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初のサークル活動『タマオカート』2

「ええか、桃ちゃん。

味方になったからには、絶対に勝つで。手加減はむしろ相手に失礼や」


「ん、当然。真剣勝負」


最初は不満そうだった緋色だったが、チームが決まったからには確実に勝つ、と頭を切り替える。

桃は元々手加減という選択肢が頭になかったようで、緋色の言葉に愚問だとばかりに頷く。


一方で、大変なのは翠だった。


「無理だよ蒼、絶対勝てないって」


「いやいや、絶対なんてゲームにはないからさ。

二人に勝つ気で頑張ろ?」


「頑張るけど、桃の分のジュースは私がお金払うから!」


「負ける前提じゃん」


緋色と桃の強敵タッグを見て、心が折れてしまった翠は、負けた時のことを考える。

自分がジュースを奢る分には何ともないが、蒼にお金を払わせるのは申し訳なく思う翠だった。


「あのさ翠、そんな気遣わなくてもいいって。

さっきも言ったけど、翠とチームになったこと、全然迷惑だと思ってないし。

むしろ、これで俺らが勝ったら熱くね?とも思ってる」


勝てると思ってた試合に負けたら緋色と桃がどんな顔をするのか、と何故かワクワクしている蒼を見て、翠は素直にカッコイイな、と思う。

そして、翠も覚悟を決めた。


「わかった、蒼の足を引っ張らないように、頑張るよ」


その表情には気負っている様子はなく、純粋に楽しもうと考えているようだった。

翠のそういう所は蒼も好感を持っているので、一緒に頑張ろう、と微笑む。


話も纏まったところで、具体的なルール説明へと入る。


「勝負は四コースの勝負や。

一位が10ポイント、二位が8ポイント、三位が6ポイント、四位が4ポイント入る。

合計ポイントが高い方の勝負や。

これでいいか?」


「うん、まあオーソドックスなルールだしね」


『タマオカート』のチーム戦では、ポイントの分配は自動で決定する。

四人での対戦での基本的な配分は、緋色の言ったものと相違ない。

何本勝負にするかは人によるが、一度のレースで大体四コース走るため、それを参考にしたのだろう。


「よっしゃ、じゃあ始めるで」


本人達には自覚が無いが、これが『Wish』初となる、メンバー内での対抗戦となるのであった。





一コース目は、序盤から緋色と桃のチームの優勢だった。

一位を走る緋色を二位の桃がサポートをする。

という訳ではもちろんなく。


「うおお、俺は桃ちゃんにも負けんからな!」


「前を走るのは、許さない」


チームメイトになっても、バチバチなのは変わらないようだ。

蒼達のことなど眼中に無いとばかりに、二人は変わらず争い合う。


それを見て、蒼がポツリと零す。


「駄目だなぁ」


「え?」


聞き間違いかと、思わず蒼の方を見た翠だったが、滅多に見せない蒼の真剣な表情を見て、おもわずドキリとする。


「翠、俺の後ろ、ついてこれる?」


「え、うん、が、頑張る!」


「じゃ、俺についてきて」


言われてみたいセリフで上位にくい込む事を言われて内心でテンションが上がりながら、翠は蒼の動きに合わせてついていく。

コンピューターもおらず、敵は前で争いあっているので、アイテムが飛んでくる心配はない。

蒼のしっかりとしたコース取りについて行くだけで、みるみる二人は距離を縮めていった。


「加速アイテムGETしたら、持っておいて」


「うん、わかった!」


言われたとおり、加速アイテムをGETした翠は、使わずに温存する。

すると、蒼は「本当に道なの!?」と言いたくなるような場所に突っ込んで行った。


「ここで、加速して」


「うん!」


蒼を信じるしかない翠は、その言葉に従って蒼の後ろを必死について行く。

その道かも分からない場所を抜けるとそこ目の前に。

二位の桃の姿があった。


「嘘、どうやって?」


「まあいわゆるショートカットってやつだよね。

味方同士で争ってるから、俺達に出し抜かれるんだよ?」


レースも終盤。

持っていた加速アイテムの残りを使って、蒼と翠はそのまま桃を追い抜いていく。


「おい、桃ちゃん、どうしたんや!?」


「緋色、気をつけて、二人が迫ってる」


「何やて!?」


桃を後ろに置き去りにした二人は、その前にいる緋色の姿を視界に収める。

レースは残り半周。

緋色としても、このまま一位をキープしたいところだったが、まさかここで追いついてくるとは思わず、動揺でプレイが鈍る。


「あ、やば、ミスった!?」


「じゃあね、緋色」


緋色のミスを見逃さず、完璧なコース取りで緋色の脇を抜けた蒼は、そのまま一位でゴール。

翠もまた、緋色を抜くことこそ出来なかったものの、そのまま三位をキープしてゴールすることが出来た。


「やった!」


「ナイス」


桃に勝った喜びで小さく跳ねる翠に、蒼は手のひらを向ける。

そしてハイタッチを交わした。


一方の緋色と桃は。


「ごめん、私が四位になったから」


「いや、ちゃうで。

俺らが蒼と翠ちゃんのことを見て無さすぎたんや。

本当の敵はあやつらやのにな」


最初から相手にならないとみなし、桃ばかりを意識していた。

それは桃も同じことで、自分への怒りと不甲斐なさが襲う。


「まあでもこれで分かったわ。

