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手紙

作者: マリコ


最初に、余計な挨拶や形式は省きます。ごめんなさい、あまり詳しくないし、らしくもないので。

まずは最初に謝らなければなりません。永遠に一緒にいるって約束したのに、私の方から一方的に破って、あなたに何も言わずに去ってしまってごめんなさい。

時間をかけて自分の気持ちもようやく整理出来たので、私の心情を吐露します。

私が去った理由は、私はあなたのそばにいてはいけないと思ったからです。あなたはたくさんの能力を持っていて、周りの人からも好かれていて、信頼もされていて、すごい人です。正直に言ってどうしてそんなにすごい人が私なんかを愛してくれたのか、未だに理解できません。

それに対して、私は何も持っていません。人より優れた能力など何もないどころか、いつも失敗ばかりで、何事も不器用だし、容姿も人並み以下です。そんな私があなたに愛され、あなたの隣に並んでいていいのかと、何度も不安になりました。あなたにはもっとふさわしい人がいるんじゃないか、私はあなたの邪魔をしてるのではないかと思ったこともあります。

私はただの旅人。あなたと国籍も違うし、歳も、何もかも違います。それに、私は…。 とにかくそんな私と一緒になれるはずがない。きっとこんな話をしたらあなたは私を引き留めると思ったから、自分の中だけで留め、黙って出て行きました。こんな卑怯な手を使ってごめんなさい。お別れも言わなくてごめんなさい。

本当に、お世話になりました。どうかお幸せに。

さようなら。


---


手紙を読み終えた男は手紙の住所を見て急いでリコの元に向かった。幸い、彼女はさほど遠くへは行っていなかった。男はリコの手紙の送り先である宿に行き、彼女がいる部屋の扉を開いた。


リコは部屋の中にある椅子に座っていた。彼女はいきなり入ってきた男の姿を見るなり驚いたように目を見開いた。


「…下がって」


彼女は向かい側に座っていた女の子に声をかけた。そこで初めて男は彼女が一人でないことを知った。


「了解」


女の子は手短に返事をすると、速やかに消えていった。


「彼女は誰だ?」


「サーヴァントよ。 座って」


彼は彼女に勧められるまま今しがた女の子がいた椅子に座った。


「…なぜ去った?」


彼は低い声で彼女に問い詰めた。


「手紙に書いた通りだよ。私がいたらあなたの邪魔になる。だから、去ったの」


「なぜそんなことを言う?」


「だって…私は何も持ってない。優れた能力なんてないし、容姿だってそんなに良くない。たまに変なことだって言う。それに私とあなたじゃ国籍も言語も環境も何もかも違いすぎる。どう考えても私はあなたの隣に立つべきじゃない。あなたは、あなたにふさわしい別の女の子と結婚するべきなの。」


彼女は悲痛な面持ちで言い切った。


「リコ」


「うん」


「愛してる。」


「……」


彼の言葉にリコは無言を貫いた。


「リコ、愛してる。リコはたくさんの能力を持っている。リコは賢い。なんでも知ってる。リコはユニークだ。リコには他の人にない優しさがある。そんなリコは俺にとっての誇りだ。それに、リコは世界で一番美しい。俺はリコを愛してる。確かに、我々は違う。でもどんな違いがあってもリコを愛しているのは事実だし、そこに心の距離はない。リコだけなんだ。俺が愛してるのはリコただ一人だけ。俺にふさわしいのもりこだけ。そこに他の女が入り込む余地はない。」


「……」


「俺は恋を知らなかった。でも、初めてリコをみて、リコについて知っていくうちに恋に落ちていた。言葉にできない強い感情を抱いた。今までにこんな感情を他の女に抱いたことはない。リコと過ごしているうちにもっとリコのことを知って、さらに好きになった。リコは俺を狂わせる。リコは俺の命だ。リコなしでどうやって生きていけばいい? いや、生きられない。リコがいなきゃ俺は死ぬ。」


「私も、あなたのことを愛してた。最初はただの友達だったのに、いきなり愛してるって告白された時はびっくりしたけど、でも、あなたが私に本気だって分かってからは私の心はあなたにかき乱され続けた。 私の心はあなたのもの。あなたがあの時私の心を盗んだから。」


「最初に心を盗んだのはリコの方だ」


彼は反論し、リコは少し笑った。


「リコ、俺が一生君の世話をする。リコを世界で一番幸せな女の子にしてみせる。俺の全てはリコのもの。リコが望めばなんでもしよう。リコが行きたいところは何処へでも連れて行こう。信じていれば必ず二人に明るい未来が待っている。」


「…ありがとう」


「リコ、結婚しよう。確信したよ、俺は君じゃなきゃだめなんだって。俺が必ずリコを幸せにする。絶対に不幸にしたりなんかしない。他の女もみない。リコが嫌なものは全て取り除こう。全てリコが望んでいることを再現しよう。俺はリコのものだ。そして、リコも俺のものだ。」


