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今回から一人称に戻します。

コロコロ変わってすみません・・・



 さて、今日からリリーに魔術を教える事となった。

 他の二人だが、ケーイチは街の衛兵に剣、シャーロットには街の狩人さんに弓をそれぞれ教えて貰えるよう手配しておいた。

 最も俺の役目は建前として教育係なので、丸投げはいけない。

 このため、それぞれの訓練が終わったら夕食を兼ねた夜のミーティングを開催することになった。


 そして自室のテーブル席に座って、ぼんやりしていると、こんこん、と自室のドアがノックされた。

 お、来たかな。


「ドアは開いていますので入ってきて下さい」


 そう返事をすると、がちゃりとドアが開き、予想通りリリーが入ってきた。

 今日の彼女の服装は、この国指定の文官の格好だった。白いローブに金色のラインと、俺の服とは対照的な色だ。栗色の長い髪はそのまま伸ばしていて、こっち側の人と殆ど見た目が変わらない。

 シャーロットもリリーと似たような髪の色をしているので、ケーイチの黒だけが浮いている。


 リリーは俺の対面に座ると、徐に身を乗り出す勢いで顔を近づけてきた。

 え? なにこわい。

 

「えっとロヴィーナさん? ちゃん?」

「呼び捨てで構いませんよ」

「じゃあロヴィーナ。えっとね、一つ言いたいことがあるの。本当は一つだけじゃないけど、とにかく一つあるの」

「何でしょうか?」

「あのね、今後もう無茶な事はしないって約束してくれる?」


 無茶? 無茶って何だろうか?

 迷宮へ転移したことかな。

 確かに空間転移はこの世界では使える者など殆どいない。それ故にバレたら色々と面倒な事になるだろう。

 魔力量という問題はあるものの、マーキングすればどんな場所でもひとっ飛び。国境とか関係ない。迷宮の中だって問題ない。


 そうか、確かに無茶な事か。

 わざわざこっそり忠告してくれるなんてリリーってば、結構良い奴じゃん。


「分かりました、転移は確かに大っぴらにするものではありませんね。今後は注意してこっそり使うようにします。リリーさんも黙ってて下さいね」

「ちがうよっ!?」

「えっ?」

「転移ってテレポーテーションみたいな奴でしょ? それはどうてもよくって、私が言いたいのはロヴィーナがいきなり私たちをあんな怖い所に無理矢理行かせた事よっ!」


 ん?

 魔術を見たいから、という要望を叶えるべく、ベストな場所を選択したんだけどな。

 しかも実戦で魔術の威力も確認できるし、あそこは未だ人類未到の階層だから、ばれる心配も皆無だ。なんて素敵なところだろう。

 怖い場所とはいってもきちんと謎のバリア張って安全は確保しておいたし、言い換えれば動物園で檻の中の猛獣を見る感じだから、大丈夫なんだけどな。

 そういやその辺の説明してなかったっけ。

 それにめちゃくちゃゲ○ってたし、そんなに魔素酔いきつかったのか。丸二日休んでいたらしいし。

 魔物を倒さないから魔素酔いもないものだとばかり思ってたからな。

 なるほど、理解した。


「確かにそれは盲点でした。魔素酔いで体調不良にさせてしまい、申し訳ありませんでした。今後はちゃんと跳んでから説明するようにしますね」

「……もういいよ、今度から私が事前に止めるわ。魔術とやらの説明してちょうだい」

「あっはい」


 何やら諦められたようだった。

 でもさ、事前に説明といっても、実際目でみたほうが分かるよね。ほら、百聞は一見にしかずと言うじゃない。

 だから跳んでからのほうが良いかな、と思ったんだけどダメなのか。


「さ、さて。魔術ですがまずリリーさんには初級の魔術を覚えて貰います」

「初級? 中級や上級もあるの?」

「ええ、あります。魔術は初級、中級、上級、最上級、遺失級とランクが分かれています。初級が一通り使えるようになれば魔術師としては一人前と言われていますね」

「へー、どんなことができるの?」

「そうですね、簡単なものなら……≪光球≫」


 俺の言葉に手から小さな光る球が出現した。

 光属性で初級といえばこれ、ライトである。室内や暗い場所で灯り代わりになり、更に目にぶつければ目くらましにもなる。

 結構応用がきく魔術で、俺がお勧めする一番の奴だ。

 でも俺は光の小精霊にいつも頼むので、お勧めと言いつつ俺は殆ど使った事がない。

 練習には最適だけどね。


「わっ、明るくなった」

「まずはこれを使えるようになりましょう。魔力があれば簡単ですよ」

「どうすればいいの?」

「まず体内にある魔力を感じ取れるようになりましょう。お腹の下、丹田と呼ばれる場所に意識を集中してみてください」

「んーー」


 眉を顰めながら、不味いものを食べたような表情をするリリー。

 これは集中している表情なのだろうか。乙女がするような顔では無い事は間違いない。


 さて、魔力を感じ取り、そしてそれを操作する事が魔術の始まりだ。これは精霊魔術も同様である。

 そして体内の魔力を一番感じられるのが丹田だ。

 ここを感じ取れるようになれば、次に魔力を動かす。そしてそれもある程度できるようになれば、体内のあちこちにある魔力を探して動かす。

 ちなみに俺はこれだけ出来るようになるまで、だいたい一年ほどかかった。

 そこからは早かったけどね。


 でも、俺知ってるんだ。こいつチート持ちだから、きっと半日とか一日とかで出来るようになるんだろ?

