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『ワンナイト人狼』完

「なんか俺『人狼』ばっかやなぁ。

翠ちゃんと味方になりたいわぁ」


またしても翠にボコボコにされてしまった緋色は、そうガックリと肩を落とす。

蒼としても、今の試合は味方だったからよかったが、敵だったらと思うとゾッとするしかない。


「相変わらず、翠だけレベルが違う。

勝てる気がしない」


「『てるてる坊主』は難しいもんねぇ」


そう呑気に笑う翠だが、明らかにそういう問題ではない。

仮に翠が『てるてる坊主』でもあっさり勝ってしまいそうである。


「それに、私はやってる量が違うからね。

緋色君は今日が初めてだし、仕方がないよ」


「くそー、それは分かっとるけど、やっぱ悔しいもんは悔しいわ!」


そう悔しがる緋色。

蒼と桃も、経験者なのにいいようにやられていることに、緋色以上に悔しさを感じる。


そしてその後も翠の掌で転がされながら、たまに一矢報いつつも、ついに最終戦を迎えることとなった。





「よし、じゃあ今日最後の試合だね」


翠が慣れた手つきでカードを配る。

今日のサークルの時間をフルで『ワンナイト人狼』していることもあって、他の三人も静かに自分の役職を見て、顔を伏せて待機する。


蒼の役職は『怪盗』。

場合によっては一番有利に立てるポジションであり、蒼の中では好きな役職のひとつでもあった。


『人狼』の顔合わせ、『占い師』の時間が終わり、『怪盗』である蒼の時間になる。


蒼が交換対象に選択したのは桃。

翠ばかり選んでいても面白くないという判断である。

そして桃の役職は『村人』であり、一番平和な交換となってしまった。


「それじゃ、話し合いを始めよっか」


その翠の言い出しから、最後の試合が始まった。


まず動いたのは蒼だ。

『怪盗』で『村人』チームを取った時は、対象を言っておく方が村にとって利益となる。

なので、試合が始まって早々に『怪盗』として手を上げる。


「俺は『怪盗』だよ。

桃と交換した。

一旦役職は伏せるよ」


『占い師』の情報を得るまでは、桃が『村人』であることは言わないでおく。

そうした場合、出てきた偽物の『占い師』が破綻する可能性があるからである。


すると、次に翠が手を上げた。


「ごめん、最後なのにあっさり終わっちゃうかも」


「え?」


少し申し訳なさそうに言う翠の目線は緋色に向いている。


「私が『占い師』で、緋色君が『人狼』だったの。

だから、緋色君を処刑したらもう勝てるよ」


「いや、ちゃうちゃう!

俺が本物の占い師やって!」


そこで慌てたように否定するのは緋色だ。

翠のターンを回してしまったら何も出来ずに完敗してしまう。

緋色は自分が本物であると主張しながら蒼の方を指さす。


「俺は蒼を占って、『怪盗』って出たんや!

翠ちゃんは『人狼』か『てるてる坊主』でみんなのこと惑わしてきとる!」


「でも、蒼が自分で『怪盗』ってもう言っちゃってるから、緋色君が偽物でも同じことは言えるよね?」


ニッコリと笑う翠。

相変わらず、『人狼ゲーム』の時は有無を言わせない迫力がある。


「あー、そこの話し合いの前に、まず俺の結果だけ言ってもいい?」


「了解。

私の役職と一致していたら信じる」


「まあ薄々バレてると思うけど、桃は『村人』だったよ。

これは、最初に名乗り出てちゃんと『村人』である桃を指名してることから信じて欲しいかな」


蒼が言っているのは、一試合目のような展開のこと。

つまり、翠がやったように、『人狼』と交換したのに『村人』と交換したと嘘をついているパターンを懸念してのことだ。


だが、あれは翠が前もって蒼の情報を知っていたから出来たことであって、今回の蒼のように最初から名乗り出るにはハイリスクすぎる。


そのことから、他の三人は蒼の結果を信用することにした。


「私は『村人』。

結果はバッチリ。信じよう」


「まあ、俺は蒼が『怪盗』って知っとるからな。

桃ちゃんは『村人』で間違いないし、問題は翠ちゃんが『人狼』か『てるてる坊主』かってことや」


「私の場合は、緋色君が『人狼』だって知ってるから。緋色君さえ処刑できれば勝てるよ」


今のそれぞれの目線としてはこんな感じだ。


緋色→翠が『人狼』なら翠を処刑。翠が『てるてる坊主』なら誰も処刑しない、いわゆる『平和村』を選択。


翠→緋色が『人狼』であると占って知っているので緋色を処刑する。


蒼と桃→緋色か翠のどちらかの意見を信じる。


つまり、あとは翠VS緋色の討論に結果は委ねられたわけだ。

緋色は今のところ、同じチームでの勝利はあったものの、一度も敵として翠に勝利できていない。

最後の最後で初勝利が欲しい緋色は、必死に二人を説得する。


「俺は、翠ちゃんは『人狼』の動きやと思ってる!

もし翠ちゃんが『てるてる坊主』やったら、ここで俺に対して『人狼』やって言うて処刑を押すより、一試合目みたいに俺と翠ちゃん二人同時処刑をするはずやからな!」


緋色が言うのは、一試合目に適用されたルールの穴。

二人同票だった際に、二人とも処刑することが出来るルールのことだ。

確かに翠の視点では緋色は『人狼』確定であり、『てるてる坊主』はありえない。

自分と緋色を処刑する選択肢が一番賢いと言える。


だが、そこは流石翠。

すぐに切り返す。


「私はそれでもいいよ?

