第1章 20 生まれ変わって、やり直す
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二度と離れたくないと願い、この世界で転生したのちも、必ず再び巡り会うことを誓って、別れを惜しんでいるおれたちに。
『我が忠実なる従者、コマラパ』
『妾の可愛い聖なる巫女、沙織』
青竜様と白竜様が呼ばわる。
次に精霊グラウケーが、にやりと笑い、楽しげに言う。
「これから、おまえたちの現世での肉体を再生させる。これは《世界の大いなる意思》による決定だ。面白そうだからな」
面白そうって。
おれたちには人生の一大事なんだけど。
「おや、不満そうだなコマラパ。前世で死に別れた沙織と、今世で出会いからやり直し、めでたく結婚にこぎつけるためには、艱難辛苦も乗り越えねばならぬ。それは理解できるだろうな?」
「はい」「承知しています」
抱き合って頷く、おれと沙織。
「そうだな、まず、おまえの部族から文化や意識、生活を改善してみせろ」
「改善? おれの部族で?」
「そうだ。おまえの今生の父親は部族の長、先祖は《太陽神アズナワクの息子》だ。何かに似ているだろう? 前世の知識で考えてみろ」
「まさか。太陽を信仰していた南米の古代文明か?」
「どうしても人間とは歴史を繰り返してしまうらしいな。いずれおまえの父は太陽の皇帝をなのり、帝国を築くが、外敵に滅ぼされ征服される運命だ。それを防いでみせるがよい。さすれば、おまえの望みを叶えてやろう。沙織との再会を」
「滅びの運命から、国を救えと?」
「なぁに、そう難しくはあるまい。おまえは転生者。前世の記憶にある、似た民族の歴史を参照してみるがよい。対策を練って外敵を追い払え」
「おれだけで?」
「おまえには未来の知識がある。加えて、竜たちや、我ら精霊からの恩寵もあるだろう。通常の人間には望むべくもない好待遇だ。みごと運命を跳ね返してみせよ!」
グラウケーの声が白き森の空間を震わせた。
すると、おれ、コマラパの前に、銀色の渦が出現した。
「さあ、覚悟はよいか。飛び込め。あとは我らに任せよ」
「覚悟はできた。おれは行く。また再び沙織と出会えるように、お願いします! 青竜様、白竜様! シエナ先輩!」
「わかったわよ、コパ君。沙織さんのことは、あたしも任されたわよ! 安心して、行ってらっしゃい! またいつか会えるわ……!」
渦に飛び込む寸前、おれはふと、振り返ってしまった。
今にも泣きだしそうな沙織が見えた。
思わずおれは手を差し伸べる。
指先が触れ合い、手と手と握り会う。
けれどもひとときだけのこと。
引き離される。
沈んでいく意識。
突然襲う恐怖。
前世のおれは、死の瞬間、いったいなにを考えていたのだろう。
新しい人生への挑戦が、始まる。




