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十一

今回のお話は、あとでまた修正をかける可能性大です



「それにしても、いつの間に本屋から喫茶店に変わったんだ? いや、本は置いてあるのか」


 パシリアはクレディスティーを頼んだあと、店内をぐるりを見渡した。

 その上で、俺の服装を見て「うっわー」とか呟いてる。

 なんだよ、ゴスロリがそんなに悪いのか、お願いですから見ないで恥ずかしいんだよこっちは。

 既にこの店が開店してから数ヶ月は経っているのに、未だひらひらした服に慣れない。

 足下がスースーするし、スカートのインナーが足に纏わり付いて感触がなんか嫌なんだよな。


「本は一部増えていますが、魔術書は変わりありませんね。ただここでお茶を飲んでいる方には、自由に本を読めます」

「ほー、それはつまり一日居てもいいってことか?」

「店内が混み合っているのなら、なるべく早くお帰りをお願いしていますけどね。空いていて且つお茶を次から次へと頼んで頂ければ、それこそ一日中でも」


 店舗にトイレないし、そんなにお茶ばかり飲めないだろうけどな。

 そう、殆どの店舗にはトイレがないのだ。街中に公衆トイレはあるけどね。

 ちなみに紙はないので、各自で準備しておく必要がある。

 俺? はっはっは、水と風の小精霊を召喚してごにょごにょ。エコです。


「魔術師にとっては魅力的だね。お茶代なんてどんだけかかっても千メルもいかないだろう? それで一日中、本が読めるなら安すぎる」

「ええ、その通りなんですよ」


 そうだね、牛丼屋で二千円分くらい食べるのと同じくらい厳しいだろうね。

 でもね、児童書についてはファミリーが来るようになって読んでくれる人は増えたけど、娯楽小説が全く読まれない。

 せっかく取りそろえたのにな。


 ウチは午後から夕飯の支度をするころまでしか営業していない。五時間くらいかな?

 そして魔術本を新しく読むのなら五時間では全く足りない。おさらい、という意味で読み直すのなら十分だけどね。

 だから魔術本が不人気なのは分かるけど、娯楽小説なら五時間もあれば一冊どころか二冊くらい読めるだろう。

 ちなみに正規で買うなら、娯楽小説でも二万メルはする。それが千メル以下で読めるんだからお得だと思うんだけどな。何度も読み返したくなったら知らんけど。


「変わったこと始めたねぇ」

「はい、ちょっと話が大きくなっちゃいまして」


 と、このようにのんびりパシリアとお話できるのも、闇の大精霊がウェイトレスをしてくれているおかげだ。

 今まで俺しかいなかったが、突然闇のオーラを纏った清楚っぽく見える美人さんがウェイトレスをしているものだから、いきなり注目の的になっている。


「そこのおねーさん、俺にクレディスティーとシロップクッキー!」

「こっちベスガットティー!」

「あ、俺もベスガットティー」

「あなた方、次から次へと注文しないで、大人しくなさい!」


 忙しそうに働いている。

 しかし闇の大精霊ってどう見ても普通の人間には見えないはずなんだけど、あの人らそんな事は関係ないのかね。

 ある意味強者だな。


「おねーさん可愛い~!」

「すっげーな、あの体付き」

「スレンダーなロヴィーナちゃんも良いけど、あの娘も良いよな」

「ちょっ、何ですか貴方たちは。わたくしはロヴィーナさんのモノですよ! 不躾な視線を送ってこないで!」

「聞いたか今の!」

「ロヴィーナちゃんのモノって……」

「これはあっちの世界か!? ロヴィーナちゃんが攻めとは奥が深いぜ……ごくり」


 一斉に俺のほうへと視線が向けられる。

 おい、お前ら何考えてるんだよ。ごくり、ってなんだよ。

 俺は前の世界含めて清らかな身体だよ!


 ……ちょっと悲しい。


「あー、ところでさ」

「はい、何でしょうか?」

「えっとさ、ロヴィーナはこのままこの街で暮らすんだっけ?」

「はい、そのつもりですけど……」


 今は本屋兼喫茶店をやっているが、元々は両親と同じ宮廷魔導師になるつもりで、魔術の勉強をしていたのだ。

 宮廷魔導師は高給取りだしな!

 万が一なれなくても、このままこの店を続けるのも良いかもしれない。一応俺ともう一人くらいは食っていけるだけの収入がある。

 でも飲食店は景気に左右されやすいから、なるべくなら親方日の丸の宮廷魔導師が良いけどね。


「宮廷魔導師だっけ? でもさ、宮廷魔導師って実戦経験も必要なんじゃなかったっけ?」

「実戦……ですか?」

「ああ、自分の魔術がどれほどの威力を持つのか、一定の実戦経験は必要だったはずだよ。あたしも昔、宮廷魔導師になろうとした時期があって調べたんだよ」


 実戦……ねぇ。つまり机上の空論じゃなく、きちんと自分の魔術を把握しろって事だろう。

 魔術は非力な人族が強力な魔獣やら魔物に勝つために作られたそうだ。ドワーフ族や獣人族は元々力が強く、エルフ族は精霊を召喚できる。それ以外の種族もそれぞれに特有の力を持っている。

