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翠とのデート1

待ちに待った日曜日。

蒼が現在いるのはショッピングモールの入口。

待ち合わせの時間は12時だが、早めに行動するのがモットーの蒼は電車の都合もあり、11時半にこの場所に辿り着いていた。


「ちょっと早く来すぎたかな」


翠が来るまでまだ30分ほどある。

しばらくは携帯のゲームでもして時間を潰していようかな、などと考えていると、「蒼!」と呼ぶ声が聞こえる。


そちらを向くと、翠がこちらへ手を振りながら向かってきているのが目に見える。

余りにも早い翠の登場に、自分が時間を勘違いしていたのかな、と思い時計を見るが、指す時間はしっかり11時半。

どうやら、翠が来るのが早かっただけらしい。


「翠、来るの早いね」


「いや、蒼に言われたくないんだけど!

ごめんね?待たせちゃって」


「いや、ほんと今来たとこだから」


こういうデートの待ち合わせでは、「今来たところ」という言葉を使うのをよく目にする。


女性に気遣いをさせないため、という理由があるのだろうが、今回の蒼の場合は本当に大して待っていなかったので、すんなりとその言葉が口から滑り出ていた。


それにしても、だ。

翠の服装は、いつも大学で見かけるよりも、なんというか、可愛らしい服装をしている。

自分と出かけるためにこういう服装をしてくれているのだと思うと嬉しいが、どうしても言葉に困る。


というのも、蒼はコミュ力は高いが、如何せん高校の闇期により女性と二人で遊びに行くのは初めての経験。

こういう場面でどんな言葉を発したらいいのか、よく分からなかった。


「じゃあ、予定よりちょっと早くなったけど、先にご飯から行こっか?」


「え、ああ、うん。そうだね」


蒼が頷くと、翠はニコッと笑うと、歩き出してしまう。

そこで、蒼は覚悟を決める。

しない後悔よりする後悔とも言う。

蒼は歩き出した翠の横につきながら、声をかける。


「あのさ、翠」


「なーに?」


「えーと、その服、似合ってるね」


「ふぇっ!?」


翠は驚きすぎて思わず変な声をあげてしまう。

翠としても、気合を入れたのは確かだし、蒼にそういった言葉を貰うのを期待していたのも事実だが、突然不意打ちを食らうとやはり嬉しさよりも恥ずかしさが勝ってしまう。


それでも、顔がうっすら赤みを帯びるのを自覚しながら、翠はちらりと蒼を横目で見ると。


「あ、ありがとう。

蒼も、その、かっこ……いいよ?」


蒼に致命的なダメージを与えた。


これには流石の蒼も想定外。

普段なら軽く返すであろう蒼でも、照れるしかない。

言った本人も照れているので、ご愛嬌といったところか。


こうして、最初から自爆し合う二人のデートが始まったのだった。





まず二人が向かう先はフードコート。

ショッピングモール内には多種多様なお店が並んでいるので、勿論他にもお洒落なご飯屋さんも多くあるが、簡単に軽く済ませたいという翠きっての願いから、フードコートで食事を済ませることになった。


「蒼は何食べるの?」


「んー、じゃあ俺はあの店にしようかな」


蒼が選んだのは『麺でゴメン!』という名前のラーメン屋さんだ。

そこはかとなく、店の名前にセンスを感じる。


「ラーメンかぁ、それもいいなぁ、どーしよう」


翠はこういう時に結構迷うタイプのようで、うんうんと頭を唸らせている。

だが、順番に回っているうちにピンと来る店を見つけたらしく、蒼に「私はあの店にする!」と報告する。


翠が選んだのは『LETSオムレツ!』という、オムレツやオムライスの専門店のようだ。


ここのフードコートはダジャレ推しなのだろうか?


そう考えると『麺でゴメン!』が途端に寒く感じてしまい、蒼は考えるのをやめた。


「じゃあ、俺が席確保しとくから、先に買ってきていいよ」


生憎、予定より早く来たことからまだピークの時間帯ではない。

探せば二人で座れる席は見つかるはずだ。


二人とも同時に買いに行って座る場所がないのが一番辛いので、蒼は場所取り役を買って出ることにした。


「え、そんなの悪いよ……」


「気にしないで。

俺の買い物に付き合ってもらってるわけだし」


「でも、それも一茶が迷惑かけたからで」


「翠、こういう時はありがとうって言ってくれた方が嬉しいな」


我ながら臭いセリフだろうか。

そんなことを考え、若干恥ずかしくなる蒼だったが、翠は感動したのかこくんと頷く。


「そうだね、蒼、ありがと」


「どういたしまして」


そうして一旦翠と別れた後、蒼は席探しの旅だ。

思っていたよりも席が空いていないことに驚くが、しばらく歩き回り、偶然にもテーブルのいい席が目の前で空席になる。


すると、同じ考えの人がいたようで、その席に女性のグループが近づいてきた。

自分達は二人だし、テーブル席は譲ろうか、という考えに至ったところで、その女性グループの中に知っている顔を見つける。


「あれ、灰呂さん?」


「………あんたは」


そこに居たのは、授業で隣の席になった灰呂であった。

誰ともつるまないと翠から聞いていたので、こうしてグループでいることに多少驚く。


「なになにー?

