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 召喚された者たちのお披露目会。

 その会場は本山とも呼ばれる巨大な教会の大広間であり、それに呼ばれた招待客はこの国のみならず各国からも国の代表として来ている。

 サイサランド鉱山王国の代表として呼ばれたロヴィーナも、その席の一つに座っていた。

 足を組んで、しかも供を連れずたった一人で。


 普通国を代表してくるような人物は護衛やらお付きの人は何十人もいる。もちろんお披露目会に参加できるのはその中の数人だが、それでも一人で参加というのはあり得ない。

 更に足を組んで座るのはマナー違反だ。

 彼女の周囲に座っている各国の代表は、チラチラとロヴィーナを見て何とも形容し難い表情をしていた。


 だがロヴィーナは気がつかない。

 いや、視線は感じているが彼女はその容姿と、そして精霊と無茶なことを仕出かしたりしてたために、昔から視線を集められる事が多かった。

 そのため意識的に視線をカットするようになったのだ。つまりは厚顔無恥である。


——これが召喚者か。日本人だけかと思ったらそうでも無かったな。


 彼女の周囲だけお披露目会の主役よりも視線を集めているのを全く気にせず、じっと召喚された者を眺めていた。

 一人は日本人男性でケーイチ、一人はイギリス女性でリリー、最後はアメリカ女性でシャーロットとそれぞれ出身国と名を名乗っていた。

 シャーロットは二十代後半くらいだが、他の二人はまだ若く十代後半のようだ。

 また驚くべき事に全員こちらの世界の共通語を話している。


——そういや特権の中に会話の自動翻訳もあったっけ。ちくしょう、こっちは言葉を覚えるのに苦労したってのに、これだからチート野郎は。


 特権とは召喚者に対する恩恵であり、主に天使が授ける。

 その恩恵は様々だが、全員共通で与えられる恩恵の一つに自動翻訳がある。


 さて、ロヴィーナは別の世界、日本の記憶を持つ転生者だ。

 しかも元は三十二才の男性であり、他人と会話するときの口調こそ女言葉を使おうと努力しているが、心の中では男そのものである。

 そして育ってきた環境も両親が宮廷魔導師という点を除けば裕福な家庭で育ったごく普通の娘だ。

 他人と異なったところは、精霊たちに好かれており、魔力さえあればほぼ全ての精霊を召喚できた事くらいだろう。

 そして彼女は今や精霊王の血を継いでおり、その力は人外だ。召喚された者たちも力は強いが、さすがに千キロを半日で走ったりはできない。

 どちらがチートかといえば万人がロヴィーナを選択するだろう。


「それでですね、まだ彼らはこの世界に来て日も浅く、この世界に対する教育が必要と思っています。そこで特別にサイサランド鉱山王国からいらした宮廷魔導師殿に、その役目をお任せしたい」