 

「あっ、何となく暖かいものがある気がする」

「ではそれを動かしてみて下さい。分からなければ最初は手を当てて、上に引っ張って行く感じでも良いですよ」


 なお下にもっていくと、股間にぶつかるのでお勧めしない。

 トイレいきたくなるよ?


 リリーはおなかをさするように動かす。

 ぐるぐると回しながら、ゆっくり胃のほうへあげていく。

 それを何回か繰り返したのち、何と手が僅かに光り出してきた。


 お、魔力が可視化してきた。

 魔力は練ってあげると見えるようになる。そして目に見えるくらい練ると、魔力そのものでも攻撃性を持つようになる。

 例えば魔力の刃とかね。

 もちろん効率を考えれば魔術を使った方がいいけど、口を閉ざされて呪文を唱えられない、といった場合などに使えるのだ。

 しかし教えてからものの十分でいきなり魔力を練るようになるとは、さすがチート持ち。

 この分だと他の二人もあっという間に基礎を覚えそうだ。


 リリーはさらに続ける事三十分、何か困惑したように顔を上げた。


「……なんだかお腹が破裂しそう」

「それは練った魔力が体内で行き場を無くしているのですね。下手すると本当にお腹破れます」

「ええっ!?」

「心配ありませんよ。行き場がないなら、行き先を指定して上げれば良いだけです。それに万が一破れても、ここは回復魔術の総本山、お腹が破れた程度ならすぐに治して……ってあれ、なんで辞めちゃうんですか?」

「危険な事させないでよっ!? え? なんで私の手が光ってるの!? もうどういうことよっ!」


 慌てたようにお腹から手を離すリリー。

 だが手を見て光ってるのに今気がついたのか、ぶんぶんと振っている。


「消えないっ!? こ、これどうすればいいの!?」


 そりゃ手についた火じゃないんだから、振っても消えないよ。

 でも困ったな、室内で攻撃性のあるものを発動させる訳にはいかない。場所を変える必要がある。

 あ、でもさっき事前に説明とか言ってたっけ? しかしそんな長々と説明していると、本当に魔力が暴走してしまう。

 仕方無く、むんずとリリーの手を掴んだ。


「跳びますね」

「え? ちょっ、ど、どこへーー!?」


♪ ♪ ♪


 跳んだ先は見渡す限りの草原。

 昔、精霊王と一緒に共和国へ本を買いに行った時のマーキング場所にしたところだ。

 ここなら滅多に誰もいないし、今のリリー程度の魔力を使っても目立つ事はない。


「え? え? ここどこ?」

「ここは共和国の……ってそんな時間はなさそうですね。良いですかリリーさん、先ほど手でお腹をぐるぐる撫でていましたが、それをもっと上、胃を通って食道に入り、口へ持って行くようなイメージをしてみてください」

「あ、うん、わかった」


 既にリリーのお腹辺りも服越しなのに光ってきた。あー、そろそろやばいね。

 リリーは俺の言葉通り手をお腹に当てて、回す半径を小さくしながら徐々に上へと上げていく。

 それに従い可視化した魔力も上がっていく。


「なんだか吐きそう」

「それで良いんですよ。体内の魔力を外に出すなら、上か下かが一番イメージしやすいですからね」

「……下って」


 さすがに下は嫌でしょ?


 そしてとうとう喉まで来た時に、リリーが反射的になのか意図したのかは分からないが、反対側の手で口を押さえた。

 吐きそうになっているのだろう。本当なら魔力を口から出しても吐きそうにはならないんだけど、今彼女がイメージしているのは嘔吐だからかな。

 でも、それはまずい。

 口から出てくるのは攻撃性のある魔力だ。手で塞いだら、手を破って出て行く。


 咄嗟に背後から塞いだ手を押さえ、無理矢理口から離させた。


「え、ちょ、本当に吐き……」

「塞いではダメ。ゴジ○のように口からビームを出す感覚で」


 耳元で囁き、イメージを促す。

 しかしこれって後ろから若い女性を羽交い締めして襲っているような格好だね。

 ちょっと興奮するわ。


 そしてとうとうリリーの口から魔力が吹き出した。

 ゴ○ラのように、と言ったのがいけなかったのか、思ってた以上の破壊力が吹き荒れた。

 急いで謎のバリアを展開し、余波を防ぐ。


 一分後、周囲は地面が抉れ、無残な光景が広がっていた。


「あ……あ……」

「すごいですね、魔力だけでこんなになるなんて。さすがリリーさん、素晴らしい恩恵を授かりましたね」


 自分がこんな光景を生みだしたのが信じられないのか、呆然とするリリー。

 さて、これをこのまま放置はまずいので後始末しないとな。


 魔力を手に集めて振ると、土の大精霊が顕現した。

 そして周囲を見て、こちらを見ると、大きなため息をつく仕草をしてから、修復に取りかかる。

 一分も経たず完全に治った。

 ただし地面が抉れた箇所の草までは生えていない。これは花の小精霊に頼むしかないな。

 でも雑草なら数日で戻るだろうし、そのままでも良いか。


「さ、ばれないうちに帰りましょう」


 さすがに他国でこんな事がばれたら、国際問題になる。

 土の大精霊を還したのち、すぐミーパル神聖王国の自室へと戻った。

 でも無事に戻ったにもかかわらず、がっくりと項垂れているリリー。

 軽く肩を叩いて、俺のベッドに寝かせてあげた。




「あ……あぁ……なんてことを私は……」



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