表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

出会い

久しぶりの投稿です。

外出できない皆さんのために楽しい小説を書いていきたいと思います。

これからよろしくお願いします!

自称進学校の高校に通っていた神谷蒼かみやそうにとって、大学生になるということはまさしく夢のようなものであった。


蒼の高校時代は、振り返ると困難に満ち溢れていた。


終わらない課題。

降り積もる予習復習。

キリがない受験勉強。

訳の分からない校則の数々。


恋愛禁止とかどこのアイドルグループなんだよ、と何度友達と話し合ったことか。

今のご時世で、そんな堅苦しいルールを設けている高校を蒼は他に知らなかった。


勿論、律儀に校則を守っているやつばかりではないので、隠れて付き合ったりしているカップルもいたにはいたが、勉強に追われ続け、通学にも時間がかかった蒼には、生憎そんな余裕は皆無だった。


朝起きたら学校に行き、帰ったら次の日の宿題をし、残った時間でゲームをすることだけが楽しみの毎日。

そんな日々の中で、蒼は少しずつその想いを強くしていった。


『早く大学生になりたい』


4つ上の兄がいる蒼にとって、自分が必死に勉強している中で遊び呆けている兄を見るのは中々に苦痛だった。

だがそれは逆を返せば、大学に進学すればそれだけ楽しみが待っているのだということ。

今の環境から解放され、楽しい人生を送りたい蒼にとって、それは朗報とも言える知らせだった。


そして現在。

無事に大学に合格し、入学を果たした蒼は。


自分が絶対に入りたいと思っていたゲームサークル『Wash』の部室の前で。


扉に貼ってある『廃部』と書かれた紙を見て泣き崩れていたのであった。





「嘘だろ、このためにこの大学を選んだと言ってもいいのに」


呆然とし、蒼は思わず独り言を呟いてしまう。


だが、それも仕方がないことだろう。

蒼が大学を決める上で、1番は自分の学力レベル、2番は将来性を重視したが、その次に食い込むほど「楽しいゲームサークルがあるかどうか」が大事だったのだ。


これは、某アニメを見ていて、こんな楽しい大学生活を送りたい、と理想のようなものを抱いていたからで、自分の好きなゲームでそんな日々を過ごすことが出来ればどれだけ幸せかと考えた結果でもあった。


そんな自分の中での理想像がポロポロと崩れていく。

それはあまりにも悲劇的で、受け止めきれない現実でもあった。


そんな蒼の近くに、まるで漫画のようにorzのポーズをしている金髪の男の姿があることに気づく。

顔は見えないが、『Wash』の部室前であることもあり、なんとなく親近感を覚えた蒼は、その男に声をかけてみることにした。


「あの、すいません」


その声に反応した金髪の男は、ぱっと顔を蒼の方に向ける。

その顔は中々に美形であまりゲームをするようには見えなかったため、一瞬、勘違いかな?と思った蒼であったが、その手元に蒼の好きなRPGゲームのキャラクターのグッズを見つけ、思わず声に出してしまう。


「あ、それミルさんじゃ?」


ミルさんとは、そのRPGに出てくる、いわゆるヒロイン的なポジションにいるキャラである。

主人公である自分と共に旅を進め、時には助言を受け、更にRPGにしては珍しく若干の恋愛要素も入っていることから、かなりの人気を博している。


そんな蒼の言葉を受けた金髪の男は、体を起こすと震えた口調で蒼に返答する。


「そうなんよ、わかるんか?

もしかして、同士なんか?」


金髪の男は、中々の関西弁だった。

一瞬固まる蒼であったが、大学は色んな県から人が集まるということを思い返し、これも普通のことだと考える。


「同士かはわからないけど、ミルさんは俺も好きだよ。

『メロニカルクエスト』俺もやってたし」


『メロニカルクエスト』とは、ミルさんが出てくるRPGの名称である。

かなりの有名作品なので、ゲームオタでなくても知っているとは思うが、金髪の男は蒼の言葉に感動したようだった。


「よかった、同士がおって。

ゲームサークル入りたいなと思って来てみたら楽しみにしてたサークル潰れてるし、これからどうしようかと途方に暮れてたところやったんや。

よかったら、ちょっと喋らんか?」


「うん、いいよ。

俺も同じような状況だったし」


「よっしゃ!

じゃあ、ここにずっとおっても邪魔やし、ちょっと場所移そか。

あ、それと俺は町田緋色まちだひいろや。

よろしくな」


「俺は神谷蒼。こちらこそよろしく」


ガシッと握手を交わした二人は、丁度いい時間だということで、食堂へと向かおうという話になった。


そんな二人に、後ろから声が掛かる。


「あの、『Wash』の先輩方、でしょうか?」


振り向くと、そこには二人の女の子の姿があった。

声を掛けてきた方は、少し赤みがかった短めの髪がよく似合っている、可愛らしい雰囲気の子だ。

もう一人の子はその子の陰に少し隠れているし、髪も長く伸ばしてあまり表情を窺えないようになっているため、もしかしたら恥ずかしがり屋なのかもしれない。


そう判断した蒼は、怖がらせないようにできるだけ笑顔を心がけながら言葉を返すことにした。


「俺たちは『Wash』に入るために来た新入生だよ。

残念なことに、廃部しちゃったみたいだけど。

もしかして君たちも?」


「あ、はい、じゃなくて、うん。

そうなんだけど、そっかぁ、やっぱり、何かの間違いとかじゃなかったんだ」


「実は俺たちも今ここで出会ってその話をしていたところだったんだよ」


「あ、元々友達ってわけじゃなかったんだ。

仲良さそうだったから、てっきりそうなのかなと思っちゃってた」


そこまで話して、ふと思いつくことがあった。

ここで出会ったのも何かの縁なのかもしれない。

そう思った蒼が緋色の方を向くと、緋色は俺も賛成やとばかりにアイコンタクトを送ってきたので、蒼は軽く頷く。


「あのさ、俺たち今から食堂に行くところだったんだけど、よかったら一緒に行かない?

