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十七


 赤いゴブリン事件から半月が経った。

 幸い俺に外傷はなく、事件の翌日には普段通り生活することができた。

 あの赤いゴブリンの正体、何故三階層に居たのか、何が目的だったのか、いずれも不明と円満解決にはほど遠い。

 唯一分かったことは光の中精霊とタイマン張った事から、おそらく探索者で言えば第四級相当の実力があったと推定されている。

 これは階層で例えるならば五十階層近辺の魔物と同等だそうだ。なんだよそれ、そんな強い魔物が三階層なんかに出張ってくるなよ。

 でもさ……第四級相当って事は、第三級のパシリアのほうが格上?

 パシリアはあの赤いゴブリンより強いのか……。今度から舐めた口調で話すのはやめよう。


 それと朗報だけど、俺のランクが第九級へと上がった。

 魔素の量は第八級に届く程度までは貯まっているけど、ギルドへの貢献度が低いので第九級なんだってさ。

 探索者始めてから一ヶ月も経ってないから貢献度も何もないし、それは仕方が無い。

 でも逆に言えば、名付きの討伐、これだけで第九級へ上がれるほどの貢献度を稼いだって事だ、すごいな。大変だったけどさ。

 あ、そうだ。ついでに、あの二人も第七級へと昇格したらしいよ。


 さて、第八級相当まで魔素が上がって何が違うようになったかと言えば……。


 まず飯の量が格段に増えた。

 以前より倍近く食べるようになったのだ。それくらい食べないとすぐ空腹になる。

 昔、精霊王と一緒に探索者向けの食堂に入ったことがあったけど、第八級ですらこれだから、野球のボールくらいのからあげを出されるのも納得だ。

 そして次に身体能力。

 めちゃくちゃ、格段に強くなった。

 今なら蹴りでドアを蹴破るくらい、簡単にできるぜ。やらないけど。

 垂直跳びも前の世界ならたぶんオリンピックに出ても、ぶっちぎりで優勝できるくらいジャンプ力が凄くなった。

 と、喜んでいたものの、この世界の獣人族だとこれくらいの身体能力は元々あるらしく、そこまで凄いってほどじゃないんだって。

 ハーフエルフ、弱すぎじゃね?

 しかし探索者は第八級くらいから人間離れをしていき、第六級を超えると人外、と言われているが、確かに納得だな。


 そして半月経った今、俺が今まで何をしているのかと言えば……。


「よーし、じゃ次のお嬢ちゃんの課題は、対魔抗だね」


 探索者、特に魔術師は対魔抗、つまりは魔術のレジスト力を上げる必要がある。

 先日の俺みたいに魔術が使えなくなったら、魔術師なんて荷物どころか足手まといだ。

 恐慌以外にも封印、阻害、乱場といった魔術を使えなくするものもある。それぞれ声を出せなくする、魔力への認識を阻害する、魔力の流れを乱す、だ。

 魔力を吸収するようなものまであるらしい。

 これらに対抗するには、対魔抗を上げる必要がる。


 どうやって上げるのかと言えば……そりゃ魔術を喰らいまくるのだ。

 ゲームで例えるなら、魔素という経験値を対魔抗のパラメータへ割り振る感じである。

 最もカーソルで指定してボタン押下でパラメータは上げられないので、実際に魔術を喰らいまくって魔素をそっちの防御に使うよう意識させる必要がある。

 といういことで、パシリアのクランに在籍している、暇そうにしていた魔術師たちを捕まえて次から次へと魔術をかけられまくりました。


 ええ、とても地獄でした。

 

