記憶喪失の竜
拙い文章ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです!
ふわふわっとした感覚と光を感じて、起きなきゃと思い目を開ける。しかし、そこは私の部屋ではなかった。どこかの部屋で、簡易的で……全く知らない所。周りを見て、一瞬にして目が冴えた。
(ここはどこ!?私、部屋で寝てたよね!?部活から帰ってきて、疲れたからちょっとだけ寝てたよね!?)
とパニックになりながら、記憶を必死に探す。だが、何故か……本当に何故だか、すっぽりと抜け落ちたかのように記憶がない。
(記憶がない…?部活って、何してたっけ?私は、私は…誰?)
可笑しい。何も思い出せない。名前すらも思い出せない。そもそも、ここはどこなんだろうか。私は誰なんだろうか。これは、記憶喪失とかいうやつなんだろうかと脳をフル回転させる。
すると、突然ドアが開いた。そこには、10代後半ぐらいの美青年がいて、黒髪で、キリッとした目元に赤い瞳が私を見ていた。
私は条件反射で何故か威嚇体制に入った。まるで獣のようだと頭の片隅で思いながら、彼をじっと見る。しかし、彼はほっとしたような、安心したような顔をした。
「起きてくれたか、良かった」
あれ、この人いい人?となんとなく感じ取り、少しだけ警戒心を解く……彼は私の目の前にミルクが入った器を置いた。なんで?と思い、彼を見ると大きかった。その感覚が子供になったような、小動物になったような感じがした。
「何故、お前みたいな竜の子供がなんで森の中で……」
「…りゅう?」
「……え?」
「え?」
彼が驚いた顔をしたまま、私を見る。喋っただけなのに……いや、ちょっと待って。さっき彼はなんて言った?とんでもない事を口にしたような……
(竜の子供)
彼が言った言葉……まさかとは思いつつ、姿が写る物を探す。信じたくはないが、彼が驚いた理由には説明がつく。近くにあった彼の物らしきカバンの中を漁ると、手鏡があった。
「あった!」
それを手に取る。あぁ、手が小さいし短い……本当に、まさかの事態なのかもしれない。恐る恐る手鏡を見る。そこに写っていたのは……純白で黄金に輝く大きな目をした天使のように愛らしい竜の子供がいた。
「マジかよ!!」
ダメだ。これはダメだ。頭が可笑しくなりそう。どうして私は竜になっているのだろう。いや、私は元から竜だったのだろうか。私じゃないと思いながらも、これは私だとも思う。もう、訳が分からい。ダメだ、脳が破裂しそう…助けてぇ…………………………よし、考えるのはやめよう。
「大丈夫か?」
「…だいじょうぶじゃないから、かんがえるのやめる」
「考える事を放棄した!?」
「そうだよ!ってか、なんでおにいさんはれいせいなの?さっきおどろいてたでしょ?」
「お前を見てたら冷静になった」
「なにそれ、つよい」
たまにいる奴だ。あれだ、他の人が怖がったりパニックになると冷静になっちゃう人。って、肝心な事は何一つ覚えてないのに、こういうどうでもいい事は覚えているのか…都合いいのか悪いのか。いや、馬鹿な可能性もあるな……自分で言って悲しい。
「喋る竜がいるって聞いたことあったけど、本当だったのか……さすが異世界だな……」
「うぇ?いまなんて……」
「そう言えば、なんで、あんな森の中で瀕死になってたんだ?」
今このお兄さん、さすが異世界だなって言わなかった?転生者!?って
「え!?瀕死になってた!?」
「ああ……大量出血で骨も何本も折れて、呼吸もほとんどしてなくてな。だから、知り合いの聖職者の人に回復をしてもらって、それから一週間経ってお前は目覚めたんだ」
「そのひとすごいね!?」
「いや、お前の生命力の方が凄いぞ!?……んで?なんで瀕死になってたんだ?」
どうしよう。説明しようにも、どう説明すれば……いや、説明するしかない。私は彼に、記憶が全くないこと、住んでいた場所も親のことも、名前すらも思い出せないことを伝えた。
「そうか……記憶喪失ってやつか……?最近、あの森の魔物が激化してるし、この事はヴィンさんに報告しておくとして……参ったな、お前を親の所に返そうと思っていたんだがな……どうしたもんか……」
ヴィンさんって誰だ?と思いつつ、彼をじっと見る。悩んでいる姿すらイケメンとはどういう事なんだ。美青年過ぎやしないか……絶対親は美形だっただろ。睫毛長い、髪サラサラ……というか、この人は誰なんだ?私はいつの間にか警戒心が解けてるし、悪い人ではないかな。じっと見過ぎてたせいか、彼と目が合った。おお……!
「ほうせきみたいに、きれいなあかいめだね!?びっくりした!!」
「お前は突拍子もないことを言うな!?俺の方がびっくりしたわ!」
なかなかいいツッコミだ。あとノリもいい。なんだこのお兄さん、楽しいぞ。
「俺と一緒に来い」
「へ?なにが?ナンパされてる?」
「違うわ!……はぁ……帰る場所も分からない、名前すらも分からない状態なんだ。このままお前を放置する訳にもいかない。なら、俺と来い。面倒を見てやる」
「わお!おにいさん、おとこまえ!でもうえからめせん、うざい!」
「一言余計だ!あと、俺はお兄さんじゃない。カケルだ」
「カケル?」
「ああ。お前は……そうだな……」
私をじっと見る。この流れだと、私の名前を決めてくれるのだろうか。新しい私の名前、なんだかとてもわくわくする。
「……ハク。おまえの名前はハクだ」
「しろいから?」
「ああ」
「うわっ、たんじゅん!」
「うるさい」
しかし、悪くはない。私も覚えやすいし、可愛い名前だと思う。
「これからよろしくな、ハク」
「うん、カケル。よろしくね!」
これからどうなるか分からないが、ただ一つ言えることは……彼に会えた事は幸運なことなのかもしれない。なんか楽しいし!おっと、ミルクの存在を忘れていた。あとで飲もう。
これからどうなるんでしょうね!?色んな意味で!!←
連載、頑張ります!