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生贄から始まるアラフォー男の異世界転生。いずれ大森林の賢者になる  作者: 紺野たくみ


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プロローグ 3 もう一度、彼女に会う



 おれはどうしたんだろう?


 気がついたら、たった一人、何もない空間に浮かんでいる。


 おれは、だれだ?

 なにものだ?

 生き物……なんだよな?


 しばらくして、思い出す。


 そうだ、おれは、並河泰三。

 中学三年だ。

 たしか、夏休みに家族でイギリスへ旅行して。

 いつも忙しそうで苦虫を噛みつぶしたような顔をしている親父、たまには家族サービスでもしようという気まぐれを起こしたらしい。

 おふくろも、姉ちゃんも喜んでる。

 姉ちゃんはブリティッシュロックが好きだもんな。


「違うわよ。プログレッシブロック。あたしはブライアン命なんだからっ」


 あれ? 空耳かな。

 夏子姉ちゃんの声がしたみたいだ。


 親父やお袋はどうしたんだ?


「泰三。だめだ。まだ、来てはいけない」


 あれ~? また空耳だよ。

 目の前にはロンドンの石畳。

 有名な霧のロンドン……

 馬車?

 いや違うだろ。これじゃロンドンの有名な探偵が登場してきそうだ。



「だめよ、泰三。ここでは思いが形になってしまうの。世界のはざまなのよ」


 ふいに、目の前に、背の高い、ものすごい美人が現れた。

 スーパーモデルかなんか?


 腰まで届く、長い黒髪。

 青い瞳。すげえ色が白くて。華奢で。

 見つめていたら、捕らわれてしまいそうだ。

 どんどん近づいて来る。


「おれの名前を知ってるのか?」


 やってきた彼女は、にっこり笑って、おれの手を握った。


「ええ。並河泰三。思い出して。あなたは、もう中学生じゃない。わたしと出会ったのは高校三年の夏休み。一人でロンドンに来た。そのときのことを」


「……思い出した」

 ロンドンの町並み。おれは、雑踏の中に佇んでいた彼女を追いかけていた。


『待って! ねえ君、どこかで、おれと出会ったことない?』


 振り返った彼女は、微笑んだ。

 謎めいたモナリザのように。


 そしてそのとき、おれの世界は塗り替えられた。


 初めての恋に落ちたんだ。


 おれは彼女を追いかけて、出会って、イギリスにいる間じゅう一緒にいて、永住しようと考えていた。

 そしたら彼女のほうから、日本にやってきてくれたんだ。

 日本に帰化した彼女と、おれとは。

 結婚したんだ。


「沙織さん」

 彼女の名前を口にしたら、なぜだろう、涙が溢れてきた。


「……沙織。さおり、会いたかった……!」

「わたしもよ。泰三」


 おれたちは互いに手を伸ばして。

 しっかりと、抱き合った。

 彼女の身体の、熱を感じる。

 とても……ひさしぶりに。


「もう離れない。ここがどこでも、どうでもいい」

「わたしもずっとこうしていたい……けれど」


 彼女の手が、おれの背中を撫でて。


「ゆるされた時間は、かぎられているの」


 さらりと、離れた。


「なんの、ことだ?」

 のどがからからだ。

 本当は、おれも気づいていた。


 ……沙織も、おれも。

 ……もう、生きてはいないのだ。だから会えたのだ。



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