灰呂の知り合い?あ、まさか彼氏とか???」


「は?違うし、めんどくさ。

ただの大学の……」


そこで言葉に迷ったのか、灰呂は頭を悩ませる。

確かに蒼と灰呂の関係は言い得て妙だ。

友達や恋人ではもちろんないし、知り合いと言うには遠く、学科も違うため同期とも言いづらい。


その不自然な間で変な誤解をされても嫌なので、蒼が助け舟を出す。


「灰呂さんと友達が同じ学科なんだよ。

だから、ちょっと喋るようになったって感じ」


「へ〜、そうなん?」


「あー、ま、そんな感じ」


灰呂もここで一々訂正するのも面倒だったのか、蒼の言葉に素直に同意する。


そろそろ引き時だろう、と蒼は思う。

このまま話していても、よりめんどくさい事になるのは間違いないし、何より今日は翠とのデート。

席を譲るならさっさと譲って他を探しに行った方がいい。


「この席、灰呂さん達で使いなよ。

俺は他を探しに行くからさ」


「え?それでいいわけ?」


「いいよいいよ、じゃあね」


それだけ返し、蒼は新たに席探しの旅に出る。

この辺りで一番大きなショッピングモールだけあって、知り合いがいることは覚悟していた。

それにしてもこれは早すぎるな、と蒼は軽くため息をついた。


その後、無事に席を確保した蒼の元に戻ってきた翠と入れ替わりで、蒼もラーメンを購入。

二人で手を合わせて「いただきます」をし、食べ始める。


「そういえば、さっきそこで灰呂さんと会ったよ」


「え?そうなんだ、凄い偶然だねぇ」


この前電話で話したばかりの相手に、偶然出くわした奇跡に翠は目を丸くして驚く。

友達らしき人と一緒にいたことを教えると、更に驚いた様子だった。


「もしかしたら、話すのが嫌いなんじゃなくて、まだ馴染めてないだけなのかもしれないねぇ」


翠はそう言いながら、オムレツを食べる手を進める。

普段の灰呂の様子と、蒼が言った外での灰呂の様子。


なんとなくその違いに違和感を感じつつ、大学でまた話しかけてみよう、と決意するのであった。




食事を終えた二人は、ショッピングモール内を散策する。

まずは、前回蒼が買えていなかった、大学で使うノートや用具についてだ。

場所に関しては蒼にはちんぷんかんぷんなので、翠に道案内を任せることにする。


「なんか、蒼が方向音痴って、面白いね」


「そうかな?」


「うん、なんだか蒼って、なんでもできちゃいそうなんだもん」


優しく紳士的でコミュ力も高く、ゲームも強い。

勉強や運動面は知らないが、どちらもそつ無くこなしそう。

完璧超人、とまでは言わないが、それに近しい印象を翠は抱いていた。


それに対して、蒼は軽く苦笑する。


「はは、そんなことないよ。

俺にだって苦手なこともあるし、嫌いな人だっている。

人に優しくするのも、打算もあるし、完全な善意じゃない時もある。

俺だってただの一人の人間だからね」


思い出すのは中学時代。

蒼がこんな性格になったのにも原因がある。

あまり思い出したくない記憶ではあるが。


「でも、私にとっては蒼はヒーローだよ。

無くなったゲームサークルを新しく作ったり、色んなところで私を助けてくれたり、一茶のことも……。

だから、あんまり自分のことを悪く言わないで」


「……うん、ありがとう」


自分を卑下するように言った蒼に、翠が少し怒った口調で言う。

それが自分のことを考えてくれているようで、蒼の心に深くしみた。


「なんか恥ずかしいね。

とりあえず、私が言いたいのは、たまには私のことも頼ってねってこと!」


「うん、そうさせてもらうよ。

今日も、これからもね」


今までも頼りにしていたつもりではあったのだが、翠はそうは思っていなかったらしい。

周りの人の顔色を伺って行動するのは、蒼の長所でもあり大きな欠点でもある。


もう少し、頼ってみようかな。

そんな心境の変化を自覚したことに、蒼は不思議と幸せな気分になるのであった。


こんな恋がしたいねほんとに

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