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『ワンナイト人狼』2

何が起きたかわからず呆然とする三人に、翠が種明かしを始める。


「まず、最初のターンで私は緋色君と『人狼』を交換したの。

だから何か動こうかなと思ったんだけど、もう一人仲間がいるかもしれないし、緋色君が『人狼』として何かするかもしれなかったから、最初は様子を見ることにしたの」


そして、結果として桃と緋色が『占い師』として立候補することになる。

占い結果を聞いた翠は、あることを確信した。


「まず、桃と緋色君の二人が出てるってことは、その二人が『人狼』同士ってことは有り得ないでしょ?

で、桃が『てるてる坊主』の可能性もあったけど、緋色君が『占い師』に出た時に桃がなんで言ったか覚えてる?

『そう来ると思った』って言ったの」


それは、相手が『人狼』であることを分かってるからこそ出てくるセリフ。

つまり、桃は『てるてる坊主』なんかではなく、本物の『占い師』であると翠は確信する。


「あとの問題は蒼の役職が何か、ってことだったの。

私が『怪盗』だから、残ってるのは『村人』かもう一人の『人狼』か『てるてる坊主』のどれか。

でも、蒼の反応的に、緋色君の仲間が蒼って言うことは考えにくかったの。

仲間が『占い師』に出てたら、どうしてもそっちに意識がいってしまいがちだけど、蒼からはそんな素振りがなかったからね。

だから、まずは『人狼』の線を省いた」


順番に明かされる真実に、三人は唖然とするしかない。

一つは緻密に練られた戦略に。

もう一つは翠の圧巻の強さに。


「『てるてる坊主』だったら、自分が処刑される為に何らかのアクションを起こさないといけないよね。

このままだと、桃と緋色君から処刑されるのは分かりきってたから。

それなのに、蒼は自分のことを『村人』って言った。

これは『てるてる坊主』なら勝ちを捨てているようなもの。

だから、蒼は『村人』だって確信して、私は『怪盗』で蒼と交換したって嘘をついて、安全な位置に立ったの」


あそこで蒼は翠が仲間である、と錯覚した。

自分と交換してその役職が一致していたら、本物であると人間は錯覚してしまう。

その心理を翠は利用したのだ。


「後は簡単だよね。

緋色君と桃が『村人』チーム同士で争いあっているのを、安全な位置で眺めるだけ。

正直どっちが処刑されても、私が処刑されることは無かったから、あの時点で勝ちは決まったかなぁ」


「強、すぎるでしょ」


なんでもないように言う翠に、蒼は絶句。

全てが掌で踊らされていたような感覚すら覚えてしまう。


「蒼、だから私は言った。

翠にこの手のゲームで、勝てる気がしない」


「ここまで圧勝されたら、なんの文句もいえんなぁ。

だぁぁ、悔しいなぁ!」


「あはは、まあ、今のは『怪盗』で『人狼』を取れたのが運が良かったってだけだから。

普通はこんなに上手くいかないよ」


そう言って微笑む翠だが、話はそう単純なことでもない。

翠がこのゲームを得意と言った理由が、蒼にはよくわかった。


「もう一回や!

どんな感じか分かってきたから、次は勝つぞ!」


「うん、このゲームでは翠を信じちゃいけないってことがよくわかったよ」


「ちょっと、酷くない?」


そうおどけたように笑うが、そもそも『人狼ゲーム』では人を信じすぎてはいけない。

翠もそのことはよく分かっているので、それ以上言及することはなかった。


一戦目結果

蒼→『村人』

翠→『怪盗』から『人狼』

緋色→『人狼』から『怪盗』(『村人』)

桃→『占い師』


『人狼』チーム(翠)の勝ち。





そして始まる二試合目。

蒼は『占い師』の役職を得る。

さっきは『村人』で何も出来ないまま負けてしまったので、強力な役職になれたのは嬉しいことだった。


一試合目と同様にまずは『人狼』の顔合わせがあり、『占い師』である蒼の順番になる。

蒼はさっきの試合結果から、一番敵に回したら怖い翠のカードを見ることにした。


(翠は……『村人』か)


翠が味方チームであることに、蒼はホッとする。

ただ、問題はそれを信じてもらえるかどうか。

そこは自分の腕の見せ所だな、と蒼は気を引きしめる。


そして、『怪盗』の順番も終わり、いよいよ二試合目の話し合いが始まった。


「じゃあ、さっきとは違って『怪盗』の人から出てもらおっか?」


「いーや、さっきは翠ちゃんを信じて痛い目に遭ったんや。

俺はさっきと同じように『占い師』から出ることを提案するわ!」


一試合目と同様に進行しようとする翠に、緋色が異議ありとばかりに申し出る。

翠が『村人』であることを知っている蒼にとっては構わないのだが、その緋色の言葉に桃も同意する。


「私は緋色に賛成。

不要なリスクを負う必要はない」


「もー、信用ないなぁ」


頬を膨らませて文句を言う翠だが、最初の順番自体には拘りはなかったようで、緋色の提案を素直に受け入れる。


そして同時に『占い師』が名乗り出ることになり、せーので蒼が手を上げる。

すると。


「あ、蒼が対抗なんだね」


「え、翠?」


『占い師』の対抗に出ていたのは、『村人』のはずの翠であった。

当然、蒼は混乱する。

だが、その事を知らない緋色と桃は、「また二人かぁ」と残念そうである。


「私が『占い師』を最初に出したくなかったのは、私が『占い師』だったからなの。

『怪盗』が嘘をついてたら分かるようにしたかったから」


その言葉に、緋色はなるほどな、と頷く。


「だから、結果を言う前に『怪盗』を出したいんだけど、いいかな?」


「まあ、いいんとちゃうか?」


「うん、俺も賛成かな」


翠の言葉に、蒼は「何か作戦があるのだろう」と頷く。

正直、翠の行動は奥が深く、自分には皆目検討もつかないが、悪いことにはならないだろうという判断である。


そして『怪盗』には、桃が名乗り出る。

交換の指名先は翠。

桃は『占い師』を交換したという。


「私が緋色に賛成したのは、私が『怪盗』だったから。

翠から『占い師』を奪って、本物を知っていたから、偽者をあぶりだしたかった」


「ほーん、なるほどな。

じゃあ、蒼が偽物っていうことになるなぁ?」


桃の言葉を受け、ニヤニヤと笑う緋色。

それに対して、蒼も慌てて反論する。


「いや、俺が本物だよ!

