その勇者、保育相手が増えて困っています。
【その勇者、姫の尻に敷かれて困っています。】の続きです。
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孤城に幽閉されていた姫を助けに来て早1週間。助けに来たとばかり思っていた姫に俺、リトは物理的にも精神的にも尻に敷かれていた...。と、ありきたりなナレーションは此処までにしておいて。
「誰だよ、お前...。」
リトは眼の前にいる奴を見て、半ば落胆しながら一単語ずつ、語気を強めてそう言った。
事は数時間前に遡る。
リトは何時も通り、我儘で傲慢な姫の為にご飯を作ってテーブルに置いていた。予定通りの時刻になり、リトはベルを鳴らして「ご飯だぞ!!!」と叫ぶ。
ところが、何時もならぶつくさ文句を言いながらも篭っている部屋から出てくる姫が、今日は何故か出て来なかった。リトは首を傾げて扉を見る。時折其処から話し声が聞こえ、リトはつい扉に耳をつけて、話を聞こうとした。
というのも、姫はリトに部屋には入ってきてはいけないというからだ。生憎リトは姫の私生活を見てしまった為、素敵な幻想を抱くことはもうないのだが。それでも入ってくるな、という言いつけをしっかりと守っている勇者は幾ら何でも俺だけだと思う。勿論、ちょっと盗聴するのはノーカンだ。
「...ね...します...。」
途切れ途切れに聞こえて、中々聞きにくい。リトは声を潜めて、耳をこれでもかというぐらいに扉に押しつける。
「あの、初めてなので...。優しく...お願いします...。」
「ま、任せておくれ。僕にかかればこんなもん、直ぐに終わるさ。」
一体何の話だ!?もしかして、も、もしかして...!
リトの頭の中である可能性がぐるぐる回る。姫が男を呼んだのか?直ぐに終わるって、ソイツはもしかして早漏なのでは...?しかも姫、やけに積極的だな!?
「駄目ー!!!不潔!!不健全!!!禁止です!!!」
つい我慢しきれなくて、扉を開けたその先には。
コントローラーを持った姫と男が、ゲームに夢中になっていた。大乱闘を繰り広げている。そんな中、姫は此方に気づくと、「あ、はっほうひほふん。」と口いっぱいにお菓子を入れ、指でコントローラーを繊細に操作しながら言った。隣の男が、「あ、お邪魔してまーすっ!」と元気いっぱいに叫ぶ。
そして、場面は最初に戻る。
「誰だよ、お前...。」
「え?姫を助けに来た者ですが?」
あっけんからんと言いながら、ゲームを続ける勇者(?)は姫を見ると、「ねー!」と言った。姫も頷いて、「ねー!」と叫ぶ。いや、何でお互い良く分からない関係が出来上がっちゃってんだよ。
「それよりぃ、リト君〜?さっき、不健全とか言ってたけれどぉ、何を想像したのかなぁ??」
ゲームの電源を唐突に切り、クスクスと笑って近づきながら、姫がそう言う。
「君のほうが、不健全だよぉ?ねえ、何を想像したの〜?同じこと、やってあげても良いんだよ?」
「...っ!?!?」
「あっはっは、そうやって赤面しちゃって。ウブだねぇ〜!」
ケラケラと笑いながら、姫にそう言われて、リトは顔を赤くして下を見た。姫と一緒に、勇者(?)もケタケタと笑っている。何コイツ、うざい。
「ま、今日からこの勇者君も一緒に住むから。ご飯よろしくねッ!」
「よろしくお願いします、兄貴ぃ!!」
「...え!?は!?」
リト・アルファン、齢17。職業は姫を助けるはずの勇者。誰か、助けて下さい。保育相手が2人に増えて、困っています。