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二十二

この小説最長になってしまいました。9000文字も書いちゃった。


 花の小精霊を召喚してみた。

 なお教えてくれたのは、店の飾り付け用にと呼んだ土の大精霊だ。

 土と花で関連があったみたいで、知り合いなんだって。

 そして土の大精霊に花壇を作って貰い、花の小精霊たちに花を植えて貰った。


 この店はドワーフが作っただけあり、建物自体も壁に紋章や、柱もローマの宮殿のような凹凸がある形になっている。

 ただ柱と柱の間にあるスペースは何もなかったので、そこに花壇を作って花を植えたのだ。

 そうすると、一気に華やかな感じになった。

 なかなかいいじゃないか。

 また入り口は少し壁から出っ張っていて、更にアーチ状の門がある。

 ここにちょっと植物のツタを這わせてあげ、更にウェルカムボードを作って上からぶら下げた。

 そうするとぐっと小洒落た喫茶店感が出た。


 うむ、これくらいでいいかな。


 あ、でも外の通りから入り口までの間、花道と言わんばかりに飾るのもいいな。

 花の小精霊、ちょっとお願いできるかな?

 うんうん、いいねいいね。

 こら、そこ花を動かさない。

 腰をくねくねしてるような動きになってる。ダンシングフ○ワーかよ。

 あ、そっちはパックンフラ○ーになってる。マリ○カートを走らせたくなってくるな。

 楽しそうにしているし、これはこのまま放置しておくか。


 大体飾り付けができあがったので店に戻る。


「おつかれさまです!」


 俺が店内に戻ったのを見た一階のフロア長、ギルド員の一人が挨拶をしてきた。

 彼女の名前はへレディ、人族で十八才のかわいい系女の子だ。

 元々はギルドの顔とまで言われる受付嬢をやっていて、その中でも一番二番を争うくらい人気の高い子だったらしい。

 店に客を呼ぶために、そして一階の長というこの店の看板娘的な立場でこっちに回してくれたのだ。

 最初それを聞いた時、国からの要請もあるだろうが、かなりギルドはこの店を重要視しているな、と思った。

 でも実際は違った。


 受付嬢ってのはシビアな世界だそうだ。

 受付嬢はギルドの看板だ、なるべく見栄えが良く且つ能力的に優れた子が選ばれる。

 そして見栄えが良いと粗野な男の探索者からはセクハラや求婚まがいのことをほぼ毎日受けるし、逆に女の探索者からは嫌み、嫉みひがみを受ける。

 同僚もそうだ。看板を背負っていて、直接探索者たちと顔を繋ぐ役割を持っているため、ギルドの立場でもそれなりに高い。

 彼女たちから聞く探索者たちの生の情報は、ギルドにとっても有効なモノになり得る。

 だからその分同僚たちの争いも凄まじい。

 探索者ギルドはこの町一番の大企業である。そのギルドで働けるということは、一種のステータスであり憧れだ。

 へレディもこの街で育ちギルド員になることに憧れ、勉学に励み、成人したと同時にギルドへ応募した。

 彼女は裏の事務職を希望していたし、それに合わせて勉学をしてきた。だが結果は受付嬢だった。

 明るくハキハキとして受け答えも良く、そして事務能力も高く、何より見栄えがかなり良かったのが原因らしい。

 望んでいた職とは異なったが、それでもギルド員になれた。だからこそ受付嬢の仕事も頑張ってこなした。


 しかし別部署に行った同期の子には羨ましがられ嫉まれるし、同僚からはライバル認定され無駄に嫌がらせなどを受ける。

 仲の良くなった探索者が出来ると、すぐ男の噂が立つ。

 ギルドが推奨している魔素の取り込みを利用し、ストレス発散のために迷宮で暴れまくっていたら、乱暴者という噂も流れた。

 それでも三年は頑張った。しかしそれも最近限界が近づいてきた。

 そんな折に喫茶店の店員をしてみないか、と上から打診があったのだ。それに一も二も無く飛びつき、今ココにいる。


「店に勤め始めてかなり気が楽になりましたよ」


 客の殆どは探索者だが、それは今までも同じ事をやってきた。

 セクハラまがいな事を受ける時もあるが、喫茶店は受付とは違い長々と話をする場ではない。注文を受け厨房に伝え、出来たら持って行くだけだ。会話はごく短時間で済む。

 受付だと逃げる事も出来ないが、こちらでは軽くスルーすることだって出来る。

 ライバルもいない。

 他にいる二人のギルド員とはフロアが別だし、ここには彼女以外バイトしかいない。店長も滅多にフロアに顔は出さない。

 それでいて、ギルドとしても彼女を引っ張ってきた事もあり、貰える給料は受付嬢と変わらないよう手回ししてくれているのだ。


「ロヴィーナさん、外見てきても良いですか?」

「いいですよ、是非見て感想ください」


 客の入りは時間的に少ない、まだ午前中で探索者は迷宮へ潜っている時間だからね。このため一人抜けても対応は十分できる。

 ま、足りなきゃ俺が手伝えばいいからね、ポンチョ姿だけど。

 

 さて、外の飾り付けは良いとして、店内をどうしようか。

 アンティークっぽく攻めるのも良いよな。

 うちは本を扱ってるんだから、机にペン立てとペン、そしてオイルランプに写真立てなんて良いと思わない? 横にフィルムカメラなんか添えて。

 たぶんこの世界の住人とは感覚が違うのでウケないだろうし、フィルムカメラなんてないから、作ったらアンティークじゃなく最新技術になるけどな。

 または花を飾るなら、どん、と花瓶を置くのではなく、壁にぶら下げるタイプの細い花瓶を作って貰うのが良いかな。

 

 ん、そういえば精霊王はどこに行ったんだろう。

 俺が飾り付けを始めた直後は作業を見ていたけど、気がついたらいなくなっていた。

 たぶん飽きてその辺でも彷徨いているのかな。


「きゃぁぁぁぁぁ」


 そんな事を考えていたら外から悲鳴が聞こえてきた。

 あ、そういえばパックンフ○ワーそのままだったっけ。

 ……喰われたか。

 ま、大丈夫だろ。あの子ああ見えて第七級探索者並みの魔素を吸収しているからな。

 

