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十五


 迷宮の三階層。

 ここから人型の魔物が出現する。高いとは言えないが知能を持ち、武器を使ってくる魔物ゴブリンが登場するのだ。

 一階層や二階層にいるシックワームと比べ、一気に難易度が跳ね上がる。

 また三階層も二階層と同じく、迷路のような作りになっている。

 つまり……暗いのだ。

 そして俺が臨時でパーティを組んでいるカルロス、シーラは共に人族であり、夜目は利かない。

 このため俺の護衛兼灯り役として、光の中精霊を召喚したのだが……。


「ちょっと先行してくるわね」

「任せた」


 シーラは、まるで猫のように足音を立てず、先にある通路の曲がり角へと向かう。

 それを俺らは後ろから見守っていた。

 いや、カルロスはシーラが万が一見つかった場合に駆けつけるためなのか、腰を落として剣の柄を握っている。


 そうなのだ、この暗闇の中、何故か二人とも外に居る時と変わらない動きをしていたのだ。


「なんで人族なのに暗いところでも平気なんですか?」

「気合いだ」


 何だこいつ、脳筋なのか?


 実は迷宮へ入る前、俺は光の中精霊に先導してもらおうかと提案したのだが、却下されたのだ。

 シーラが角の先をこっそり見て、即座にこちらへ戻ってくる姿を見る。それを見たカルロスは構えを解いた。

 明るさ確保の為にと思ってたのだが、確かにこれなら灯りも不要だな。


「いなかったわ。でも……ちょっと問題ね。予想以上に目立ってるわよ」

「あー、そうだよな」


 二人して光の中精霊を見て、頷き合ってる。

 どうしたのだろうか?

 精霊が何かあったのかな。


「ねぇロヴィーナちゃん、その精霊って光を消す事って出来ない?」

「え?」

「目立ちすぎなんだよ。これじゃ俺らがここに居ますって宣伝してるようなもんだ」


 あ、そっか。

 光っていると向こうからも丸見えって事になるのか。

 んー、光の精霊って存在自体が光なんだから、消す事って出来るのかな。


「光ってるのを消す事って出来る?」


――ふるふる。


 ですよねー。

 でもこれじゃ不味いよな。

 どうしよう、袋でも被せようか? 袋なんて持ち合わせはないけど。

 仕方無い、他の子を呼ぶか。


「ごめんね、せっかく呼んだんだけど……」


 俺の言いたいことが伝わったのか、がーん、という表現を体現する光の中精霊。

 ほんとにごめん。

 今夜にでももう一回呼んでお詫びしなきゃ。


 還そうと呪を唱える寸前、光の中精霊が突然俺の腰のポーチへ手を伸ばした。

 そこは光の小精霊がいるんだけど……。


 彼女はポーチを開けると、なんと一メートルくらいのサイズの光の中精霊が、吸い込まれるようにポーチの中へと消えていった。


 え? え?


「ほー、そんな小さいところに入れるのか」

「どうなってるの、それ?」


 どうもなにも、四十メルで買ったタネも仕掛けもないごく普通のポーチですが。

 一応光の小精霊用に、布を通して外に光が漏れないよう、父親が魔術をコーティングしてくれたものだけどね。

 子供の頃からの愛用品だ。


 ま、これで目立ってる問題は消えた。

 護衛がポーチに入っちゃったけどな。

 うーん、どうしよう、別の子を呼ぼうかな?


 護衛として強いのは火。でも火も明るいよな。となると水か土か……風だと音がするからなぁ。

 目立たないっていうのなら、闇が一番だろう。

 闇にするか。でもなぁ……闇の大精霊が嫉妬しそうで怖いんだよな。

 何故わたくしを呼ばず中精霊を呼ぶのですか、ねぇ、どうして? とか言ってきそう。

 それに闇の中精霊って召喚したことがないんだよね。

 

