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「はい、そのまま回すように動かしてみて下さい」

「こ、こうかな」


 リリーの手の上には真っ黒な球体、練った魔力の塊が浮いていた。

 それが某ドラゴン球の漫画のように、くいっ、と動かしている。更にはそれを複数出してお手玉のように回転させながら遊んでいた。


「やっ、はっ、とっ、結構難しいね」


 もうチートって嫌になっちゃうな。

 何だよこの子、たった五日で俺にだって難しい魔力を外に出して操作するなんて。

 もうこれで十分じゃね?

 だってこの魔力の球、先日共和国の草原を破壊したビームくらいの威力あるんだよな。それは威力だけなら最上級魔術に匹敵するレベルだ。

 それが四つ浮いている。攻撃魔術ならもうこれだけで十分だろう。


「あっ」


 と、そこでリリーが操作ミスをしたのか、黒い球の一つがボールのように床へと落ちていく。

 これもおかしい。

 これはボールではなく、魔力の塊なのだ。普通ならぷかぷかと浮かぶだけのはずなのに、落ちるのはあり得ないのだ。

 それだけリリーが、これをボールのようにイメージしているから、それに従って落ちるのである。


 ずずん。


 落ちた魔力の球が爆発し、建物全体に振動が響いた。

 だが安心めされよ。

 この部屋の壁には謎バリアーを張っているので、振動はどうしても発生するが、被害はゼロだ。

 わざわざ人気のない場所へ転移するのではなく、部屋全体にバリアー張ればいいじゃん、と今更ながらに気がついたのだ。

 最初からこうすれば良かったんだよ、なんで気がつかなかった俺?


 これだけ建物が揺れても、誰も飛び込んでこない。

 何せ三日前から定期的にやっちゃってるからね。

 最初は何事かと大勢の人が飛び込んできたのだが、今ではすっかり慣れたのか、誰も来ないようになった。


 人って成長するんだね。


「ねぇ……そろそろこの訓練も飽きたんだけど」

「そうですね、魔力操作もそろそろ合格点でしょう」


 リリーが授かった恩恵は、魔力増大、魔力強度強化、大魔導だ。ここに魔力操作はない。

 これじゃ魔術使えたとしてもノーコンじゃん、と思って徹底的にそこを鍛えようとしたんだけど、五日目でそれも終わりそうだ。

 たぶん、大魔導、という恩恵に魔力操作も含まれてたのかね。

 魔力の塊をお手玉にできたら十分合格点である。これ以上やるなら逆に、針に糸を通すような繊細な訓練をやったほうが良いだろう。


「ではいよいよ魔術を教えるとしましょうか。最初にやる魔術は≪光球≫です」

「ロヴィーナが最初に見せてくれた魔術ね、わかったわ。どうすればいいのかしら」

「まずは呪文詠唱ありでやってみましょう。≪暗き場を導け照らせ≫」


 俺の呪文に応じて、ぷかりと浮かぶ光球。

 指先の上に乗せて軽く弾くと天井付近へと浮かび上がって、そのまま固定された。


「それを真似すればいいのね、テレビゲームみたい」

「イオナズ○はやめてくださいね」


 ボールのようにイメージした魔力の塊だけで最上級レベルなのだ。きちんとした攻撃魔術という指向性を持たせたらどうなるか分からない。

 この謎バリアは、精霊王謹製のバリアなのでおそらく大丈夫だとは思うけど、振動は防げないのでそれで建物が崩れたらどうしようもない。

 地震なんて滅多に起こらないから、地震対策している建物もないと思うし。


「それって何のゲーム? 私はウィザードが出るようなテレビゲームした事がないから分からないわ。マリ○なら知っているけど」


 あ、そうですか。さすが天下のニンテ○ドーですね。


「ま、まぁそれは置いといて、詠唱してみてください」

「分かったわ。≪暗き場を導け照らせ≫」


 何も起こらない。

 そりゃ口に出すだけで魔術が発動したら大変だろう。


「何も起こらないわよ」

「光の球をイメージしながら手の上に魔力をちょっぴり、ほんの少しで良いので集めながら、詠唱してみてください」

『≪暗き場を導け照らせ≫……あ、光った」


 リリーさん、それ球じゃなく丸い電球ですぜ、お尻が出っ張ってやがる。しかも白色ではなくオレンジだ。

 家にあった電球をイメージしたんだろうな。

 えい、と俺と同じように指先で弾くと、電球のお尻の部分がぐさっと天井に刺さる。カバーがない電球にしか見えない。

 なお謎バリアーは攻撃を防ぐだけで、単なる光はそのまま通す。そうでないと、バリアーの中は光すら通さない真っ暗闇になるからね。

 しかしこの電球、オレンジのためかやけに暗く感じる。日本の家庭なら輪になってる奴とか、棒状の蛍光灯で白色に光るのが一般的だと思うけど、イギリスはそうではないらしい。