♪ ♪ ♪


「なんですかあれ! 酷い目に遭いましたよ!」


 怪我は一つも負ってないけど、べっとりと唾液まみれになってるへレディ。

 ちょっと涙目になってる姿は可愛いし、唾液まみれってのはちょっぴりエロい。

 きちんと人間らしい成長しているというか、なかなか凹凸のバランスが取れたボディは悩ましいね。

 じゃなくて、服着替えさせないとダメだ。


「花の小精霊たちのいたずらですよ、あれ」

「ロヴィーナさんのせいじゃないですかっ!」

「私は呼んだだけでですよ。それより着替えてください、五階のお風呂も使って良いですから。一時間くらいは空けてもいいですよ」

「ほんとですか? やったー! それと今度何か奢って下さい」


 五階は俺と同居人のエルセの部屋になっているが、生活に必要なものは一通り揃っている。

 お風呂もそうだしトイレ、キッチン、食堂、居間まである。

 この世界の風呂は川で水浴び、井戸の水を被る、盥に入れて洗うなどが一般的だ。裕福な家ならシャワー室もある。水を生成させる魔道具と魔石が高いんだよね。

 ちなみにうちにお風呂があるのは俺の我が儘で後から作って貰ったのだ。また水と火の小精霊に頼んでいるので、維持費も全部タダ。

 やりたい放題だぜ。


「良いですよ。この前のタイムアタックの報酬でパシリアさんから報酬を頂いたので、今、私は小金持ちなんです」

「期待してますからね」


 髪についた唾液に眉を顰めながら階段を上がっていくへレディ。

 ちなみに報酬は、そのうちまた共和国に行って本でも買おうかと企んでいるくらいには貰えた。

 どこか高めのレストランに連れて行っても十分余る。それに可愛い子とデートできるならこちらから頼みたいくらいだ。


 さて、彼女が風呂に入っているまでの間は、ここで待機していよう。

 手が足りなくなったら大変だからね、午前中はこっちも二人しかいないから。


「あのーロヴィーナさん」

「はい、どうかしましたか?」


 先ほどの騒動を傍目から覗いてたバイトの子がおそるおそる声をかけてきた。

 実はここのバイトは人気がある。

 何といってもこの街一番の大企業である探索者ギルドが運営する店なのだ。ギルドには入れ無くとも、それに近いところで働けるのは憧れなのだろう。

 ちなみにこの子はリスっぽい獣人族だ。尻尾がでかくもふもふなのだ、一度触れてみたい。


「実はちょっとおトイレにいきたくて……その間お任せしても良いですか?」

「良いですよ。へレディさんが席を外した責任は私にもありますから」

「むしろロヴィーナさんしか責任がない……あ、いえ、失礼しますっ!」

「…………」


 余程我慢していたのか、幾分か駆け足気味にフロアから出て行く。

 言うようになっちゃったねぇあの子。最初来た時はガチガチに緊張してたのに。

 さて、久しぶりのウェイトレスだ、張り切ってやってやるか!

 ちょうど三十才くらいの人族の探索者が一人で座っている。飲み物も既に空っぽになっているので、声かけてみるか。


「お代わりいかがですかー?」

「あ、なんだガキかよ。胸も尻もないガキはすっこんで、さっさとへレディちゃんだせよ?」