 ま、いいか。何事もチャレンジだ。


≪夜を支配する永久の暗闇よ、深き底に揺蕩う闇の精霊よ、ロヴィーナの名においてここへ顕現せよ≫


 俺の呪と共に魔力が吸い出され、それが暗闇の人型へと変わっていく。

 お、きちんと応えてくれた。

 暗闇が俺を見て一礼をする。

 うん、これなら大丈夫そうだ。


「初めまして、呼びかけに応じてくれてありがとう」


 手を差し出すと、おずおずとその手を握ってくれた。

 大人しいな、闇の大精霊とは大違いだ。


「真っ黒だ」

「すごい、向こうが全然見えないわ。でも精霊二体も呼んで大丈夫?」

「あ、はい。全然平気ですよ」


 大精霊一体呼ぶより、中精霊二体のほうが遙かに魔力消費は少ない。

 体感一割も使ってないくらいだ。


「平気って言うんなら大丈夫だろ。んじゃ、いくか」

「ええ」

「はい」


♪ ♪ ♪


 三階層の本格的な攻略(俺にとって)が始まった。

 シーラが索敵を行い、敵を発見するとカルロスを呼んで待ち伏せする。

 そして奇襲をかけて素早く殲滅。殲滅後は転がっている魔石を拾い、また元の陣形……シーラが先導でカルロスが後ろをついていく形になる。

 この繰り返しだった。

 たった二人でも非常に安定している。というかカルロスの攻撃力が半端ない。

 大剣一振りでゴブリンの首がぽーんと飛んでいくのだ。動きに無駄がなく、一撃で次から次へと仕留めていく。

 これで第八級かよ、まるで熟練者じゃないか。

 あーでも探索者になって三年だっけ、ほぼ毎日潜っているならそりゃ慣れるか。


 しかし、当初は魔物とはいえ人型を殺すのは大丈夫だろうか、と思っていたが今のところは平気そうだ。

 自分で直接は殺していないし、何よりそこそこ遠くから見ているだけなので、まるでテレビを通しているように感じたからだろう。


「さて、そろそろお姫様にも活躍してもらうか?」

「そうね」


 ぶん、と大剣を振って付いた血を吹き飛ばしながら、カルロスそう言うとシーラも同意した。

 お、やっと出番か。

 手招きされたので、近寄っていく。


「聞いてたかな? 次からロヴィーナちゃんにも攻撃に参加して貰うからね」

「はい、分かりました。どのようにすればいいですか?」

「えっとね、カルロスの代わりをロヴィーナちゃんに任せるわ」

「そんな大きな剣持てませんが」

「違う違う、魔術師が剣もって突っ込んでどうするのよ。後ろから魔術で攻撃してくれればいいわ」


 そりゃそうか。

 でも魔術ね。初級とはいえ詠唱は必要、一発撃つのにそこそこ時間がかかる。さっきカルロスは三体くらいの敵を、ものの二十秒かからず倒していた。

 詠唱してたら二十秒なんて無理だ。しかも一発で倒せるかも分からないし。

 となれば、闇の中精霊に攻撃を任せた方がいいかな。


「基本はさっきと一緒。あたしが索敵して敵を発見したら、あたしの後ろまで近づいて。タイミング見てあたしが敵を混乱させるから、その隙に一匹ずつ倒してね。ただし、あたしに当てたら許さないから」

「当てませんよ、この子にお願いしますので」


 当てません。フレンドリーファイヤーなんて洒落にならないからな。

 もちろん攻撃するのは俺じゃなく、闇の中精霊だから豪語するのだ。

 い、一応俺だって下手じゃないよ?

 前の世界の小学生の時はピッチャーやってたからな!

 ま、代理の代理の代理くらいで試合には出たこと一度もないし、普段は一人で黙々と壁当てしてただけなんだけどさ。


 悲しくて涙が出そう。


 話を振られた闇の中精霊は、胸をどん、と叩く。

 任せろって事だな。


「大丈夫みたいです」

「うん、じゃ行こっか。カルロスは万一の時のサポートね」

「おうよ」


♪ ♪ ♪


「……居ないわね」


 あのあといくつか通路やら曲がり角を確認したが、魔物は居なかった。

 他の探索者たちとも何パーティーかすれ違ったので、多分倒されたのだろう。


「あそこに部屋があるから、そこに入ろうか」

「大丈夫か?」

「いざとなればあたしが倒すから」


 部屋かぁ……苦い思い出が蘇る。

 でも彼らは第八級、俺からすればベテランだ。


「部屋の場合は、まずあたしが聞き耳を立てて中に魔物がいるか判断するわ。居る場合は遠慮無く魔術を部屋にぶっ放してね」

「分かりました」

「でも、ここで注意しないといけないのは同業者ね。もし部屋の中で休憩していたら……悲惨ね」


 それは悲惨だ。

 その場合はどうするんだろうか。

 でもさ、部屋の中ってもちろん魔物も沸くんだよな。休憩中に側に沸いたら……こわっ。


「あははは、普通部屋の中で休憩する場合は扉を開けっ放しにするか、印をつけておくのよ。そういうのは見えないから、安心して魔術使ってもいいよ」

「なんだ、そうだったんですね」


 そしてシーラはさして緊張した様子もなく、普通に猫のような軽業で扉の前まで移動し、耳を当てていた。

 その後、指を二本立てる。


「二匹だってさ」

「分かりました」


 カルロスとなるべくゆっくり、音を立てずに扉の近くまで歩いて行く。

 シーラがこちらを見る。

 目だけで闇の中精霊へと合図をすると、軽く頷いてくれた。


 さあ、やるぞ。


 シーラが五本の指を立て、一本ずつ減らしていく。あ、カウントダウンか。

 その数が徐々に減り、そしてゼロになった時だ、カルロスが扉を蹴破った。


「やって!」


 俺が闇の中精霊へと指示を出すと、彼女はすかさず漆黒の槍を二本生みだし、無造作に部屋の中へ撃ち放った。

 ギッ!