 これはお国柄なのかな。


「では次は、詠唱なしでさっきと同じ事をしてみてください」


 詠唱は実は不要だ。

 イメージしやすいよう言葉を出して魔術を構成しているだけであり、イメージ出来れば例えば火球の詠唱でも光球を出す事ができたりする。

 混乱するけどね。

 そしてイメージが出来ていれば、口の中でもごもごしゃべっても、頭の中で唱えても、そして詠唱すら無くても発動する。

 自分は分かりやすいように魔術名だけを口に出すようにしているけどね。


「うーん、こうかな?」


 そしてリリーも問題なく光球が発動する。

 電球だけどね。

 俺の作った白い光球とオレンジの電球が二個、室内を照らす。うーん、アンバランス。


「では次、火を作りましょう。料理するときに火種にもなるから便利ですよ。ただあまり威力を大きくしすぎると薪ごと吹っ飛ばしてしまいますので、マッチの火をイメージすると良いでしょう」

「こうかな」


 リリーさん、それマッチの火じゃなくオイルランプを形取った火ですぜ。

 しっかし結構精巧に出来てるな。小さいし、どちらかと言えばキャンドルランプのようにも見える。

 たぶん自室に置いてある奴なんだろう。

 火種としてなら使えそうだけど、わざわざこんな形にしなくても。


 で、こんな調子で初級(初級?)魔術の勉強が進んでいった。


♪ ♪ ♪


「……は?」

「だからだな、俺はエルフが好きなんだ!」

「あっはい」


 数日後、俺はケーイチに呼ばれ彼の自室へと入ったら、いきなりエルフが好きなんだ、と熱弁されていた。

 ぶっちゃけどうでもいい。


「長い耳はもちろん、細い割りにばいんばいんの体型が素晴らしいと思うんだよっ!」


 実際はばいんばいんな体型のエルフって居ませんが。

 ハーフエルフなら居るかもしれないけど、俺の知ってるエルフは全員スリムで、凹凸の少ない体型をしている。

 うちの母親しかり、昔迷宮都市にいた何とか言う第二級探索者のエルフしかり、彼女のクランにいたエルフたちしかり。

 ……そういや全く関係ないけど、風の噂で第二級探索者のエルフさんは、里へ戻って結婚して良い家庭を築いているらしい。

 良かったね。


「で、それがどうかしたんですか?」

「そこでだ、ロヴィーナちゃんには是非エルフを紹介してほしいんだっ!!」


 あー、はいはい、ハーレム要員ね。

 もう一度言うが、死ぬほどどうでもいい。


「共和国に行けばいるんじゃないですか」

「そんな投げやりな事言わないで!」

「と言われても、私、自分の母くらいしかエルフに知り合いはいませんし」


 さすがに母親を紹介なんて出来る訳がない。

 ……十年以上昔に、父親が寿命で亡くなって今は一人だけどさ。

 そうなんだよな、父親は普通の人間で寿命が短かったんだよな。長命種族と短命種族の差を実感したわ。

 もう吹っ切れたけど、当時はものすごく悲しかったなぁ。

 母親や俺は殆ど変化が無いのに、父親だけがどんどん年齢を重ねていくんだよ。


 あ、俺の本体はずっと精霊界にいたけど、母親に精霊のように召喚されてたから、実体ではないもののちょくちょく帰省していたんだよね。


「母親か……あり?」

「ねぇよっ!!」

「ちょっ、ま、じょ、冗談、冗談だってば! その物騒なもの消してっ!!」


 こいつ、黄泉の国に送ってやろうか。

 つい思わず手に火の大精霊の力を発現してしまったわ。


 ふーふー、と荒い息で出した火を迷宮の七十階層へ送った。

 あそこならどんだけ魔術放り込んでも大丈夫だからな。


「で、その共和国ってなに?」

「知らないんですか……。この大陸には五つの国があります。一つはここミーパル神聖王国ですが、ここ以外がサイサランド鉱山王国、ベッカー帝国、クレディス王国、ベスガット共和国です。このうちエルフの里があるところが、ベスガット共和国とクレディス王国ですね」


 でもエルフたちは滅多に里から出てこないけどね。

 里以外でエルフと会おうと思えば、迷宮のある街へいくのが一番良いだろう。

 サイサランドの迷宮都市にもエルフは二十人だったか三十人くらいいるし、他の迷宮も同じくらいはいると思う。

 そこまで教える義理も人情もないけど。


「じゃあその共和国か王国へ行けばエルフと会えるわけだ」

「……エルフは人口が少ないですから、会えるとは限りませんよ」

「いや、可能性があるなら行ってみるべきだなっ!」


 行ってみるべきって、なんだよ。

 ってかこいつ、共和国へエルフに会いに行くのか?