『Wash』に入るつもりだったってことは、ゲームも好きなんだろうし、これからどうするのかも聞いてみたいし」


なるべく、二人に話しかけるようにして蒼はそう尋ねる。

長い髪の女の子がもし人見知りなのだとしたら、初対面の相手と一緒に食事をとるのは緊張する部分もあるだろう。

そう思い、無理なら大丈夫だよ、と冗談げに付け足すことも忘れない。


二人は一瞬目を合わせたが、長い髪の女の子が小さく、でも確かに控えめに頷いたのを見て、決まったようだった。


「わかった。

じゃあ、ご一緒させてもらうね」





無難な会話で話を繋ぎ、食堂へと腰を下ろした四人は、まずは自己紹介から入ることにした。


「とりあえず、俺から自己紹介するよ。

俺は神谷蒼。緋色にも言い忘れてたけど、学科は小中の数学科だ。好きなゲームは『アワークラフト』。自由に遊べるゲームが好きだけど、基本的に何でもやるよ」


蒼の通っている大学は教育系の大学のため、学部は教育学部しか存在していない。

そのため、伝えるのは学科のみでいいという判断で軽く流すことにした。


「じゃあ、次は俺やな。

俺は町田緋色や。学科は中等の数学やから、もしかしたら蒼とは授業被ることもあるかもしれんな。

好きなゲームは勿論『メロニカルクエスト』や!

ミルさんが推しキャラや!よろしく!」


そう言いながら取り出したスマートフォンにはきちんとミルさんのストラップがついていて、思わずみんな吹き出してしまう。

だがそれで上手く緊張が解れたようで、女性陣の顔にも少し余裕が現れていた。


「次は私だね。

私は倉田翠くらたみどり。学科は小中の国語で、好きなゲームは、私も『アワークラフト』かな。後は、やったことないゲームとかも、たくさんやってみたいなって思ってます」


『アワークラフト』が好きだという言葉に、思わず蒼の瞳が輝く。

それは翠も同じだったようで、蒼が後で話そうとアイメッセージを送ると、少し照れくさそうに頷いた。


「私は、霧川桃きりかわもも。小中の国語科で、翠とは高校からの付き合い。あまり話すのは得意じゃないけど、私なんかとでも話してもらえると嬉しい」


最後に挨拶した桃は、蒼の予想通り、人見知りな子だったらしい。

オドオドとした感じの話し方ではあったが、ゲームが好きなことは十分に伝わってくる。


「私なんか、とか言わんと、色んなことみんなで喋ろーや。

まあ、今日は偶然あっただけやし、俺と蒼なんかは学科も違って、今日みたいに話せるかはわからんけど、折角こうやってゲーム好きなんお互い分かったんやし、パーッと行こうや!」


恐らく桃を勇気づけようとしているのだろうが、関西人だからか緋色の性格なのかはわからないが、最後の方がだいぶ雑になっている。

だが、桃には緋色の気持ちは伝わったのか、緩く笑顔を浮かべた。


「その事なんだけど、一つ提案があるんだ」


緋色の発言を受けて、蒼はみんなの注目を集める。

これは、緋色という存在に出会った時から蒼が考えていたことであった。

三人が注目したところで、蒼は話し始める。


「よかったらなんだけど、俺たちで新しくゲームのサークルを作らない?

みんな、元々は『Wash』に入るつもりだったんだろうし、このメンバーで話すのがこれっきりっていうのも嫌だしさ。

そんな簡単に作れるのかはわからないけど、作れたら絶対いいと思って」


正直、蒼は大学のサークルがどういうシステムで出来ているのかということを知っている訳でもない。

それでもその言葉を言ったのは、緋色や翠、桃と、感覚的にだが長く付き合って行きそうな予感がしたからでもあった。


「それ、めっちゃいいやん。

俺は賛成やで。一人でずっとゲームするのもつまらんしな」


「確かに、私もいいと思うな。

まだ出会ってまもないのにこんな事言うのは変かもだけど、なんだか落ち着くし」


「私も、賛成。ゲームする友達、欲しかったから」


概ね全員が頷いてくれたことに、蒼はホッと安心する。

自分一人だけじゃなくてみんなが同じように思ってくれていたのが嬉しかったのだ。


「よし、じゃあその事については俺がまた調べておくよ。

だから、とりあえず今はみんなでゲームの話でもしない?

まだ時間もあるみたいだしさ」


新入生の午後からのガイダンスまで、まだ一時間近くはある。

昼ご飯を食べる時間を考えても、かなり余裕がある計算だ。


蒼としても、折角ゲームの話ができるメンバーが集まって、早く話したくてうずうずしていたのだ。

特に、『アワークラフト』が好きだと言っていた翠とアワークラフトトークがしたかった。


そんな感じで緩く始まった食事会は、その後思わぬ盛り上がりを見せることとなった。

しばらくは毎日19:00に投稿していきます。

よければ感想お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 期待を込めて10ぽいんと一番乗りかな⁉
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