 ぷっちーん。


≪怒れる炎よ、烈火と浄化を擁す大いなる火の精霊よ。熱く燃えさかる汝が炎を我が前に、ソリューシアの名においてここに顕現せよ≫


 僅か十秒かからず呪を唱え終わると、客(と書いて敵と読む)の前に火の大精霊が顕現した。

 目を大きく見開く客。

 そしていつの間にか外にいたはずの土の大精霊が客を逃がさないよう、背後に回り込んでいた。

 おおー、やるなぁ。


「お客様、何か勘違いをしていらっしゃるようですが、当店は静かにお茶を楽しみつつ本を読むためのサービスをご提供しております。決して女性を鑑賞するためではありません」


 火の大精霊が十個ばかりの火の弾を生みだした。そしてわざと音をたて背後に回っている事を教える土の大精霊。

 客の顔は真っ青だ。


「あ……あ……ああ……」

「ご理解頂けましたか? 出来ないようでしたら、少々理解させるためにお熱いのをその足りなさそうな頭に当てても構いませんよ」


 虎の威を借る狐ならぬ、精霊の威を借るハーフエルフ。

 でもいいのだ、勘違いは正さないといけない。

 ならフリル衣装でウェイトレスさせるなって話だけど、これは客寄せであり、本分はお茶と本なのだ。

 こっそり横目で見るくらいなら別に良いし、贔屓の子目当てで来店するのも別に良い。俺も男だったら見るし。

 でもな、店員に怒鳴りつけるのはNGだ。それは超えちゃいけないラインなのだ。

 決してガキ呼ばわりされた事を怒っている訳では無い。




「……何やってるんだお前は?」


 精霊王が来るまで、俺は客を正座させ、くどくどと説教を続けた。


♪ ♪ ♪


 ソリューシア。

 この世界の名だ。


 そしてこの世界を造ったのは名も無き創造神。かの神はこの世界だけでなく何十、何百の世界を造り上げた。

 だが彼は造りはしたものの、自らの手で造った世界を改変させることはしなかった。

 その代わり、それぞれの世界に管理者と呼ぶ種族を創造した。


 ソリューシアには、四つの種族が創造神の手によって造られた。


 大地や空、海などを改変させる力を持つ精霊。

 生物が生きていくのに必要不可欠である酸素を生み出す妖精。

 外敵からこの世界を守護する龍。

 最後が創造神の代理であり、これら三種族を管理統括する天使。


 この四つの種族により、更に新しく種族が生み出された。

 天使は人間を、妖精はドワーフを、精霊はエルフを、そして龍は龍人を。それぞれ自らの力を分け与え、子を作り上げた。

 数億年前もの遙か昔の事だ。

 だが自らの力を与え、生みだした種族たちは管理者の力を与えているにも関わらず長く続かなかった。

 ある一定の年月を重ねると停滞し、そして最終的には滅んでしまった。何度か試したが数万年も経てば同じ結果となった。

 四種族たちは悩んだ、どうすればもっと長く続くだろうかと。

 そして気がつく。滅ぶ前に何千年かの停滞が生まれる。ならば停滞しないよう刺激を与えれば良いのではないか、と。また力を与えすぎた結果、ぶつかり合うとより滅びの道を辿ることにもなると。

