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ここから新章になります。

今まで一人称だったのを三人称に変更しました。

練習がてらとなりますので、今回はちょっと短め。


また、続けてあと一話投稿します




 ペングラム大陸。

 この世界、ソリューシア最大の大陸だ。

 この大陸には六つの国があり、一番北に位置するのがミーパル神聖王国である。

 極点に近いためミーパル神聖王国のほぼ全土が常に雪で覆われ、晴れた日のほうが少ない。

 そのためこの国では街周辺のみ雪が積もらず、気温も穏やかになるような、天使たちの恩恵を受けている。ただしその恩恵を受けている土地は限られており、全体的に食糧不足に陥りやすい。

 これを解決すべくミーパル王国では各国、各地へ人を派遣している。

 ミーパル神聖王国では天使たちの恩恵を受けているために彼らを崇拝しており、それがやがで宗教となった。

 また個人で天使の恩恵を強く受けているものたちは、回復の奇跡を扱う事が可能であり、そんな彼らを他国へ派遣し、人々を癒やし、その対価として食糧を自国へ送って貰っているのだ。

 土地は雪に覆われ他に名産もなく、食糧を買えるだけの金がないという事情もある。


 さて、そんなミーパル神聖王国の南側には大森林が広がっており、その森林の中に一人の少女が全力で走っていた。


「やばい、遅刻遅刻ー」


 黒を基調とした金色のライン、中はワンピース風、外がジャケットと魔術師の着るローブをお洒落にしたような服装だ。

 つば広の帽子を被っているが、そこから伸びる黄金色の長い髪がなびいている。顔つきはまだ成人前か、成人直後だろう。

 ただし髪の間からチラホラ覗く長い耳はエルフ特有のものであり、人族ではない事を物語っている。


「んー、飛んだほうが早いだろうけど、目立つからなぁ」


 森林を走るには軽装というべき姿であり、また森を走るのは危険だが、少女はまるで野原を駆けるようにスイスイと通り抜けていく。

 かなり長い間走っているにも関わらず、速度が落ちることはなく、また息を荒げてもいない。

 軽く地面を蹴るだけで十数メートルの距離を飛び、手を振るとまるで一瞬消えたように姿がぶれ、障害物を通り抜けていく。


「あー、もう面倒臭いな!」


 文句を垂れつつも少女の走りが止まる事はない。

 そのうち大森林を抜け雪の積もる草原へと出る。ただし吹雪いているため、視界は見えにくい。

 それでもその少女の速度は落ちない。むしろ障害物がなくなったためか、更に加速した。

 ローブの裾からちらと見える足首は華奢で細いが、その脚力は凄まじい。まるで砲弾のように草原を駆けていく。

 

「時間ぎりぎりになったのも全部あいつのせいだ。あとで殴ってやる」


 風に煽られ帽子が飛びそうになるのを手で押さえつつ、暴言を吐いた。

 エルフらしい端正な顔立ちからは想像も付かないセリフである。

 この少女の名はロヴィーナといい、エルフと人の血が混じったハーフエルフだ。


 彼女が急いで走っている理由は、ここミーパル神聖王国にて異世界から召喚された者たちとの顔合わせが、今日の夕刻から行われるからである。

 ちなみに今の時刻はすでに昼下がりも過ぎ、あと二時間もすれば日が傾くだろう。

 彼女はサイサランド鉱山王国の宮廷魔導師として二年ほど前に就任したばかりであるが、今回の顔合わせでは国の代表として赴いている。

 それほど彼女の実力は高かった。

 元々彼女の両親も宮廷魔導師であり、幼少の頃からその薫陶を受けていたのもあるが、実は五十年ほど行方不明となっていた時期があった。

 彼女は十五才の時に消え、六十二才になった時に姿を現したのだ。消えた五十年、どこで何をしていたのか彼女は母親にしか語っていない。

 しかし戻ってきた時には人外とも言うべき力を持っていた。

 その実力で国の宮廷魔導師という要職に就き、僅か二年ほどで国を代表するほどの地位まで上がった。


「よし、見えてきた。あれがミーパルの首都シュトックか。宗教国家らしいじゃないか。しかもさっきまで吹雪いてたのに、マジでこの辺一帯雪降ってないわ。しかも暖かいし。これが天使の力か」


