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サークル名が決まりました。

大体のことを決めたはいいものの、肝心のサークル名が決まっていないことに気づいた蒼は、翌日に「各自でサークル名を考えてくるように」という旨を『Line』で伝えた。


その日は大学生活を送るにあたってしないといけないことの対応などにおわれ、サークルのことを考える余裕がほとんど無かったが、さらにその翌日。


サークルとしての初の活動を迎える水曜日、四人は空き教室に集合していた。


「第一回、サークル名決め会議!」


「いえーい」


三人がノリよく拍手を返してくれる間に、蒼は空き教室の黒板に「アイデア」と書き込む。

第一回と言ったはいいものの、本当は早々に決めて活動に取り組みたい蒼としては、あまり時間をかけたくなかった。


「前みんなにLineしたとおもうけど、あれから何か考えてきてくれた?」


「任せい!

ちゃんと相応しい名前考えてきたったで!」


そう言いながら颯爽と立ち上がり黒板に向かう緋色の姿は、蒼達三人にとって頼もしく見えた。

だが、黒板に文字が書かれていくにつれ、全員の顔から表情が消える。


「ほら、これでどや!」


「「「却下で」」」


「なんでやぁ!?」


そこに書かれていたのは『ミルさんの家』。

これではまるで痛いサークルじゃないか、と蒼はため息をつく。


「その名前にしたら、ほかの友達とかにサークルを聞かれた時困りすぎるだろ」


「流石にこれは、擁護できない。

緋色、諦めて」


同じく『メロニカルクエスト』のファンである桃でも、流石にその名前は受け付けないらしい。

緋色も、桃にまで反対されては流石に黙らざるを得ず、そっと肩を落とす。


「なら、桃ちゃんはどんな名前考えてきたんや?」


「私のは、ちゃんとしてる」


そう言って緋色と入れ替わりで黒板に向かった桃からは、普段見られない自信に満ちた雰囲気を感じた。

これには期待できる、と三人が考えている間に桃がその名前を書き終える。


そこには『十人十色』という文字が書かれてあった。


「みんなの名前に色が関係している。

それに、みんなで色んな種類のゲームを楽しみたいって思って考えた。

どうかな?」


「めっちゃええやん!

俺らっぽいし、もうこれで決まりや!それでいいよな!?」


「うん、桃凄い!いいと思う!」


桃の考えた名前に興奮気味になる緋色と翠であったが、蒼がむしろ残念そうな表情を浮かべているのを見て、頭に?マークが浮かぶ。


「どうしたんや?蒼。めっちゃいい名前やないか?」


「あー、うん。そうなんだけどさ」


確かに、『十人十色』というのはいい言葉だと思う。

蒼も好きな分類に入る四字熟語であるし、全員の名前に色が入っているというのもいい発見だと思える。

だからこそ、蒼は申し訳なさそうに告げる。


「『十人十色』っていうサークル、もううちの大学にあるんだよね……」


「へ?」


考えることは同じなのか、もう既に同じ名前のサークルがあったのである。

昨日のうちに、大学にあるサークルに一通り目を通していた蒼だからこそ気づけたのであって、知らないままだったら大惨事になっていたので、今のうちに気づけてよかったと言えなくもないが。


だが、やはりいいと思っていた意見が使えなくなったのは痛かったのか、緋色、桃、翠は一様に沈痛な表情を浮かべる。


「私の意見も、桃ほどしっくり来るものじゃなかったからなぁ。

さっきの意見を聞いてからだと、んーってなっちゃう」


「もう、『ミルさんの家』にするしかないんちゃうか?」


「それは却下」


緋色の冗談で少し和んだが、それでもどうしよう、という空気は変わらない。

そこで、蒼は自分の意見を出してみることにした。


「これは、軽く流してくれる程度で良いんだけどさ」


そう言いながら、黒板にチョークを走らせる。

そこに書かれた文字は『Wish』。

みんなが共通して入りたかった『Wash』を想起させるその言葉に、蒼以外の三人は目を瞬かせる。


「俺たちが出会ったきっかけって、結局のところ『Wash』っていうサークルが確かに存在していたからじゃない?

今は無くなってしまったとしても、俺達を結びつけてくれたのは確かに『Wash』だ」


もしも、最初からゲームサークルが無かったとしたら、蒼は新たに自分で作ろうと思っただろうか?

答えは否だ。

作ろうと思えたのは、緋色や翠、桃の存在があったから。

それを無かったことにするのはどうなのだろうか?と蒼は告げる。


「だから俺は、残念だけど潰れてしまった『Wash』の意志を継ぎながら、俺たちはこのサークルを無くさずに楽しんでいきたいという希望を込めて、この名前がいいかなと思ったんだ」


「なるほど、希望で『Wish』か。

それはなかなか」


「素敵、だね」


「ん、良い」


正直、十人十色の時ほどピンとくるものはない。

だが、考えれば考えるほど、その名前は自分たちのサークルに合っているような気がしてきた。

というより、十人十色はどのサークルでも使える名前かもしれないが、『Wish』は自分たちじゃなければいけない気が、不思議と全員が感じたのだ。


「えっと、本当にいいの?