 だが人族にはそれがなかった。だからこそ魔術を生みだしたらしい。

 それ故に初級の魔術ですら、攻撃系が含まれている。むしろ攻撃系が大半だ。


 母親は里を出てからここに来る前に、諸国を漫遊したと聞いている。実戦経験はおそらくあるだろうな。

 父親は他国出身だが、この国に宮廷魔導師としてヘッドハンティングされた。つまりはその腕を買われたって事だし、実戦経験もあるだろう。

 グラッピスはどうだろうか。彼はドワーフでこの街出身だ。ドワーフの国の宮廷魔導師にドワーフが一人もいないのも、国として面目が立たないから、という理由だったと聞いている。

 実戦経験はどうかは分からないけど、ドワーフってみんな生まれた時から戦士であり、クラフターなんだよね。魔術師としての経験はともかく、戦士としてはありそうだよな。


 ……なるほど、漠然と親の後を継いで宮廷魔導師に、と思ってたけど、よく考えたらそんな簡単になれるはずがない。

 国王に意見出せるようなお偉いさんなのだ。しかるべき経験と腕がなければ、宮廷魔導師になれるはずがないよな。


「で、パシリアさんは何が言いたいんですか?」

「まだ先で良いし一度聞いた事あるけど、もう一度尋ねる。探索者やってみないか? 宮廷魔導師になるなら実戦経験は必要だが、探索者なら経験なんてあっという間に付く」


 探索者……ねぇ。

 迷宮に潜りお宝と魔物たちの素材を収集する人たちを探索者という。

 まあ確かに心が男の俺としては憧れる職業ではある。

 でもなぁ……この身体、正直に言えば体力が無い。子供だから当たり前といえば当たり前なんだけど、本当にこんな体力で迷宮に潜れるか、って話だ。

 それに、俺は今まで大精霊含めて何体もの精霊を召喚した経験はあるが、彼らに一度たりとも攻撃を行わせた事はない。


 ぶっちゃけ言うと、怖いのだ。

 精霊王を除いて良い子ばかりだ。もとい一部ちょっと相性の悪い変な子もいるけど、母親が幾度も気軽に召喚するな、という程の存在なのだ。

 友達だと思っているけど、もし彼らに攻撃をお願いして、それを聞いてくれた時、もしくは嫌がられた時、どちらも怖い。


 迷宮って言うくらいだから、強い魔物がうじゃうじゃいるのだろう。

 初級魔術しか覚えていない俺なんて使い物にならない。

 となれば、攻撃手段は精霊に頼らなければならなくなる。


 しかし精霊たちに攻撃してと願うのは何かが違う気がする。

 だって友達を戦わせておいてその上、俺は後ろから見学になるんだよ。

 それってどうなのよ。

 それに、もし嫌がられて召喚に応じてくれなくなったら。友達をなくしてしまう。

 それが怖い。

 だから彼らに攻撃をお願いしたことは一度もない。


 今まで肩たたきとか食べ物を運んだりとか、良いように使ってるじゃん、とは思うけどね。


 じゃあ精霊に任せるのではなく、自分の魔術の腕を上げろよ、となるよな。

 でもさ、戦うのも怖いんだ。

 前の平和な世界から含めて、軽い喧嘩程度しかやったことないんだよ? 動物も殺したことないんだよ? そりゃ怖いに決まってる。

 前にパシリアが買った本、迷宮に巣くう魔術を使う魔物一覧、を俺はさらっとだけど見たことがある。その中には気色の悪い魔物や愛玩動物のような魔物もいた。

 そんなのを殺せるか? 逆に相手は慈悲なく襲ってくるんだぞ?

 怖いよ、殺し合いなんて。蚊やGの魔物なら慈悲もなく殺せそうだけどさ……後者は別の意味で怖そう。


 格好良く魔術で魔物を倒す、なんて事には憧れを抱くが実際自分でやれる環境になると、踏ん切りが付かない。

 チラと水の大精霊や闇の大精霊を見る。

 そして自分をもう一度振り返ってみる。

 ダメだ、決められない。

 実戦経験がないと宮廷魔導師にはなれない。

 戦うのは怖い。

 でもこの店もいつまで生活できるほど儲かるのかは分からない。

 俺は既に十二才、成人まであと三年しかない。この世界での独り立ちは、前の世界に比べとても早い。

 他に手に職を付ける必要がある。今まで宮廷魔導師になる、と漠然と思ってたので魔術の事しか勉強してこなかったツケがきている。

 その魔術すら初級だけしか使えない。


 だから俺はパシリアにこう答えるしか出来なかった。


「考えておきます」


♪ ♪ ♪


「え? 実戦経験を積むために迷宮へ、ですか?」


 その日の夜、自室で俺は水と闇の大精霊に、迷宮へ行ったらどうするかを聞いてみた。

 もうね、一生に一度の博打だよ。これで友達なくしたらどうしよう、とガクブルだ。


「はい、私の目標は宮廷魔導師になり、ついでに本屋を経営して世の中に色々な知識を広めようと思ってるんです」


 最終的にはがっぽり稼いで、ニートになることだけどね。

 そして本屋を経営する、という目標はここ最近出来たのだ。

 俺自身、基礎的な事や文字は両親に教わったけど小さいころから本を読んで魔術を覚えた。そして一言で言えば、面白い、のだ。本を読み、独学して覚えた魔術が発動したときの嬉しさ。失敗したときの悔しさ。