 ま、何しても自由だし別にいいんだけどさ。


「ありがとう! ロヴィーナちゃんの親戚に会ったら声かけとくよ」


 そういって彼は自室から出て行った。

 何も持ってなかったけど良いのかね? ま、あれでもチート持ちだし、なんとかなるだろう。

 ちなみに親戚って俺は知らない。

 母親の親はまだ生きてると思うけど、どこの誰なのかは全く知らないし、母親も言うつもりはないのか一度も聞いた事がない。


♪ ♪ ♪


「この世界で一番食が豊かなところってどこかしら?」


 ケーイチの次に呼ばれたのはシャーロット。

 今度は食か。

 確かにこの国の食生活は酷い、何とかしてやりたいとは思うけど、手を出すわけにはいかないんだよな。俺は他国の宮廷魔導師だし。


「食ですか?」

「ええ、もう限界なの。ハンバーガー食べたい」


 ソウルフードかよ。

 そういやこの人アメリカ人だったな。ピザとかコーラとかが好きなイメージしかないわ。

 でもハンバーガーなんてあったっけ?


「食ならクレディス王国が一番豊かですね。ハンバーガーは見たことありませんが、ピザのようなものならありますよ」


 クレディス王国は人間の国だ。よくある王政をとっており、土地が豊かで、様々な食文化がある。

 俺も何度か行ったことがあるけど、サンドイッチやらステーキやら、米まであった。ただ米料理はチャーハンくらいだったけどね。

 そしてこの国に多くの食料を送っているのはクレディス王国だ。頭の上がらない国だろう。

 ただここから普通に行けば二ヶ月近くかかるんだよな。普通の食べ物なんか送ったら傷むだろう。


「ピザ! そこって跳べる?」

「ええ、跳べますよ」


 当然マーキングはしてある。

 ハンバーガーはないけどパスタがあるのだ。細長いやつじゃなくて、小さく切られたペンネの穴が空いてないやつ。フスィリっていうんだっけ?

 それに卵やら野菜、肉などを混ぜたものが結構美味しいんだよね。

 そういやハンバーグもないから、ミンチにして焼くというのがないのだろう。


「一度連れて行って貰えるかしら」

「良いですよ、明日か明後日にでもみなさんでお昼食べに行くのもいいですし」

「良いわね」


 よだれ垂れてますよシャーロットさん。

 でもアメリカって確かでっかいのを頼んで、みんなでそれを食べるんだっけ?


「ところで食改善だけど、天使の恩恵がある土地が狭いのが問題なのよね。何度も植えると土地が痩せてしまうし。そこで土地が痩せないよう肥料を作りたいのだけれど、場所と気温が問題なのよね」

「はぁ……」

「そこで六十度くらいに保った場所を作りたいのだけれど、魔術を使えば出来るかしら?」


 へー、肥料を作るのって熱くないとダメなのか。

 よくよく聞いてみると、どうやら肥料は柔らかい土と生ゴミとかを混ぜて、適度に水分を混ぜつつ高温で一ヶ月くらい放置すると出来るらしい。

 生ゴミを分解する細菌たちが活発に活動するのが六十度くらいなんだってさ。それ以上高温にすると高温に強い菌だけが残り、却って良くないらしい。

 また逆に低いと菌が繁殖しないので、肥料が作れないそうだ。


 ふーん。

 ま、それはともかく暖かくするだけなら魔術でも出来る。しかし一ヶ月もずっと続けて魔術を行使し続けるのは問題だ。

 ピニールハウスとか作って熱を逃がさないようにするとか?

 あ、それか温泉掘れば良くない?

 この街じゃないけどもっと北に行けば火山があったはず。

 そこなら外の気温は寒いけど、土の中なら一定の温度にはなるし、熱い温泉を引っ張って更に温度を上げれば、何とかなりそうな気がする。

 水だってあるし。

 あ、でも温泉の水は真水じゃないからダメか。いや、そこら中に雪があるんだから、溶かしてやればいいか。


「北に火山がありますから、温泉を掘れば代用できないでしょうか」

「……温泉? なにそれ?」

「え? 温泉知らないんですか? 地中にある水がマグマの熱で熱くなった奴です。適温にしてお風呂代わりに入ると最高ですよ」

「そう言えば、聞いた事があるわね」


 そういやアメリカは基本シャワーだっけ。

 文化の違いって大きいな。


「熱いお湯ね、一考の価値はあるかしら。ありがとう」

「いえいえ。近いうちにリリーさんの魔術も披露出来ると思いますから、何とかなると思いますよ」


 リリーのチートのような魔術なら、温泉掘るのも出来るだろう。

 しかし温泉いいなぁ、一度こっそり行ってみようかな。



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