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『メロクエ人生ゲーム』完

全員が『結婚マス』以降の闇のゾーンへと到達した『メロクエ人生ゲーム』は、その後混沌とした試合展開を迎えていた。


緋色は仲間を増やしたり減らしたりを繰り返しながら何とか前へと進む。

持っていた4000Gはとっくの昔に『道具屋』に徴収され、いつから無一文になったかろくに覚えていない。

ずっと共に道を歩む☆3の『ほねゾンビ』に、不思議と愛着が湧いてくる始末だった。


翠は緋色とは逆に、魔物を新しく仲間にすることこそほとんど無かったものの、失うイベントを引くこともなかった。

正確に言えば一度失いかけたのだが、『道具屋』で買っていた『薬草』で守ることに成功していたのだ。

0Gで修羅の道を歩む翠にとって、むしろお金のマイナスイベントは全く怖くなく、快調な道のりと言えた。


桃は一番波がなく、プラスのイベントもほとんどなければマイナスのイベントもほとんど無い、まさにフラットに進んでいた。

序盤はあんなに好かれていた『魔物とのエンカウント』でのルーレットは不調で、強力な魔物を仲間にすることは全然できていなかったものの、☆1や☆2の魔物は順調に仲間にすることに成功していた。


そして蒼はというと。


「おかしいやろ、なんで蒼ばっかりそんな引き強いねん!!」


今、厳しいマスのちょうど間にある『10000Gゲット』のマスに順調に止まっていたところだった。


「さすがにこれは審議が必要」


「蒼は運も強いんだねぇ」


その周りからの言葉に、蒼も流石に自分が今ついていることを自覚する。

なんと蒼は、今まで(緋色調べで)誰も成し遂げたことがない『パートナーとの離婚』を成立させていたのである。

更に今10000Gを得たことでその所持金は12000Gにまで伸ばし、魔物も着々と仲間に加えていた。

まさに順風満帆とも言える蒼の進行に、波乱万丈が代名詞の緋色は羨む他ない。


最初はことあるごとにイチャモンをつけていた緋色だったが、今では単に羨ましがることしか出来なかった。

蒼の運が良すぎてもはや諦めたのである。



そしてゲームは終盤戦に突入する。

現在の順位は、魔物のレア度計算で、1位から順番に蒼、桃、翠、緋色の順番である。

だが、そこには思っている以上の差はなく、何か一つ狂えば順位が入れ替わる可能性があった。


そして、その流れを変えたのは、最下位である緋色の一投であった。

この『メロクエ人生ゲーム』がクソゲーと言われる所以。

その理由を、全員が痛感することになる。


「よっしゃあ!!!きた!きたで!

俺のターンや!!」


緋色が止まったのはゴール地点の1マス直前にある『お見合いマス』。

通称『窃盗マス』であった。

このマスは、説明上では『自分の魔物に好きな相手が出来た。お見合いの機会を与えてあげよう!』と書かれている。

だが、それは言い換えると『相手の好きな魔物を一体奪う』というとんでもない意味に変換される。


そしてこのマスをずっと待っていた緋色は、勿論この男を指名する。


「俺が交換するのは、蒼の『フェンリル』や!」


「まあ、そうだよねえ」


緋色がとりわけ嫉妬心を見せていた蒼。

その蒼が持っている最高レア度である☆10の『フェンリル』。

狙わない理由がない選択に、蒼もそうなると悟っていたのか、まるで交通事故にあったかのような状況を大人しく受けいれる。


こうして蒼からマイナス10、緋色にプラス10のレア度が換算されたことで、順位は一気にひっくり返る。

緋色が1位に踊り出て、蒼は2位、桃が3位、翠が4位となり、緋色の下克上が果たされた。


「はっはっはっ、俺はこの時をずっと待ってたんや!」


「もういっそ清々しいよ」


勝負事になると一気に性格が悪くなるということを知れただけでも僥倖ぎょうこうか、と蒼はため息をつく。


そして翠と蒼がその次の周でゴールに到達し、新たな魔物を得ることはなくなる。

そして桃もまた、後2マスでゴールという位置にいたことで、緋色は勝ちを確信していた。


「もうゲームも終わりや。

後は桃ちゃんと俺がゴールして俺が優勝。

ハッピーエンドやで!」


緋色の計算はたしかに分からなくもない。

普通の人生ゲームで、こんな終盤でここまでの差がついていたら、勝敗は決まったも同然であろう。

桃はこのままだと緋色に勝てず、緋色の優勝が決定してしまう。

そう、これが、『普通の人生ゲーム(・・・・・・・・)』であるならばそうなっていたかもしれない。


だが、これはあくまで『メロクエ人生ゲーム』。

プレイする中で全員がしっかりと認識した『クソゲー』である。

そしてそのことを一番知っていたはずの緋色は。

圧倒的勝利宣言に酔いしれている間に。


「あ、1が出た。

あれ?『お見合いマス』?」


ゴール直前、自分のいる位置に止まった『リボン』のコマに、声にならぬ悲鳴をあげるのであった。


「待って、待ってや桃ちゃん。な?考え直そ。

ここで蒼の☆9の『クラーケン』奪って、☆4以上引いたら勝てるんやで?