蒼も翠も相手として相応しいっていうことがな。

こっから逆転すればええんや」


「ん、もう負けない」


心を新たにする二人に対し、翠はまだ興奮を隠しきれない様子だった。


「やったよ、蒼。

私、桃に初めてゲームで勝てたかも」


「そうなの?」


「うん、私、対戦する系のゲーム苦手だから。

だから、本当に、嬉しい」


隠さず喜びを表現し、蒼に礼を告げる翠に、蒼は少し照れくさくなる。


「でも、勝負はここからだよ。

向こうもこっから本気で来ると思うし、さっきみたいな奇襲は通じないだろうから」


「そ、そうだね!私も頑張らないと」


一戦目の戦績から、蒼・翠チームは16ポイント、緋色・桃チームが12ポイントと、4ポイントの差をつけることが出来た。

だが、これは場合によっては一戦で覆されてしまう差でしかない。

本当の勝負はここからになりそうだった。


そして始まった二コース目。

最初に「私のことは気にせず、全力で走っていいよ」と翠に言われたとおり、蒼は序盤から緋色と桃と競り合う。


だが、今回は緋色と桃も心を入れ替えているので、チームとして勝つことに重きを置いたようで、一位を取ることはなかなか出来ない。

そして、桃が一位、蒼が二位、緋色が三位、翠が四位という結果で二コース目が終了した。


これで、合計ポイントは両チーム並んだことになる。


「ごめんね、やっぱり足を引っ張っちゃってる」


「全然大丈夫だよ。

それより、ちょっと作戦があるんだ」


謝る翠だが、蒼は逆に、それを逆手にとった作戦を考えていた。

それを聞いた翠は、思わず目を輝かせる。


「蒼って、すごいね!」


「あはは、そんなことないよ。

それより、いい?合図は咳だからね」


「うん、任せといて!」


二人がそうやってこっそり作戦を考えている中、緋色と桃もまた手応えを感じているようだった。


「今の感じで行ければ、このまま勝てそうやな」


「うん、だけど、中々侮れない」


「せやな。

まさか蒼があそこまで上手いとは思ってなかったわ。油断してたら一位奪われてまうで」


二人の間でもっぱら話題となっていたのは、急に頭角を現してきた蒼についてだ。

普段の穏やかな感じからは考えられない、強気な姿勢に二人も少し焦りを抱く。


「でも、一回でも抑えれたら、勝てる」


「ほう、なんでや?」


「蒼は確かに強敵。

でも、翠はまだ、私達に勝てない」


「あー、たしかになぁ」


桃が言っているのは、翠の経験の少なさである。

これが違うゲームなら、まだどうなるか予想もつかなかっただろう。

また、もっと経験を積んだ後なら、二人に勝つこともあるだろう。

だが、本気になった桃だからこそ、今日に限っていえば、順当に戦えば翠が勝つことは無いと言いきれた。


「つまり、俺らはあと一回でも蒼を抑えれれば、最後の試合で蒼に一位取られても合計得点は勝てるってことやな?」


「そういうこと。

作戦通り」


こうして緋色と桃の間でも作戦が決まったが、その「翠を軽んじる」ということこそが、蒼の作戦の要だということに二人は気づいていなかったのだった。





そうして行われた三コース目は、二コース目と似たような試合展開で行われた。

上位争いをする緋色と桃と蒼、その後ろを必死に追いかける翠という形だ。

それを見て、緋色と桃は、勝ちを確信する。


だが、蒼は翠がGETしたあるアイテムを目にし、こっそりとほくそ笑んだ。


そして最後の一周。

踏むと空を飛べる場所に上位三人が車を踏み入れた時。

蒼はわざとらしく咳をした。

そしてその瞬間。


緋色と桃の車に雷が降り注いだ。


「「あぁぁ」」


二人は仲良く絶叫しながら、墜落していく。

その隙に、蒼は一位、そして翠も二人を追い越し二位でゴールをすることに成功した。


種明かしをすると、蒼が目をつけたのは「下位でしか手に入らないアイテム」である。

翠は確かに、現状実力が少し劣る。

だが、それは言い換えれば、他の人より強いアイテムを入手できるということに他ならない。


更に言うなら、その強力なアイテムの中には、チームメンバーには効かず、敵のチームにしか効果を発揮しないものが存在する。

それが先程翠が使用した『雷』である。

これを使うと、使われた車はスピンし、麻痺して速度が遅くなってしまうのだが、蒼はその特別な仕様に目をつけた。

その仕様とは、空中を飛んでいる時にスピンすると、強制的に元の場所に戻らされる、という仕様である。


次のコースで空を飛ぶコースがあることに気づいていた蒼は、翠がそのアイテムを手に入れたらそれを温存し、蒼の合図で二人を同時に空中でスピンさせることで、一気に逆転を狙っていたのだった。


そしてその目論見は見事当たり、二人は一気に8ポイントの差を開くことに成功した。


「上手くいったな、翠」


「蒼のお陰だよ。本当に、天才!」


「やられたぁ。

次ワンツーフィニッシュせな負けやぁ」


「また、負けた。

めちゃくちゃ、悔しい」


作戦が成功し喜ぶ二人と、勝ちがなくなり落ち込む二人。

何事にも流れというのがあるもので、その後の試合も無事に蒼が一位を獲得し、勝者は蒼・翠チームという結果に終わったのだった。


こういうゲーム書くの楽しいです。

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