

それでも、ターンの終わりにある『魔物とのエンカウント』で強い魔物を仲間にする確率が上がるのは、なかなか良い効果と言えた。


『魔物とのエンカウント』ではまたしても☆1の『ヌル』を引き当て、『木の棒』を温存しながら桃に順番を回す。

☆1ではあるものの、『メロニカルクエスト』の目玉でもある『ヌル』を仲間にできたことに、蒼は若干嬉しそうだ。


「今の私は、流れに乗ってる」


前ターンで『ノーム』を仲間に加えることが出来た桃は、その勢いをそのままにルーレットを回す。

出た数字は4、『リボン』が4つ先のマスに移動される。


「『魔物の卵を購入する。1500Gを支払い、『魔物カード』を一枚山札から引き、仲間にすることが出来る』。

これはいいイベント。

勿論、仲間にする」


桃の所持金は最初から変わらない2000G。

その中から1500Gを緋色に渡し、桃は一枚『魔物カード』を山札から引く。

引いたカードは☆5の『おおくじら』。

またしても強カードを引くことに成功した桃は、若干のドヤ顔を披露する。


更に『魔物とのエンカウント』で☆4の『スネークマン』まで仲間にすることができた桃に、他の三人は唖然とするしかない。


「……桃ちゃん、引き強いな」


「……俺なんか、まだ☆1しかいないのに」


「……私だって『さけぶスコップ』だけだよ」


これが格差か、と嘆く三人に桃は小さくサムズアップ。

次は緋色の番だよ、と緋色に追い討ちをかけるようにルーレットを押し付けた。


「よーし、見とけや。

こっからが俺の天下やからな!」


だが、緋色は切り替えの早い男と自負している。

俺も桃ちゃん以上成果を見せたるわ!と気合を入れながら回したルーレットが指す数字はまたしても1。

再びスタートに戻るか一文無しになるかの二択を迫られることとなった。


「やっぱ、あれだよ緋色。

今回は運気操らなかったからだって」


「緋色のアイデンティティなのに」


「緋色君、できることは全部やらないと」


「……なんか、俺が悪いような気がしてきたわ」


周りから爆笑されながら再びスタート地点に戻った緋色の姿は、かなり哀愁が漂っていた。

着々と自分が弄られキャラの立ち位置を獲得していることに、緋色は頭を抱えるしかなかったのであった。


緋色がいいキャラしてます。

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