 こうして今度は力を殆ど与えない今の種族たちが作られた。また千年ごとに刺激を与える事で、前より遙かに長く文明は続くようになった。


「で、その刺激というのが他の停滞せず長続きしている世界の住人を呼ぶって事か」

「その通りだ。天使たちが創造神に願って呼んで貰うんだよ」


 客に土下座をさせて謝らせた日の夜、俺は精霊王からこの世界の事を教えて貰った。

 いや、無理矢理教えられていた。

 何でもついさっき四種族……旧種族と精霊王は言ってるけど、その間で俺の取り扱いが決まったらしく、こうして自室で精霊王と話しをしていたのだ。

 突然居なくなったと思ってたけど、その旧種族とやらの打ち合わせに行ってたのか。


「で、その刺激を与える役割が俺ってことか。そういや昔、水や闇の大精霊が俺に対して、約定に従い一定の便宜を図っている、と言ってたけど、まさかこれの事だったのか」

「ん? いや、お前は違うぞ。お前は召喚されたのではなく迷い込んだ者だ」

「……え? 迷い込んだ?」

「そうだ。元々この刺激を与える役割を持つ者たちは千年くらいの周期に合わせて創造神が送ってくるんだが、送り込む前、送り込んだ後にどうしても世界に穴が空いてしまうんだよ。そして極まれにその穴へ偶然迷い込んだ魂が来る事があってだな。それがお前だよ」


 そうだったのか。

 じゃあ俺って巻き込まれた被害者だった?

 そうかー、俺は巻き込まれ型の転生だったのか。

 あれ、でもじゃあ約定ってなんだ?


「迷い込んだものは、召喚に対し巻き込まれた被害者だ。本来なら来るはずのなかった魂だからな。だからこそ一定の便宜を図らないと、向こう側の管理者に叱られるんだよ。最も次に生まれ変わったときは普通の扱いになるけどな」

「なるほど。でもそれって約定?」


 約定ってのは金融取引で使われる言葉だ。なんでこの世界にもこの言葉があるのかは不明だがな。

 そして金融取引ということは、何かを得たならその対価を渡す必要がある。


「そりゃ向こうから一つ魂が来たなら、こちらも魂を一つ送らないと対等じゃないだろ?」

「なるほどね。確かに対等な取引だ……あれ、じゃあ召喚された奴ら分も向こうへ送るのか?」

「召喚ってのはあくまで向こう側の住人、今世の存在をこっち側に送ることだ。召喚された者たちの魂は、こっちで死んだら向こうへ帰る。しかし魂のまま迷い込んだものは、既にこちら側の住人となってしまうんだよ。世界と魂の結びつきが上書きされるからな。魂のまま界を渡ったが故に発生するものだ」


 肉体が魂を保護しているのかな。

 シールドみたいなもんで、それがあるから魂の居場所は元の世界のまま。

 でも魂だけでくるとシールドはないので、書き換えられちゃうと。


「じゃあ俺が死んだら向こうへ帰るって事か」

「そうはならないだろう。次に召喚されるのは今から五十年後だ。創造神が召喚したタイミングのついでに、魂状態になってる奴らから適当に選んだ者を向こうへ送ってくれるんだよ。でもお前、五十年後ならまだ生きてるだろ?」