 変な声が部屋の中から聞こえる。

 その声が聞こえたかと思った途端、カルロスが部屋へ踏み込んだ。その後を付いていくシーラ。


 うわ、動きがすごいスムーズ。慣れてるなぁ。


 俺も慌てて二人の後を追いかけて部屋に入ると、そこにゴブリンが二匹倒れているのを見つけた。

 シーラは俺と入れ替わるように部屋の前へ移動して様子を伺っていた。カルロスは油断なく剣を構えている。


 あれ、もう終わったんだよな。

 まだ何かやることあるのか?


「おい、魔石」

「あっはい」


 なんだ、魔石の回収か。

 ようやくゴブリンの死体が消えさり、そこに二つの魔石が転がった。それを手にしてポーチ……光の精霊たちが入っていないもう一つのほう、へと入れる。


「今のは良かったぞ」


 魔石を回収し終わると、カルロスが頭を撫でてきた。

 おい、俺は子供じゃねぇよ。

 その手を振り払いつつ「どうも」とだけ答えた。実際やったのは俺じゃなく、闇の中精霊だからな。


「こっちも大丈夫よ」


 外を警戒していたシーラが、そのままで声をかけてきた。

 きちんとどんな時でも周囲を警戒するんだなぁ。


「ああ、もう少し回るか?」

「そうね……あと一時間くらいで昼になるし、一~二回やってからどこかの部屋で休憩かな」

「そうだな、よし魔石も回収したようだし、部屋から出るぞ」


 こいつら体内時計でも持っているのかな?

 そんな疑問を抱きつつ、カルロスに押されるようにして前を歩いた時だ。


 突然闇の中精霊が俺を突き飛ばした。


 え?


 滑るように床を転がっていく俺。

 それとほぼ同時に、床を何かで殴ったような音が響いた。

 いたたたたた、な、何? なんだ?


「なっ!?」

「はぁっ!!」


 カルロスの驚いた声と、シーラの気合いの入った声が同時に聞こえる。

 が、しかし、何か甲高い音がした。


 何が起こった?

 慌てて起き上がり、そちらへと視線を向けるとそこには……。


「なんだあれ……?」


 赤いゴブリンが一匹いた。

 体長はゴブリンと差ほど代わりはないものの、手には長剣、そしてその眼光だ。

 強烈な何かを感じる。


「こいつ、もしかして名付きかっ!?」

「油断しないで!」


 カルロスが両手で大剣を振りかざして赤いゴブリンへと斬りかかるが、そのゴブリンは片手で軽々と受け止める。

 そのままカルロスを蹴り飛ばし、更に地面へ剣を突き刺した。突き刺した場所から漆黒の煙が消え去るように立ち上る。


 あ、闇の中精霊……。

 まさか、俺を庇って?

 もしかして、こいつ上から奇襲をかけてきたのか?

 それを事前に察知した闇の中精霊が俺を突き飛ばし、代わりに剣で刺され、踏みつけられた?


 精霊が……死んだのか?


 心臓がどくどくと大きく鼓動する。

 いや、まて落ち着け俺。精霊の本体は精霊界にあり、こっちは仮初めの肉体だ。

 一定のダメージを受けて、仮初めの肉体を維持出来なくなっただけだ。

 だから死んだ訳ではない。

 しかし……間一髪だった。

 もしあそこで闇の中精霊が庇ってくれなければ、俺はあいつに頭から剣を刺されて死んでいた。

 今更ながらに恐怖が襲ってきた。手足ががたがたと震える。


 その間にもカルロスとシーラが赤いゴブリンへ攻撃を仕掛けるが、軽々と弾き返され、更には追い打ちされる。

 じりじりと押される二人。


「くっそ、なんだこいつ! 強いじゃねぇか!!」

「ロヴィーナちゃん支援!!」

 

 シーラが俺へと助けを呼ぶ。俺に助けを呼ぶほど追い詰められている。

 だが恐怖に手足が震え、思考がまともに働かない。

 魔術は精神を統一しなければ発動しない。こんな状態ではとても魔術など使えないだろう。


 ……ど、どうすれば……。







週末は手直ししますので、新規投稿はお休みします。すみません。。。

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