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生贄から始まるアラフォー男の異世界転生。いずれ大森林の賢者になる  作者: 紺野たくみ


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第1章 11 君の名前は?

             11


 青竜様のお供をして出かけた「黒森」で、どんぐりを拾っていたはずの、おれは。

 気がつくと仲間達からはぐれて、真っ白な森に迷い込んでいた。


 為す術を持たずあてどなく白い森を彷徨っていたおれは、そこで、黒髪に青い目をした、ものすごく美しい少女に出会った。


 彼女は白竜様にお仕えする巫女だという。

 空中から引き出したクモの糸のような細い糸をより合わせて紡ぎ、白竜様の身に纏うための布を織り上げたのだ。

 その布は、あり得ないようなものだった。


 幅は五十センチくらい、長さは十メートルもあろうか。

 ストールかな? それにしては長いな。


 驚くことに、ほぼ透明かと思うほどに薄く透けて、しかも、かなり丈夫そう。


「細長い布なんだね。それに透けてる」


「羽衣みたいなものよ」

 どうということもなく、彼女は言った。


 ……羽衣?


「白竜様がお召しになられて、魔力を流すと、虹色に輝いて浮き上がるの。まるで虹か霞を纏っているみたいで、とても神々しいのよ」


「へえ……きっと美しい女神様なんだろうね。いつかお会いしてみたいな」

 そのときおれは重要なことを思い出した。


「そうだ、青竜様は、昔ケンカ別れしたことを謝りたいといって、白竜様が住んでおられる所に向かったんだ」


「そうだったの。それで今、白竜様は織機のそばにはいらっしゃらないのね。結果を見たいとおっしゃっていたのに」

 納得したわと、ちょっと残念そうに、彼女は織り上げた布をたたんだ。


「じゃあもう少しお待ちしていようかしら。あなたもここにいたらいいわ。きっと青竜様も一緒においででしょう」


「ここにいていいの?」


 どきどきした! 

 そんないい事が、あっていいのか?


「ええ。ふしぎだけど、初!めて会ったような気がしない……もっと、あなたのことを知りたいの」


 どうしようどうしよう! おいアール! こんなときどうしたらいいんだよ!

 アールとイルダのことは冷静に見ていられたのに、いざ自分が、気になる女の子に出会って二人きりになったら、どうにもできないのだ!


「コマラパさんって、呼んでもいいかな?」


「もっもちろんだよ! むしろ呼び捨てでお願いします! き、君の名前は?」


「ごめんなさい」


「あっとそうか、そうだよね、いきなり男に名前なんて教えるわけないよな!」


「いいえ、ちがうの。私、名前がないの。生まれてすぐに、名前をつけてもらう前に、白い竜神様の巫女になったから」


「え。それって……」


 おれはようやく気づいたのだ。

 さっきも教えてくれたことだったのに。そのときは彼女の綺麗な顔や髪ばかり見ていて深く考えていなかった。バカ! なんてバカだ!


「私は七歳になる前に死んで、白竜様に巫女として捧げられた子供なの。さっきは、わかりにくい言い方をしてごめんなさいね」


「いや、おれこそ……鈍くて」


「気にしないで。白竜さまには『愛し子』とか『養い子』とか呼ばれているわ。ここには私以外にも何人かいるけど、織り手は、わたしだけなのよ」

 誇らしげに言う。


「立派な仕事だ」


「ありがとう」

 彼女の白い頬が、赤く


 おれと彼女は、そこにしばらくいた。

 なかなか青竜さまたちも来ないし、となると話が弾むしかないだろ!


「あのさ、さっき言ってた『精霊』って? 当たり前のことを聞くやつだと思っているだろうけど、おれ、生まれてから青竜様のところに来た六歳までの記憶がないんだ。青竜様に教わってることしか知らない」


「私も常識にはうといわ。生まれてすぐ死んでいるし。似たような身の上ね」


 慣れてきたのか。あっさり白状する彼女。


「でも精霊のことなら。『精霊セレナン』は、この世界そのもの。世界の大きな意識の、最小の単位だって、自分たちで言ってる」


「会ったことがあるの?」


「ええ。この『白い森』は、精霊セレナンの領分なのよ。白竜様は、精霊と仲が良いの。彼女たちは、人間と似た姿をしているわ。特徴は、銀色の髪と、アクアマリンのような淡い青の瞳よ。そして常に『世界の大いなる意思』とリンクしているの」


「おや、誰かな?わたしの噂をしているのは」


 突然に、おれたちの目の前に、背の高い美女が現れた。

 くるぶしまで届く純白の衣をまとって。

 銀色の長い髪と、射るようなアクアマリンの瞳が、鮮やかだった。


「ま、まさか、精霊様?」


「いかにも。おや、青竜のところの従者ではないか。我らがお気に入りの『愛し子』を、さらいにでも来たのかい」


「そういうわけでは……」

「違うのか」


「いえ! 違いません!」

 とっさにおれは言い放った。

 関心がないなんて言えない

 おれは、彼女を。

 運命の相手だと、今では思っている。


「覚悟の決まった顔じゃな」


 くすくすと、おれが初めて会った美しい『精霊』は、そう言った。


「おまえのことなら、生まれたときから知っているよ、コマラパ」



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