もし引けやんくても、ワンツーフィニッシュや。

ずっと蒼のこと羨んどったし、悪くない案やろ?」


このままでは負ける。

そう確信した緋色は、必死に桃を説得する。

その姿はまさに惨めそのもの。

あまりにも全力な緋色の姿に、蒼と翠は笑いを堪える。


「確かに、緋色の言うことにも一理ある」


緋色の言葉は、例えその姿勢が醜くてもある程度の説得力はあった。

桃自身、道中で何度蒼の強運を羨んだことか分からない。

ここで蒼の『クラーケン』を取れば蒼は最下位に陥落、自分は最低でも2位と、悪くない結果を得ることが出来る。


だがしかし。


「忘れたとは言わせない。

私が『バルキリー』を仲間に出来なかった時、緋色が言った数々の嫌味を」


桃は忘れていなかった。

中盤、緋色から煽りのような言葉を受けたこと。

あの時は我慢したが、許すかどうかは話が別だ。


「一生後悔するといい。

私は、緋色の『フェンリル』をもらう」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」


その慈悲の無い断罪に、緋色が断末魔のような叫びを上げ、『メロクエ人生ゲーム』は終着を迎えたのであった。



『メロクエ人生ゲーム』

勝者:桃

2位:蒼

3位:翠

最下位:緋色





「いやー、おもろかったなぁ」


「うん、緋色の醜さがふんだんに見えて面白かったよ」


「あれは忘れてくれんか……」


蒼が笑顔で言う痛烈な毒に、緋色は思わず顔を覆う。

勝負事をしている時の緋色は、勝負に真剣なあまり、自分の性格が酷いことになると自覚していた。


「でも、真剣ってことだからいいんじゃないかなぁ」


「ん、緋色は立派に戦った。

それは誇っていい」


「翠ちゃん、桃ちゃん……」


「……まあ、最下位だけど(笑)」


「桃ちゃんは絶対に許さんからなぁァァァ」


暴れ狂う緋色。

日が暮れ始めるまで盛り上がった『メロクエ人生ゲーム』は、終わったあとも別の意味で盛り上がりを見せていた。


「まあでも、本当に楽しかったよ。

緋色、ありがとう」


そんな様子を微笑みながら見守る蒼は、緋色に改めてその言葉を告げる。

思えば初のサークルも今日も、緋色の勧めるゲームで楽しむことが出来ている。

そのことに、緋色は感謝をしておきたかった。


「うん、お部屋も使わせてもらったしね」


「『メロクエ人生ゲーム』も斬新でよかった。

感謝する」


「なんやねん急に、調子狂うなぁ」


更に翠と桃からも礼を言われ、緋色は思わぬ状況に若干の照れを見せる。


「言っとくけど、『Wish』の活動はまだまだこれからやからな!

今日は俺がゲーム企画したけど、みんなの企画も待っとるからな!」


「うん、わかってるよ」


「私も、何か考えるね」


「アテはある」


三者三様の返事に緋色は満足気に頷き、本日の遊びはお開きとなったのであった。





緋色の家を出た三人は、夕暮れの中、駅までの道のりを歩く。

翠と桃は基本的に電車での通学のため、駅まで二人で帰ることも多かった。

蒼は「俺はどうせ家近いから」と、そんな二人を送る役目を担っていた。


「それにしても、緋色君の家、凄かったね」


「うん、なんというか、予想通りというか」


「期待通りの間違い」


そんな三人の話の種は、専ら先程までの緋色の家についてである。

緋色の家、と聞いて真っ先に思い浮かぶままの家の内装に、三人は笑い声をあげる。


そして『メロクエ人生ゲーム』の感想についての話も終わり、話題は次のサークルについての話へ。


そこで、翠がずっと考えていたことを言う。


「実は、私もやってみたいなって思ってたことがあったんだけど、次のサークルではそれをしてもいいかな?」


「お、何をするの?」


「んー、それは内緒」


そう言いながら唇に指を当てる翠の姿は、夕日のせいか少し眩い。

普段は遠慮気味な翠が自分の好きなゲームを企画するということに、蒼が反対するわけもなかった。


「おっけー、じゃあ楽しみにしてるよ」


「翠のやりたいこと。

なんとなく想像はつくけど、私も賛成」


桃はさすがに高校からの付き合い。

翠が得意なゲームが何かも知っている。

そしてそれが舞台では自分が翠に勝てないことも。


その反応を見て、思えば翠の得意なゲームのジャンルは何なのだろうか、と蒼は考える。


『タマオカート』のようなレース系も前回のサークルが初だったし、アクション系の対戦ゲームは桃に勝ったことがないと聞いている。

『アワークラフト』のような自由系なのかな、と思うも、最初の会話で『あまり上手くない』と言っていたことを思い出し、それも違うかと首を捻る。


翠に聞いてみようかな、とも思ったが、折角秘密と言っているのだし、無理に聞く必要も無いか、と考え直す。


それも次のサークルの時にわかるのかな、と新たな楽しみをひとつ加えながら、蒼は期待に胸をふくらませた。


長かった人生ゲームが終わりました。

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