緋色君が私を『人狼』だって思うんなら、私と緋色君の二人を処刑するのが安牌だと思うし」


こう返されては、緋色も迷うしかない。

何しろ、緋色の視点では翠が『てるてる坊主』では無いという確信がないのだ。

ここで安易に翠の誘いに乗って二人を処刑した場合、また翠の一人勝ちになってしまう可能性がある。


そこで更に翠が追い打ちをかける。


「私は最初から『占い師』で出て、緋色君を『人狼』だって言った。

そしたら緋色君はその段階で自分が本物だって言って出てきたよね。

それに、占い先はもうみんなが知ってる蒼の『怪盗』。

これって明らかに、『人狼』が慌てて出たきたようにしか見えないと思うんだけど」


その説得力のある言葉に、蒼と桃は頷くしかない。

翠が強いということは勿論だが、緋色の目線で『人狼』か『てるてる坊主』かをハッキリと言えないのは、やはり少し偽物っぽく映ってしまう。


自分の劣勢を知ったのか、緋色は慌てて言い返す。


「じゃあ『平和村』にしよや!

なんとなく翠ちゃんは『てるてる坊主』な気がするんや!」


「あれ?さっきは『人狼』っぽいって言ってたのに次は『てるてる坊主』なんだ。

言ってることがぶれぶれだよ。

自分が『人狼』だから、ここで誰も処刑しなかったら勝てるもんね。

二人とも処刑にしたら緋色君は負けちゃうし、仕方ないかな?」


翠の追い打ちにつぐ追い打ち。

緋色は既にボロボロだ。

蒼と桃も、明らかな発言力の差に緋色が可愛そうになってきてしまう。


「もう諦めた方がいいよ緋色」


「ん、よく頑張った。

お疲れ様」


既に二人は緋色が『人狼』であると思っている。

そのことに気づき、緋色は諦めのため息をつく。


「ほんまに、俺を処刑したら後悔するからな」


ただ、その言葉はただの負け犬の遠吠えにしかならない。

そして、緋色が全員一致で処刑されてしまう。


そして、勝利を確信したのは翠だ。


「あは、実は私が『人狼』だったの」


「え?」

「うそ」


翠は自分のカードをみんなに見せる。

確かにそこに書かれていたのは『人狼』の絵だった。


「最初から『占い師』で出ようと思ってたの。

そしたら、蒼が『怪盗』で桃と交換したっていうから、緋色君を『人狼』に仕立てあげようと思って。

偶然緋色君が『占い師』で、蒼を占ってくれてて助かったなぁ」


つまり、翠が最初に申し訳なさそうに緋色を『人狼』だと言ったことも、わざと二人とも処刑する提案を自分から提示したのも、全てが作戦だったということだ。


結局は翠の掌の上。

何度も戦って翠の強さはわかっていたはずなのに、それでも思考を操られていたことがどうしようもなく怖い。


完敗だ、と肩を落とす蒼と桃に対して、いつもは真っ先に悔しがる緋色が何も言わない。

かと思うと、「ふっふっふっ」と不気味な笑い声を上げる。


「何を勝ち誇っとるんや翠ちゃん。

勝負は全部確認してからじゃないとなぁ?」


「え、まさかっ!?」


慌てて翠が緋色のカードをひっくり返す。

そこに書かれていたのは『てるてる坊主』の絵。


「俺を処刑したよなぁ?

つまり、この勝負俺の勝ちや!!」


まさかのどんでん返しに、全員が唖然とする。

まさか、緋色が翠を騙すような展開になるとは誰も想像していなかった。


「翠ちゃんに『人狼』やって言われた時は、正直ラッキーやと思ったんや。

このまま大人しく処刑されたら俺の勝ちになるからな」


ただ、その場合だと、桃が『村人』だった場合に矛盾が発生する。

役職もなく処刑される緋色の役職が何か、という話になるのだ。


緋色の目線では、翠は『人狼』だと分かっていたし、自分が『てるてる坊主』だとバレれば翠は意見を撤回する。

恐らく、「実は様子を見るために嘘をついていて緋色は『てるてる坊主』だから『平和村』にしよう」とでも流れを変えられていたことだろう。


その場合に本当に『てるてる坊主』である緋色にはなすすべがなくなる。

だから、緋色はわざと嘘っぽい『占い師』を演じることで処刑されてみせたのだ。


「全然気づかなかったよ。

今回もまた翠にボロボロにされてるなって思ってたのに」


「いつまでもやられっぱなしの俺じゃないんや!

有言実行、初勝利頂いたで!」


緋色は嬉しそうにガッツポーズ。

対する翠はかなり悔しそうだ。


「うわぁ、でも今のは緋色君が上手かったなぁ。

悔しいなぁ」


自分の発言とゲームの展開を見直し、頭を抱える翠。

そして、ぱっと顔を上げると全員に向かってこう言った。


「またやろうね!

次は負けないから!」


あれだけ勝ったのに一度の負けをこれほどまでに悔しがる翠を微笑ましく思いながら、三人はしっかりと頷くのであった。



最終戦結果


蒼→『怪盗』から『村人』

翠→『人狼』

桃→『村人』から『怪盗』(『村人』)

緋色→『てるてる坊主』


『てるてる坊主』チーム(緋色)の勝ち。


人狼回終了です。

いい感じに頭脳戦ぽく書けたと思います。

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