 全然覚えてないけど最後は、もっとー、もっとかけてぇぇぇ、とか言っていたらしい。

 うひゃぁぁぁぁぁ。

 もうお嫁にいけない。行く気もないけど。


 あとは精霊術士としての戦術も触りだけ教えて貰った。

 パシリアは魔術師であって精霊術は使えないので、昔一緒にパーティを組んだ精霊術士を参考に、どんな事をしていたのか教えて貰った。

 本来なら自分で考えるべきなんだけどね、と言われたけど……。

 その精霊術士はアタッカーとして中精霊を一体、そしてそれ以外の事を小精霊たち五~六体に任せていたそうだ。

 その上で参加しているパーティに足りない部分を小精霊で補助し、自身は中精霊と共に戦っていたんだって。

 最も自身の属性もあり呼べる精霊の種類が限られているので、汎用性は低かったみたいだけどね。


 それをオレ流にカスタマイズさせると……。


 俺のメリットは属性関係なしにほぼ全ての精霊を呼べる事だ。

 つまりはいろんな属性の精霊を呼び、汎用性を高めるのが良さそうだな。

 ただし次から次へと精霊を呼べばさすがに魔力が足りなくなる。

 だからこそ、なるべく魔力を節約しつつ、効率のよさそうな布陣を考えた。


 まず俺は第九級、実質第八級の探索者だ。潜れる階層はせいぜい十階層くらい。これ以上下へいくと、万が一本人が狙われたらそこで詰みだからね。

 そして十階層辺りならば中精霊でもアタッカーとしては十分。第四級くらいの力を持つ魔術師と同等だからな。

 と言うことでアタッカー役の中精霊は一~二体、属性を考えれば火と水辺りなんだろうけど火は目立っちゃうから、風と水にする。

 更には今度こそ奇襲なんて喰らわないよう、小精霊をたくさん呼んで天井やら壁やら隅から隅まで調べて貰う。

 その子たちは戦闘になれば、敵の周りを目障りなくらいに彷徨かせて牽制させる。小精霊たちの負担が大きそうだけど、一度試してから数を増やして交代制にするか考えよう。


 と、こんなように精霊を活用した戦術を夜な夜な考えていた。


 そして半分くらいはレジストできるようになった頃、迷宮へと再チャレンジが始まった。

 半分、とは言っても魔術をかけて貰ってた人たち、第五級とか第六級クラスでありその魔術強度はかなり高い。

 第九級、実質第八級の俺がその人たちから半分もレジスト出来たのなら十分なんだって。

 さすがハーフエルフ、と言われた。エルフって元々対魔抗が高く伸びやすいらしいよ。

 赤いゴブリンの恐怖にはあっさりかかったけどな。



「……で、考えた結果がその精霊の大行進って訳ね」

「ええ、やはり数の暴力は正義という結果に落ち着きました」


 俺の後ろには水と風の中精霊が一体ずつと、その後ろに闇と風、土の小精霊が五体ずつ、合計十七体が並んでいた。気分はドラク○だぜ。

 これで概ね五割程度の魔力消費だ。

 万が一アタッカーが足りなければ追加で大精霊一体、魔力が空っぽになる覚悟をすれば二体呼べる計算になる。


「……ま、いいわ。さくさく魔素を吸収してどんどんランクあげてちょうだい」

「貢献度稼がないとあがりませんが……」

「良いのよ、貢献度なんて後からいくらでも稼げるし。それに中精霊二体も居れば、やりようによっては二十一階層のエリアボスも倒せるわよ。時間はかかりそうだけどね。エリアボス討伐すれば貢献度も簡単に上がるわ」


 エリアボス。

 迷宮には二十一、四十一、六十一と二十階層ごとに非常に強い魔物がいる。それがエリアボス、あるいは階層主と呼ばれる魔物だ。

 通常、エリアボスを討伐するにはパーティではなくクラン単位の数で攻略するのが一般的らしい。

 一番弱い二十一階層のエリアボスですら、高ランクの探索者二~三十人で一斉攻撃しても一時間くらいかかるんだって。

 四十一階層になると半日、そして六十一階層は過去一度しか討伐に成功していないそうだ。

 ただ湧き湧き……リポップの速度もそれほど早くないらしく、一度倒せば一月~一月半くらいは再出現しないらしい。


 また、過去最速で突破した時間は二十一階層が四十一分、四十一階層は四時間半だそうだ。

 どちらも『風神』の二つ名を持つ第二級探索者マリアンネ率いる、迷宮都市最大手クラン『風来坊』が打ち立てたそうだ。

 このマリアンネはエルフの精霊魔術師で、迷宮都市最強の魔術師らしい。

 エルフかー、やっぱり美人なのかな。

 そういや俺って、ここに来てからまだ他のエルフを見たことがないんだよね。

 えっと確か……このサイサランド鉱山王国に来ているエルフの数は十八人……だったかな。

 このうち首都にいるのが二人(どちらも宮廷魔導師で一人は母親だ)、この迷宮都市に十人ちょっとくらい、残りが各地に散らばっている……と記憶している。

 興味が無かったから正確な人数は覚えていないんだよね。

 そしてこの迷宮都市にいる十人ちょっとのエルフの大多数は、このマリアンネのクランに入っているらしい。

 例外は、ハーフエルフだからエルフの人口に含めるかは謎だけど俺、あともう一人いるそうだ。

 つまりはこの風来坊とかいうクランを見学すれば、たくさんのエルフを見る事ができる訳だ。

 母親もその同僚のエルフも、どちらも美人ではなく可愛い系なのだ。一度で良いから美人のエルフを見てみたいのだよ。

 男なら仕方ないだろ?