 召喚された者、召喚者たちを紹介するのはこの国のトップである教皇だ。五十に近い年齢だが外見はまだ若く、三十代半場くらいに見える。

 その彼の言葉に、周囲が一斉に騒ぎ出した。

 それはそうだろう。

 召喚者はこの国の守護者である天使が呼んだ人物であり、その教育は当然自国で行うものと思っていたからだ。

 前回召喚されてから千年、是非召喚者と縁を繋ぎたい有力者も何人かいる。教育に携わる事が出来ればそのチャンスは広がるからだ。


「静粛に! この話は天使様のご要望です」


 彼の言葉に騒いでいた連中が一瞬で静まりかえった。

 天使の言葉、これだけでこの国の住人は納得する。


——ふーん、きちんと俺に何らか関わらせる話は通っていたのか。


 召喚者が呼ばれる理由。

 それはこの世界の停滞に刺激を与えるためだ。

 その主導は天使が行っており、そんな彼ら召喚者を纏める者として、転生者で前の世界の記憶を持つロヴィーナに白羽の矢が立った。

 この話は天使と、そしてロヴィーナを守護する精霊、それ以外の妖精、龍という旧種族たちの間で決まっている。

 また彼らを統括するには、彼らより力を持つ必要がある、と旧種族たちは思っており、そのために半精霊となったのだ。

 天使ら旧種族が用意したのは召喚者と、それを纏めるロヴィーナを引き合わせる事だけで、それ以降は全てロヴィーナ達に任せられているのだ。


——丸投げ極めりってな。あー、面倒くさい。


 そう思いつつロヴィーナは席を立ち、そして大仰に周りへ礼をした。


「ただいま教皇様よりご紹介にあずかりました、サイサランド鉱山王国の宮廷魔導師ロヴィーナです。見ての通り私はエルフの血を引いていますので、おそらくこの会場に私より年上の方は非常に少ないかと思います、以後宜しくお願いします」


——こんなもんだろ。俺は見た目が成人くらいだから、きちんと年齢を明言しておかないと舐められるんだよな。


 ロヴィーナの予想通り周囲は、最初子供かと思っていたがエルフの血を引いている、という説明で納得した。

 仮にも一国の宮廷魔導師であり、更に長寿であるエルフの血を引いているのだ。その知識も実力も兼ねているのだろうと。

 ただこのミーパル神聖王国は人間の国であり、ドワーフの国の宮廷魔導師だと常識が異なるのではないか、と思う者も少なからずいた。

 しかしそんな彼らは、それこそ教育に食い込めるチャンスだと内心牙を剝いていた。

 天使の言葉は絶対であり、ロヴィーナの教育者を辞めさせることはできない。しかし教育者は一人とは言ってないのだ。つまり何人居ようが天使の言葉に反してはいない。


 そんな思惑が会場を包み込む中で肝心の召喚者たち、特に日本人のケーイチは全く別の事を考えていた。


——うっわー、エルフだよエルフ! 遠目からでも分かる、あれはすっげー可愛い! さすが異世界! これは教育にかこつけてイケないことを先生に教えて貰わなければ!


 欲望丸出しだった。

 彼は高校生であり成績も中、ルックスも中、そして身長体重も中と平均男と呼ばれるほどの普通だった。

 異世界もののラノベも読んではいたが、そこまでハマることもなかった。唯一普通と違ったのは恋愛に冷めていた点だろう。

 昔からモテなかったし、自ら告白する勇気もなく、ずるずると高校に入った。

 良くも悪くも目立つ事がなく、周囲に埋もれる男だと却って恋愛対象から外れるものだ。特にまだ高校生という若い時期ならば。

 自身もそれが当たり前だと思っていたので、特段気にすることなく過ごしていた。

 そんなごく普通の高校生だった彼は、突然召喚され、周囲を見て、そしてじわじわと実感していった。

 みんなが俺に傅く、と。

 それまで自分はごく普通でありきたりだったのに、みなが自分に気を遣う。注目される。

 多少注意深ければなぜ単なる高校生の男に傅くのかと疑問を思うはずなのだが、それすら気付かずだんだんと調子に乗っていった。

 更に言えば天使から授かった恩恵もあった。

 自動翻訳は元より、加速と身体能力向上、そして剣聖と四つの恩恵を受けたのだ。

 今まで一度も剣など使った事がないのにも関わらず、身体が勝手に動き相手を倒してくれた。

 この街の衛兵や教皇の側近たちと、幾度か模擬戦を行ったが一度も敗北しなかった。

 更に調子にのってしまうのも仕方無いだろう。

 そして今日このとき、エルフという異世界の美しい女性を初めて見たのだ。今まで異性に冷めていた分、ここに来て余計に爆発するかのように欲望が出てしまったのも仕方ない。


——リリーちゃんも可愛いし、シャーロットさんは大人の魅力たっぷりだけど、やっぱエルフは違うよな。よし俺の初めてはあのエルフちゃんに捧げよう!


 相手がロヴィーナでなければ。これから先、彼がどのようになるかは、まだ分からない。



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