異世界トリップはクソ
現在俺は、ガフロという巨体の男の背に乗っかっている。
数時間も歩き続けた俺の足はあまりにも遅かったので人攫い達の善意に甘えている。
...善意というより、歩くの遅すぎて邪魔なんだろうな。こっちの方が逃げれないし、もしかしたら乗せてもらったのは間違いなのかもしれない。
ちなみに、一緒に襲われていた少女も誰かの背中に乗っている。
ここからどうなるか分かったものではないが、きっと俺達は酷い目に合うんだろうな。
「ねぇねぇ、君はなんて名前をするの?」
横から先ほどの少年が話しかけてきた。
「...月影真一」
一瞬「名乗るなら自分から名乗るのが礼儀だろ」と悪役、ダークヒーローみたいな言葉が浮かんだが、そんな威勢のいいことは言える立場ではないので普通に名乗った。
「ふーん、真一はさ、異世界人なの?」
「いせ...かいじん?」
なんだろうか、伊勢海人と書いて海の生物...なわけないか。
多分異世界人、『異なる世界から来た人』と書いて異世界人...。
「...というか、ここはどこですか?」
そもそも、ここが異世界なのか、それとも地球のどこかなのか分からない。
まさか、本当に異世界なわけないだろう、半分そう思いながら聞いてみた。
一瞬、少年の顔がにやけた、背筋に悪寒が走った。
その表情は少年らしくないので別の名称を名付けたい。
または名前が知りたい。
「そうだね。ここは、この世界は『アルカディア』って世界。ここから近い国は『コネクト』かな。人間大陸で一番有名な国なら『アングラビティ』があるけど...聞いたことある」
「...」
俺は首を横に振った、そんな国名は知らない。
「じゃあ......プリンスワールド、鳳凰月下、日本、これは?」
「日本は分かります」
...また、少年の顔がにやけた。
「そうかそうか!うん!やっぱり君は異世界人だよ!」
「俺が...異世界人?...あっ、なぁ!!ここは、君が言う通り異世界、俺がいた世界とは違うんだよな!!」
「うん、そうだよ」
気になってすぐ聞いたので、無意識に敬語が解け、つい言葉が強くなる。
少年はそのことを気にせず即答した。
「じゃあ、元の世界には、もどれるのか?」
「今のところ、人工的に戻った事例はないね。あったとしても、トリップでこの世界に来て、トリップで向こうの世界に行くしかないよ」
「戻る手立てはない...、つまり...つまりそれって」
灯花、光音、テレサ、神楽、母さん、お父さん...学校で出会ったあいつらや商店街の人達、それら全員に出会えないのか...?
それは、あまりにも...クソだ。
溢れ出そうになった涙を、唇を噛んで流さないようにする。
唐突な別れ。別れ話も挨拶も、覚悟も、それどころか、望んでもいない異世界に来させられ、もしも神がこんなことをしたのなら、問い詰めて殺したくなる。もし自然現象だとしても、それを対策しない神、いなかったとしてもこれを知っている人類はクソだ。
もうどうでもいい。あいつらと会えない人生なんて水が無い人生と同じだ。
「ま、真一君が考えてることは分かるけど、どうせ数日後には死んじゃうんだ。今のうちに食べたい物があったら考えておいて」
「.........は?」