 そうだな、確かに俺はまだ十五だし、五十年後なら下手な事にならない限り普通に生きてるだろう。

 でも、それはつまり他の誰かが俺の代わりにあっちへ行くのか。なんだか悪い気がする。


「気にするな。普通は前の記憶なんて蘇らないし、向こうへ行っても気がつかないさ」

「それなら良いんだが……いいのか? ま、それよりもさ、俺が迷い込んだだけなら何でこんな話をしたんだ?」

「それがな、実は次の召喚時期が近いこともあり、お前にも同じ刺激を与える者として扱うように決まったんだよ。前の世界の記憶もあることだし、ついでにって感じだけどな」

「ついでかよ……」

「そうだ。そしてそのついでがちょっと大変でな。お前は刺激を与える者達に対しての指導者になる」

「指導者?」


 指導者ってつまりは、これから来る人たちに何か指示して導く役って事だよな。

 えー、なんでそんな大役を。

 第一指導者ってこいつらがやる仕事じゃないのかよ。


「お前はこれから召喚される者たちよりこの世界に詳しいし、そして前の世界の記憶も持っているからな。指導者としては適任だろ」

「まてまて、お前らが指導するんじゃないのか?」

「違う。俺様たちはあくまで管理者だ。停滞は忌むべきことだが、俺様たちが直接手を下すことはない。それにな、正直に言えば何をしていいのか分からん。分かってたら他の世界から呼ぶなんて迂遠な事はしないさ」

「おい! 丸投げかよ! ってか、俺に指導者なんて無理だぞ」

「実際それでこの数十万年は上手くいってたんだよ。それに指導しなくとも召喚された者たちに考えさせ、お前は助言するだけでもいい。とにかく任せた」


 うっわ、こいつ腹立つー。

 本気で丸投げかよ。

 仕事を回すのならその対価を寄越せ。具体的には本が買えるくらいの金を、定期的にくれるんなら考えてもいいがな。


「その代わり、お前には特権を与える。召喚された者にもいくつか特権は与えられるが、お前はその上として扱われるからな」

「なにそれ、チートってことか? 別に助言するだけならいらんし、それより金寄越せ」

「チートが何なのかは分からんが……それに新種族たちの使う金なんて持っている訳がないだろ。お前に特権を与えるのにも理由があるんだ。召喚された者達が特権を使ってきたら、今のお前では対抗手段はない。例え大精霊を呼ぼうが、こちら側に来るのは本体ではなく仮初めの身体だからな、特権の前じゃ厳しい」

「向こうが強硬手段を使ってきた時の抑えとして、俺には更にその上をくれるって事か。でもさ、俺が向こうと同調して反抗したらどうするんだよ」

「世界を壊さない限りは旧種族は何もしない、さすがに全人類を滅ぼそうとするのなら止めるがな。それにお前と召喚された者たちが同調して敵対しようが、本気になった管理者、特に龍族には絶対勝てない。あいつらは戦闘特化だからな」


 龍っていたんだ。

 あ、そういや迷宮の六十一階層のエリアボスも龍とかいう噂だったな。

 確か今まで一度しか討伐されたことがないんだったっけ。


「迷宮に居る龍は一番下っ端だぞ。しかも迷宮の力で作られた擬似的な存在だ。俺様らで例えるなら、こっちに顕現した小精霊くらいだな」

「え?」

「だから戦闘特化と言っただろう。一番下っ端の龍ですら本体が出張ってきたら、特権があろうがなかろうが勝ち目はない。そもそも龍は外敵からこの世界を守護する存在だからな、弱かったら意味がないだろう?」


 こっわ、龍こっわ。

 しかしその特権とやらをくれる代わりに助言役をしろってか。

 召喚されるのは人間だとして、数十年くらいはそれに時間を取られるのか。うっわ、めんどくさ。

 特権の内容にもよるが割に合わない気がする。


「ま、それはともかく特権って結局何くれるんだ? 金を生み出せる錬金術とかなら大歓迎だ」

「全く違う。お前は抑え役だと言っただろう? 金を生み出すだけの特権で抑え役になれるかよ。お前は半精霊となってもらう。簡単に言えば俺様の……精霊王の血を与える。これは特別だぞ? 普通なら小精霊の血ですらエルフたちには栄誉なんだぞ? だが俺様はお前が気に入っているからな」

「やだ」

「なんでだよ!」


 いくらエルフ的に栄誉な事でもなんか嫌だ。

 だっておっさん顔の精霊の子って嫌じゃね?