 そういや男のエルフも見たことないな。

 どうせイケメン確実だろうし、見ていて不愉快になるから別に見る必要はないけどさ。


「よし、じゃ行ってきな。カルロス、シーラ、この子の面倒頼んだよ」

「任せてください!」「はいっ!」


 こんな感じで事件から半月後、ようやく迷宮へ潜る事になった。


♪ ♪ ♪


 カルロスとシーラは怪我で休んでいた時期があり、この半月はリハビリをしていたらしい。

 特にカルロスは腹に穴が空いたし、あちこちに裂傷も出来ていたし、何より赤いゴブリンを討伐しランクが上がったため身体能力も伸びたから、その調整が必要だったそうだ。


「まずは軽く五階層から行ってみるか」

「そうね、まずは以前と同じ階層を目標にしましょ。まだ慣れていないし」

「じゃあ、今日は私と精霊たちに任せて下さい」


 第八級の主な狩り場は十階層近辺。そして第七級へ上がれば二十階層までがその範囲になるらしい。

 十階層分も行動範囲が広がった、つまりはそれだけ第七級になると身体能力が格段に上がるということだ。

 調整に手間取るのも仕方無いだろう。


「……なぁ」

「……どうしようねこれ」


 闇の小精霊が索敵を行い、風の小精霊を背後に配置させバックアタックの警戒、土の小精霊たちは天井に張り付かせての先行と戦闘時の攪乱をお願いした。

 そして中精霊二体による一斉射撃で、まさに見敵必殺状態だ。敵が何もできないまま全滅するのを見守るだけのお仕事である。

 既に目標を大きく超えた十階層へ到着しているが、一回の戦闘時間は一分もかからず終わっている。

 カルロスとシーラはまさにお飾り状態だ。


「俺らやることないんだが」

「お二人はいざという時のために力を温存しておいてください。特に魔術の効かない相手が出た場合、カルロスさんにお願いする事になりますので。あ、暇ならその辺で素振りでもどうぞ」

「魔術の効かない敵なんてもっと下へ潜らないと出てこないぞ。それに俺らもリハビリ兼ねて来ているんだけどさ、少しは戦闘させろよ」


 そう言われたので、次の戦闘にはカルロスを混ぜてみたのだが、何故か不満顔。


「……すっげー余裕だったんだけど」


 余裕があるのなら良いことじゃん。

 そんな不満な顔しないで。


「ランクがあがったせいでは?」

「いやそうじゃなくってさ、敵が殆ど棒立ちなんだよ。人形相手に戦ってるような感じでさ」

「土の小精霊たちに魔物の足を止めるようお願いしていますからね。それに闇の小精霊には思考を軽く混乱させるようにして貰っていますから。楽でいいですよね?」


 動いてたら中精霊たちの攻撃魔術が当たらない可能性もあるので、足止めしてもらっているのだ。

 ミスが少なくなれば、その分中精霊たちの持続時間も増える。

 小精霊五体を呼ぶより中精霊一体のほうが魔力消費は大きいからね。


「だからリハビリ……いや、今日は諦めるわ」


 そのままトボトボとシーラの横へ歩いて行くカルロス。更に素振りまで始める始末である。

 やることがないって暇だよね。

 でもすまないが、今日は俺の戦術がきちんと機能しているか確認したいのだ。機能してなかった場合、万が一の時に彼らには着いてきて貰いたい。


 結果十階層をぐるぐる回っているうちに俺が魔力に乏しくなったので、お帰りとなりました。


 今日の戦闘で得た経験。

 途中途中で精霊たちへ魔力を与えていたので、思ってた以上に魔力消費が激しかった。今後は休憩を挟む必要がある。

 でもこれは今日殆ど精霊たちが倒した結果であり、カルロスやシーラをもっと戦いに参戦させ精霊の数を減らせば良いだろう。

 明日は小精霊の数を半分まで減らして、もう一度チャレンジしようかな。


 日々精進です。





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