正直、冗談半分くらいの意見だったんだけど」


「悔しいけど、俺の『ミルさんの家』よりそっちの方がええわ。

蒼の話にも納得やしな」


「私も、とても素敵だと思う」


最後に、グッとサムズアップする桃を確認してから、蒼は苦笑する。


「わかった、じゃあ今日からこのサークルの名前は『Wish』だ!

改めてよろしく!」


「よろしくな!」

「よろしくね」

「よろ」


こうして、正式に四人のゲームサークル『Wish』が活動を開始し始めたのであった。





「とりあえず今日は何をしようか」


無事に始まったはいいものの、なにぶん最初の活動である。

前例も何もない状態にあって、活動内容に蒼は頭を悩ませる。

そこで、緋色がスっと手を挙げる。


「はい、緋色君」


「今日は、みんなで『タマオカート』しようや!」


『タマオカート』とは、長寿ゲームである『タマオ』シリーズでも特に人気を誇る、『タマオ』に出てくるキャラクターでコースを走り、様々なアイテムを駆使して順位を競うというレースゲームである。


緋色に聞いた時点で、恐らく『メロニカルクエスト』を勧められるのだろうな、と考えていた蒼にとって、その意見は目から鱗だった。


「やっぱ、最初やしみんなでワイワイ盛り上がれるゲームがええと思ってな。

みんな、『watch』持ってきとるやろ?」


チラッとみんなに目配せをすれば、全員からYESの反応が。

何をするかは決まってなくても、一番流行っているゲーム機である『watch』はとりあえず所持していたようだ。


「でも、実は私ほとんど『タマオカート』やったことないんだ。

大丈夫かな?」


「全然大丈夫や。

ゲームなんて楽しんでなんぼやしな」


少し前の蒼と同じことを言う緋色に、翠はクスリと笑う。


「なら、やってみようかな。

蒼と桃は大丈夫?」


「うん、俺は前作でやってたから操作はわかるよ」


「ん、『タマオカート』は大得意」


蒼と桃も異論はないようで、初回の活動は『タマオカート』に決定したのであった。

一方の緋色は、桃のその発言に対抗心を燃やす。


「ほう、桃ちゃん、ほな俺と勝負やで」


「望むところ。ボコボコにする」


「ほっほーん、めっちゃ自信満々やな。

じゃあ、負けた方が一位にジュース奢るっちゅうのはどうや?」


「それも望むところ。総合の勝利数でいい?」


「そうしよか」


それを横目で見ながら苦笑するのは蒼と翠。


「この二人はすぐに対決したがるな」


「本当にね。

仲がいいのはいい事だけど」


言いながら、翠は自分の『watch』を手に持つ。


「緋色君が準備するのも時間かかりそうだし、よかったら蒼、私に操作の仕方教えて貰えないかな?」


「うん、任せて」


そう言いながら蒼は翠に簡単に説明を始める。


「まず、基本的に走るのに使うのはAボタン。Bはバックだから、最初のうちは気にしなくていいよ。

あと大事なのは、Xボタンでアイテムを使えるんだ。アイテムはコースの中に分かりやすく設置されてるから、すぐにわかると思う。

曲がり角ではRボタンでドリフトができる。最初は難しいけど、慣れたら早くなるよ」


操作方法の後に簡単に『タマオカート』のルールを説明して、最後に蒼は大事な部分をまとめる。


「とにかく、Aで走る、Xでアイテム、Rでドリフト。

この三つを覚えておけば大丈夫。あとはすぐに慣れるよ」


「へぇ〜、蒼、説明上手だね。

凄くわかりやすかった」


「まあ、これでも一応教育学部だしね」


率直に褒められ、蒼は思わず照れる。

翠は蒼の新たな一面を知り、少し驚いた様子だった。


「でも、ありがとう!

頑張ってみる」


「分からないことがあったらその都度聞いてくれたらいいから」


「うん!」


頑張るぞぉ、と意気込む翠が面白くて、蒼は思わず吹き出す。

それを見て、翠は何よ、と不機嫌そうな表情を見せる。


そんなやり取りを見ていた緋色と桃はというと。


「あいつらの方が仲良いよな、絶対に」


「ん、あの二人は、怪しい」


生暖かい目で蒼と翠のじゃれあいを見守っていたのであった。

尚、話に夢中になっていた二人にはこの発言は届かなかったようで、結局準備が出来た緋色はその後しばらく待たされる羽目となったのだった。


現実世界のゲームとは関係ないですからね!

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