そもそも、俺は翠を占って『村人』って出たから、桃の言ってることは嘘っぱちだよ」


「翠が『村人』ぉ?

そんなわけないやろ!

ヤケになってめちゃくちゃなこと言っとるやないか。

やっぱ蒼が人狼か?」


「ううん、私は『村人』だよ?」


そこであっさりと意見を撤回する翠。

これには、緋色も桃もびっくりだ。


「え、でもさっき『占い師』やって」


「あはは、ちょっとかたってみたの。

本当は何の能力もない『村人』だよ」


「どういうことや……?」


緋色は明らかに混乱している。

桃も突然の状況の変化についていけてないようだった。


「俺は翠が『村人』だって知ってたから任せてたけど、どういう理由だったの?」


「そ、そうやそうや、納得できん理由やったら、むしろ翠ちゃんが怪しくなるからな!」


「大丈夫、今から説明するから」


そう言い、翠は順番に意図を説明して行く。


「まず私が『占い師』に出た理由は、もしも対抗が出てきた時に、その人が本物の『占い師』か偽物かを見極めたかったから。

『占い師』が余っちゃって、いないってことも有り得るからね。

私のことを占って『人狼』って言ってきたりしたら偽物って分かるから、まずそこの判断がしたかったの」


仮に三人出てきた場合は、結果だけ聞いてから後で引けばいい。

いずれにせよ、偽物が「翠は『村人』だ」と嘘をついて偶然当たってしまうというリスクを無くすことが出来るのだ。


「そしたら、蒼が私が『占い師』に出たことに驚いていた。

それに、私の提案に反論もしなかった。

このことから、もしかしたら蒼は本物で、占ったのは私だったのかなって思ったの」


もしそうならば、どれだけ嘘をつき続けても最後には『占い師』という味方がついてくる。

つまり、かなり攻めた動きをしても問題ないことになる。

そして結論その通りだった。


「その後は、『怪盗』がいるかどうかを知りたかった。

いたら更に情報が増えるからね。

そしたら、桃が私と交換して『占い師』になったって言うから、桃が嘘をついてることがわかったの」


桃の視点からすれば、翠の堂々とした姿と提案から、翠が本物であると思ってしまったのだろう。

それこそが翠の仕掛けたトラップであった。


「後は、桃の役職と緋色君の役職が何かだよね。

それに関しても、ある程度の予測はついてるかなぁ」


「……それで、その予測って?」


相変わらずの凄まじい推理に、蒼は驚愕を押し殺す。

まさに翠の独壇場である。


「緋色君は桃が『怪盗』として出たことに、何も反応してなかったよね。

それに、最初に「『怪盗』からじゃなくて『占い師』からにしよう!」ってみんなに提案したのも、『怪盗』で『人狼』になってたりしたら言いにくいと思うの。

だから『てるてる坊主』か『人狼』のどっちかだと思う」


「いや、俺が本物の『村人』やで!」


本物の『占い師』である蒼が翠の『村人』を保証していることから、この時点で蒼の視点でも緋色が嘘をついていることが分かる。

緋色も、『占い師』や『怪盗』だと今更言うことも出来ないので、『村人』と主張することしか出来ない。


「更に言うと、もしも緋色君が『てるてる坊主』なら、蒼に対してあんなに処刑を持ちかけるのはおかしいよね?

自分が処刑されにいかないといけないのに、明らかに避けようとしてた。

だから、緋色君は『人狼』だと思うな」


その翠の推測に、蒼も確かにと納得する。

緋色の蒼に対する圧力は、完全に殺しに来ていた。

明らかに『てるてる坊主』のそれではない。


「桃の役職が何かは確証がないかなぁ。

でも、『怪盗』で『人狼』を取ったんだとしたら、リスクを侵して私と交換した、って言う必要が無いと思うの。

それに、緋色君と桃が二人とも人狼なら、『占い師』にどっちも出ないのはちょっと変だから、そこが仲間なのも考えにくいかな。

だから、多分桃は『てるてる坊主』だと思うよ」


説得力しかない言葉で、蒼はさっきの桃の「味方なら頼もしい」という言葉を改めて噛みしめる。


緋色も桃も懸命に反論するが、生憎蒼の目線では『村人』である翠と矛盾している彼らは、揃って嘘つきであった。


「だから、私は緋色君に投票すれば勝てると思うな」


「うん、わかった。

めちゃくちゃ納得したし、俺も緋色に入れるよ」


そして投票の時間。

緋色と桃が投票を揃えても、蒼と翠の二票が入っている緋色は確実に処刑されてしまう。


そして緋色が処刑され。

翠の予想通り、『村人』チームである蒼と翠の勝利が決定したのであった。


二戦目結果

蒼→『占い師』

翠→『村人』

緋色→『人狼』

桃→『てるてる坊主』


『村人』チーム(蒼と翠)の勝ち。


翠だけ別ゲーしてる。

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