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生贄から始まるアラフォー男の異世界転生。いずれ大森林の賢者になる  作者: 紺野たくみ


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第1章 13 名前を明かす


           13


「隠されている、この子の名前を明かしてみよ。正しく答えられたならば、おまえを、我らが『愛し子』に、将来の伴侶と認めようぞ」


 世界に繋がる『精霊セレナン』グラウケーことグラウ・エリスが、おれを挑発するように、肩をそびやかす。


 しかしどう見ても、大人の女性が、おれみたいな十歳にもならない子供に張り合うとか挑発するとか、なくないか?


「考え直してくださいグラウ姉様! 私も今まで全く知らなかった名前を、いきなり当てろなんて、彼に不利すぎます」


「我らが『愛し子』よ、案ずることはないぞ。信じることだ。それだけの覚悟や才がなければ、そもそもこの、精霊の世界に属する『白き森』に入り込むことなど出来はしないのだから。ここにいる、それがすでに選別されているということになる」


「少しだけ、時間をください」

 おれは心を落ち着けようと、深呼吸をする。

 

 六歳で青竜様の従者になったときのことを思い出す。

 青竜様の名前に隠れていた『真の姿』を見いだしたことがあった。名前を明かせとは、そういうことなのだろう。

 落ち着け! おれ。

 人生の一大事だぞ。

 いや、まだ子供なんだけど。

 ときどき前世の記憶が浮かんでくる。そのことを考えると、前世では、もうちょっと歳をくってたんじゃないかな。おれ、子供らしくないもんな。


 ところで、この状況だが。

 彼女の親御さんに「お嬢さんをください」ってお願いにきている感じなのでは?

 まずい!

 顔が熱くなってきた。

 集中するどころではない。ヤバい!


 しかし、そのときである。

 割って入った声が、二人分。


『お待ち頂きたい精霊殿。その者は儂の従者じゃ!』

『ここは妾に託された空間であるはず! 妾の織姫を気に入ったと「愛し子」などと呼んで。たとえ世界の大いなる意思の代行者である第一世代の精霊様とはいえ、これ以上の勝手をするのはいい加減にして頂きたいですわ』


 青竜様と白竜様が、揃って到着したのだった。

 見事なウルトラマリンブルーの長い髪をなびかせた美青年、青竜様と、艶やかな純白の髪に、赤い瞳をした熟女系の美女……白竜様。

 そしてお二方の後ろにはシエナ先輩がいる。

 ……美男美女カップルと愛娘という麗しいご一家にも見えるな。


「コパ君、大丈夫?」

「ありがとうございます、先輩、青竜様」

『心配したぞ。おまえがいなくなったとアールが伝言してきてな』

『もしや「白き森」に見初められたかと案じたのじゃ。精霊は、ときたま、気に入った魂を森に召喚するからのぅ』


「白竜様。初めまして。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 とにかく挨拶だ! 特に上位の方への礼儀はきちんとしないといけないと日頃から叩き込まれているのである。


『ほほほ。良い良い。堅苦しい挨拶はそれまで。青竜のお気に入りの従者。妾の織姫と知己を得たようじゃ。既に覚悟をなされているのであらば妾から言うことはない』


 気のせいで無ければ、その瞬間、背筋に悪寒がはしった。

 威圧されたよ!


「おや。白竜殿も覚悟がおありか」

 楽しげに精霊グラウケーが微笑む。


『この子らの主人であり保護者である妾たちの立ち会いなしに「誓い」を課そうというのは頂けませぬな。ですが、永久に我らが異界に留め置くのもどうか、と案じてはおりましたゆえに。世界の大いなるはかりごとあれば、お任せいたしまする』


『さよう、儂もじゃ。我が従者たちが「未来」を望むなら、そのように計らおう』


「あいわかった。さあ、コマラパ。正式な立会人が揃った。さきほど私が出した課題に、応えてもらおう。白竜の織姫にして我らが精霊の『愛し子』の。その名前を、見事、明かしてみせよ」


 ふいに空気が変わった。

 全てが、静まった。

 しんとして。

 世界が、聞き耳を立てている。


 おれは彼女を見つめた。

 彼女も、おれを見ている。無言で、少し青ざめた顔色で。案じているのだ。


「心配しないで。……」

 ふっと目にとまったのは、彼女が手にしている、白竜様のために織り上げた薄布だ。そうだ……こんなに薄くて丈夫な布を……なんと呼ぶ?


 ものすごく集中した。こんなチャンスは、きっと一度きりなのだ!

 彼女にふさわしい名前。彼女をあらわす、ことば。



 ……紗。(うすもの。薄手の絹織物)

 そしてもう一つ思い浮かぶのは、セノーテの泉の底にあった白い細かな砂だ。

 ……沙。(砂。水際……)

 そして、織姫。



 ふいに、雷に打たれたような衝撃があった。

 次の瞬間、その名は、自然と口をついて出た。


「さおり」

 沙織、と。


「コマラパ……それが、私の名?」


「うん。さおり。それが君の名前だ!」

 おれは、不思議な高揚感に包まれながら、大きく頷いた。

 一片の迷いもなかった。


 あれ?

 こんなことが、前にも。

 昔にも、あった、ような……?


 そのとき急に目の前が暗くなった。

 あとはどうなったのか、わからない。


 おれは、失神したのだった。




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