Ⅲ
次の日も次の日も王妃様はミラに聞きました。
「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰?」
「それはあなた様です。王妃様」
ーーピシリ
その度にミラは嘘をつきます。そうしてその度に魔法の鏡にヒビが入っていきました。
魔法の鏡にヒビが入ったことなどなかったのですが、ミラにはこの原因がなんなのかわかっていました。
初めてミラが嘘をついた日にヒビが一つ入りました。そうしたその日々は嘘をつく度に増えていきます。これで原因がわからないほどミラは馬鹿ではありません。
嘘をつく度にヒビが入り、魔法の鏡が壊れていきます。
ヒビに王妃様は気付きましたが、適当なことを言ってミラは誤魔化しました。その時にもまたヒビが増えていきます。
私はいったい何をやっているのでしょうか?そう何度もミラは思いました。嘘をつくたびに体が壊れていく。その度に恐怖が襲います。しかし、嘘を止めることはできません。
ミラが嘘を止めれば白雪は死んでしまいます。それが、何故か知りませんがミラは嫌でした。難しい気持ちなどミラにはわかりません。ただ、その嫌な気持ちは恐怖よりも強いものでした。
日に日にミラの体が壊れていきました。
あともうそんなに多くの嘘はつけない状況までになりました。
いつ壊れるのか。もしかしたら明日かもしれない。そんな恐怖の中で、ミラはふと思いました。
「白雪に、会いたいです」
もう何年も会っていません。もう何年もその声を聞いていません。あんなに煩わしかったのに、今では、そう、ひどく恋しいとミラは思いました。
「初めて、だったのです……」
ミラにとって初めてでした。あんなふうに友達のように接してもらえたのは。
ミラにとって初めてでした。名前を与えられたのは。
ミラにとって初めてでした。楽しいと思ったのは。
ミラにとって初めてでした。誰かの訪れを待ったのは。
ミラにとって初めてでした。寂しいと思ったのは。
ミラにとって嵐のような少女でした。彼女との時間は鏡生の中でもほんの一時。しかし、鏡生の中で最も貴重で大切な時間でした。
「また明日と言ったのに」
あれから何日も日は経っています。白雪は嘘つきです。でも、鏡はもっと嘘つきでした。
もう来なくても良いなんて嘘でした。ミラはまた来てほしかったです。
話したくないなんて嘘でした。ミラは彼女の声も話も大好きでした。
ミラは魔法の鏡なのに嘘つきでした。だから、こんな目に合っているのかもしれないとミラは思いました。
「謝ります。何でもします。だから、だから、どうか、お願いします。お願いです。もう一度、私が壊れる前に……」
魔法の鏡は願いました。強く強く願いました。
「白雪に会わせてください」