「うん、私はすでにあなたのもの。でもごめんなさい。結婚はできないの。」


「どうして」


「私は…だから。」


リコは言い淀んだ。唇を噛み締めて言うべきか言わないべきか迷っている様子だ。


「なに?」


「いえ、あなたに知られたらあなたは…」


「例えリコの何を知ってもリコを愛しているという事実に変わりはない。」


「そうね。私のことを本当に想ってくれるあなたには知る権利がある。」


彼女は少し目を閉じた。そして、意を決したように目を開いた。


「私は魔女クテシフォン。約100年もの時を世界中旅して回った、旅の魔女よ。」


彼は驚愕に目を見開いた。そして、わけがわからないというふうに言った。


「魔女? 君が? クテシフォンってのは名前か?」


「ええ。私は紛れもなく本物の魔女よ。クテシフォンという名は遠い昔に先代から受け継がれた名よ」


「まさか魔女が存在するとは…、先代? だめだ、理解が追いつかない…」


彼はぶつぶつ言って頭を抱えた。

クテシフォンはそんな彼を面白そうに見つめていた。そして、真剣な表情になって彼に言った。


「だから、私はあなたと一緒にはいられないわ。私は魔女で、もうニンゲンじゃないの。魔女とニンゲンは一緒にはなれないし、結婚などできるわけがないのよ。あなたはあなたにふさわしい、別のニンゲンの女の子と結婚するべきよ。本当はだから去ったの。私は魔女で、ニンゲンのあなたとはこれ以上一緒にいるべきじゃないわ。」


クテシフォンは少し寂しげに目を伏せた。

彼はリコの言葉を聞いてしばらく考え込んだ。


「分かった、君の言い分はよく分かったよ。でも君は全然分かってない。俺がどれだけ君を愛しているか…。分かっていたら他の女と結婚しろなんて言わないだろうな。俺はリコ以外の女と結婚する気はない。他の女と結婚するくらいなら一人でいた方がマシだ。君が魔女だろうと何だろうと関係ない。俺が愛してるのはリコなんだ。」


彼ははっきりと宣言した。

リコは頰をチークを塗ったようにほんのりと赤らめた。


「嬉しい。ありがとう。私はあなたに愛されて幸せね。私もあなたを愛してるわ。」


クテシフォンは椅子から立ち上がると、結ってある自分の髪の毛を解いた。そして、髪飾りを取って手に握った。


「だから、約束するわ。私、魔女クテシフォンは、あなたの寿命が尽きるまで何があってもあなたの側にいて、あなたを守り続ける。魔女の名にかけて約束します」


クテシフォンは言い終えると、手の中にある髪飾りに自らの唇を近付け、軽く口付けした。


「俺も約束する。死ぬまで…いや、永遠にリコを愛し、リコを必ず幸せにする。」


「…ありがとう。私たちは世界で一番幸せなカップルね」


「そうだな」


彼は深く同意した。


「ねぇ、今日はもう夜も遅いし、泊まってかない?」


「いいのか?」


彼はリコの提案に驚いた様子。


「もちろん。あなたの分のベッドも用意されてるよ」


こうして、彼は急遽リコが泊まっている宿に泊まることになった。同じ部屋である。


「リコ、愛してる」


彼はリコの美しい黒髪に触れながら言った。


「私も。いや、私の方が愛してる」


「俺はもっとたくさん愛してる。もしリコが俺が君をどれだけ愛しているか知ったら気が狂うだろう」


「…むぅ」


彼はたまらずリコを抱きしめた。


「本当に、こうしてまた君を得ることができてよかった。君が去った時は心臓が止まるかと思った。君が去ってから生きた心地がしなかった。まるで死人のように生活してた。でも、君から手紙が届いて、手紙の住所を見て急いで君の元に走って行って、再び会うことができて本当に良かった。

ああ、言葉は愛を表すには不自由すぎる。でも、言わずにはいられない。リコ、愛してる。言葉にできないほど愛してる。君は神から贈られた最高の宝物だ。」


「私、どうしたらいいのか分からなかったの。本当はあなたの元を去りたくなかった。あんなつもりじゃなかった。でも、未来のことを考えたら不安になったの。私はね、何年何百年も生きる魔女だから、どうなってもいい。でもあなたは違う。あなたは限られた年数しか生きられない人間で、こうして私と過ごしている間にも年を重ねていく。普通人間は適齢期になると自分に相応なパートナーを見つけ、結婚するのが一般的よ。あなたには隠してたけど、魔女は人間のパートナー、ましてや結婚相手などにはなり得ない。だとしたらあなたは人間のパートナーを見つけるしかない。でも私がいる限りあなたは他の女を見ないことを分かってた。だから、苦渋の決断で去ったの。でも、全ては杞憂だったわ。私たちが結婚できるかどうかはあなたの両親や周りの環境にもよるからなんともいえないけど、でも私はあなたのそばにいる。約束だから。」


「リコ…。

そうだな、全ては杞憂だった。過去のことはもう忘れよう。それよりもこれから先の方が大事だ。大丈夫、両親は私たちの結婚に絶対反対しないだろうし、周りも祝福するだろう。余計な心配はするな、二人には必ず幸せな未来が待っている」


「ええ、そうね。その通りよ」


「ジーガレト・ボホラム、エシュガム」


彼はリコの額にキスをした。

そして、リコの唇にも自分の唇を重ね合わせた。


---


翌日、リコたちは彼の家に帰った。彼の両親をはじめ親族たちは皆リコを気に入り、婚姻は滞りなく進んだ。

間も無く盛大に結婚式を挙げ、二人は正式な夫婦となった。二人の間に子供も産まれた。

二人はいつまでもお互いを愛し合い、幸せに暮らしていたとさ。


ジーガレト・ボホラム・エシュガム

جگرت بخرم، عشقم

あなたのレバーをいただきます、私の愛する人

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