 ロヴィーナの言うとおり、首都の外観は壮観だった。

 街の外壁は高い塀に囲まれているが、そこから塔のような丸い尖端がいくつも見え隠れしている。

 その尖端からは春の陽気にあてられたように、小鳥が何羽も飛び交っていた。


 だがその小鳥たちとは裏腹に、街の門を守っている衛兵たちは騒いでいた。

 無理もない、遠くから土煙を立てながらまっすぐ街へ向かってくるものがいるのだ。しかも馬よりも速く駆けてくる。

 シュトックはミーパルの首都ではあるものの、訪れるものは少ない。ここへ来るには雪の中を歩く必要があるからだ。せいぜい食糧などの生活物資を運ぶ隊商くらいだろう。

 そして当然隊商は土煙を立てながら走る事はない。


 更に間の悪いことに今日は天使からの通達で異世界から召喚された者たちのお披露目がある。

 このため厳戒態勢だった。


「魔物か!?」

「なんだありゃ、すげー速いぞ」

「こっちに向かって一直線に来てるぞ! 各々武器を持って警戒、整列せよ!!」


 衛兵隊長の声にわらわらと衛兵たちが門へと集まってくる。そして整列しようとするが、近づく速度が速く間に合いそうにない。

 ミーパルではその寒さ故か魔物の棲息数も少なく、更に街を襲うようなものなど過去数百年を振り返っても一度もない。また戦争もここ数百年起こってはおらず、平和に慣れきっていた。

 このため練度が低いのだ。

 このままでは突破されるか、と思われたが、ようやく衛兵たちは近づいてくる者が人間だと分かった。


「と、とまれぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「あ? なんだ?」


 突然大声で叫ばれロヴィーナは急停止しようとしたものの、慣性の法則に従い地面を削りながら滑っていく。

 そうして門の手前十メートル付近でようやく止まった。


「……え? 魔術師?」


 衛兵たちはロヴィーナの姿を見て混乱した。あれほどの速度で走るような者なのだから、もっと大柄の戦士を想像していたのだが、どう見ても成年したてくらいの魔術師の姿をした少女だったからだ。

 こちらの制止に従いきちんと止まったし、少なくともすぐに争う事はないだろう、と衛兵たちは安心をする。


「貴公は何者だ?」

「あ、私の名はロヴィーナ、サイサランド鉱山王国の代表として参りました。……ちょっと間に合わなさそうだったので全速力で走ってきたので、驚かせてしまい、すみませんでした!」


 ぺこり、とロヴィーナがお辞儀をする。

 金色の長い髪が前に垂れその拍子に長い耳が露見する。

 その可愛らしい仕草と、彼女が名乗ったサイサランド鉱山王国の代表、というセリフに衛兵たちは警戒を解いた。


 だが衛兵隊長はこの門を預かる責任者であり、そう簡単に警戒は解かなかった。

 彼は考える。

 サイサランド鉱山王国の代表は宮廷魔導師だったはずだ、と衛兵隊長は客人リストを思い出す。

 またかの国はドワーフの国であり、宮廷魔導師は各国から集められた魔術師たちで成り立っている。その中にエルフも居たと隊長は記憶していた。

 そして宮廷魔導師であれば、先ほどの速度も何かしらの魔術を使ったのだろう、と納得した。

 武器を下ろした隊長は、衛兵たちを代表してロヴィーナの前に立った。


「サイサランド鉱山王国の代表でしたか。まもなくお披露目会となりますが、念のため招待状を確認させて下さい」

「あ、はい。こちらです」


 黒いローブの懐から一枚の書状を取りだし、隊長へと手渡された。

 チラとその招待状を見て、正式なものと確認すると改めて挨拶をする。


「サイサランド鉱山王国の宮廷魔導師ロヴィーナ様ですね。こちらへどうぞ、ご案内致します。しかしお披露目まであまりお時間もないので、少々急ぎますが宜しいでしょうか?」

「はい、もちろんです!」


——何とか間に合ったか。しかしさすがに半日でサイサランドからミーパルまで駆け抜けるのはさすがに疲れたな、体力的じゃなく精神的に。


 大陸の中央から南に位置するサイサランドと北に位置するミーパル、その距離は直線でも千キロ近くある。それを半日で駆け抜ければ普通疲れた、だけでは済まない。

 時速に換算すれば二百キロは下らないし、しかも途中森林を通っている。

 ちなみに馬車を使うなら急いでも一ヶ月、速度重視の乗り物を乗り継いで十日かかるのだ。

 この通りロヴィーナは普通のハーフエルフではない。しかも衛兵隊長は何かしらの魔術を使った、と思っているが、実際は単に走ってきただけである。

 詳しくは避けるが、彼女は精霊の血が半分混じった存在だからこそ出来る芸当だった。


「しかし余程急いでいらしたんですね。あれだけ土煙を立てて走る人は初めて見ました」

「はい、何分今朝リブベスクを出発しましたので」

「え? リブベスクはサイサランドの首都でしたよね」

「はい、そうです。もう間に合わないかと思いましたよ」

「……え?」



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