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第1章 4 大先輩はツンデレ幼女



「あの~、竜神様、ちょっといいですか?」


『ん? なんじゃ、新しき従者よ。知りたいことがあれば何でも尋ねるが良いぞ』

 非常にフレンドリーな竜神様だ。なので、おれも、聞きにくいなと思っていたことを、わりと気楽に口にすることができた。


「もしかして、おれ、もう死んでるんですか」


『もしかしなくても、そうじゃな』

 答えはあっけらかんと返ってきた。


「そうじゃな、って……やべえ、やっぱりほんとかよ~」


『じゃが構わぬであろ? どうせおぬしは記憶が無い。今回の生を手放そうとも悲しい気持ちも起こるまいて』


「悲しいですよ!」

 思わず叫び声が出た。不思議だが自分でも驚いた。


『何故かの? そういえば先ほども、生贄となって村で《祀り(まつり)》をされることで生家の格が上がると話したとき、親孝行になるのだろうかと尋ねておったな。おぬしを生贄にした者たちであろうに。まあ、確かにこのあたりの信仰によれば生贄となることは無上の名誉ではあるが』


「ごめん。自分でもわからない。家族のことを覚えてもいない。わからない、だけどわりきれないし手放せない。だって、母さんは……泣いていた」

 おれを突き落とした後で。

 青龍様は、黙って、おれの頭に手を置いた。

 あたたかい。


 おれは青竜の優しさを感じた。けれども、たぶん優しさに甘えて、悲しいと辛いと吐き出し続けた。自分でも覚えていない今生の母親のことを思い出そうとすると、激しく感情が揺さぶられた。


 すると、青竜の従者だというガキ共が、わらわらと集まって来た。


「だいじょうぶだぞ!」

「すぐ慣れるからさ!」

「おれたちも最初はそうだったぞ!」

「ところでおまえ、おねしょはしないだろうな」


 てんでに言う。ちびっ子たちだが、おれの先輩なのである。


「しっかりしなさいな! 人間のあなたは死んだのです。これより先は、わたくしたちとともに立派な青竜様の従者となるのですから!」

 おれを叱ったのは、鳶色の髪に緑の目をした、他の子より頭一つ抜きんでている年かさの女の子だ。

 きりりとした眉、引き締めた唇。まるで威嚇されているみたいだ。

 とはいえ外見は十歳にはなっていないだろう。


 ……見た目と実年齢が違うのは青竜様から聞いているのだが、つい、幼い外見に惑わされてしまう。


『仲良くするようにな、新しき従者コマラパ。この子はシエナ。最も古くから儂に仕えておる者。シエナ、年長者として、世話をしてやるのじゃぞ。言っておくが、コマラパは最年少とはいえ、魂は老成しておる。甘く見るではないぞ』


「かしこまりましたわ、青竜様のお望みでありますれば」

 麻のような生地でできた貫頭衣に身を包んだシエナが、一歩下がって頭を垂れ、凜々しい青年の姿をとっている青竜に臣下の礼をとる。


「最も新しき従者コマラパ。あなたは先ほど青竜様が、知識を授けてくださると有り難い申し出をしてくださったのに、お礼を申し上げていません。まずは礼儀を身につけなさいな。よいですか、『ありがたくお受け致しますご主人様』と言うのですよ。さあ!」


『シエナ、新参者に、やりすぎでは』


「いいえ! ご主人様。あなた様のお慈悲もわからぬようでは高貴な青竜様の従者にはふさわしくございません! 初めから妥協してはならないのです。さあ、おっしゃい!」

 この石頭。

 なかなか手厳しい。

 おれは、素直に従うことにした。


「申し訳ありませんでした。龍神さま、どうか、おれを従者に加えてください。それから、知識を授けてください!」

 頭を深々と下げて、おれは青竜に乞う。

 青竜様は、応用に頷いた。


『受けようぞ。そなたはいずれ世間に戻るときが来る。ときが近づけばわかるであろうが、忘れず精進するがよいぞ』


「はい」


 もちろん、このときのおれは、全く知る由もなかった。

 身も心も六歳幼児。


 ところが、おれの預かり知らぬところで、運命は準備を整えていたのだ。


        ※


 ……おれが前世の記憶を取り戻すまで、あと、四年。




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