 この感動を他の人に伝えるなら、同じ事をやって貰えばいい。

 そのとっかかりとなる、まずはどんな本でも良いから読んで貰い本に慣れる、という事を将来はやっても良いと考え始めた。

 それって今やってることだけどさ。


 ……あれ、もしかして宮廷魔導師をやりつつ本屋を経営って、父親と同じって事かな?


「でも宮廷魔導師になるには実戦経験が必要だと、今日知りました。だから経験を積むために迷宮都市へ行くことになったら、貴女たちは……どうしますか?」


 聞きたいことをオブラートに包んで尋ねたが、闇の大精霊も水の大精霊も不思議そうな反応をするだけだった。

 あれ、思ってた反応と違う。


「?? どうするも何も、召喚される場所がここではなく迷宮になるだけでは? もちろんお呼ばれされれば……いえお呼ばれされなくても憑いていきます」


 つく、の漢字違う気がする。

 闇の大精霊の事は一旦置いとくとして、水の大精霊はどうかと見てみると、彼女も同じような反応だった。

 召喚される場所が違うだけで、今までと同じじゃね、だ。

 違う、俺が聞きたいことはそうじゃないんだ。


「えっと、そうではなく、迷宮は魔物がたくさんいる所です。そこで……あの……私が攻撃してとお願いしたら……」

「? 攻撃しますけど……それが何か問題ですか?」

「私の事、嫌いにならない?」

「な、なりませんよっ! わたくしがロヴィーナさんを嫌いになるはずがありませんっ! わたくしは貴方一筋ですわ!」


 それはそれで何となく違う。

 ああもう、俺って話し方下手だな!


「そうじゃなくって……貴女たちは他の生き物を攻撃するって事が嫌じゃない?」

「……なるほど。ロヴィーナさんが何を危惧しているのか理解しました。わたくし達は、約定により理由を述べることは出来ませんが、ロヴィーナさんに対し一定の便宜を図るよう申しつけられています」

「その約定って精霊王から?」


 闇の大精霊は否定も肯定もしなかった。

 でも約定? それは何だ?

 もしかして、その約定があるから俺に対して好意的だったのか?

 え? じゃあ友達と思ってたのは俺だけで、この子らは仕方なく付き合ってたって事?


「ですが、約定など関係無く、わたくしはロヴィーナさんを愛しています! わたくしがいないと生きていけない身体にするのが、わたくしの望みですわ! ロヴィーナさんがなさりたいこと全てわたくしが叶えます!!」

「こいつはともかく、ロヴィーナが危惧しているのは、私たちに攻撃させる事を恐れている?」


 俺が落ち込んでいると、突然水の大精霊がしゃべった。

 この子って話せるんだ。ずっと首を振るくらいしかリアクションしなかったから、知らなかった。


「私が最初にロヴィーナを見つけ精霊王様に伝えた。約定の子を見つけた、と。私たちは約定の元、貴女に付き添っている。でもそれを抜きにしてもこの数年間、貴女のやることは新鮮だった。今では誰もが貴女を気に入っている。それが実戦だろうが何だろうが関係無く、貴女がやりたい事を手伝いたいと思っている。それじゃダメ?」

「そうですわっ! 光なんて肩たたきさせられたぞ、と喜んでいましたもの。わたくしなんて人を驚かせるために呼ばれた事もありましたのよ」


 あ、その節は非常にご迷惑をおかけしました。

 ごめんなさい。


 そして水の大精霊が言ってる事は分かった。最初は約定に従って付き合ってたけど、今は違うよって事だ。

 俺がやりたいことを言えば手伝ってくれる、つまりは迷宮だろうが何だろうが構わないと。


「嫌じゃない?」

「嫌な事なら伝える」

「私が間違った事してたら、叱って、教えてくれる?」

「…………」


 そこは黙るなよ! 不安になるだろ!!


「間違っているかどうかの判断はつかないから」

「わたくしはロヴィーナさんの全てを肯定します!」


 それはそれでダメだ。

 でも……ちょっと安心したかも知れない。

 でもこれはこの二人の言葉だけで、他にも精霊はいるから、彼らにも話そう。










「わたしたち……ズッ友……だよね?」

「なにそれ?」




ここまででが、ある意味プロローグ。


そして明日の更新はちょっと難しいかも知れません。

毎日更新って厳しい……。


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