 なるなら水の大精霊辺りが良い。闇の大精霊も可愛いけど、あの子ちょっと合わないからなぁ。


「だってそれってつまりお前の子供になるって事だろ? なんかやだ」

「やかましい。既にこれについては旧種族間で決まったことだ。つべこべ言わず受け取りやがれ」

「うわー、きゃーいやー(お前の血で)おかされるーーー」

「ったく、精霊王の血を何だと思っているんだよお前は。ま、そんなだから気に入ってる訳だが」


 でもさ、半精霊になるってことは今の両親の子ではなくなるんだよな。

 それは本気で嫌だ、なんだかんだいって今の両親は気に入っているし。


「半精霊っつっただろ、半分は今の両親の血が残る」

「それでも半分はお前の子なんだよな。それって断る事は?」

「不可能だ、旧種族間で決まったことは覆せない」

「なんでそんな流れになったんだよ……」


 酷い話もあったもんだ。

 俺の関係ないところで、勝手に俺の将来が決められるなんて。


「それとここからは重要な事だが、お前には五十年、精霊界で精霊の力の制御を訓練して貰う」

「は? 五十年も?」

「そうだ、半精霊とはいっても俺様の血だ。大精霊より力は強くなるからその制御は必ず学んで貰わなければならない。下手に制御を失敗すればこの街くらいなら軽く吹き飛ぶからな」

「そんな物騒な力いらねーよ!!」


 だいいち五十年も精霊界に篭もってたら、親の死に目に会えないじゃないか。

 母親はエルフだから良いが、父親は人族だ。しかもそろそろ四十才になる。あと五十年も生きられない。

 せめて年に一度は帰省して顔を見せるのが親孝行ってもんだろ。


「これくらいじゃないと召喚された者たちの特権の抑えにならないんだよ。ただし半精霊ってことはだ、お前の意識の一部を切り取って、物理界で用意した仮初めの身体に入れることはできる。つまり今の精霊召喚と同じ仕組みだな。それなら両親にも会えるぞ」


 なるほど。いざとなれば母親に頼んで召喚して貰えば良いのか。

 実体じゃないってのはどういう感覚なのかは分からんが、少なくとも会えることは間違いないのか。


「という訳でだ。悪いが今からお前には精霊界へ行ってもらう。拒否しても無理矢理連れて行く。お前の母親には事情を説明しておいてやるから安心して無理矢理連れていかれろ」

「まてまて、突然すぎる。この店だってどうするんだよ。事情を説明しないといけないだろ?」

「この半年、お前がいなくても何とかなってただろ」

「うっわ、ひでぇ。その通りだけどさ、一応伝言しとかないと。それにパシリアやエルセだって心配するだろ? あ、そういや聞き忘れたが、刺激という奴が全部終わったら、俺は元の生活に……ハーフエルフに戻れるのか?」

「……さて、行くか」

「ちょっとまておい、なんで返事しないんだよ! それ何だよ空間が歪んでるように見えるが! おいおい背中押すなよ引っ張るなよ! うわっ、ちょ!!」





 その日、第六級探索者ロヴィーナの姿は唐突に消えた。

 エルセやパシリアを始めとした何人かがロヴィーナを探したが、全く手がかりは見つけられなかった。

 ただ、ロヴィーナが消えた日、とてつもない力の波動を感じ取ったものが多数いたという。

 それを聞いたパシリアは、おそらく精霊たちと何かやらかしたのではないか、と推測した。


 二十一階層のエリアボスタイムアタックのレコードホルダー、知る人ぞ知る第六級探索者ロヴィーナ。

 大精霊を召喚する精霊術師の名はこれから五十年消える事になる。



かなり無理矢理感ありますが、話を持って行きました。

取りあえずこれで一旦終わりにして、次は新章とします。


二章からは一人称ではなく三人称で書こうかなとか考えています(まだ何も手を付けてない)

練習練習……。


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